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第十七話 願い事が一つだけ
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翌日の放課後、私は一人でひみつ天国に向かっていた。
レミナと栗原さんは部活をしてないから、学校が終わるとすぐ天国に来ているようだけど、私は週一回、料理部の活動がある。今日は一時間くらい遅くなってしまった。
手提げバッグに入れた紙袋の中には焼いたばかりのワッフルが入っている。これまでは料理部での成果は、同じ部活の子か家族しか食べる人がいなかったけど、天使の仕事を始めてからは、二人にも味見してもらっているのだ。
多分、二人は最初に『秀才道場』で勉強して、というか、レミナが栗原さんに勉強させられるから、今頃は『記憶レストラン』で休憩しているはずだ。
『エンゼリア』の二階に直行すると、やっぱり……二人はレストランにいた。
「神田川さん、お疲れ様」
「マユちん、お疲れ~!あたしも疲れたぁ」
「何言ってるの!せっかく勉強すればしただけ頭に入る場所にいるのに……もったいないったら」
どうやら今日もこってり絞られたらしい。
私も隣の席に着こうとして、ふとテーブルの上を見ると、レミナの前にはポテトチップ。
栗原さんの前には……………
食べかけのワッフルが置かれていた。しかも、オシャレなカフェで出されるような、生クリームにアイスクリーム、色とりどりのフルーツに、チョコレートソースが美しく飾られた、高そうなワッフルだ。小学生が調理実習で作った、なんの変哲もない、ただのワッフルとは違う……
「美味しそうでしょ?あたしも栗原さんにちょっと分けてもらったんだぁ」
レミナがニコニコしながら言った。
そっか、二人でこれ食べてたんだ。自分の笑顔が、自然なものから作り物めいたものになったのが分かった。手を後ろで組むような形で、手提げバッグをそっと背中側に隠し、目立たないようにソファの陰に置く。
「ね、神田川さん。今日部活だったんでしょ?何、作ったの?」
栗原さんも笑顔でたずねてくる。
「あ、うん、今日はその……、あの……ワッフル……焼いたんだけど……」
私は一瞬「ワッフル以外のモノを作ったけど、持ってくるのを忘れた」とでも言おうかと思ったけれど、ごまかすのもよくない気がして、正直に言ってしまった。すぐに栗原さんが、しまった、という顔をする。しかしレミナの方は全然顔色を変えない。
「えー!そうなの?あたし、マユちんのワッフル食べたい!」
言うや否や、レミナは席を立って私の後ろ側に回り、あっさり手提げバッグに入れた紙袋を探し当ててしまった。
「おー!まだちょっと、あったかいよ!」
とニッコニコでバッグをこちらに差し出してくる。
結局、豪華なワッフルを端に寄せて、テーブルの真ん中に私のワッフルを置いて、三人で食べることになった。
「美味しい!」
真っ先に栗原さんが声を上げた。
「いや、そのなんて言うか、地味というか、なんて言うか……」
ついつい言い訳じみた返事をしてしまう私。
「うん!この端っこに、ちょっとサクサク感があるのがイイね!うんうん、粉糖もちょうどイイよ!
あっちのワッフルも美味しいけど、あたし、毎日食べるならこっちがイイ!」
「ホント、美味しいよ!私、毎日じゃなくても、こっちの方が好き」
目の前で私のワッフルを大きく切り分けて、普段見たことがないような大口でほおばる栗原さん。
二人を見ていたら、一人でわだかまりを抱えてるのが、意味のないことに感じられてきた。
「レミナも、栗原さんも、ありがとう」
ちゃんと、本当の笑顔で応えることができたと思う。
***
しばらく三人でレストランでいろいろしゃべっていると、レストランのガラスの向こうからハナさんがエスカレーターを上がって来るのが見えた。そのまま彼女はこちらへ向かってきている。
そういえば、昨日は川越くんの家で、黒いモヤを払った後、即、私達は家に帰されちゃったんだ。
あの後、どうだったのか、話を聞きたい。
「ナーーーーン、皆様、こんにちは。川越くんとやらは家族と仲直りして、今日は気分よく登校しているナン。昨日は急いで家に帰して、ごめんなさいナン」
開口一番、申し訳なさそうにしているハナさんに謝られて、私達はあわてた。
「あ、いや、大丈夫なら、それでイイんだけど……」
「うん、あのですね、お仕事の帰りは、皆様の好きな時間に、時を戻して帰してあげられるけど、そのかわり時差ボケになりやすいのナン。天使の姿でいる時間が長くなればなるほど、重症になるナン。だから、仕事が終わった時は、なるべく早くお帰りいただくように、神様に言われているのナン」
「時差ボケかあ…」
そういえば、天使として働いた後、事件が起こる直前の時間に戻してもらっているから、ちょっと調子がくるってしまうことはあった。そういうことなんだ。
「じゃあ、あたしが寝坊しちゃうのも……」
レミナが困り顔で言う。いやいや、それは元からだよね?と心の中でツッコミを入れた。
「それはさておき、皆さんに朗報がありますナン。事件を1回解決するごとに、小さなお願いなら一人一つ、神様が
かなえるとのことですナン。期限はないから、何か願い事を考えておくといいですナン」
「わあ!ホントに!」
私達はそれぞれ、ピョンピョン跳びはねたり、ガッツポーズをしたり、ほっぺたに両手を当てて目をキラキラさせたりした。
レミナと栗原さんは部活をしてないから、学校が終わるとすぐ天国に来ているようだけど、私は週一回、料理部の活動がある。今日は一時間くらい遅くなってしまった。
手提げバッグに入れた紙袋の中には焼いたばかりのワッフルが入っている。これまでは料理部での成果は、同じ部活の子か家族しか食べる人がいなかったけど、天使の仕事を始めてからは、二人にも味見してもらっているのだ。
多分、二人は最初に『秀才道場』で勉強して、というか、レミナが栗原さんに勉強させられるから、今頃は『記憶レストラン』で休憩しているはずだ。
『エンゼリア』の二階に直行すると、やっぱり……二人はレストランにいた。
「神田川さん、お疲れ様」
「マユちん、お疲れ~!あたしも疲れたぁ」
「何言ってるの!せっかく勉強すればしただけ頭に入る場所にいるのに……もったいないったら」
どうやら今日もこってり絞られたらしい。
私も隣の席に着こうとして、ふとテーブルの上を見ると、レミナの前にはポテトチップ。
栗原さんの前には……………
食べかけのワッフルが置かれていた。しかも、オシャレなカフェで出されるような、生クリームにアイスクリーム、色とりどりのフルーツに、チョコレートソースが美しく飾られた、高そうなワッフルだ。小学生が調理実習で作った、なんの変哲もない、ただのワッフルとは違う……
「美味しそうでしょ?あたしも栗原さんにちょっと分けてもらったんだぁ」
レミナがニコニコしながら言った。
そっか、二人でこれ食べてたんだ。自分の笑顔が、自然なものから作り物めいたものになったのが分かった。手を後ろで組むような形で、手提げバッグをそっと背中側に隠し、目立たないようにソファの陰に置く。
「ね、神田川さん。今日部活だったんでしょ?何、作ったの?」
栗原さんも笑顔でたずねてくる。
「あ、うん、今日はその……、あの……ワッフル……焼いたんだけど……」
私は一瞬「ワッフル以外のモノを作ったけど、持ってくるのを忘れた」とでも言おうかと思ったけれど、ごまかすのもよくない気がして、正直に言ってしまった。すぐに栗原さんが、しまった、という顔をする。しかしレミナの方は全然顔色を変えない。
「えー!そうなの?あたし、マユちんのワッフル食べたい!」
言うや否や、レミナは席を立って私の後ろ側に回り、あっさり手提げバッグに入れた紙袋を探し当ててしまった。
「おー!まだちょっと、あったかいよ!」
とニッコニコでバッグをこちらに差し出してくる。
結局、豪華なワッフルを端に寄せて、テーブルの真ん中に私のワッフルを置いて、三人で食べることになった。
「美味しい!」
真っ先に栗原さんが声を上げた。
「いや、そのなんて言うか、地味というか、なんて言うか……」
ついつい言い訳じみた返事をしてしまう私。
「うん!この端っこに、ちょっとサクサク感があるのがイイね!うんうん、粉糖もちょうどイイよ!
あっちのワッフルも美味しいけど、あたし、毎日食べるならこっちがイイ!」
「ホント、美味しいよ!私、毎日じゃなくても、こっちの方が好き」
目の前で私のワッフルを大きく切り分けて、普段見たことがないような大口でほおばる栗原さん。
二人を見ていたら、一人でわだかまりを抱えてるのが、意味のないことに感じられてきた。
「レミナも、栗原さんも、ありがとう」
ちゃんと、本当の笑顔で応えることができたと思う。
***
しばらく三人でレストランでいろいろしゃべっていると、レストランのガラスの向こうからハナさんがエスカレーターを上がって来るのが見えた。そのまま彼女はこちらへ向かってきている。
そういえば、昨日は川越くんの家で、黒いモヤを払った後、即、私達は家に帰されちゃったんだ。
あの後、どうだったのか、話を聞きたい。
「ナーーーーン、皆様、こんにちは。川越くんとやらは家族と仲直りして、今日は気分よく登校しているナン。昨日は急いで家に帰して、ごめんなさいナン」
開口一番、申し訳なさそうにしているハナさんに謝られて、私達はあわてた。
「あ、いや、大丈夫なら、それでイイんだけど……」
「うん、あのですね、お仕事の帰りは、皆様の好きな時間に、時を戻して帰してあげられるけど、そのかわり時差ボケになりやすいのナン。天使の姿でいる時間が長くなればなるほど、重症になるナン。だから、仕事が終わった時は、なるべく早くお帰りいただくように、神様に言われているのナン」
「時差ボケかあ…」
そういえば、天使として働いた後、事件が起こる直前の時間に戻してもらっているから、ちょっと調子がくるってしまうことはあった。そういうことなんだ。
「じゃあ、あたしが寝坊しちゃうのも……」
レミナが困り顔で言う。いやいや、それは元からだよね?と心の中でツッコミを入れた。
「それはさておき、皆さんに朗報がありますナン。事件を1回解決するごとに、小さなお願いなら一人一つ、神様が
かなえるとのことですナン。期限はないから、何か願い事を考えておくといいですナン」
「わあ!ホントに!」
私達はそれぞれ、ピョンピョン跳びはねたり、ガッツポーズをしたり、ほっぺたに両手を当てて目をキラキラさせたりした。
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