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第二十九話 天使の追いかけっこ
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天国から、給食が終わった後の時間の屋上に戻った私。
「エンジェル・トライア!」
天使に変身して、両手に太鼓判ハンマーを握りしめた。絶対に、二人の呪いを解かなくちゃ。急いで、四年三組に直行する。天使の姿になると、人の目には見えなくなるから、私がこんな姿で走っていても、誰も不思議に思わない。
教室に行くと、レミナも栗原さんも、ちょうど、食器を片付け終えたところだった。
「レミナ!おとなしくして!」
私は近くにいたレミナの呪いを解こうとして、その頭にハンマーを振り下ろすと……
スカッ!
……えっ!? 空振り!?
レミナは、すごい反射速度で、反復横跳びのように、私の攻撃を避けたのだ。
「うそ……!」
こんなスピード、今までバトルの最中にだって、見せたことがなかったのに。何度ハンマーを振り回しても、かすりもしない。全部避けられてしまう。
そこで、私はハッと気付いた。秀才道場で、いろんな武道の修行を積んで、私達は以前からは考えられないくらい、戦闘も、防御もレベルアップしていた。もちろん、敵の攻撃を避ける技術も……レミナはボクシングを気に入っていて、ディフェンシングなんかをかなり練習していたのだ。まさか、こんなことで裏目に出るなんて……
せめて私が剣道でも学んでいたら、また違っただろうか。
レミナは私のハンマーを避けながら、少しずつ教室の出入り口に近寄って行って、とうとう廊下を走って逃げてしまった。あわてて、後を追う私。
レミナは校舎の正面玄関を出て、校庭の端っこまで駆け抜けていくと
「エンゼル・トライア……」
感情のこもらない、平坦な声で呪文をとなえ、天使の姿になった。
うわあ! ……天使になったら、ますますパワーアップしちゃう!
っていうか、空を飛んじゃう! ますます叩くのが大変になっちゃう!
困惑で、自分の表情が引きつったのが分かる。
あああ、だけど! 何とかしなきゃ!
私は飛びながら、学校の上空を逃げるレミナを追いかけまわした。何度か、もう少しでハンマーが届くところまで追いつめたけど、そのたび直前でサッとよけられてしまう。
こんなことが続いて、私は徐々に疲れてきてしまった。翼に力が入らなくなってくる。それは相手も同じことのようで、だんだん飛ぶ高さが低くなり始めた。中庭にあるバスケットのゴールにレミナが近付いた、その瞬間。
「キャ……!」
下からゴールに向かって投げられたバスケットボールが、レミナの肩に直撃した。こちらに気を取られて、飛んできたボールに気が付かなかったようだ。このチャンスを逃す手はない!
ピッコーーーーーーーーーン!!
ハンマーが、背中に思いっきりヒットした。
そのまま地面に着地したレミナの体中から、濃い紫色の煙がモクモクと立ち上る。
自分の腕を抱きかかえるように膝をついた彼女が、ゆっくりとこちらを向いた。そのつぶらな両目から、涙がポロポロこぼれて落ちる。
「マユちーーーーん……怖かったぁ……!」
よかった、正気に戻ってる!
レミナが伸ばしてきた腕を取り、私達は肩を抱き合って、わぁわぁ声を上げて泣いてしまった。
そういえば、全力で叩いちゃったんだけど……心配になってレミナにたずねる。
「ねえ、大丈夫? どこか痛いとことか、ない?」
「平気だよ、ハンマーって、あれ、ぜんぜん痛くないんだね」
カモメ男も言ってたけど、このハンマーの攻撃は本当に痛くないらしい。少しホッとした。
私達は立ち上がると、周囲に人気がない校舎と植木の間に隠れて、人間の姿に戻る。
そしてバスケットゴールの下に転がっているボールを見て、ふと気付いた。
あれ? そういや、あのバスケットボールを投げたの、誰だったんだろう……?
気が付いたら、中庭には人がいなくなっていた。休憩時間が終わりそうだから、教室に戻ったんだろうか。まあ、私達の姿が見えていたとは思えないけど……ちょっと気になるかも。
キーン コーン カーン コーン……
「ああっ! 午後の授業が始まっちゃう!」
「ああっ! あたし上履きのまま、外に出てるっ!」
私とレミナは大急ぎで校舎を目指して走り出した。
「エンジェル・トライア!」
天使に変身して、両手に太鼓判ハンマーを握りしめた。絶対に、二人の呪いを解かなくちゃ。急いで、四年三組に直行する。天使の姿になると、人の目には見えなくなるから、私がこんな姿で走っていても、誰も不思議に思わない。
教室に行くと、レミナも栗原さんも、ちょうど、食器を片付け終えたところだった。
「レミナ!おとなしくして!」
私は近くにいたレミナの呪いを解こうとして、その頭にハンマーを振り下ろすと……
スカッ!
……えっ!? 空振り!?
レミナは、すごい反射速度で、反復横跳びのように、私の攻撃を避けたのだ。
「うそ……!」
こんなスピード、今までバトルの最中にだって、見せたことがなかったのに。何度ハンマーを振り回しても、かすりもしない。全部避けられてしまう。
そこで、私はハッと気付いた。秀才道場で、いろんな武道の修行を積んで、私達は以前からは考えられないくらい、戦闘も、防御もレベルアップしていた。もちろん、敵の攻撃を避ける技術も……レミナはボクシングを気に入っていて、ディフェンシングなんかをかなり練習していたのだ。まさか、こんなことで裏目に出るなんて……
せめて私が剣道でも学んでいたら、また違っただろうか。
レミナは私のハンマーを避けながら、少しずつ教室の出入り口に近寄って行って、とうとう廊下を走って逃げてしまった。あわてて、後を追う私。
レミナは校舎の正面玄関を出て、校庭の端っこまで駆け抜けていくと
「エンゼル・トライア……」
感情のこもらない、平坦な声で呪文をとなえ、天使の姿になった。
うわあ! ……天使になったら、ますますパワーアップしちゃう!
っていうか、空を飛んじゃう! ますます叩くのが大変になっちゃう!
困惑で、自分の表情が引きつったのが分かる。
あああ、だけど! 何とかしなきゃ!
私は飛びながら、学校の上空を逃げるレミナを追いかけまわした。何度か、もう少しでハンマーが届くところまで追いつめたけど、そのたび直前でサッとよけられてしまう。
こんなことが続いて、私は徐々に疲れてきてしまった。翼に力が入らなくなってくる。それは相手も同じことのようで、だんだん飛ぶ高さが低くなり始めた。中庭にあるバスケットのゴールにレミナが近付いた、その瞬間。
「キャ……!」
下からゴールに向かって投げられたバスケットボールが、レミナの肩に直撃した。こちらに気を取られて、飛んできたボールに気が付かなかったようだ。このチャンスを逃す手はない!
ピッコーーーーーーーーーン!!
ハンマーが、背中に思いっきりヒットした。
そのまま地面に着地したレミナの体中から、濃い紫色の煙がモクモクと立ち上る。
自分の腕を抱きかかえるように膝をついた彼女が、ゆっくりとこちらを向いた。そのつぶらな両目から、涙がポロポロこぼれて落ちる。
「マユちーーーーん……怖かったぁ……!」
よかった、正気に戻ってる!
レミナが伸ばしてきた腕を取り、私達は肩を抱き合って、わぁわぁ声を上げて泣いてしまった。
そういえば、全力で叩いちゃったんだけど……心配になってレミナにたずねる。
「ねえ、大丈夫? どこか痛いとことか、ない?」
「平気だよ、ハンマーって、あれ、ぜんぜん痛くないんだね」
カモメ男も言ってたけど、このハンマーの攻撃は本当に痛くないらしい。少しホッとした。
私達は立ち上がると、周囲に人気がない校舎と植木の間に隠れて、人間の姿に戻る。
そしてバスケットゴールの下に転がっているボールを見て、ふと気付いた。
あれ? そういや、あのバスケットボールを投げたの、誰だったんだろう……?
気が付いたら、中庭には人がいなくなっていた。休憩時間が終わりそうだから、教室に戻ったんだろうか。まあ、私達の姿が見えていたとは思えないけど……ちょっと気になるかも。
キーン コーン カーン コーン……
「ああっ! 午後の授業が始まっちゃう!」
「ああっ! あたし上履きのまま、外に出てるっ!」
私とレミナは大急ぎで校舎を目指して走り出した。
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