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第三十九話 フルフルと三幹部
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重力で物が落ちるスピードよりも速く、小学校に向かって舞い降りる私達。それに気付いたのか、校庭に立つ黒い悪魔はニヤリと笑い、乾いた低い声で、私達に話しかけてきた。
「遅い、遅いぞ、天使ども。この目に映る範囲、全ての『偽り』のエネルギーは、すでにワシに向かっている。ワシはこの地を中心に、神の手の届かない世界を作り、王となる。オマエ達と神の絆も断ち切った。諦めて、この世の誰にも認識されない幽霊となり、永遠に生きるがいい」
「そんなこと、させない!」
「元の世界を、返してもらうわ!」
「諦めるのは、そっちだよ!」
私達は急いで、フルフルを三角形に取り囲んだ。胸から湧き上がる感情を言葉に載せるように、封印の呪文を口にする。
「テイヘンカ!」
「ケル…」
呪文を言いかけたレミナの顔のすぐ横を、銃弾が音もなくすり抜けていく。この、音が全然しない射撃は……
振り返ると、そこにはやはり、あの黒い翼の悪魔がいた。そして、カモメ男と、初めて見る小柄な少年もいる。ハトのような、あまり長くない白い翼に、白い髪に赤い瞳。
「あーっ! カモメは一組の転校生、あっちの子は、二組の転校生だよ!」
レミナがこちらを振り向き、白い翼の少年を指して、叫んだ。やっぱり転校生トリオはフルフルの手先だったんだ。
じゃあ、仮面を付けたカラス男は、私の隣の席の『黒川アオ』くんで間違いないだろう。
「遅かったな……ピース、クロウラ、ヨナスよ。そこにいるスズメどもを、始末しろ。わしの邪魔をさせるな」
周囲から流れてくるオーラを、全身から吸い込みながら、フルフルが、三幹部に命じる。
こちらに向き直った三人は、すぐさま私達に襲い掛かってきた。こうなると、もう封印の呪文どころじゃない。とにかく目の前の敵を何とかしなければ。
私に戦いを挑んできたのは、カモメの翼を持つヨナスだった。彼と戦うのは二回目、戦い方もある程度は知っている。翼の先端にある黒い羽根を、ナイフのように飛ばしてくる攻撃と、翼全体を刃物にして、飛びながら切り裂く、ある意味、捨て身の攻撃だ。接近戦はかなり危ない。
だけど私も、持ってる武器がハンマーだから、近付かないと直接攻撃できないんだよね……なんとか、この前、クロウラに化けたピースをしびれさせたときのように、衝撃波を当てられないだろうか。私はハンマーをクルッと回すと、その円の中央を思いっきり叩いた。
ダンッ!!
しかし、ヨナスはその衝撃波をスルリとかわす。こちらを惑わせるように、速く、遅く、右へ、左へとユラユラと飛んでくる。とっさに逃げながら、相手の表情を見た瞬間、何か、すごく違和感があった。
前に戦った時のヨナスは、感情が顔に出るタイプだった。やたらおしゃべりで、勝手に自己紹介してきたし、飛ぶ時はすごい勢いで、あまり身体を揺らさずに、真っ直ぐに飛んでいた。
だけど、今、一瞬近くで見たヨナスは、完全に無表情だ。体をコントロールできなくなった時の、レミナやアヤセちゃんに似てる。もしかして、あの時の二人と同じ状態になってる? それとも、誰かに操られてる? 分からないけど、これがあの時のヨナスじゃないのだけは分かった。
いずれにしたって、飛び回っているだけじゃ、戦いは終わらない。私は賭けに出ることにした。逃げるのをやめて、空中で羽ばたきながら止どまった。ヨナスは大きな刃物になった翼を私に向けて、すごい勢いで突っ込んでくる。
ピッコーーーーーーーーーン!!
私はヨナスの翼がこちらに届く寸前に、ハンマーで相手の肩を思いっきり叩き、そのまま仰向けになって巨大な刃を避けた。秀才道場で特訓した成果もあって、私も最初の頃より、ずっと素早さも、攻撃力も上がっている。でも実戦は、正直怖かった。
のけぞって、通り過ぎていった敵の姿を見ると、肩にハンマーの強力な一撃を食らったヨナスは、うめき声を上げながら、もがいていた。その身体から、紫色のモヤが、これでもかと言うくらい、モクモクと上がっている。やっぱり、操られていたみたいだ。
その煙の中、翼が生えた人間だったヨナスの姿が、どんどん小さくなる。やがて、彼は、海辺にいる、普通のカモメの姿へと変わっていった。
「あああ、オレは、オレは……元に戻ったのか? よかった……」
最後の一言を聞いて、私は驚いた。鳥のカモメこそが、本来のヨナスだったのだ。しかも、戻れて喜んでいる。
「大丈夫!?」
反射的にヨナスの元へと飛んでいく私。
「南へ渡る時期が来ている、仲間のところへ戻りたい……ク……クァー、クァー」
言い終わるか終わらないかのうちに、彼は人の言葉を失っていく。本当に、ただのカモメに戻ってしまったのだろう。私に向けてなのか、空をくるりと旋回してから、ヨナスは港に向かって飛んでいった。
去っていく彼を、フルフルや他の幹部が襲わないかと、私はあたりに気を配るが、フルフルはオーラを吸収するのに集中しているようだし、クロウラはレミナと、ピースはアヤセちゃんと戦闘中だ。
よく見ると、アヤセちゃん達はにらみ合っている様子だけど、レミナはかなり苦戦しているように見える。あの子はもともと防御には特化してるけど、戦闘向きじゃない。すぐ、助けに行かなきゃ!私はレミナのいる方へ、急いで飛んでいった。
「遅い、遅いぞ、天使ども。この目に映る範囲、全ての『偽り』のエネルギーは、すでにワシに向かっている。ワシはこの地を中心に、神の手の届かない世界を作り、王となる。オマエ達と神の絆も断ち切った。諦めて、この世の誰にも認識されない幽霊となり、永遠に生きるがいい」
「そんなこと、させない!」
「元の世界を、返してもらうわ!」
「諦めるのは、そっちだよ!」
私達は急いで、フルフルを三角形に取り囲んだ。胸から湧き上がる感情を言葉に載せるように、封印の呪文を口にする。
「テイヘンカ!」
「ケル…」
呪文を言いかけたレミナの顔のすぐ横を、銃弾が音もなくすり抜けていく。この、音が全然しない射撃は……
振り返ると、そこにはやはり、あの黒い翼の悪魔がいた。そして、カモメ男と、初めて見る小柄な少年もいる。ハトのような、あまり長くない白い翼に、白い髪に赤い瞳。
「あーっ! カモメは一組の転校生、あっちの子は、二組の転校生だよ!」
レミナがこちらを振り向き、白い翼の少年を指して、叫んだ。やっぱり転校生トリオはフルフルの手先だったんだ。
じゃあ、仮面を付けたカラス男は、私の隣の席の『黒川アオ』くんで間違いないだろう。
「遅かったな……ピース、クロウラ、ヨナスよ。そこにいるスズメどもを、始末しろ。わしの邪魔をさせるな」
周囲から流れてくるオーラを、全身から吸い込みながら、フルフルが、三幹部に命じる。
こちらに向き直った三人は、すぐさま私達に襲い掛かってきた。こうなると、もう封印の呪文どころじゃない。とにかく目の前の敵を何とかしなければ。
私に戦いを挑んできたのは、カモメの翼を持つヨナスだった。彼と戦うのは二回目、戦い方もある程度は知っている。翼の先端にある黒い羽根を、ナイフのように飛ばしてくる攻撃と、翼全体を刃物にして、飛びながら切り裂く、ある意味、捨て身の攻撃だ。接近戦はかなり危ない。
だけど私も、持ってる武器がハンマーだから、近付かないと直接攻撃できないんだよね……なんとか、この前、クロウラに化けたピースをしびれさせたときのように、衝撃波を当てられないだろうか。私はハンマーをクルッと回すと、その円の中央を思いっきり叩いた。
ダンッ!!
しかし、ヨナスはその衝撃波をスルリとかわす。こちらを惑わせるように、速く、遅く、右へ、左へとユラユラと飛んでくる。とっさに逃げながら、相手の表情を見た瞬間、何か、すごく違和感があった。
前に戦った時のヨナスは、感情が顔に出るタイプだった。やたらおしゃべりで、勝手に自己紹介してきたし、飛ぶ時はすごい勢いで、あまり身体を揺らさずに、真っ直ぐに飛んでいた。
だけど、今、一瞬近くで見たヨナスは、完全に無表情だ。体をコントロールできなくなった時の、レミナやアヤセちゃんに似てる。もしかして、あの時の二人と同じ状態になってる? それとも、誰かに操られてる? 分からないけど、これがあの時のヨナスじゃないのだけは分かった。
いずれにしたって、飛び回っているだけじゃ、戦いは終わらない。私は賭けに出ることにした。逃げるのをやめて、空中で羽ばたきながら止どまった。ヨナスは大きな刃物になった翼を私に向けて、すごい勢いで突っ込んでくる。
ピッコーーーーーーーーーン!!
私はヨナスの翼がこちらに届く寸前に、ハンマーで相手の肩を思いっきり叩き、そのまま仰向けになって巨大な刃を避けた。秀才道場で特訓した成果もあって、私も最初の頃より、ずっと素早さも、攻撃力も上がっている。でも実戦は、正直怖かった。
のけぞって、通り過ぎていった敵の姿を見ると、肩にハンマーの強力な一撃を食らったヨナスは、うめき声を上げながら、もがいていた。その身体から、紫色のモヤが、これでもかと言うくらい、モクモクと上がっている。やっぱり、操られていたみたいだ。
その煙の中、翼が生えた人間だったヨナスの姿が、どんどん小さくなる。やがて、彼は、海辺にいる、普通のカモメの姿へと変わっていった。
「あああ、オレは、オレは……元に戻ったのか? よかった……」
最後の一言を聞いて、私は驚いた。鳥のカモメこそが、本来のヨナスだったのだ。しかも、戻れて喜んでいる。
「大丈夫!?」
反射的にヨナスの元へと飛んでいく私。
「南へ渡る時期が来ている、仲間のところへ戻りたい……ク……クァー、クァー」
言い終わるか終わらないかのうちに、彼は人の言葉を失っていく。本当に、ただのカモメに戻ってしまったのだろう。私に向けてなのか、空をくるりと旋回してから、ヨナスは港に向かって飛んでいった。
去っていく彼を、フルフルや他の幹部が襲わないかと、私はあたりに気を配るが、フルフルはオーラを吸収するのに集中しているようだし、クロウラはレミナと、ピースはアヤセちゃんと戦闘中だ。
よく見ると、アヤセちゃん達はにらみ合っている様子だけど、レミナはかなり苦戦しているように見える。あの子はもともと防御には特化してるけど、戦闘向きじゃない。すぐ、助けに行かなきゃ!私はレミナのいる方へ、急いで飛んでいった。
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