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第一章 英雄の帰還

12 約束

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 「今日こそは……勝たせてもらいます」

 「望むところだ」

 オッド支部での俺の戦闘能力はハリスさん、ユンに比べ、頭一つ抜けていると思う。

 しかし英雄は格が違った。

 「うおおお!」

 訓練用の『木のメス』を構え、猛スピードでタイガさんとの距離を詰める。

 『スピード』。それこそが俺の最大の武器だ。

 だが。

 「ふぅん!!」

 攻撃はいとも容易く遮られ、逆に大きな力を反発してくる。

 力を込めて振るったメスが、力によって弾かれる。

 両足が浮く。

 「くっそっ!」

 気づけばまた弾き飛ばされている。

 メディクスに入ってから約1か月。まだ一度もタイガさんには勝てていない。

 これが英雄の力なのだろうか。

 これが俺の限界なのだろうか。

 いや、まだだ。

 父さんは……クジラの怪人はもっと強かった。あれぐらいの怪物に勝てなきゃ意味がない。

 「守れなきゃ……強さは無意味だ」

 まだ手の感覚はある。メスを握りしめろ。

 狙え。

 空中でメスを構える。

 狙え。

 そして。

 「おりゃああ!!」

 放つ。

 空中からのメスの攻撃。

 「なっ…!」

 キン!!

 タイガさんはよろけながらも上手く弾き返す。

 だがそのよろけが欲しかった。

 俺のスピードなら十分隙になる。

 着地。

 再び跳躍。

 そして弾かれたメスを空中で掴む。

 ーーこんな無茶な動きは久しぶりだ。キンじぃとの決闘以来だろうか?

 バランスを崩したタイガさんに目掛け、全ての力を一点に集中させる。

 落下、それまでのスピード、腰、胸、肩、腕。その力の全てを同時に、一点に。

 キンじぃが怪物に対抗するために作った技。

        


       奥義:"槍"


 その一点は、不防備なタイガの体をとらえ…………。



 「"リバイン"」












 「はっ!!」

 「あ、気づいたね~」

 綺麗な女の人がこちらをのぞいている。

 「一体なにが……痛っ!」

 腹部がじんじんと痛む。

 「あ~安静にしなきゃ」

 記憶が朧気だ。

 「あの……一体なにが……?」

 「ん~?あ、覚えてない?」

 確か俺はタイガさんと戦闘訓練をしてて……。

 "槍"を使って……それから……。

 「ダメだよねぇ~。普通の人間に英雄の力使っちゃあ」

 そうだ。あの"リバイン"という言葉を聞いてからたった一撃だった……。

 俺は負けた。

 こんなにも遠いのか、英雄は。

 タイガさんはまだ一度も本気を出していなかった。これが……この腹部の痛さこそが…英雄の力なのか。

 「う~ん?大丈夫?なんか元気なさそう」

 「いや……現実を知っただけです」

 「ん~?なにそれ。なんか君、ディナちゃんみたいなこと言うんだね」

 「へ?ディナちゃん?」

 「うんディナちゃん」

 静かな空気が流れる。

 なんなんだこの人。誰なんだこの人。

 冷静になって考えると、まじで誰だ。

 「う~ん?歌を歌ってあげよっか?私歌大好きなんだ」

 「え?」

 「ララララ~~♪ラララ~♪ララ♪ララララララ~~~♪」

 まじでなんなんだこの人。



 「おーい!大丈夫かアラン!」

 遠くからタイガさんの声が聞こえる。

 いや、タイガさんだけではない、ユンやハリスさんもこちらへ向かってくる。

 

 「アラン大丈夫?君とんでもない距離吹っ飛んだよ?」

 「すまないアラン……つい怪物の力を使ってしまった……」

 「いや…俺が弱かっただけです。気にしないでください」

 「いや、これは俺の落ち度だ。自覚が足りなかった。自分が怪物であるという自覚が……」

 タイガさんの目は悲しく、まるで遠くの誰かを見つめているようだった。

 タイガさんだって被害者なんだ。急に怪物の力を手に入れ、急に戦いに身を置かなければならなくなった。

 こういう人たちは誰が助けるんだろう。

 「タイガさん……安心してください。あなたはちゃんと人間だ」

 「すまないな、気を使わせて、だがこれは精神的な話ではない。身体的な話だ」

 「そう……だから待っててください」

 誰も手を差し伸べなかったら、この人は消えてしまう気がした。

 「いつか俺が勝ちます。英雄のアンタに。怪物のアンタに。そしたらまた……酒好きのおっちゃんに戻りましょう」
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