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007.「……咥えて、ください」

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 美しいなぁ、と勇者は思う。もちろん、興奮はするものの、生命の交わるさまはどんな形であっても美しいと思うのだ。
 魔王の黄緑色の触手が魔女の衣服に巻きつく。全裸になるのを拒んだ魔女が、衣服をつけたまま魔王の前に立っている。濡れた衣服が肌に張りつき、白い肌が透けて見える。勇者は「これはこれで素晴らしい」と呟き満足そうに微笑む。

「……恥ずかしい」
『しかし、汝の中を潤さねば』
「やっ、あ」
『その心配は無用か』

 泉に足を投げ出して座った魔女。その後ろで、勇者は二人を眺めている。黄緑色の触手も、深緑色の触手も、魔女の腿や腰に巻きついて妖艶に動く。魔王は魔女が乱れるさまを勇者に見せつけたいのか、ゆっくりじわりと魔女の体を這う。魔女は口を手で覆い、必死で声を抑えている。
 魔女の背中しか見ることのできない勇者だが、既に彼の雄は反り立っている。一人で楽しまなければならない虚しさはあるものの、生理現象は待ってはくれない。勇者は下履きを寛げ、右手を杭に添えて扱き始める。魔女からは見えないように配慮したのは、『純潔を奪われた』と魔王が言っていたためだ。触手ならまだしも人間のものを見てしまうと、それを思い出してしまうかもしれない。勇者の心遣いだ。

「待っ、まだ」
『まだ? もうこんなにぬかるんでいるではないか』
「だって、それは」
『見られているためか?』
「……言わない、で」

 魔女は見られていると興奮するらしい。勇者は「素晴らしい」と呟く。もっと見せてくれてもいいのに、とも思う。
 目の前で行われている交わりは、どこか別の世界のことのように思えてならない。何しろ、勇者は傍観者でしかない。当事者ではないため、参加しているという実感がないのだ。
 触手の一部が魔女の秘所に侵入したのか、魔女の背が震える。吐息に艶っぽさが含まれるようになる。

 ――どこに、出そうかな。

 魔王と魔女の交わりを眺めながら、勇者はぼんやりと思う。自分の手の中に出すことはできるだろう。しかし、魔女の体に白濁液をかけてやりたい気もする。腹でも胸でもいい。あの白い肌の上に、自分の種を蒔いてみたい。そんな気分だ。触手の上でだけは出したくない。何となく。

「あっ、ふと、い」

 深い緑色の触手が膣内に挿入ったのか、魔女はぎゅうと黄緑色の触手を掴んで耐えている。腰が、腕が震え、嬌声が零れ出る。たまらなく色っぽい。もっと近くで聞きたくて仕方がない。勇者は溜め息を零す。そんな権利は、自分にはないのだ。

「まお、さまぁ」

 魔女は最初から最後まで魔王のことしか見ていない。勇者のことなど今すっかりと忘れているだろう。そういう約束なのだと納得しているものの、虚しくて仕方がなくなる。
 勇者がそれに気づいたときには、手遅れだった。右手の中のモノが急に柔らかくなったのだ。

「あ、ごめん、魔王様……萎えちゃった」

 余計なことを考えたためだとわかっている。ならば、もう余計なことを考えないようにして、二人の交わりだけを見ていればいい。美しい交わりだけを見ていれば、きっと持ち直すはずだ。
 しかし、一度硬さを失ってしまったそれは、扱いても扱いても、もとの硬さに戻ることはない。自慰の途中で萎えたのは、勇者にとっては初めての経験だ。

「魔王様、ちょっと待って。もうすぐで勃つと思うから」

 慌てながら勇者は顔を上げて、それに気づいた。萎えたモノの近くに、魔女の顔が近づいていることに。

「わ、わわ、魔女様!?」
「これが、勇者くんの?」
「ま、魔女様、ダメですよ! 俺の、魔王様のと違って」
「確かに魔王様のとは違う色ね」

 怖くはないのかと問おうとして、勇者はやめる。魔女の指先が震えていることに気づいたからだ。怖くないわけがない。人間のそれで、彼女は恐ろしい目にあったのだ。目を背け、視界に入らないようにすることくらいはできるはずだ。
 しかし、魔女はそうしなかった。触れようとしていることが何よりの証左。魔女は恐怖より、種を望んだのだ。魔王との子どもを望んでいるのだ。

「どうすればいい?」

 震える指が、勇者の肉杭に触れる。冷たくて柔らかい感触に、勇者の腰が震える。
 もっと触れてもらいたい。もっと扱いてもらいたい。できれば、もっと――。

「……咥えて、ください」

 ――俺、最低だー!!

 勇者の葛藤に気づかないまま、魔女は一瞬ごくりと喉を鳴らす。勇者が慌てて発言を撤回しようとしたとき、魔女は恐る恐る口を開き、肉茎の尖端を口に含んだのだ。

「っ、あ」

 勇者には経験がない。女の膣内に挿入したことも、口の中に挿れたこともない。熱く、柔らかい。くすぐったいようで、体がビリビリとする。それは手では得られない、初めての快感だ。
 魔女の舌使いは拙い。今まで、触手を舐ったり咥えたりすることはなかったのだろう。しかし、一生懸命だ。たまに歯が当たって痛むが、萎えていたモノが徐々に硬さを取り戻してくる。

「あ、硬くなった。硬くなったよ、勇者くん」
「言われなくても、俺が一番わかってるって」
「ふふふ。気持ちいいんだ?」
「そりゃ、まあ」

 竿は冷たい指で扱かれ、亀頭は熱い口の中。自分で慰めるのとは違う快感に、勇者の口から自然と溜め息が零れる。

「気持ち、い」
「私も」

 ぐちゅ、と粘度の高い音が響く。魔女の下腹部は黄緑色と深緑色の触手に絡め取られている。うねうねと動いて魔女の体を支え、膣内を犯している。深緑色の太い触手が膣壁を擦るたび、魔女はあられもない声を上げる。

「あぁ、っ深い……」
『もっと奥まで、という意味か?』
「いじわるっ」

 性交なのか交尾なのか、勇者にはわからない。ただ二人の交わりに協力させられているだけなのだから。

「魔女様、可愛い……」

 魔女の頬に触れようとして、やめる。触れてはいけない。どれだけ魔女に好意があろうとも、触れてはいけない。勇者は拳を握りしめ、目を閉じる。魔女の痴態は目に焼きつけた。あとは想像するだけだ。

「あっ、奥、当たっ」
『痛むか?』
「角度、変えない、っあ」

 ――ほんっと、羨ましい!

 勇者にとっては羨ましくて仕方がない会話だ。膣内に挿入しているのが自分のものであったなら。その中に白濁液を注ぎ込めたなら。そんなふうに願ってしまう。

「……あっ、来た。魔王様、どこに出す?」
『娘の背に』
「ん」

 いつの間にか、魔女の衣服は取り払われている。ヌルリと魔女の口内から熱杭を引き抜き、勇者は四つん這いになった魔女の背中に欲を吐き出す。いつもより量が多い気がしたが、気にしない。
 白い背中にべっとりと零れ落ちた白い精液を、緑色の触手がうまく絡め取り、膣内へと塗り込んでいく。勇者は脱力しながら「えろい、素晴らしい」と思わず拍手してしまうところだった。

「……魔王様の子どもが授かりますように」

 魔女は指を組み、祈りを捧げている。裸体を揺らされながらも、愛する人との子どもが欲しいと願う。いやらしさは全く感じない。神々しさすら感じる。

「俺、勇者なのに、全然、勇者らしいことしてないなぁ!」

 ひと仕事終えた勇者は、ゴロリと草の上に寝転がる。いつもの自慰よりも疲れた気がしている。

「ありがとう、勇者くん」

 汗が滲む額に、一瞬だけ魔女の唇が落ちてきた。柔らかな唇の感触に、勇者はだらしなく口元を緩めてガバと起き上がる。

「えっ、もう一回やる? やる?」

 にやけた顔で魔王と魔女を見た勇者は、即座に魔女から殴られることとなった。


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