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番外編その二 レミナのオババごはん生活
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「なんか、土井さんって好みが渋いね、食べ物とか」
いつものように記憶レストランで、勉強後のデザートを食べてると、栗原さんが言い出した。
「渋好みっていうか、レトロ?おばあちゃんが好きそうなものが好きだよね」
マユちんもニコニコしながら言う。
栗原さんの前にはフルーツが間に挟まってるミルクレープ。マユちんの前にはシュークリーム。
私の前にあるのは、松露だ。『しょうろ』って読むんだけど、あんこに煮詰めた白い砂糖をかけて、固めたお菓子。疲れてると、しっかりと砂糖の甘みが欲しくなる。いちおう二人にも勧めてみると
「うん、お茶がすごく合いそう」
「やっぱおばあちゃんが大好きそう」
そんな感想。ちょっと困ったような表情だった。
だって、しょうがないよねぇ?
あたし、土井レミナはひいお祖母ちゃんと二人暮らしなんだもん。いろいろあって、両親とは別々に暮らしてる。ひいお祖母ちゃん、あたしは『オババちゃん』と呼んでるけど、そのオババちゃんは、今年で八十八才。そりゃあ、作るモノ食べるモノ、ほとんどが昭和時代になっちゃうよねぇ。
家でのご飯は、基本的に和食。主に、煮たり焼いたりした、魚と野菜だ。たまにオムライスとかカレーライスをリクエストすることもあるけど、オババちゃんは作り慣れてないから、ちょっと焦がしてしまったりする。でも最近は昼間に家に来るヘルパーさんが作っておいてくれることもある。もちろんオババちゃん好みの煮魚とかだけどね。
たまの楽しみは、オババちゃんが出前を取ってくれるお寿司や天丼。寿司と天ぷらは時代を超える。大好き。
おやつもオババちゃんが買うと、レトロ和菓子だし。ただし、おこづかいをもらって自分で買う時は、普通にチョコとかポテチとかを買ってる。
これまでそんなに気にしてなかったけど、記憶レストランに来るようになって、あたしは他の二人と『食べ物格差』があるのに気が付いた。
栗原さんは高いお店で食べるごちそう、って感じの凝った料理が多い。それに対してマユちんはお母さんが手作りした、子どもが好きそうなメニューだ。いいなぁ、うらやましいなぁ、とは思う。でもそんなの食べた記憶がないんだもん、注文のしようがない。
一通りおしゃべりした後、マユちんが私達に声掛けをする。
「じゃあ、今日はここまでにしようか、お疲れ~!」
このところ、フルフルが出て来ないもんだから、解散するのも前より早い。私達が席を立つと、新入りのウェイトレスのウサギさんが
「ありがとうございました~」
と見送ってくれた。
***
そして翌日。
またも秀才道場で、栗原さんにこってり絞られた私は、記憶レストランで休憩中。今日は部活がないマユちんも最初から一緒だ。
栗原さんがイチゴがたくさん使われたミルフィーユを注文した。うらやましい!
「いいなぁ!あたしも一流ホテルのカフェの、チョコパフェとか食べたいなぁ」
と何の気なしに言ったら……なんとウサギさんが
「かしこまりました」
って、奥に引っ込んじゃった。
そして、次に現れたウサギさんが銀色のお盆に載せていたのは、この前、栗原さんが注文してたチョコパフェだった。その時、栗原さんにちょろっと味見させてもらったヤツだ。
そうか、他の人の記憶の食べ物も、自分が食べれば自分の記憶になるんだ!
やったー!
少し行儀が悪いかな?と思いつつも、おやつタイムのたびに、栗原さんやマユちんに、おやつの交換会をさせてもらうことにした。自分のおやつを少しずつ他の子にも分けて、相手からも少しおやつをもらう。まあ、私のは地味なお菓子ばっかりだけど。こんなの、オババちゃんにバレたら、しかられるかもなぁ。
だけど、注文できるデザートの種類が毎日増えていって、あたしは嬉しくて嬉しくて、しょうがなかった。
***
そんなことが続いた、ある日の記憶レストラン。
栗原さんが何を注文するか、迷っているようだったから、あたしは
「ねえ、ワッフルなんてどうかな?クリームとかいろいろ載ってるような、美味しそうなのヤツ!」
と、熱心に勧めた。もちろん自分が食べたかったのだ。そして出てきたワッフルは、クリームやフルーツでありとあらゆる装飾がされてて、まあ、美味しそうなことったら。だけどすっごく甘そうだから、自分の分はポテトチップにしておいた。きっと塩味のお菓子もあったら、二人も喜ぶよね。
そうだ、今日はマユちんが料理部で何か作るって言ってたっけ。
なんだろう……?ウフフ、楽しみ。
しばらく待って、やってきたマユちん。
……あれ?なんか様子がおかしいぞ。
マユちんが隠し持っていた手提げの中身は、ワッフルだった。
しまったーーー! やっちゃったーーーー!
今日、部活で何を作るのか、ちゃんと聞いておけばよかった!栗原さんごめん!あたしのせいで、ワッフルが、かぶっちゃった! 一瞬止まった時間の中で、あたしは自分が何をすべきか必死で考えて……そして。
「えー!そうなの?あたし、マユちんのワッフル食べたい!」
即座にそう言った。だって、ウソじゃないもん。ホントだもん。
友達の手作りのお菓子、食べたいよねぇ。栗原さんも、そう言ってるし。そして私達はマユちんの作った、ほどほどの甘さのワッフルに舌鼓を打った。うんうん、これだよねぇ、ハンドメイド。オババごはんで油分少なめの生活送ってる私には、ベストマッチだよ! もちろん、栗原さんの豪華ワッフルも、イイんだけどね。
「ごめんねぇ、あたしがワッフル食べたいって、栗原さんに言ったから、かぶっちゃったんだ」
とりあえず、二人に謝る。
まあ、その場は無事に収まってよかったけど……
これからは、自分の食べたいからって、それを二人に勧めたりは、もうしない。海より深~く反省した。
いつものように記憶レストランで、勉強後のデザートを食べてると、栗原さんが言い出した。
「渋好みっていうか、レトロ?おばあちゃんが好きそうなものが好きだよね」
マユちんもニコニコしながら言う。
栗原さんの前にはフルーツが間に挟まってるミルクレープ。マユちんの前にはシュークリーム。
私の前にあるのは、松露だ。『しょうろ』って読むんだけど、あんこに煮詰めた白い砂糖をかけて、固めたお菓子。疲れてると、しっかりと砂糖の甘みが欲しくなる。いちおう二人にも勧めてみると
「うん、お茶がすごく合いそう」
「やっぱおばあちゃんが大好きそう」
そんな感想。ちょっと困ったような表情だった。
だって、しょうがないよねぇ?
あたし、土井レミナはひいお祖母ちゃんと二人暮らしなんだもん。いろいろあって、両親とは別々に暮らしてる。ひいお祖母ちゃん、あたしは『オババちゃん』と呼んでるけど、そのオババちゃんは、今年で八十八才。そりゃあ、作るモノ食べるモノ、ほとんどが昭和時代になっちゃうよねぇ。
家でのご飯は、基本的に和食。主に、煮たり焼いたりした、魚と野菜だ。たまにオムライスとかカレーライスをリクエストすることもあるけど、オババちゃんは作り慣れてないから、ちょっと焦がしてしまったりする。でも最近は昼間に家に来るヘルパーさんが作っておいてくれることもある。もちろんオババちゃん好みの煮魚とかだけどね。
たまの楽しみは、オババちゃんが出前を取ってくれるお寿司や天丼。寿司と天ぷらは時代を超える。大好き。
おやつもオババちゃんが買うと、レトロ和菓子だし。ただし、おこづかいをもらって自分で買う時は、普通にチョコとかポテチとかを買ってる。
これまでそんなに気にしてなかったけど、記憶レストランに来るようになって、あたしは他の二人と『食べ物格差』があるのに気が付いた。
栗原さんは高いお店で食べるごちそう、って感じの凝った料理が多い。それに対してマユちんはお母さんが手作りした、子どもが好きそうなメニューだ。いいなぁ、うらやましいなぁ、とは思う。でもそんなの食べた記憶がないんだもん、注文のしようがない。
一通りおしゃべりした後、マユちんが私達に声掛けをする。
「じゃあ、今日はここまでにしようか、お疲れ~!」
このところ、フルフルが出て来ないもんだから、解散するのも前より早い。私達が席を立つと、新入りのウェイトレスのウサギさんが
「ありがとうございました~」
と見送ってくれた。
***
そして翌日。
またも秀才道場で、栗原さんにこってり絞られた私は、記憶レストランで休憩中。今日は部活がないマユちんも最初から一緒だ。
栗原さんがイチゴがたくさん使われたミルフィーユを注文した。うらやましい!
「いいなぁ!あたしも一流ホテルのカフェの、チョコパフェとか食べたいなぁ」
と何の気なしに言ったら……なんとウサギさんが
「かしこまりました」
って、奥に引っ込んじゃった。
そして、次に現れたウサギさんが銀色のお盆に載せていたのは、この前、栗原さんが注文してたチョコパフェだった。その時、栗原さんにちょろっと味見させてもらったヤツだ。
そうか、他の人の記憶の食べ物も、自分が食べれば自分の記憶になるんだ!
やったー!
少し行儀が悪いかな?と思いつつも、おやつタイムのたびに、栗原さんやマユちんに、おやつの交換会をさせてもらうことにした。自分のおやつを少しずつ他の子にも分けて、相手からも少しおやつをもらう。まあ、私のは地味なお菓子ばっかりだけど。こんなの、オババちゃんにバレたら、しかられるかもなぁ。
だけど、注文できるデザートの種類が毎日増えていって、あたしは嬉しくて嬉しくて、しょうがなかった。
***
そんなことが続いた、ある日の記憶レストラン。
栗原さんが何を注文するか、迷っているようだったから、あたしは
「ねえ、ワッフルなんてどうかな?クリームとかいろいろ載ってるような、美味しそうなのヤツ!」
と、熱心に勧めた。もちろん自分が食べたかったのだ。そして出てきたワッフルは、クリームやフルーツでありとあらゆる装飾がされてて、まあ、美味しそうなことったら。だけどすっごく甘そうだから、自分の分はポテトチップにしておいた。きっと塩味のお菓子もあったら、二人も喜ぶよね。
そうだ、今日はマユちんが料理部で何か作るって言ってたっけ。
なんだろう……?ウフフ、楽しみ。
しばらく待って、やってきたマユちん。
……あれ?なんか様子がおかしいぞ。
マユちんが隠し持っていた手提げの中身は、ワッフルだった。
しまったーーー! やっちゃったーーーー!
今日、部活で何を作るのか、ちゃんと聞いておけばよかった!栗原さんごめん!あたしのせいで、ワッフルが、かぶっちゃった! 一瞬止まった時間の中で、あたしは自分が何をすべきか必死で考えて……そして。
「えー!そうなの?あたし、マユちんのワッフル食べたい!」
即座にそう言った。だって、ウソじゃないもん。ホントだもん。
友達の手作りのお菓子、食べたいよねぇ。栗原さんも、そう言ってるし。そして私達はマユちんの作った、ほどほどの甘さのワッフルに舌鼓を打った。うんうん、これだよねぇ、ハンドメイド。オババごはんで油分少なめの生活送ってる私には、ベストマッチだよ! もちろん、栗原さんの豪華ワッフルも、イイんだけどね。
「ごめんねぇ、あたしがワッフル食べたいって、栗原さんに言ったから、かぶっちゃったんだ」
とりあえず、二人に謝る。
まあ、その場は無事に収まってよかったけど……
これからは、自分の食べたいからって、それを二人に勧めたりは、もうしない。海より深~く反省した。
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