フルフルひみつ天国~小学生天使トリオが悪魔を封印しちゃいます!~

村雨 霖

文字の大きさ
上 下
18 / 47

第十七話 願い事が一つだけ

しおりを挟む
翌日の放課後、私は一人でひみつ天国に向かっていた。

レミナと栗原さんは部活をしてないから、学校が終わるとすぐ天国に来ているようだけど、私は週一回、料理部の活動がある。今日は一時間くらい遅くなってしまった。

手提げバッグに入れた紙袋の中には焼いたばかりのワッフルが入っている。これまでは料理部での成果は、同じ部活の子か家族しか食べる人がいなかったけど、天使の仕事を始めてからは、二人にも味見してもらっているのだ。

多分、二人は最初に『秀才道場』で勉強して、というか、レミナが栗原さんに勉強させられるから、今頃は『記憶レストラン』で休憩しているはずだ。

『エンゼリア』の二階に直行すると、やっぱり……二人はレストランにいた。


「神田川さん、お疲れ様」

「マユちん、お疲れ~!あたしも疲れたぁ」

「何言ってるの!せっかく勉強すればしただけ頭に入る場所にいるのに……もったいないったら」

どうやら今日もこってり絞られたらしい。


私も隣の席に着こうとして、ふとテーブルの上を見ると、レミナの前にはポテトチップ。
栗原さんの前には……………

食べかけのワッフルが置かれていた。しかも、オシャレなカフェで出されるような、生クリームにアイスクリーム、色とりどりのフルーツに、チョコレートソースが美しく飾られた、高そうなワッフルだ。小学生が調理実習で作った、なんの変哲もない、ただのワッフルとは違う……

「美味しそうでしょ?あたしも栗原さんにちょっと分けてもらったんだぁ」

レミナがニコニコしながら言った。

そっか、二人でこれ食べてたんだ。自分の笑顔が、自然なものから作り物めいたものになったのが分かった。手を後ろで組むような形で、手提げバッグをそっと背中側に隠し、目立たないようにソファの陰に置く。

「ね、神田川さん。今日部活だったんでしょ?何、作ったの?」

栗原さんも笑顔でたずねてくる。

「あ、うん、今日はその……、あの……ワッフル……焼いたんだけど……」

私は一瞬「ワッフル以外のモノを作ったけど、持ってくるのを忘れた」とでも言おうかと思ったけれど、ごまかすのもよくない気がして、正直に言ってしまった。すぐに栗原さんが、しまった、という顔をする。しかしレミナの方は全然顔色を変えない。

「えー!そうなの?あたし、マユちんのワッフル食べたい!」

言うや否や、レミナは席を立って私の後ろ側に回り、あっさり手提げバッグに入れた紙袋を探し当ててしまった。

「おー!まだちょっと、あったかいよ!」

とニッコニコでバッグをこちらに差し出してくる。

結局、豪華なワッフルを端に寄せて、テーブルの真ん中に私のワッフルを置いて、三人で食べることになった。

「美味しい!」

真っ先に栗原さんが声を上げた。

「いや、そのなんて言うか、地味というか、なんて言うか……」

ついつい言い訳じみた返事をしてしまう私。

「うん!この端っこに、ちょっとサクサク感があるのがイイね!うんうん、粉糖もちょうどイイよ!
あっちのワッフルも美味しいけど、あたし、毎日食べるならこっちがイイ!」

「ホント、美味しいよ!私、毎日じゃなくても、こっちの方が好き」

目の前で私のワッフルを大きく切り分けて、普段見たことがないような大口でほおばる栗原さん。
二人を見ていたら、一人でわだかまりを抱えてるのが、意味のないことに感じられてきた。

「レミナも、栗原さんも、ありがとう」

ちゃんと、本当の笑顔で応えることができたと思う。




***




しばらく三人でレストランでいろいろしゃべっていると、レストランのガラスの向こうからハナさんがエスカレーターを上がって来るのが見えた。そのまま彼女はこちらへ向かってきている。

そういえば、昨日は川越くんの家で、黒いモヤを払った後、即、私達は家に帰されちゃったんだ。
あの後、どうだったのか、話を聞きたい。

「ナーーーーン、皆様、こんにちは。川越くんとやらは家族と仲直りして、今日は気分よく登校しているナン。昨日は急いで家に帰して、ごめんなさいナン」

開口一番、申し訳なさそうにしているハナさんに謝られて、私達はあわてた。

「あ、いや、大丈夫なら、それでイイんだけど……」

「うん、あのですね、お仕事の帰りは、皆様の好きな時間に、時を戻して帰してあげられるけど、そのかわり時差ボケになりやすいのナン。天使の姿でいる時間が長くなればなるほど、重症になるナン。だから、仕事が終わった時は、なるべく早くお帰りいただくように、神様に言われているのナン」

「時差ボケかあ…」

そういえば、天使として働いた後、事件が起こる直前の時間に戻してもらっているから、ちょっと調子がくるってしまうことはあった。そういうことなんだ。

「じゃあ、あたしが寝坊しちゃうのも……」

レミナが困り顔で言う。いやいや、それは元からだよね?と心の中でツッコミを入れた。

「それはさておき、皆さんに朗報がありますナン。事件を1回解決するごとに、小さなお願いなら一人一つ、神様が
かなえるとのことですナン。期限はないから、何か願い事を考えておくといいですナン」

「わあ!ホントに!」

私達はそれぞれ、ピョンピョン跳びはねたり、ガッツポーズをしたり、ほっぺたに両手を当てて目をキラキラさせたりした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小悪魔ノート

ことは
児童書・童話
「わたしのノートを見つけてほしいの。願いを叶える、本物の、小悪魔ノート❤︎」 小学5年生の颯太の部屋に現れたのは、背中にコウモリの翼のような羽と、頭にツノが生えた小さな可愛い女の子。小悪魔のライアだった。 ライアが探しているのは、人間と小悪魔が契約を結ぶための小悪魔ノート。それが颯太の担任が配ったノートの中に、紛れ込んでしまったというのだ。 正式な契約を結んでいないノートは危険だという。 颯太とライアは、クラスメイトに配られたノートの中から、本物の小悪魔ノートを探し出せるのか!?

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』

ななくさ ゆう
児童書・童話
見知らぬ教室に集められたのは5人のいじめられっ子たち。 だが、その中の1人は実はいじめっ子!? 話し合いと投票でいじめっ子の正体を暴かない限り、いじめられっ子は殺される!! いじめっ子を見つけ出せ! 恐怖の投票サバイバルゲームが今、始まる!! ※話し合いタイムと投票タイムを繰り返す命がけのサバイバルゲームモノです。 ※モチーフは人狼ゲームですが、細かいルールは全然違います。 ※ゲーム参加者は小学生~大人まで。

ぬいぐるみと家族の思い出

きんばら いつき
児童書・童話
まんまるなぬいぐるみから見た、ある家族の思い出です。 少しほっこりするお話がメインです。

処理中です...