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第二十四話 悪魔の幹部『トリトリオ』

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給食を食べ終わった後の昼休み。俺は校舎の屋上に仲間を呼び出した。

「おい!どうなってんだよ。クラスが別々だなんて、聞いてないぞ!」

ヨナスが大声で言う。
四年一組に転入した『海野ハルト』こと、ヨナスはもともとカモメだったヤツだ。
俺より上背があって、四年生にしてはガタイが良い。中学生くらいにも見える。泳ぐのが得意らしい。

「まあまあ、落ち着きなよ。その辺はフルフル様も調査不足だったんでしょ。あの御方も、なかなか自由には地上に来られないみたいだからさ。よくよく考えれば、転校生が三人も来たら、普通は同じクラスにしないもんだよね」

荒れるヨナスをピースが取りなした。
四年二組の転入生、『鳩山イツキ』を名乗るピースは、元は白い鳩だ。
いつも微笑みをたたえた、優しそうな顔をしている。一番小柄だが、平和主義で、人の心に入り込むのが上手い。

「まあ、そんなことはどうでもいい。問題はどうやって天使三人を排除するか、だ」

そして、元はカラスだったこの俺、四年三組の転校生『黒川アオ』ことクロウラ。
俺達は、フルフル様の直属の幹部だ。三人合わせて『トリトリオ』と命名されている。
……内心ちょっとダサいとは思っているが、かの御方には逆らえない。

人間の世界で暮らす封天使、神田川マユ、土井レミナ、栗原アヤセの三人を始末するのが、俺たちの使命だ。
しかし、天使三人が同じクラスなのに対し、俺達はクラスが分かれてしまい、ヨナスは文句を言っているのだ。
教室が違えば、何かと仲間同士の連絡が取り辛いし、作戦も立て難いからな。

「天使ったって、普段はただの女子小学生なんだろ? 人間のうちにとっ捕まえて、ボコってやりゃあ、いいんじゃねーの?」

「ヨナス、言い方が悪いよ? ボコるとかさ。そんなことしなくたって、自ら天使を辞めてもらうように仕向けて、神の記憶を消しちゃうのが、一番穏やかな方法だと思うよ。バトルがなければ、ボクらだって痛い目を見なくて済むからね」

「そんなことしてたら、いつまでかかんだよ! とっとと終わらせて、サッサと帰りてーわ」

スネるヨナスに、呆れるピース。

サッサと帰りたい……か。俺も、そこだけは、ヨナスと意見が合うな。
もともと俺達は仲が良かったわけでもない。鳥といっても別の種族だし、生態系も違うんだ。考え方も違ってくるだろう。だが、早く終わらせたいなら、むしろ焦りは禁物だ。

「とにかく俺達はまだこっちに来たばかりだ。情報は詳しく集めた方がイイだろう」

「そうそう、クロウラの言う通りだよ」

ヨナスは、俺とピースの顔をジロジロ見ながら

「……おまえらはそうすればいいさ。オレはオレのやり方でやらせてもらうぜ!」

そう吐き捨てるように言うと、姿を消した。

「あーあ、ふてちゃった。何か余計なことをしなけりゃいいんだけど……
ねぇクロウラ、作戦はボク達だけで立てた方が良くない? ヨナスがいると上手くいかないかも」

「そうだな……とにかく、昼はここに集まって情報交換だ。作戦会議は夜、隠蔽の城に帰ってからやろう」



***



私、神田川マユは、とても困っていた。
目の前の机の上には『はたしじょう』とひらがなで書かれた封筒が置かれている。

これ……『果たし状』、だよね?
決闘を申し込まれたんだよね?
ええ~……

今日は、明日の料理部で使う食材を仕入れるための、買い出し当番がある。だから栗原さんとレミナには、先に天国に行ってもらっていた。買物メモを確認して、さあ行こう、と椅子から立ち上がろうとした途端。

ぜんぜん知らない背の高い男子が目の前に来て、私の机に手紙を叩きつけ、そのまま去って行ってしまったのだ。
しかも中身を見ると、文字が下手過ぎて、ちゃんと読めない。ところどころ、読める部分もあるけれど。

「おくじょう」は屋上だよね。「にげるな」も分かる。
「てんし」は……天使? ウソ! さっきの男子、私の正体を知ってるの!?
どうして……いや、これは本人に直接、話を聞くべきかもしれない。

私は急いで、屋上に続く階段を駆け上った。
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