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メリークリスマス!(1)
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「大ちゃん、彼女できたみたいよ」
母さんの言葉と同時にスマートフォンが鳴る。
「へぇ。おばさんが?」
「そう。美紀ちゃんが言っていたから間違いないと思うわよ。まだ紹介はしてもらっていないようだけど」
母さんは化粧をしながら鏡の中からちらりと私を見やる。私はボサボサの頭をブラシで梳かしたあと、歯ブラシに手を伸ばす。
「すみませんねぇ、二十六にもなって私には浮いた話がなくて」
「本当に。せっかくのクリスマスなのに、出かける予定もないの?」
「うん。母さんたちはゆっくりしてきてね」
寝室から父さんが靴下はどこにあるのか聞いている。「一番下!」と叫んで、母さんはパウダーをはたく。
「お土産よろしく」
「まぁ、楽しんでくるわよ」
年末恒例、お隣の大ちゃんちのご両親と、うちの親の温泉旅行。今年はクリスマスに旅行だそうだ。うらやましいこと。
チャイムが鳴ったので、歯ブラシを持ったまま出ると、美紀ちゃんこと、大ちゃんのお母さんが立っている。準備ができたことをうちに知らせにきてくれたのだ。
「大ちゃん、彼女できたんですね」
「そうみたいよ! もう二十六なんだから、早く結婚してほしいわ。絵里ちゃんはまだ?」
「まだですねぇ」
「ずぼらなこの子に彼氏ができる日が来たら、雪が降るわよっ! お待たせ!」
うちの両親が荷物を持って玄関に現れる。ずぼらは事実だけど。一応、彼氏はいたことありますけど。紹介できるほど長くは続かなかっただけで。喉まで出かけた言葉は飲み込んでおく。
大ちゃんちの車に荷物を積み込んで、両親たちは予定を確認し合う。四人の明るい「行ってきます」を聞いて、車を見送ってから、私は家へと戻る。
「さて」
歯を磨きながら、私も予定を確認する。シャワーを浴びたあとに、化粧して、ご飯食べて、それから、着替えよう。
あぁ、そうだ。大ちゃんちの車、ちゃんとスタッドレスに替えてあるよね?
雪、降るよ?
スマートフォンの画面にあるメッセージ。
『鍵あいてる』
うん、それだけで、いい。
◆◇◆◇◆
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。どうぞ」
徒歩十秒の距離の彼氏のうちには、何百回も入ったことがあるのに、今日は緊張する。たぶん、こういう関係になってから、初めてだから、だと思う。
「絵里」
「うん?」
「かわいい」
靴を揃えて振り向いたあと、すぐ抱きしめられてしまう。
いや、玄関とか、ちょっと、それは、さすがに。
「こら、大ちゃんっ」
「んー?」
背中を撫でられ、髪の匂いを嗅がれ、耳元に唇で触れられ、冷たい指が頬をたどり、大ちゃんの厚い胸板が私の胸を押しつぶす。ひとしきり私の体を撫で回したあと、ようやく大ちゃんの顔が、そばに。
「絵里、かわいい」
触れる唇は、熱く、柔らかく、優しい。額に、瞼に、頬に、唇に、軽く触れて。
「……今ここで絵里が欲しい」
「それは駄目」
ええーっと嘆きながらも、大ちゃんはリビングへ案内してくれる。暖房が入っていて暖かい。テーブルに荷物を置いて振り向くと、リビングの隅のクリスマスツリーが目に入る。
「わぁ、懐かしい! まだ飾ってるんだ?」
「実は父さんが好きなんだよ、こういう飾り付け」
「おじさんカワイイね。あ、台所のこのサンタの置物、昔大ちゃんと買いに行ったやつだ」
「小学三年生のときのだな、それは」
何で覚えているのか、聞かなくてもわかる。大ちゃんはずっと私のことが好きだったと言っていた。思春期という魔物が、二人をどんどん引き離していって、お互いに恋人がいない状態になったのが、ちょうど半年前。男女の仲になったのは、そこからだ。
「絵里、おいで」
「んー?」
百八十センチのクリスマスツリーの前で大ちゃんが手招きしている。そう変わらない身長に、背は結構高かったんだなぁ、と今さら気づく。
「今年の飾りは、どれ?」
「えーっ? わかんないよ」
「わかるよ」
たくさん飾りがあるんだから、わかるわけないじゃん、なんて思っていたら。
「あ、これだ」
先月、大ちゃんと旅行に行った先のご当地キャラの靴下が二個、不似合いにもぶら下がっていた。うん、これだ。サービスエリアなんかで売っている靴下。中に何か入っている。
「正解。開けて」
「……わ、かわいい」
一つ目の靴下の中には、ネックレス。葉っぱのような、くねくねしたトップがついている。石は、ペリドット、トパーズ、小さなダイヤ。
「わ、かわいい。葉っぱ?」
「たぶん、天使の羽根」
葉っぱでも天使でも、かわいいよ。大ちゃんが「絵里にはこれが似合う」って、選んでくれたんだもん。嬉しい。
「つけて、つけて」
大ちゃんに背を向けて、セットした髪を両手であげて。大ちゃんがぎこちなさそうにネックレスをつけてくれるこの時間が愛しい。
うなじに唇が触れる。びくりと腰が震える。後ろからぎゅうと抱きすくめられると、吐息が漏れる。
「もう一つのも開けていい?」
「いいよ」
靴下を探り、円形の手触りを感じた瞬間に、大ちゃんを見上げる。大ちゃんは笑顔で額にキスを落とす。
「何が入ってた?」
「リング……指輪?」
「うん。はめさせて」
私から指輪を取り上げて、大ちゃんは私の左手を取る。迷いなく、薬指に指輪をはめる。サイズはピッタリ。
ラウンドカットのピンクがかったオレンジの宝石のそばに、ダイヤのアソート。シンプルでかわいい。けれど、ダイヤをアソートに使う上に輝きが負けていないとは、この石は何ものだ?
「わあ、かわいいピンク……オレンジ? ルビーじゃないよね、これ。この色。え、もしかして、サファイア?」
「さすが宝石好きだね。スリランカのパパラチアサファイア」
「ひやー!! パパラチア! 高かったでしょ?」
「婚約指輪にしては安かったよ」
事もなげにささやいて、大ちゃんは私を後ろから抱きしめたまま、耳を食む。
「……結婚しよう、絵里」
大ちゃん、胸を揉みながらのプロポーズは、どうかと思う、よ?
「……はい」
ずぼら娘が求婚されるなんて、やっぱり、雪、降るかもしれないね。
◆◇◆◇◆
「かわいい、絵里」
触れるだけのキスを何度も繰り返しながら、そばにあるソファにたどりつく。
「大ちゃんもカッコイイよ」
座りながら、唇をそっと開いて大ちゃんの舌を受け入れる。熱くて甘い味。リンゴジュース飲んだでしょ、大ちゃん。めちゃくちゃ甘いキスになっちゃってるんですけど。
「……っふ、だ、ちゃん?」
「ここでしていい? 二階まで待てない」
大ちゃんの舌がぐっと捩じ込まれ、奥に逃げた私の舌を探り当てる。同時に、体重をかけられ、優しくソファに押さえつけられる。私は答える代わりに大ちゃんをぎゅうと抱きしめる。
このソファもずっと昔から変わらない。ゲームをしたり、おやつを食べたり、勉強したり、昼寝をしたり……いつもこのソファが私たちのそばにあった。
大ちゃんの唇が首筋を這う。ペロリと舐められると、びくりと体が震えてしまう。冷たい指がセーターをめくり、タンクトップの下の肌に触れる。
「ひあっ、冷たいっ!」
「ごめん。でも我慢して。すぐあったかくなるから」
私の体は既に熱い。大ちゃんの肌も熱い。首筋も、お腹も。太ももに押し当てられた、トランクスの下のものも、きっと熱い。
「えっち」
「大ちゃんに言われたくないな、それ」
巻きスカートの隙間から手を差し入れて、厚手のタイツの上から内股を優しく大ちゃんが撫でる。
「スカート、俺が好きなやつだ」
「ん、この前、大ちゃんが嬉しそうだったから」
「かわいい」
大ちゃんが私に「かわいい」て言うなんて、中学高校時代には想像できなかった。家は隣同士で幼馴染みで、お互いが初恋同士だったけど、恋人同士には発展しなかった。その恋が、こんなふうに結実するなんて、あのときは。
「何、考えてる?」
「大ちゃん、おばさんにバレてるよ、彼女できたって。私だとは思われていないみたいだけど」
「いいよ。帰ってきたら、結婚の挨拶をするから」
タンクトップをめくり上げて、大ちゃんは赤いブラに目を落とす。そして、目を細める。一応、下着は赤と白のクリスマス仕様にしてみたんだけど、気に入ってくれたみたいだ。
「かわいい」
「ありがと」
「俺のために選んでくれたんだろ? それがかわいい」
十年前の大ちゃんに聞かせてやりたい台詞だ。無愛想で素っ気なくて、私に憎まれ口ばかり叩いていたのに、こんな甘い台詞で私の肌に舌を這わせているなんて。本当に、人は変わるものだ。
「っ、あ」
ブラを押し上げられ、胸の下のほうを噛まれる。ん、痛い。
「絵里、他のこと考えないで。俺のことだけ考えて」
「昔の、大ちゃんの、あ、こと、考えて、たのに、っん」
ホックを外して、大ちゃんは指の腹で胸の先端を優しく転がす。既に硬くなっているそこは、次の刺激を待ち望んでいる。
太ももの奥の小さな蕾と、胸の頂に、同時に快感が与えられ、私の体が跳ねる。熱く甘い舌が先端を吸いながら転がし、左手がもう片方の先端を摘んで捏ねる。右手がタイツ越しに敏感な部分を強く擦る。
「あぁあっ……やっ、あ、ふっ」
ソファに押さえつけられて、体は自由に動かせない。刺激から逃れたくても、逃れられない。
「ん、絵里、かわいい」
上目遣いに私を見つめて、大ちゃんは目を細める。乳首を口に含んだままだから、口元はわからないけど、笑っているんだろう。
この表情がたまらなく、好き。
十年前には絶対にしなかった表情だから、やっぱり今になって恋人同士になったのは、結果的には良かったことなんだろう。と、思わなきゃ、歴代の元彼女たちに嫉妬してしまいそうだ。
「あ、っ、んあ、あっ」
「脱がすよ?」
タイツとショーツを一緒に脱がさないでよ、大ちゃん! せっかくのクリスマス仕様なのに!
心の中で喚くけど、声には出さない。
だってもう、触れてほしくてたまらないから。
少しずつ暖かくなってきた大ちゃんの指が、花弁をたどり、芽をつぶす。びくっと腰が跳ねると、大ちゃんははぁと短く息を吐き出して、さらに引っ掻く。指の腹で花芽を捏ねて、舌で胸を吸い、唾液まみれにして、大ちゃんは「かわいい」と笑う。
「あっ、ふ、あぁ、んっ」
指がつぷりと膣内へ侵入してきても、花芽への刺激は止められない。やだ、も、気持ちい……。
喘ぎながら、大ちゃんのベルトを緩め、ズボンのチャックを下ろして、トランクスの上から、大ちゃんの硬い熱に触れる。トランクスは既に先走りで濡れてしまっている。ぬるぬるだ。
私に興奮してくれているんだな、と思うと、嬉しくて幸せな気持ちになる。
「濡れ、てる、っ」
「絵里のほうが濡れてるよ」
「やっ、だ、ああっ」
大ちゃんが一気に指を奥まで滑り込ませた。きゅうと指を締めつけると、大ちゃんがまた笑う。
「エロい。挿れてほしいの?」
「……うん」
「まだ。もう少し解してからね」
トランクスをずり下げて、大ちゃんの硬いものを手で包み込む。左の指先で熱の先端、蜜が溢れるところを擦り、右手で竿を扱く。優しく、丁寧に。さらに硬く大きく張ったつるつるの先端に、キスをしたくてたまらなくなる。
ゆっくりと大ちゃんの指が膣内を動く。緩慢な動きに合わせて、私の腰も動く。中指をぐっと奥まで押し込まれると、大きな嬌声が零れた。
「もっと、聞かせてよ、絵里の声」
「や、だい、ちゃ、あっ、あ」
「俺が聞きたいの」
「キス、してっ」
「キスしたら声聞こえないでしょ」
耳元で聞こえる大ちゃんの低い声。私を誘っている。煽っている。恥ずかしいのに、声が漏れる。そして、それを大ちゃんは望んでいる。
「や、来て、来てよ、だい、ちゃ……痛くても、いいからっ」
「絵里」
「大ちゃん、来てぇっ」
大ちゃんの指が抜かれ、代わりに熱いものがあてがわれる。花弁の間をゆるゆると動き、やがてゆっくりと挿入ってくる。
「ああっ!」
「締めるな、絵里」
ぐっと奥まで挿れられると、こつんと最奥に届く。圧迫感と密着感が気持ちいい。繋がっている。熱い。なんて、幸せ。
「大ちゃんっ!」
「絵里、今日から中に出すから。いいよな?」
いいよ、と言う代わりに、ぎゅうと大ちゃんの背中に手を回して抱きしめる。大ちゃんはほっとした表情で、動き始める。
「あっ、あ、あっ、ん」
「絵里、あんまり締めないで。俺、三日抜いてないんだから、すぐ出るよ」
「え、なん、で?」
浅く、深く。深く。深く。あ、駄目、そこ、気持ちいー……。
「――絵里の中を俺で満たすため」
きゅう、と子宮が疼く。膣内が締まる。そんなこと、言われたら、もう、駄目だよ。気持ちよくさせてあげたい。
「絵里っ」
大ちゃんの、余裕のない声。私の大好きな、イキそうなときの声。
あぁ、私の体で気持ちよくなって。
いっぱい、射精(だ)して。
大ちゃんは、ぎゅっと目を閉じて、しっかり腰を押さえつけて、私の一番奥に精を吐き出した。
じわりと広がる熱。大ちゃんの汗。ふるりと震えて、大ちゃんは緩やかに腰の動きを止めてくる。指先が頬に触れ、私の髪を払う。
「締めちゃ、駄目って、言ったのに」
大ちゃんは恨みがましく私を見つめてくる。仕方ないなぁと膣内を締めると、大ちゃんの腰がびくりと跳ねる。敏感になっているところを締め上げるのは、好き。
「だから、駄目だって……もう」
「気持ちよかった?」
「当たり前じゃん。四日目で生で中出しだよ? 気持ちいいに決まってる」
繋がったまま、大ちゃんを見る。指輪を見る。自然と笑みが零れてしまう。
「好きだよ、絵里」
「大好きだよ、大ちゃん。あ、大好きと大輔は似てるねぇ」
「……そう、だな」
甘い話をしていたのにぶち壊しやがって、という非難の視線が降ってくる。ご、ごめん。
「大ちゃん、今日の予定は?」
「絵里と家でいちゃいちゃクリスマス。ご飯もケーキも準備してあるから、心ゆくまでいちゃいちゃしよう」
はい、賛成です。
母さんの言葉と同時にスマートフォンが鳴る。
「へぇ。おばさんが?」
「そう。美紀ちゃんが言っていたから間違いないと思うわよ。まだ紹介はしてもらっていないようだけど」
母さんは化粧をしながら鏡の中からちらりと私を見やる。私はボサボサの頭をブラシで梳かしたあと、歯ブラシに手を伸ばす。
「すみませんねぇ、二十六にもなって私には浮いた話がなくて」
「本当に。せっかくのクリスマスなのに、出かける予定もないの?」
「うん。母さんたちはゆっくりしてきてね」
寝室から父さんが靴下はどこにあるのか聞いている。「一番下!」と叫んで、母さんはパウダーをはたく。
「お土産よろしく」
「まぁ、楽しんでくるわよ」
年末恒例、お隣の大ちゃんちのご両親と、うちの親の温泉旅行。今年はクリスマスに旅行だそうだ。うらやましいこと。
チャイムが鳴ったので、歯ブラシを持ったまま出ると、美紀ちゃんこと、大ちゃんのお母さんが立っている。準備ができたことをうちに知らせにきてくれたのだ。
「大ちゃん、彼女できたんですね」
「そうみたいよ! もう二十六なんだから、早く結婚してほしいわ。絵里ちゃんはまだ?」
「まだですねぇ」
「ずぼらなこの子に彼氏ができる日が来たら、雪が降るわよっ! お待たせ!」
うちの両親が荷物を持って玄関に現れる。ずぼらは事実だけど。一応、彼氏はいたことありますけど。紹介できるほど長くは続かなかっただけで。喉まで出かけた言葉は飲み込んでおく。
大ちゃんちの車に荷物を積み込んで、両親たちは予定を確認し合う。四人の明るい「行ってきます」を聞いて、車を見送ってから、私は家へと戻る。
「さて」
歯を磨きながら、私も予定を確認する。シャワーを浴びたあとに、化粧して、ご飯食べて、それから、着替えよう。
あぁ、そうだ。大ちゃんちの車、ちゃんとスタッドレスに替えてあるよね?
雪、降るよ?
スマートフォンの画面にあるメッセージ。
『鍵あいてる』
うん、それだけで、いい。
◆◇◆◇◆
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。どうぞ」
徒歩十秒の距離の彼氏のうちには、何百回も入ったことがあるのに、今日は緊張する。たぶん、こういう関係になってから、初めてだから、だと思う。
「絵里」
「うん?」
「かわいい」
靴を揃えて振り向いたあと、すぐ抱きしめられてしまう。
いや、玄関とか、ちょっと、それは、さすがに。
「こら、大ちゃんっ」
「んー?」
背中を撫でられ、髪の匂いを嗅がれ、耳元に唇で触れられ、冷たい指が頬をたどり、大ちゃんの厚い胸板が私の胸を押しつぶす。ひとしきり私の体を撫で回したあと、ようやく大ちゃんの顔が、そばに。
「絵里、かわいい」
触れる唇は、熱く、柔らかく、優しい。額に、瞼に、頬に、唇に、軽く触れて。
「……今ここで絵里が欲しい」
「それは駄目」
ええーっと嘆きながらも、大ちゃんはリビングへ案内してくれる。暖房が入っていて暖かい。テーブルに荷物を置いて振り向くと、リビングの隅のクリスマスツリーが目に入る。
「わぁ、懐かしい! まだ飾ってるんだ?」
「実は父さんが好きなんだよ、こういう飾り付け」
「おじさんカワイイね。あ、台所のこのサンタの置物、昔大ちゃんと買いに行ったやつだ」
「小学三年生のときのだな、それは」
何で覚えているのか、聞かなくてもわかる。大ちゃんはずっと私のことが好きだったと言っていた。思春期という魔物が、二人をどんどん引き離していって、お互いに恋人がいない状態になったのが、ちょうど半年前。男女の仲になったのは、そこからだ。
「絵里、おいで」
「んー?」
百八十センチのクリスマスツリーの前で大ちゃんが手招きしている。そう変わらない身長に、背は結構高かったんだなぁ、と今さら気づく。
「今年の飾りは、どれ?」
「えーっ? わかんないよ」
「わかるよ」
たくさん飾りがあるんだから、わかるわけないじゃん、なんて思っていたら。
「あ、これだ」
先月、大ちゃんと旅行に行った先のご当地キャラの靴下が二個、不似合いにもぶら下がっていた。うん、これだ。サービスエリアなんかで売っている靴下。中に何か入っている。
「正解。開けて」
「……わ、かわいい」
一つ目の靴下の中には、ネックレス。葉っぱのような、くねくねしたトップがついている。石は、ペリドット、トパーズ、小さなダイヤ。
「わ、かわいい。葉っぱ?」
「たぶん、天使の羽根」
葉っぱでも天使でも、かわいいよ。大ちゃんが「絵里にはこれが似合う」って、選んでくれたんだもん。嬉しい。
「つけて、つけて」
大ちゃんに背を向けて、セットした髪を両手であげて。大ちゃんがぎこちなさそうにネックレスをつけてくれるこの時間が愛しい。
うなじに唇が触れる。びくりと腰が震える。後ろからぎゅうと抱きすくめられると、吐息が漏れる。
「もう一つのも開けていい?」
「いいよ」
靴下を探り、円形の手触りを感じた瞬間に、大ちゃんを見上げる。大ちゃんは笑顔で額にキスを落とす。
「何が入ってた?」
「リング……指輪?」
「うん。はめさせて」
私から指輪を取り上げて、大ちゃんは私の左手を取る。迷いなく、薬指に指輪をはめる。サイズはピッタリ。
ラウンドカットのピンクがかったオレンジの宝石のそばに、ダイヤのアソート。シンプルでかわいい。けれど、ダイヤをアソートに使う上に輝きが負けていないとは、この石は何ものだ?
「わあ、かわいいピンク……オレンジ? ルビーじゃないよね、これ。この色。え、もしかして、サファイア?」
「さすが宝石好きだね。スリランカのパパラチアサファイア」
「ひやー!! パパラチア! 高かったでしょ?」
「婚約指輪にしては安かったよ」
事もなげにささやいて、大ちゃんは私を後ろから抱きしめたまま、耳を食む。
「……結婚しよう、絵里」
大ちゃん、胸を揉みながらのプロポーズは、どうかと思う、よ?
「……はい」
ずぼら娘が求婚されるなんて、やっぱり、雪、降るかもしれないね。
◆◇◆◇◆
「かわいい、絵里」
触れるだけのキスを何度も繰り返しながら、そばにあるソファにたどりつく。
「大ちゃんもカッコイイよ」
座りながら、唇をそっと開いて大ちゃんの舌を受け入れる。熱くて甘い味。リンゴジュース飲んだでしょ、大ちゃん。めちゃくちゃ甘いキスになっちゃってるんですけど。
「……っふ、だ、ちゃん?」
「ここでしていい? 二階まで待てない」
大ちゃんの舌がぐっと捩じ込まれ、奥に逃げた私の舌を探り当てる。同時に、体重をかけられ、優しくソファに押さえつけられる。私は答える代わりに大ちゃんをぎゅうと抱きしめる。
このソファもずっと昔から変わらない。ゲームをしたり、おやつを食べたり、勉強したり、昼寝をしたり……いつもこのソファが私たちのそばにあった。
大ちゃんの唇が首筋を這う。ペロリと舐められると、びくりと体が震えてしまう。冷たい指がセーターをめくり、タンクトップの下の肌に触れる。
「ひあっ、冷たいっ!」
「ごめん。でも我慢して。すぐあったかくなるから」
私の体は既に熱い。大ちゃんの肌も熱い。首筋も、お腹も。太ももに押し当てられた、トランクスの下のものも、きっと熱い。
「えっち」
「大ちゃんに言われたくないな、それ」
巻きスカートの隙間から手を差し入れて、厚手のタイツの上から内股を優しく大ちゃんが撫でる。
「スカート、俺が好きなやつだ」
「ん、この前、大ちゃんが嬉しそうだったから」
「かわいい」
大ちゃんが私に「かわいい」て言うなんて、中学高校時代には想像できなかった。家は隣同士で幼馴染みで、お互いが初恋同士だったけど、恋人同士には発展しなかった。その恋が、こんなふうに結実するなんて、あのときは。
「何、考えてる?」
「大ちゃん、おばさんにバレてるよ、彼女できたって。私だとは思われていないみたいだけど」
「いいよ。帰ってきたら、結婚の挨拶をするから」
タンクトップをめくり上げて、大ちゃんは赤いブラに目を落とす。そして、目を細める。一応、下着は赤と白のクリスマス仕様にしてみたんだけど、気に入ってくれたみたいだ。
「かわいい」
「ありがと」
「俺のために選んでくれたんだろ? それがかわいい」
十年前の大ちゃんに聞かせてやりたい台詞だ。無愛想で素っ気なくて、私に憎まれ口ばかり叩いていたのに、こんな甘い台詞で私の肌に舌を這わせているなんて。本当に、人は変わるものだ。
「っ、あ」
ブラを押し上げられ、胸の下のほうを噛まれる。ん、痛い。
「絵里、他のこと考えないで。俺のことだけ考えて」
「昔の、大ちゃんの、あ、こと、考えて、たのに、っん」
ホックを外して、大ちゃんは指の腹で胸の先端を優しく転がす。既に硬くなっているそこは、次の刺激を待ち望んでいる。
太ももの奥の小さな蕾と、胸の頂に、同時に快感が与えられ、私の体が跳ねる。熱く甘い舌が先端を吸いながら転がし、左手がもう片方の先端を摘んで捏ねる。右手がタイツ越しに敏感な部分を強く擦る。
「あぁあっ……やっ、あ、ふっ」
ソファに押さえつけられて、体は自由に動かせない。刺激から逃れたくても、逃れられない。
「ん、絵里、かわいい」
上目遣いに私を見つめて、大ちゃんは目を細める。乳首を口に含んだままだから、口元はわからないけど、笑っているんだろう。
この表情がたまらなく、好き。
十年前には絶対にしなかった表情だから、やっぱり今になって恋人同士になったのは、結果的には良かったことなんだろう。と、思わなきゃ、歴代の元彼女たちに嫉妬してしまいそうだ。
「あ、っ、んあ、あっ」
「脱がすよ?」
タイツとショーツを一緒に脱がさないでよ、大ちゃん! せっかくのクリスマス仕様なのに!
心の中で喚くけど、声には出さない。
だってもう、触れてほしくてたまらないから。
少しずつ暖かくなってきた大ちゃんの指が、花弁をたどり、芽をつぶす。びくっと腰が跳ねると、大ちゃんははぁと短く息を吐き出して、さらに引っ掻く。指の腹で花芽を捏ねて、舌で胸を吸い、唾液まみれにして、大ちゃんは「かわいい」と笑う。
「あっ、ふ、あぁ、んっ」
指がつぷりと膣内へ侵入してきても、花芽への刺激は止められない。やだ、も、気持ちい……。
喘ぎながら、大ちゃんのベルトを緩め、ズボンのチャックを下ろして、トランクスの上から、大ちゃんの硬い熱に触れる。トランクスは既に先走りで濡れてしまっている。ぬるぬるだ。
私に興奮してくれているんだな、と思うと、嬉しくて幸せな気持ちになる。
「濡れ、てる、っ」
「絵里のほうが濡れてるよ」
「やっ、だ、ああっ」
大ちゃんが一気に指を奥まで滑り込ませた。きゅうと指を締めつけると、大ちゃんがまた笑う。
「エロい。挿れてほしいの?」
「……うん」
「まだ。もう少し解してからね」
トランクスをずり下げて、大ちゃんの硬いものを手で包み込む。左の指先で熱の先端、蜜が溢れるところを擦り、右手で竿を扱く。優しく、丁寧に。さらに硬く大きく張ったつるつるの先端に、キスをしたくてたまらなくなる。
ゆっくりと大ちゃんの指が膣内を動く。緩慢な動きに合わせて、私の腰も動く。中指をぐっと奥まで押し込まれると、大きな嬌声が零れた。
「もっと、聞かせてよ、絵里の声」
「や、だい、ちゃ、あっ、あ」
「俺が聞きたいの」
「キス、してっ」
「キスしたら声聞こえないでしょ」
耳元で聞こえる大ちゃんの低い声。私を誘っている。煽っている。恥ずかしいのに、声が漏れる。そして、それを大ちゃんは望んでいる。
「や、来て、来てよ、だい、ちゃ……痛くても、いいからっ」
「絵里」
「大ちゃん、来てぇっ」
大ちゃんの指が抜かれ、代わりに熱いものがあてがわれる。花弁の間をゆるゆると動き、やがてゆっくりと挿入ってくる。
「ああっ!」
「締めるな、絵里」
ぐっと奥まで挿れられると、こつんと最奥に届く。圧迫感と密着感が気持ちいい。繋がっている。熱い。なんて、幸せ。
「大ちゃんっ!」
「絵里、今日から中に出すから。いいよな?」
いいよ、と言う代わりに、ぎゅうと大ちゃんの背中に手を回して抱きしめる。大ちゃんはほっとした表情で、動き始める。
「あっ、あ、あっ、ん」
「絵里、あんまり締めないで。俺、三日抜いてないんだから、すぐ出るよ」
「え、なん、で?」
浅く、深く。深く。深く。あ、駄目、そこ、気持ちいー……。
「――絵里の中を俺で満たすため」
きゅう、と子宮が疼く。膣内が締まる。そんなこと、言われたら、もう、駄目だよ。気持ちよくさせてあげたい。
「絵里っ」
大ちゃんの、余裕のない声。私の大好きな、イキそうなときの声。
あぁ、私の体で気持ちよくなって。
いっぱい、射精(だ)して。
大ちゃんは、ぎゅっと目を閉じて、しっかり腰を押さえつけて、私の一番奥に精を吐き出した。
じわりと広がる熱。大ちゃんの汗。ふるりと震えて、大ちゃんは緩やかに腰の動きを止めてくる。指先が頬に触れ、私の髪を払う。
「締めちゃ、駄目って、言ったのに」
大ちゃんは恨みがましく私を見つめてくる。仕方ないなぁと膣内を締めると、大ちゃんの腰がびくりと跳ねる。敏感になっているところを締め上げるのは、好き。
「だから、駄目だって……もう」
「気持ちよかった?」
「当たり前じゃん。四日目で生で中出しだよ? 気持ちいいに決まってる」
繋がったまま、大ちゃんを見る。指輪を見る。自然と笑みが零れてしまう。
「好きだよ、絵里」
「大好きだよ、大ちゃん。あ、大好きと大輔は似てるねぇ」
「……そう、だな」
甘い話をしていたのにぶち壊しやがって、という非難の視線が降ってくる。ご、ごめん。
「大ちゃん、今日の予定は?」
「絵里と家でいちゃいちゃクリスマス。ご飯もケーキも準備してあるから、心ゆくまでいちゃいちゃしよう」
はい、賛成です。
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感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。
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