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しおりを挟む「…っ!………~~~!!」
ラズベリーのみずみずしい甘酸っぱさ。
その後に訪れた、深みのあるショコラが味覚と脳を揺るがす。
その甘やかな衝撃は、自然に頬と、緊張を緩ませた。
「そんなに固くならないでほしい。頼んでるのは俺の方だ。」
僕に皿とフォークを託しながら男は言った。
口調は丁寧とは言い難いが、その手つきと声は柔らかいものだった。
「それに俺の説明が分かりづらかった。悪かった。元々理解されづらいことを言ってると思う…」
Bさんは申し訳なさそうに額に手を当てながら、項垂れた。
その仕草はなんだか、困った熊を連想させる。
「やはり、見てもらうか…」
そうぽつりとこぼしたBさんは、何かを探しにスタッフルームから出て行った。
程なくして、Bさんはアルバムのようなものを持って戻ってきた。
そうしてあるページを開き、俺に見せながら彼は言った。
「君には、こんな感じのことをしてもらいたいんだ。」
「っ!?!………」
(ぉ、っ……)
それは、女性の体の上にケーキが乗っている光景を撮影したものだった。
女性がケーキを持っているのではなく、ケーキが乗っている。
まさに男が言っていた''皿"の役割を、人間がしている写真だった。
計算された構図や光の入り方。
それでなくても美しいケーキの、柔くなめらかな質感や魅力が、香るように伝わってくる。
もはや絵画と見紛うばかりの写真。
…ただ。
女の人は服を着ていなかった。
「お願いだ。
君に、してもらいたいんだ。
かなり変なことを頼んでいることはわかっているが…~」
目の前のBさんが必死に話をしてくれているのは、認識できていた。
が、僕は写真から受けた衝撃から立ち直れず、彼の言葉は右から左へと通り過ぎていくばかりだった。
ただ呆然と、写真を見つめ続けることしかできなかった。
「………」
え、なんで?わ、わからない、これ、なに?
あ、待て、落ち着こう、冷静になろう、平常心…
僕はまず写真から目を逸し、動揺の最たる原因から離れようと試みた。
そこでカップが目に入った僕は、紅茶を飲んで気を紛らわせようとした。
(ぁ…おいしい…。渋みはあるけど、まろやかで…)
アッサムティーのおかげで、僕はなんとかパニック一歩手前だった頭を鎮めることができた。
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