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第二十二話 フルフル、一計を案じる

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「ふああ……今日も一日、平和だったなー……」

思わずあくびが出てしまう。

「いいじゃない、平和な方が」

栗原さんが微笑みながら言った。

私達は今、エンゼリアの三階にある『秀才道場』にいる。
私は宿題、レミナは今日の授業の復習、栗原さんは予習をしていた。予習といっても、彼女が手にしているのは五年生の教科書だ。四年生の勉強はもう全部終わってしまったらしい。すごいな。
レミナは栗原さんに分からない部分を教えてもらっている。前は「勉強したくない」を連呼してたけど、最近成績が上がってきたせいか、おとなしく勉強するようになっていた。道場にいる間は、だけど。

私達が緊張感なくしゃべっていると、道場の床の間にある、野鳥の絵の掛け軸が、不意にバサッと音を立てて落っこちた。一瞬ドキッとしたけど、レミナの

「やだぁ、鳥さん、太ったのぉ?」

の一言で、部屋の空気は、すぐ元の雰囲気に戻る。

それにしても、最近フルフルが出てこない。誰も襲われないのはいいけれど、パッタリ現れなくなると、何か企んでいるんじゃないかって、気になってしまう。このまま平穏な日々が続くとイイんだけど……



***



ここは誰の目も届かない、濃い霧に包まれた空間。霧の中には黒い虹がかかっていて、その根元には西洋風の灰色の城がそびえ立つ。それは、フルフルが隠れる『隠蔽いんぺいの城』。しばらく姿を隠している間に、鹿の悪魔は自分の拠点を構えていたのだ。

城の中央広間にある玉座に座り、フルフルは考える。

ワシの目的は、地上に悪魔の楽園を作ること。
だが、地上界には自分を封じ込めるすべを持った天使がいる。神の力が直接届く三角陣がはたらくと厄介だ。しかし、あれの効果があるのは悪魔だけ。地上界の生き物には反応しない。ならば自分では直接手を出さずに、地上の生き物を配下にすれば、いいのではないか……?

目立たぬよう、地上への窓を小さく開く。窓の向こうに、プロジェクターの画像のように、地上の景色が映った。

「使えそうな生物はいないか……? この際、人間でなくてもいい」

街を眺めていると、空を羽ばたいている鳥たちが目に留まった。鳥は、地上から最も離れることができる生きものだ。その分、自分の手も届きやすい。知能も比較的高い。
自分の手駒にできそうなモノを見つけて、悪魔はニヤリと笑う。そのまま右手を振り払い、小さな竜巻を三つ、地上に向けて放った。



***



「やっと終わったぁー!」

言うやいなや、机に突っ伏すレミナ。

「じゃあ、下で休憩しよっか?」

レストランに行こうと席を立ったその瞬間。
ピーーーーーーーーーーーンと金属的な音が耳に届いた。

何これ!? まさか……
道場の縁側から、空に、薄く、薄ーく、黒い虹が掛かって、すぐ消えたのが見えた。

「皆! 今の見た?」

「見えた!」

レミナが叫んで、栗原さんが無言でうなずく。
目の前に緊急出動用の三角陣が光りだした。今回はいきなり地上に落とさずに、心の準備をさせてくれるようだ。
三人で陣の中に入って手を繋ぐと、周囲が光に包まれて、下の世界に向かい始めた。

光がスーッと消えていくと、私達は空中にいた。地上まで二十メートル以上……?はある。ちょっと目まいがしそうだ。もっとも今の私達には天使の翼があるから、空にいても大丈夫なんだけど。

さて、フルフルは……あれ? いない? 悪魔は影も形もない。ただ、小さな竜巻が三つ、空中で暴れている。一つはビル街、一つは公園、一つは港に近い場所だ。私達は手分けをして、それぞれの竜巻の方へ飛んでいった。
……が、あと少しと言うところで、竜巻は消えてしまった。後には何も残っていない。

「マユちん! 今のアレ、何だったの!?」

「そんなの、分かんないよ!」

「何の手がかりも残ってなさそうね。いったん戻って、神様に聞いた方がイイかも……」

私達は戸惑いを残したまま、天国に戻ることにしたのだった。
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