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第二十三話 季節外れの転校生

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あの時、フルフルが放ってきた小さな竜巻。だけど、すぐに消えてしまって、周りを見ても被害はなさそうだった。あれがなんだったのか、とても気になるけれど……


それから三日後、私こと神田川マユが登校すると、クラスの皆が何かを噂していた。

「転校生が来るんだって。それも、うちのクラスだけじゃなくて、一組と二組にも、一人ずつ。三人も同じ日に転校してくるなんて、珍しいよね」

そんな内容だ。確かに、新学期なら同時に転校する子はたまにいる。でも今日は学期の終わりどころか、月初めでもなく、中途半端な木曜日。確かにこんな時期に、三人も転校生が来るなんて、滅多にないだろう。

「はーい、皆、席に着いて。」

担任の速水先生が教壇の前に立ち、パン、と手を叩く。まだ二十代後半の、フレンドリーな男の先生だ。

「今日は皆に、新しい友達を紹介するぞ。ほら、こっちに入って、自己紹介してくれ」

うながされて、先生の隣に立ったのは男の子だった。細身で、四年生にしては背が高く、すっきりとした小顔に、切れ長だけど眼力の強い目。私はよく分かんないけど、イケメンの範疇には余裕で入るんだろう。女子がザワザワと話をするのが聞こえてくる。

先生が黒板に、大きな文字で転校生の名前を書いた。

『黒川 アオ』

書き終わった瞬間に、クラスのお調子者の男子が

「なんだソレ、黒なのか青なのか、ハッキリしろよ~」

なんて言い出して、教室にさざ波のように笑いが広がる。黒川くんはチラリとお調子者の彼に視線を送ると答えた。

「どっちでもいいです」

くだらないとでも言いたげな、冷めた声に、さざ波がピタリと止んだ。

「なんだよ、あれ。感じ悪いな」
「見た目が多少イケてるからって、調子こいてんじゃねーの?」

一部の男子がささやき合っている。教室がうっすらと嫌なムードに包まれた。
すかさず、先生が出席簿で、バン、と机を叩く。

「おいおい、おまえら、くれぐれも変なことはするなよ? イジメとか、絶対許さんからな」

先生の一言で、その場は収まった。

「黒川の席は……ああ、あそこが空いてるな。おーい、神田川。黒川にいろいろ教えてやってくれ」

……えっ!? わ、私ーーー!?

内心焦る私をチラリと見て、「よろしく」とだけ言うと、黒川くんは右隣の席に座った。



***



休憩時間になって、隣に声を掛ける。

「あの……黒川くん、よかったら校内を案内しようか?」

「いや、いいよ。学校なんてどこも似たようなもんだろ?」

教科書やノート等を片付けながら、すげなく断る黒川くん。

そっか……悪いけど、ちょっとホッとした自分がいた。黒川くんには、何かちょっと怖くて話かけにくい雰囲気がある。正直苦手なタイプだ。だけど、もし困っている様子だったら、助けてあげたいとは思っていた。彼はそのままスッと教室を出て行く。……トイレかな? 私は黒川くんの後姿を見送った。

彼の姿が見えなくなった途端、ビュンッとレミナがこちらに飛んできた。

「マユちん、マユちん、あの子、どう?」

「どうって……あんまり人と関わりたくなさそうな感じだね」

すると、栗原さんもこちらにやって来る。

「うーん……私も朝の様子を見てたけど、なんか危なくないかな?」

「危ない?」

「闇を抱えてそうな感じがする。に狙われちゃうかもしれない」

言いながら、栗原さんは両手を上げて、鹿の角っぽく頭の上に当てた。学校だから『フルフル』の名前は出さないようだ。

「あくまでも、かもしれない、なんだけどね」

そういえば、前に襲われた川越くんも、心に暗いモノを抱えてたっけ……しばらくは注意が必要かも、ということで、私たちの意見は一致する。

「あたしは今度、一組と二組の子にも、転校生達がどんな様子か、話を聞いとくねぇ」

レミナが胸をポンと叩いた。

こうして、一応注意喚起かんきをして、自分たちの席に着いた私達。
……だけど、波乱は思っていたよりも、ずっと早く訪れたのだった。
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