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014.「あなたを決して絶望させないと誓うよ」

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 絶望の魔王が消滅してから、果ての森と外の世界の時間の進み方は同じだったらしく、勇者が紫の国に戻っても不在だった七日間のことは特に責められることはなかった。聖女贔屓の神官から「聖女様を見習ってください」「聖剣を置いていくとは何事ですか」と小言を言われただけで終わり、勇者はホッと胸を撫で下ろすのだった。

「緋の国の先代聖女様と結婚したいので、早急に勇者の引退と神託の準備を始めてください」

 神官と聖職者にそう伝えると、当然のことながら「お相手は公爵家のご令嬢ではなかったのですか?」「今すぐですか!?」と上へ下への大騒ぎとなった。
 相手が緋の国の先代聖女ということで、彼女の引退時の醜聞は避けて通れないことではあったが、「望まぬ相手に暴行されて職を失い、今まで引きこもっていた先代聖女を勇者が日の光の下へと連れ出した」という美談にすり替わって国内中を駆け巡った。公爵はその美談に涙した夫人に説得されたらしく「娘との縁談はなかったことに」と渋々了承してくれた。

 そうして、勇者は、紫紺の花の刺繍が咲く白い婚礼衣装を身に着けた先代聖女――魔女を見つめて目を細める。ついでに頬も緩み、鼻の下も伸びる。

「わぁぁ、魔女様、めちゃくちゃ綺麗! 可愛い! ずっと見ていたい! 画家か彫刻家を呼ぶ? えーどうしよう、こんな美人な人が奥さんだなんて! 俺、世界で一番幸せなんじゃない? 世界一の幸せ者だなぁ!」
「……相変わらずうるさいのねぇ」
「ふふふ。そりゃ、ねぇ。七年前には想像できなかったことだからねぇ。まさか魔女様が俺の奥さんになってくれるだなんて。絶望の魔王様ですら想像していなかったと思うよ」

 同じく紫色の聖教会の文様が刺繍された聖服を身に着けた勇者は、跪いて魔女の左手を取る。紫紺の宝石がはまった指輪を薬指に差し入れ、手の甲にキスを落として、勇者は魔女を見上げる。

「あなたを決して絶望させないと誓うよ」

 あなたを絶対に幸せにする、とどちらがいいのか勇者も迷ったが、そちらを選んだ。魔王との決別を意味する言葉だと、二人がわかっていればいい。
 魔女は樺茶色の瞳を細め、微笑む。

「そうじゃないと困るわ」
「そうだね」

 勇者は魔女の手を引き、控室から小神殿へと向かう。
 曲がりなりにも紫の国の勇者の結婚とあって、小さな田舎の教会で式を挙げるということはできなかった。ただ、大神殿を使うような大々的なものではなく、小神殿を使わせてもらうように取り計らってもらったため、列席者もそこまで多くはない。
 小神殿の祭壇に向かう途中、列席者の中に家族の姿を見つけて、魔女は少し涙ぐんだ。緋の国から紫の国へと逃げていた彼らを、勇者が連れてきたのだ。

「あれが『いい知らせ』?」
「うん。ちなみに、その婚礼衣装の刺繍は魔女様のお母さんに縫ってもらったものだからね」

 零れ落ちそうになる魔女の涙を、白い絹布ハンカチで拭きながら、勇者は微笑んだ。
 もちろん、何年か前に魔女の家族を見つけ出し、刺繍を頼んでいたことは伏せておく。まさか本当に婚礼衣装を身に着けてもらえるようになるとは、勇者ですら想像していなかったのだから。

 小神殿で執り行われた結婚式は、つつがなく終わりを迎えた。魔女は家族との再会を喜び、また大勢の人々に祝福されて幸せそうに微笑んでいた。
 聖教会の内部に、勇者の邸がある。聖女の住む宮のように大きな建物ではなく、小ぢんまりとした一軒家のような邸だ。地方を転々とする勇者はあまり邸を使ったことはないが、王都での寝食はここで行なうことになっていた。
 この勇者邸で、魔女は式が始まるまで暮らしていた。勇者が「最後だから」と地方で『瘴気の澱』を祓っている間の仮住まいとして使っていたのだ。
 既に引っ越しのために私物を運び出し、がらんとしている勇者邸には、今夜と明日のための食事と、備えつけの家具しか残っていない。新たな神託が降りれば、ここは次の勇者の住まいとなる。
 女官たちがてきぱきと二人から婚礼衣装を取り払い、魔女の顔や髪を整え、寝食の準備をして、邸から出ていく。魔女は壁に掛けられた婚礼衣装をぼんやりと眺めている。

「魔女様、疲れているでしょ? お風呂入ろうよ」

 魔女の返答を聞く前に、勇者は彼女を抱き上げている。魔女は抵抗することなく、されるがままとなっている。
 勇者は魔女の衣服を脱がせ、岩風呂へと連れて行く。岩風呂には祝福用の花が浮かべられており、周りには香油をつかった蝋燭が並べられているが、勇者は気にせずザバザバと入浴する。
 そうして、いつかと同じように体を洗い、髪を洗い、魔女の世話をする。

「……いい匂い」

 多少疲れが取れたのか、ようやく魔女はあたりを見回して花や蝋燭の匂いに気づく。初めて見る祝い風呂だ。色とりどりの花を手のひらに浮かべて、満足そうに微笑む。

「……勇者くん」
「なぁに、魔女様」
「私、どうすればいいの」
「今後の生活? これから住むところは薬草の産地だから、魔女様が働きたいなら働きに出てもいいよ。俺は元勇者として教会とか神殿に呼ばれることがあるけど、基本的には畑を耕そうかと思っているんだ。薬草畑を作ってもいいかもしれないねぇ」

 赤褐色の長い髪が湯の上で揺れる。それを手ですくい上げながら、勇者はのんびりと応じる。

「魔女様のご家族が住んでいるところからそう離れていないから、一日あれば駅馬車で簡単に往復できるよ。時折、様子を見に行ってあげたら喜ぶんじゃないかなぁ」
「あの、そうではなくて」

 風呂のせいだと思っていたら、そうではなかった。魔女は頬を真っ赤にして、あらぬ方向を見ている。

「その、今夜のこと……」
「今夜? あぁ、うん、今夜ねぇ……え、今からじゃダメ?」
「え」

 勇者は魔女の頬に口づける。額に、鼻先に、そして唇に。触れるだけでは満足できず、下唇を甘く食み、口内へと舌を滑り込ませる。果実水の味がする舌をつつき、吸い、同時に指先で魔女の体の線をたどる。

「ゆ、う」
「あ、寝台が良かった? ごめんね。最初は、どうしてもここが良かったんだ」

 魔女は困惑したような表情で勇者を見上げる。
 あの日、魔王と魔女の交わりを見たあのときから、勇者は「同じようにしたい」という欲を抑えられなかった。同じように交わりたいと願い続けてきたのだ。

「さすがに泉のほとりでするわけにはいかないもんねぇ。お風呂が精一杯かな」

 魔女を風呂の縁に座らせ、淡く色づいた乳房の尖端を甘く食んで舌で転がす。魔女の体がびくびくと震えるのを見て、勇者は満足そうに笑う。
 魔女の気持ちいいところは既に知っている。舌と指を使って絶頂へ導くこともできる。勇者は魔女が湯冷めしないよう、自分がのぼせないよう気をつけながら、魔女の体を堪能する。

「っ、ふ……んんっ」
「可愛い。あ、そうだ。痕つけるよ。ようやく式が終わったからね」

 首筋、鎖骨、胸元、腹、太腿、それぞれに唇を寄せて強く吸う。赤い鬱血を見て、勇者は満足そうだ。
 魔女の膣内からはとろりと蜜が溢れ出る。割れ目に指を這わせて口内の舌を吸うと、膣壁がきゅうと勇者の指を締めつける。

「……欲しい?」

 乳首を指の腹で捏ねながら、魔女を見下ろす。中指で膣壁の一部を擦ると、「あぁ」と艶っぽい声が零れ落ちる。そこを、自分のもので擦ってみたくて仕方がない。

「挿れてもいい?」

 自身の亀頭を割れ目に添わせて滑らせる。熱くぬかるんだ蜜口が吸いついてくる。腰が浮きそうになるほどに気持ちがいい。
 ゴツゴツとした岩肌には、魔女を横たえても大丈夫なように浴布を敷いてある。正常位でも、後背位でも、好きなように交われるように準備してある。
 魔女は勇者に抱きつき、唇を求める。何度か風呂に浸かり、ザバザバと水面が揺れる。求められながら、勇者は「あれ?」と位置を確認する。勇者の腰に岩肌がぶつかる。いつの間にか、勇者のほうが魔女に追い詰められている形だ。

「魔女様?」
「……こんな気持ち、初めてよ」

 魔女が勇者を風呂の縁に座らせる。そうして、太腿の上に魔女が座る。勇者は彼女の意図を理解して、腰を支える。

「ずっと挿れてもらいたいと思っていたのに……挿れたいと思うなんて、初めて」

 魔女が勇者のものに手を這わせ、自身の蜜口を宛てがう。擦り合わせるとぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。
 魔女が勇者にキスをする。魔女が求めてくれたことが嬉しくて、勇者はたまらなく幸せな気分だ。

「欲しい?」
「もちろん」
「挿れてもいい?」
「今すぐにでも」

 見つめ合って、笑う。尖端が、ゆっくりと熱に包まれていく。勇者は魔女の細い腰をぎゅうと抱きしめる。
 キスをしながら、二人は、ようやく初めて繋がるのだった。


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