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第三十五話 人間に戻れない
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「どうしよう……これじゃ、家に帰っても、誰も私のこと、分からないよ……」
天使の姿は、人間の目に映らない。声も聞こえない。私達は、日常に帰る手段を失ってしまったのだ。レミナが焦った様子で声を上げる。
「えーーーーっ!! そんなの困るよぉ!」
「とりあえず、ひみつ天国に行って、どうしたらいいか聞いた方がイイかも……」
アヤセちゃんは、まだ冷静だけど、顔色が悪い。とにかく、今できることは、神様はハナさんに相談することだけだ。
「そうだね、じゃあ、天国に行こう!」
三人で、それぞれの色のカギを使って空中に三角を書き、その中心を鍵で突いた。これで天国への扉が開く……はずだったのだが。
「ウソ! 扉が開かない?」
三角の光の線は、扉になって開く前に、消え去ってしまう。
「そんな!」
「あたし達、どうしたらいいのぉ!?」
今まで、何度かピンチに陥ってきたけれど、こんなに困難な状況は初めてだった。太陽が西に傾き始めた中、足元の影が少しずつ長く伸びていく。行き場を失った私達は、途方に暮れた。
そして、すっかり陽が落ちて、暗くなった街。こんな時間、子どもだけで外にいるのは初めてだ。お腹も空いているはずだけど、あまり食欲は湧かない…
「……とりあえず、家に帰るだけ帰ってみよう。家族が誰も私を見ることができなくても、私達には家族が見える。話も聞こえる。皆が家でどうしてるか、知りたい」
ヒマリちゃんのアパートの屋根の上で、私は立ち上がって言った。これ以上ここにいても、不毛なだけだ。他の二人も家族が心配だったようで、それぞれ、いったん帰宅することになった。
***
星の浮かぶ夜空を羽ばたいて、自宅に戻る。アパートのすぐ近くにある私の家には、あっという間に着いた。普通に玄関先で靴を脱いで、家に入る。リビングから、知らない声がする。入り口からそっと室内をのぞくと、両親と兄、そして、警察の人がいて、何かを話し合っていた。
「あの子がいなくなるような心当たりは、全くないんです」
「しかし、帰宅中にいなくなった場合ならともかく、クラスの女子二人と午後から学校を抜け出して、そのまま行方が知れなくなる、という場合、誘拐よりは家出の可能性もありますし……」
「でも、うちの子は素直で、人に迷惑をかけるような子じゃありません」
私が帰らないせいで、警察を呼ぶ羽目になってしまった。
「ママ! パパ! 私、ここにいるよ? 帰ってきたよ!」
だけど、誰も私の声に反応しない。ママは湿ったハンカチを握って、パパも眉間に皺を寄せながら、警察の人と話している。お兄ちゃんは……二階のようだ。
大人たちを横目に、リビングを通り抜け、階段を上がる。お兄ちゃんは自分の部屋で、腕枕をして、ベッドに突っ伏していた。顔は見えない。
「マユ、どうしちまったんだよ……おまえは黙っていなくなるような奴じゃないだろ……?
やっぱり誘拐されちまったのかな……」
鼻声でつぶやくお兄ちゃん。
「お兄ちゃん……私だよ、マユだよ?」
すぐ隣に立って、話しかけても、返事はない。私はここにいる。なのに、誰も私の姿が見えない、伝わらない。ごめんなさい。家族に、こんなに心配をかけているのに、何もできない自分が、もどかしい。目の前がユラユラ揺れてきたけれど、今は泣いてる場合じゃない。
階段を駆け下り、靴を履き直して、玄関から駆け出した。そのまま、上空へ羽ばたく。
「神様! 神様! 神様! 助けて!!」
声の限り叫んだ。
天使の姿は、人間の目に映らない。声も聞こえない。私達は、日常に帰る手段を失ってしまったのだ。レミナが焦った様子で声を上げる。
「えーーーーっ!! そんなの困るよぉ!」
「とりあえず、ひみつ天国に行って、どうしたらいいか聞いた方がイイかも……」
アヤセちゃんは、まだ冷静だけど、顔色が悪い。とにかく、今できることは、神様はハナさんに相談することだけだ。
「そうだね、じゃあ、天国に行こう!」
三人で、それぞれの色のカギを使って空中に三角を書き、その中心を鍵で突いた。これで天国への扉が開く……はずだったのだが。
「ウソ! 扉が開かない?」
三角の光の線は、扉になって開く前に、消え去ってしまう。
「そんな!」
「あたし達、どうしたらいいのぉ!?」
今まで、何度かピンチに陥ってきたけれど、こんなに困難な状況は初めてだった。太陽が西に傾き始めた中、足元の影が少しずつ長く伸びていく。行き場を失った私達は、途方に暮れた。
そして、すっかり陽が落ちて、暗くなった街。こんな時間、子どもだけで外にいるのは初めてだ。お腹も空いているはずだけど、あまり食欲は湧かない…
「……とりあえず、家に帰るだけ帰ってみよう。家族が誰も私を見ることができなくても、私達には家族が見える。話も聞こえる。皆が家でどうしてるか、知りたい」
ヒマリちゃんのアパートの屋根の上で、私は立ち上がって言った。これ以上ここにいても、不毛なだけだ。他の二人も家族が心配だったようで、それぞれ、いったん帰宅することになった。
***
星の浮かぶ夜空を羽ばたいて、自宅に戻る。アパートのすぐ近くにある私の家には、あっという間に着いた。普通に玄関先で靴を脱いで、家に入る。リビングから、知らない声がする。入り口からそっと室内をのぞくと、両親と兄、そして、警察の人がいて、何かを話し合っていた。
「あの子がいなくなるような心当たりは、全くないんです」
「しかし、帰宅中にいなくなった場合ならともかく、クラスの女子二人と午後から学校を抜け出して、そのまま行方が知れなくなる、という場合、誘拐よりは家出の可能性もありますし……」
「でも、うちの子は素直で、人に迷惑をかけるような子じゃありません」
私が帰らないせいで、警察を呼ぶ羽目になってしまった。
「ママ! パパ! 私、ここにいるよ? 帰ってきたよ!」
だけど、誰も私の声に反応しない。ママは湿ったハンカチを握って、パパも眉間に皺を寄せながら、警察の人と話している。お兄ちゃんは……二階のようだ。
大人たちを横目に、リビングを通り抜け、階段を上がる。お兄ちゃんは自分の部屋で、腕枕をして、ベッドに突っ伏していた。顔は見えない。
「マユ、どうしちまったんだよ……おまえは黙っていなくなるような奴じゃないだろ……?
やっぱり誘拐されちまったのかな……」
鼻声でつぶやくお兄ちゃん。
「お兄ちゃん……私だよ、マユだよ?」
すぐ隣に立って、話しかけても、返事はない。私はここにいる。なのに、誰も私の姿が見えない、伝わらない。ごめんなさい。家族に、こんなに心配をかけているのに、何もできない自分が、もどかしい。目の前がユラユラ揺れてきたけれど、今は泣いてる場合じゃない。
階段を駆け下り、靴を履き直して、玄関から駆け出した。そのまま、上空へ羽ばたく。
「神様! 神様! 神様! 助けて!!」
声の限り叫んだ。
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