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第四十二話 解かれる呪い

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「クロウラ、コレであいつらを撃て」

ピースの両手から、湧き上がった紫色のモヤが、キュッといくつもの銃弾になり、黒川くんが手にしている銃に込められた。
彼は無言で私達に照準を合わせる。

「避けて!」

私は飛び上がりながら、レミナとアヤセちゃんに向かって大声で叫ぶ。二人とも、ほとんど同時に舞い上がって、ギリギリ弾丸をよけた。黒川くんは、よけた先に銃口を向け、続けざまに銃を撃ってくる。なんだか、さっきまでより狙いが正確になってきているし、素早さも上がっていた。その横でピースはずっと大量の弾丸を生成し続けている。

「えーーーーーい!」

レミナが私達全体にバリヤーを張り巡らせた。さっきまでのバトルでバリヤーを張りまくったせいか、ほとんど力を使い果たした様子で、すごく体がきつそうだ。アヤセちゃんが、辛そうな表情で、私に向かって叫んだ。

「マユちゃん! ピースは、羽が切られてる。たぶん他の二人ほど早くは動けない。だから、彼を先に!」

「分かった!」

黒川くんはピースに操られているようだし、その方が手っ取り早そうだ。私はバリヤーの影から躍り出ると、ピースのすぐ目の前に立ち、ハンマーを横殴りするように大きく振る。でもその一撃は、すんでのところで、かわされた。代わりに、禍々しいエネルギーボールが、そのまま私の顔のすぐ側を飛んでいき、ヒヤリとする。

でも、こんなことで、ひるんでいられない。悪魔にかけられた呪いを浄化して、彼らを解き放つことができるのは、私だけだから。ヨナスとも、黒川くんとも、戦ってきて、ピースが一番動きが鈍いのは、確かに感じる。待てば、そのうち、チャンスは来る。それを逃しちゃダメだ!

絶え間なく繰り返される、攻撃と回避。私も相手も、疲れで動きにキレがなくなってくる。しばらくすると、ピースの手から、モヤが出なくなった。
今だ! 私は大きく振りかぶる。


ピッコーーーーーーーーーーーーーン!!!!


ハンマーは、ピースの両翼の間、肩甲骨の辺りに力一杯ヒットした。大量の黒いモヤが、彼の体からあふれては、消えていく。

「い……嫌だ、戻りたくな……」

それ以上、言葉は続かなかった。力なく校庭に降りながら、自分を抱きしめるようにして、体を丸くするピース。その体はみるみる縮んでいく。人の形を失って、小さな、白い鳩へと変わっていく……

地面に落ちそうになる前に、アヤセちゃんが、両手のひらで彼を受け止めた。

「こんなに小さな子だったの!?」

私は元の姿に戻ったピースを見て、思わず口に出してしまう。公園にいる普通のハトに比べて、半分くらいの大きさしかないんじゃないだろうか。そして羽がボロボロだ。これは今の戦いでそうなったんじゃなく、もっと古い傷に見える。

「うん、とにかく、この子がフルフルの呪いから、解かれてよかった……」

そう言うアヤセちゃんの目が赤くなっているのに、私は今、ようやく気がついた。

「うわあああああああん、助かったよおお……」

レミナの声がする。ピースの洗脳が解けたせいで、黒川くんからの攻撃も止んだらしい。完全にヨレヨレになったレミナに肩を貸して、体を支えた。

「……ごめん、悪かった」

後ろから、黒川くんの詫びる声が聞こえる。

「ホント、そうだよ! 降参するのかと思ったら、前より強くなって攻撃するとか、もうナシだからね!」

後ろを振り向いたレミナが、猛抗議していた。思ったより元気なのかもしれない。それよりも、気になることがあって、私は正面切って、黒川くんに聞くことにした。

「キミは、なんで降参する気になったの? フルフル直属の幹部、なんでしょ?」

ちょっと困ったような顔をした黒川くんが、何か答えようとした瞬間。


ズーーーーーーーン…………

重い、地響きがした。
皆の顔が、一斉に校舎の方を向く。


そこにいたのは……
この一帯のウソのオーラを全て吸収し終わった、フルフルの姿があった。その身長は、校舎の倍以上ある。


「ワハハハハハハハハハ! 身体中が嘘と欺瞞で満ち溢れている! 気分がいい、最高だ!!」


悪魔の笑い声で、辺りの空気がビリビリと震えた。以前の姿よりも、ドス黒く、毛むくじゃらになり、角は全ての先端が釘のようにとがっている。

そして、その眼は一切、笑っていなかった。










****************


あと三話で完結です。
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