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第十四話 神様からの贈り物

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私達は今、三年生と四年生の校舎裏に来ている。

フルフルが逃げた後、教室に向かっている川越くんを、尾行している真っ最中だ。
もっとも尾行といっても、私たちの声や姿は人間には届かないのだから、バレる心配はない。楽勝だ。



……なんて、そう思っていたのは、最初だけだった。

「ねえ、マユちん……ずっと川越くんに、ついてきたのはいいけど、なんにも分からないよぉ?」

レミナがトホホ顔で弱音を吐く。

そうなのだ。
彼ははごく普通に授業を受けて、友達とも笑顔で会話していた。そのまま家まで後をつけても、家族ともなごやかにしゃべっているし、フルフルが狙うような、ウソをつく子にはぜんぜん見えない。今も学校から帰ってすぐにランドセルの中からノートや教科書を出して、宿題を始めている。

使命とはいえ、別に仲良しでもない男子の勉強部屋の隅で、体育座りをしている、天使の姿をした私達。
誰の目にも映らないとはいえ、何だか居心地がよくない。

「一年の時も二年の時も真面目な子だったし、ウソをつきそうな心当たりもないもん」

とレミナが口をとがらせると、栗原さんも頭を抱えて言う。

「まあ、自分がついてるウソの内容を、独り言でベラベラしゃべる、なんて、普通しないわよね……」

確かにそうかも……私も困り果てて、天に向かって叫んでみた。



「神様ーーーー!どうしたらいいのーーーー!?」

「ハイハイ、お待たせじゃよ~!」



どこからか、そう聞こえた途端、天井から巨大なゲンコツがヌッと現れた。
あまりに急な出現に、ちょっと腰を抜かしそうになったのは秘密だ。

「か、神様!今日も左手だけなんですか?」

「この部屋に全身が入るワケがないじゃろう?省スペースじゃ。ホッホッホッ」

しゃべるとあんまり威厳いげんのない、いつもの神様だ。

「今日は三人に、封天使としての仕事に必要なものを届けに来たのじゃ」

神様が握っていた手を開くと、そこには三つの道具が乗せられていた。
フルートのような笛と、長い棒が付いた大きな旗と、ピコピコハンマーのように見えるものだ。

「これは…?」

私達がキョトンとしていると、神様は一つ一つの説明を始めた。


「まず一つ目は、『本音フルート』。
これを吹くと聴いた人間は本当のことを話し出すのじゃ。戦う時には打撃攻撃にも使えるぞ。うーん、これはアヤセ向けじゃな。フルートを習っているじゃろう?


次は『応援フラッグ』。
この旗を振ると、攻撃を防ぐバリヤーが張れるのじゃ。あと、柄の部分を強く握ると、その間だけ人間にも声が届く。その時に相手を応援すれば、心の弱った人間は元気が出たり、わだかまりが消えたりする。これはレミナ用じゃ。扱いが簡単で、誰でも使えるからのう。


最後の一つは『太鼓判ハンマー』。
見た目はピコピコハンマーで、人間にはダメージがないが、悪魔には大ダメージを与えられる。そして悪魔に狙われた者の背中をこれで叩くと、悪魔は二度とその人間には近寄れなくなる。これはマユが持つといいじゃろう。


まあ、あれじゃ。いくら封印方法があるとはいえ、悪魔との戦いに武器も持たせず、丸腰で送り出すのは、さすがにアカンのではと思ったのでな……
ではさらばじゃ。お前達の健闘を祈っているぞ」


言い終わるや否や、神様の左手はスーッと天井に向かって遠ざかるように、姿を消した。
私と栗原さんは、少しの間ポカーンとした後、ひとしきり神様に文句を言った。

「何なの、あれ!武器があるなら最初からくれたらイイのに!」
「本当よ!被害者のウソの調べ方なんて、最初に用意しとくべきでしょ!」
「まあまあ、一応持ってきてくれたんだから、許してあげようよ」

レミナは神様から、何気に失礼なことを言われてた気がするけど、本人は気づいてないようだ……



気持ちが落ち着いたところで、声を掛ける。

「そろそろ川越くんのウソを確認しようか……?」

「そうだね…」

ちょっと疲れた顔の栗原さんが、床に置かれたフルートを手に取った。
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