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39話、姉。
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「で、高梨はいつから弟くんのことが好きだったわけ?」
口に含んだ厚焼き玉子を噴き出しそうになる。突然のカナの質問は、破壊力抜群だ。
「いつ、って……わかんないなぁ」
「気がついたら男として意識していました、ってやつ?」
ショウも男の子なんだなって思い始めたのは、一緒に暮らし始めてからだ。視界の隅に入る半裸にドキドキしたり、ショウの匂いを嗅いでいたくなったり、髪をずっと触っていて欲しくなったり、そういう変態な考えが沸き起こるようになってから、自分の気持ちを自覚した。
だから、ほんのつい最近のことだ。
「でも、さぁ。万が一ってこともあるから、一応、戸籍だけは確認しておいたら? ご両親には聞き辛いでしょ」
「戸籍、かぁ」
「血の繋がりがあれば、結婚はできないから姉弟のままだけど、なければ、夫婦になれるじゃない。どちらにしても、家族に違いはないけど、体面は全く違うからね」
自分とショウの繋がりを確認するなんて、今まで全く考えたことがなかった。両親からの説明だけで満足していたけど、そもそも、私の覚え間違いということもある。私は、自分の記憶に絶対の自信なんてないのだ。
「お話し中、すみません」
女性スタッフが、お皿を持ってやって来た。この人、さっきからお皿をこまめに下げたり、飲み物のオーダーを気にしたり、結構出入りが激しくて、落ち着かないのだ。
何事かと思って、カナと顔を見合わせたあと、出された皿を見る。
「これは注文していませんが」
「こちらは当店からのサービスです。高梨ショウくんのお姉様でいらっしゃいますよね」
再度カナと顔を見合わせる。
ふんわりとした雰囲気の女性は、にこにこと微笑んだままだ。
「まぁ、そうですけど」
「高梨くんにはいつもお世話になっております。今日もヘルプでこちらに来てもらっていて……あ、中にいますので、お呼びいたしましょうか?」
「あ、いえ、ショウも仕事中でしょうし、結構です」
カナの目が怖い。「当たり障りのないように話せ」と言っている。大丈夫、うまくやる。うまくやるよ。
「申し遅れました、私、店長の美郷と申します。もしよろしければ、またご利用くださいませ。ショウくんと一緒に来ていただいても、構いませんので」
「そうですね、是非。機会がありましたら」
カナがぐいっとビールを飲み干す。美郷店長はそれに気づいて、飲み物のオーダーを聞く。
「あっついお茶を二杯」
「かしこまりました。すぐお持ちいたしますね」
しばらくカナと見つめ合い、皿に目を落とす。蓮根の明太和え。美味しそう。美味しそうだけれど、二人とも手をつけない。
私もビールを飲み干して、熱いお茶を待つ。
「失礼いたします」
お茶を持ってきてくれたのは、美郷店長ではなく、男性だった。男性がショウのことを口にすることなく出ていったあと、二人して、長いため息を吐き出す。
「……カナ」
「わかってる。とりあえず、出よう。ここは危険すぎる」
それ以外は口をきくことなく、カナと私は残りの食べ物を腹に流し込んで、さっさと帰る支度をした。
蓮根の明太和えは、結局、食べなかった。
口に含んだ厚焼き玉子を噴き出しそうになる。突然のカナの質問は、破壊力抜群だ。
「いつ、って……わかんないなぁ」
「気がついたら男として意識していました、ってやつ?」
ショウも男の子なんだなって思い始めたのは、一緒に暮らし始めてからだ。視界の隅に入る半裸にドキドキしたり、ショウの匂いを嗅いでいたくなったり、髪をずっと触っていて欲しくなったり、そういう変態な考えが沸き起こるようになってから、自分の気持ちを自覚した。
だから、ほんのつい最近のことだ。
「でも、さぁ。万が一ってこともあるから、一応、戸籍だけは確認しておいたら? ご両親には聞き辛いでしょ」
「戸籍、かぁ」
「血の繋がりがあれば、結婚はできないから姉弟のままだけど、なければ、夫婦になれるじゃない。どちらにしても、家族に違いはないけど、体面は全く違うからね」
自分とショウの繋がりを確認するなんて、今まで全く考えたことがなかった。両親からの説明だけで満足していたけど、そもそも、私の覚え間違いということもある。私は、自分の記憶に絶対の自信なんてないのだ。
「お話し中、すみません」
女性スタッフが、お皿を持ってやって来た。この人、さっきからお皿をこまめに下げたり、飲み物のオーダーを気にしたり、結構出入りが激しくて、落ち着かないのだ。
何事かと思って、カナと顔を見合わせたあと、出された皿を見る。
「これは注文していませんが」
「こちらは当店からのサービスです。高梨ショウくんのお姉様でいらっしゃいますよね」
再度カナと顔を見合わせる。
ふんわりとした雰囲気の女性は、にこにこと微笑んだままだ。
「まぁ、そうですけど」
「高梨くんにはいつもお世話になっております。今日もヘルプでこちらに来てもらっていて……あ、中にいますので、お呼びいたしましょうか?」
「あ、いえ、ショウも仕事中でしょうし、結構です」
カナの目が怖い。「当たり障りのないように話せ」と言っている。大丈夫、うまくやる。うまくやるよ。
「申し遅れました、私、店長の美郷と申します。もしよろしければ、またご利用くださいませ。ショウくんと一緒に来ていただいても、構いませんので」
「そうですね、是非。機会がありましたら」
カナがぐいっとビールを飲み干す。美郷店長はそれに気づいて、飲み物のオーダーを聞く。
「あっついお茶を二杯」
「かしこまりました。すぐお持ちいたしますね」
しばらくカナと見つめ合い、皿に目を落とす。蓮根の明太和え。美味しそう。美味しそうだけれど、二人とも手をつけない。
私もビールを飲み干して、熱いお茶を待つ。
「失礼いたします」
お茶を持ってきてくれたのは、美郷店長ではなく、男性だった。男性がショウのことを口にすることなく出ていったあと、二人して、長いため息を吐き出す。
「……カナ」
「わかってる。とりあえず、出よう。ここは危険すぎる」
それ以外は口をきくことなく、カナと私は残りの食べ物を腹に流し込んで、さっさと帰る支度をした。
蓮根の明太和えは、結局、食べなかった。
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