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第二十五話 マユ VS ヨナス
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屋上に着いたが、そこには誰もいなかった。おかしいな、今日じゃなかったのかな……?
もしかしたら、別の校舎かもしれない。屋上を囲んでいるネットフェンスに近付いて、他の校舎の屋上も確認してみた。やっぱり、人影はない。
いたずらだったのかな……? 教室に戻ろうと、下り階段に続くドアの方を振り返った、その時。
「シーガル・カッター!」
誰かの掛け声とともに、何か刃物のようなものが、たくさん飛んできた。反射的にしゃがんだから、全ての直撃は免れたけれど、頭をかばった左腕の、ひじから下のところに、少しかすった傷が二カ所できていた。浅い切り傷だけど、じくじく痛んで、じわりと血がにじんだ。
「うわあああ!! 本当に切れてる! 何するの! 危ないでしょ!」
私は屋上に出っ張ってる、小さな屋根の上に向かって叫ぶ。
そこには、背中からカモメの羽を生やした男の子が翼を広げて立っていた。さっきの男子と顔が似てるような、違うような……
白い翼の先にある、黒い風切り羽根が生えているところから、鋭いナイフのような羽が何本も立ち上がって、今にも飛んできそうだ。
「チッ!外したか……だったら、もう一回……」
ヤバい! そうだ、変身しなきゃ!
「エンジェル・トライア!」
言い終わるか終わらないかのうちに、体が光に包まれる。流れる時間が遅くなり、黒い羽根がコマ送りのように、ゆっくりと近づいてくる。髪の毛が、着ていた服が色と形を変えていく。左腕の切り傷もふさがっていった。最後に、薄くピンクがかった白い翼が生えると、光がひときわ強く、周囲に飛び散った。
「うわっ!なんだ、まぶしい……」
屋根の上のカモメ男は、翼で身体をガードしながら、目を押さえている。
「なんなの!キミは!危ないじゃない!」
私がどなると、視界が戻ったらしき彼が、こちらを見下ろした、その瞬間。
「プーーーーーッ!! なんだそりゃあ!! だっせえええ!!」
カモメ羽根の男子は思いっきり噴き出したのだ。私が手に持っているものを、指さしながら。
私の手にあるのは、そう、『太鼓判ハンマー』。見た目は、可愛く装飾されてるだけの、ピコピコハンマーだ。
「ヒャーーーーッハッハッハ!!! ウケる……! それはオモチャか? 何かの罰ゲームかぁ?」
いや、私だって最初にもらった時はチラッとそう思ったけど、そこまで笑うことはないでしょ!
「う、うるさーい! 見た目と性能は関係ないんだから! 覚悟しなさい! このカモメ男!」
私が反論すると、相手は急に笑うのを止めた。
「カモメなんて、テキトーに呼ぶんじゃねーよ。オレは悪魔フルフル様直属の大幹部。
『羽刃のヨナス』様だ、覚えとけ!」
名乗りながら、ヨナスはこちらに猛スピードで飛んできた。嫌な予感がして身をかわすと、ヨナスが突っ込んだところにあった、直径が三十センチはありそうな木の幹が、スパッと両断されて、枝が茂る上の部分がバサバサと音を立てて倒れ落ちた。
ヨナスの翼は、それ自体が巨大な刃物になっていたのだ。予想外の強敵に、私の顔から血の気が引いた。
に、逃げた方がイイかも……
そこからは、空中での追っかけっこが始まった。天使に変身しているから、体は軽く、身動きは素早くできる。あそこに逃げようと思った瞬間には、もうそこに移動している。ヨナスより少しスピードが速いようだ。だけど、ピコピコハンマーで、あの大きな二枚の刃物に太刀打ちできるとは思えない。うかつに近寄ったら真っ二つにされそう。
「ハァハァ……ちょこまかと動きやがって……」
さんざん逃げ回っているうちに、私も、向こうも、息が切れている。だけど、その姿を見ているうちに、ふと気が付いた。ヨナスの翼は上の部分に沿って、刃が付いている。だけど下の方は、普通の羽根だ。だったら、後ろに回り込めば、一矢報いることができるのでは……?
私は校舎をつなぐ渡り廊下を、飛びながら横切るようにくぐった。そのまま通り抜ける、と見せかけて、くるっとバク転し、廊下の屋根に飛び乗る。後を追ってきたヨナスが、同じように渡り廊下をくぐってきたのを見て、思いっきりハンマーを振り下ろした。
ピッコーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ハンマーは、相手の後頭部にヒットした。なんとも緊張感のない音が響き渡る。ヨナスは無言でそのまま地面に落ちて、突っ伏していた。だけど、すぐに起き上がって、自分がケガをしてないのを確認すると、高笑いを始めた。
「ハッ、それが攻撃かよ!? 痛くもなんともないぜ! むしろ気持ちイイくらいだ!アハハハハ……ハ……ま、待て……なんだ!? これは!」
確かにケガはしていない。でも、身体中から、モクモクと黒いモヤが吹き出している。なんだか前に川越くんのお父さんから出てきたモヤに、似ている気もする。
「やめろ!あああ……うわあああああ!!」
ヨナスは苦しそうに身もだえすると、翼を広げ、全速力で飛び去っていった。
私はその間、疲れとショックで追いかける気力がなくなって、そのままヨナスを見送ることしかできなかった。
もしかしたら、別の校舎かもしれない。屋上を囲んでいるネットフェンスに近付いて、他の校舎の屋上も確認してみた。やっぱり、人影はない。
いたずらだったのかな……? 教室に戻ろうと、下り階段に続くドアの方を振り返った、その時。
「シーガル・カッター!」
誰かの掛け声とともに、何か刃物のようなものが、たくさん飛んできた。反射的にしゃがんだから、全ての直撃は免れたけれど、頭をかばった左腕の、ひじから下のところに、少しかすった傷が二カ所できていた。浅い切り傷だけど、じくじく痛んで、じわりと血がにじんだ。
「うわあああ!! 本当に切れてる! 何するの! 危ないでしょ!」
私は屋上に出っ張ってる、小さな屋根の上に向かって叫ぶ。
そこには、背中からカモメの羽を生やした男の子が翼を広げて立っていた。さっきの男子と顔が似てるような、違うような……
白い翼の先にある、黒い風切り羽根が生えているところから、鋭いナイフのような羽が何本も立ち上がって、今にも飛んできそうだ。
「チッ!外したか……だったら、もう一回……」
ヤバい! そうだ、変身しなきゃ!
「エンジェル・トライア!」
言い終わるか終わらないかのうちに、体が光に包まれる。流れる時間が遅くなり、黒い羽根がコマ送りのように、ゆっくりと近づいてくる。髪の毛が、着ていた服が色と形を変えていく。左腕の切り傷もふさがっていった。最後に、薄くピンクがかった白い翼が生えると、光がひときわ強く、周囲に飛び散った。
「うわっ!なんだ、まぶしい……」
屋根の上のカモメ男は、翼で身体をガードしながら、目を押さえている。
「なんなの!キミは!危ないじゃない!」
私がどなると、視界が戻ったらしき彼が、こちらを見下ろした、その瞬間。
「プーーーーーッ!! なんだそりゃあ!! だっせえええ!!」
カモメ羽根の男子は思いっきり噴き出したのだ。私が手に持っているものを、指さしながら。
私の手にあるのは、そう、『太鼓判ハンマー』。見た目は、可愛く装飾されてるだけの、ピコピコハンマーだ。
「ヒャーーーーッハッハッハ!!! ウケる……! それはオモチャか? 何かの罰ゲームかぁ?」
いや、私だって最初にもらった時はチラッとそう思ったけど、そこまで笑うことはないでしょ!
「う、うるさーい! 見た目と性能は関係ないんだから! 覚悟しなさい! このカモメ男!」
私が反論すると、相手は急に笑うのを止めた。
「カモメなんて、テキトーに呼ぶんじゃねーよ。オレは悪魔フルフル様直属の大幹部。
『羽刃のヨナス』様だ、覚えとけ!」
名乗りながら、ヨナスはこちらに猛スピードで飛んできた。嫌な予感がして身をかわすと、ヨナスが突っ込んだところにあった、直径が三十センチはありそうな木の幹が、スパッと両断されて、枝が茂る上の部分がバサバサと音を立てて倒れ落ちた。
ヨナスの翼は、それ自体が巨大な刃物になっていたのだ。予想外の強敵に、私の顔から血の気が引いた。
に、逃げた方がイイかも……
そこからは、空中での追っかけっこが始まった。天使に変身しているから、体は軽く、身動きは素早くできる。あそこに逃げようと思った瞬間には、もうそこに移動している。ヨナスより少しスピードが速いようだ。だけど、ピコピコハンマーで、あの大きな二枚の刃物に太刀打ちできるとは思えない。うかつに近寄ったら真っ二つにされそう。
「ハァハァ……ちょこまかと動きやがって……」
さんざん逃げ回っているうちに、私も、向こうも、息が切れている。だけど、その姿を見ているうちに、ふと気が付いた。ヨナスの翼は上の部分に沿って、刃が付いている。だけど下の方は、普通の羽根だ。だったら、後ろに回り込めば、一矢報いることができるのでは……?
私は校舎をつなぐ渡り廊下を、飛びながら横切るようにくぐった。そのまま通り抜ける、と見せかけて、くるっとバク転し、廊下の屋根に飛び乗る。後を追ってきたヨナスが、同じように渡り廊下をくぐってきたのを見て、思いっきりハンマーを振り下ろした。
ピッコーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ハンマーは、相手の後頭部にヒットした。なんとも緊張感のない音が響き渡る。ヨナスは無言でそのまま地面に落ちて、突っ伏していた。だけど、すぐに起き上がって、自分がケガをしてないのを確認すると、高笑いを始めた。
「ハッ、それが攻撃かよ!? 痛くもなんともないぜ! むしろ気持ちイイくらいだ!アハハハハ……ハ……ま、待て……なんだ!? これは!」
確かにケガはしていない。でも、身体中から、モクモクと黒いモヤが吹き出している。なんだか前に川越くんのお父さんから出てきたモヤに、似ている気もする。
「やめろ!あああ……うわあああああ!!」
ヨナスは苦しそうに身もだえすると、翼を広げ、全速力で飛び去っていった。
私はその間、疲れとショックで追いかける気力がなくなって、そのままヨナスを見送ることしかできなかった。
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