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第十五話 美味しいウソと不味いウソ

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「今、練習中の曲でいいのかな……?」

そう言いながら、栗原さんが曲をかなではじめた。初めて聞く曲だ。ゆったりとした旋律に、心が落ち着いてくる。
だけど川越くんにフルートの音が聞こえている様子はなく、淡々と宿題を続けていた……のだが。

突然、彼の手がピタリと止まった。そのまま顔を上げて天井に向かって、はあ~……と大きくため息をつく。

「何やってるんだろうな、オレ……」

机の、一番広い引き出しを開けて、紙を数枚ほど取り出した。答案用紙みたいだ。
まだフルートを吹いている栗原さんを残して、私とレミナは後ろからそ~っと近付いて、机の上をのぞき込んだ。

74点、77点、75点。

三枚のテストの点数だ。

「いつまで、これ隠しておくつもりなんだろう。でも『どんなに悪くても、80点以上は絶対取ってこい』って言われてるし、やっぱ親には見せられないよな……この点数の時は『テストはなかった』って、ウソついちゃったし」

どうやらこの家は教育がわりと厳しいらしい。レミナが横からぽそっとつぶやく。

「あたしなら70点台取ったら、めっちゃ喜ぶんだけどなぁ」

私は何となくに落ちない気持ちだった。

「こんな大したことがないウソなのに、フルフルに狙われたりするの……?」

思わずつぶやくと、天井のもっともっと上の方から、声が聞こえてきた。



「ナーーーーーーン、ナーーーーーーン、ただいまマイクのテスト中」



ハナさんだ。

「天使の皆様、お仕事は順調ナン?神様が帰っちゃったので、ハナが説明するナン。

フルフルが好きなのは、大げさなウソ、大勢の人がだまされて辛い思いをするウソだけど、それだけじゃないナン。
小さなウソでも、ついている本人が罪悪感を抱えて苦しんでいるウソも、大好物なのナン。

あと、すごいウソをついていても、本人の良心がとがめていないと、それほど好きじゃなさそうなんだナン」


「そうなんだ、だからこの子が狙われたんだね」

ウソなら何でもイイ、ってわけでもないんだなあ……



「ちょ…!マユちん、あれ見て!」

慌てた様子のレミナに言われて、川越くんを見ると…背中に、逆三角形の黒っぽい、毒々しいオーラが見えた。
ええっ!なんなのアレは!

「あれはフルフルの呪いだナン。一度狙われたら、背中に浮かんでくるのナン」

「どうしたらいいの!?」

「レミナさんが神様にもらった旗を振って、応援するナン!とにかく大丈夫だからって応援するナン!」

「えーーーーー!?よくやり方が、よく分かんないんだけどぉ!」

急いで落ちている旗を拾ったレミナが、川越くんの後ろから応援を始めた。

「頑張れー!大丈夫!えーと、テスト隠してたのは叱られるかもしれないけど……
あやまれば、たぶん何とかなるよ!黙ってるより、きっと、この先、気持ちが楽になるよ!」

応援になっているのか、なってないのか、分からないような声援だ。これも川越くんには、直接は聞こえていないはず……でも隣にいる私にも、旗を振るレミナが必死なのは伝わってきた。

すると……だんだん背中の逆三角形から黒いモヤモヤが消え始め、白い光の線になり始めた。
そして、逆三角形が、クルリと正三角形に、ひっくり返ったのだ!

「マユさん!今です、背中をハンマーでたたくナン!」

言われて、すぐにピコピコハンマーを手に取ると、私は川越くんの背中を思いっきり叩いた。

「大丈夫だよ!!」

ピコーーーーーーーーン!!!!



大きな音が鳴ると、背中の三角がくるくる回りながら、天井をすり抜けて、どこか上の方へ飛んでいく。
私達三人が窓から体を乗り出して空を見上げると、光は小さな流れ星のように、遠くに消えていった。

「これでいいのかな……?」

やれやれと気が抜けた私達。しかし……



バン!!!



突然、後ろから机をたたく音が聞こえたのだ。

「はーーーー……」

大きく息を吐きだした川越くんが

「やっぱ、親に言おう!ちゃんと謝って、でもって、頑張るから、もう叩かないでって、言おう…」


私達は目を丸くした。
成績が悪いと叩かれる……?
それじゃあ、ウソもつきたくなるよ!

彼が答案用紙を持って、階段を下りていくのを見て、私達も後を追った。
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