6 / 47
第六話 ひみつ天国へようこそ
しおりを挟む
「考えるのは、ひみつ天国がどんなところか、知ってからでもおかしくないぞ?」
神様がパチンと指を鳴らすと、私達の目の前に、光る三角形の扉が現れた。
その三角の中央を神様が指先でチョンとつつくと、扉が三つの角に吸い込まれるように消える。
「さあ、見学しておいで」
と背中を押されて、私たちは淡い光がともる世界へ、一歩足を踏み入れた。
「うわあ、カワイイ……!」
思わず顔がほころぶ。
そこには童話の中に出てくるような、パステルカラーの可愛い建物がたくさん並ぶ街があった。
お店もあれば、何かの施設もあるみたい。
「ねえねえ、あたし、天使の仕事してもいいかもぉ!」
レミナが即座にそんなことを言いだした。
私も神様の頼みを引き受ける方に心が傾き始めたけど……
「ダメよ!そんな簡単に決めちゃ!だって危険だし、私、習い事だってたくさんしてて忙しいんだもの」
なんて、渋い顔をする栗原さん。
すると、上の方から神様の声が聞こえてきた。
「大丈夫じゃ。封印が終わったら、そなた達が望んだ場所に送ってやろう」
「だけど私、遅くても夕方六時には帰るように言われてたのに、間に合わないわ!」
「問題ない、午後五時五十九分の自宅玄関に送ればいいのじゃな?たとえ時間が過ぎても、過去に戻って帰してやれるぞ?」
「……そんなことができるの?」
栗原さんは声のトーンが落ち、うつむいて何か考え事を始めた様子だ。
しばらく三人で歩いていると、右の方から
「こんにちは」
と声を掛けられた。
「こんにちは…?」
返事を返そうと右側を見ると、誰もいない。
が、少し目線を落とすと、そこにいたのは、猫だった。
見た目は完全に普通の猫。大きさも普通だ。白黒で、髪の毛を真ん中分けにしたみたいな、ハチ割れ模様をしている。
でも、人間みたいに二本足でちょこんと立っている。首には赤い蝶ネクタイ。青いベストを着ている。正直すごくカワイイ。
周囲を見渡すと他にも動物がたくさん歩いてる。
犬、猫、ウサギ、ハムスター、ハリネズミ、その他もろもろの動物がいっぱい。
皆、それぞれに服を着て、二足歩行だ。
しばらく動物たちを見ていると…見覚えのある姿があって、途中まで吸い込んだ息が止まった。
「……マル!」
そこには郵便屋さんの格好をして、大きなカバンを斜め掛けにしている柴犬の姿があった。
ずっと家族のように暮らしてきたけど、去年亡くなってしまったペットのマルだ。
マルはこちらを振り返り、驚いたような顔で返事をした。
「マユちゃん……どうしてここに?」
やっぱり、マルだ。もう二度と会えないと思っていたのに……知らず知らず涙がこぼれてきた。
神様の声が優しく響く。
「ここは虹の橋を渡った動物達が集まる天国なんじゃよ」
私はマルを抱きしめた。熱くなったまぶたから、あふれる涙が止まらない。
「マル……マル……本当にごめんね……」
驚いたマルが私の頭に前足を添えて、そっとなで始める。
「マユちゃん、どうしたの?泣かないで……大丈夫、大丈夫。
ごめん、今は仕事中だから、また今度ゆっくり話そうね」
マルはすまなそうにしながら、去っていった。
カバンから手紙を取り出して住所を確認しつつも、ちょこちょこ私を振り返っている。
涙が収まってきた頃、私は神様に問いかけた。
「……ここに来たら、いつでもマルに会えるの!?」
「もちろん!」
神様の手は人差し指と親指の先を付けて、OKマークを作った。
もう迷うことはない。
「神様!私、フルフルを封印します!」
ハッキリ宣言した。
「あっ!あたしもやるよぉ!マユちん、頑張ろうね!」
さっきから心配そうにこちらを見ていたレミナは、そう言いながら私の腕に抱きついてきた。
右手で左腕の上の方を握っている栗原さんは、周りの動物達を横目でチラチラ見ながら答える。
「私も……ちゃんと時間通りに家に帰してくれるなら……」
「よし!それではそなた達三人を悪魔封印専門家の『封天使』に任命する。
今度フルフルの居場所が分かったら伝えるから、協力するように」
神様が言い終わると同時に、空から赤、青、緑の三個のカギがゆっくり降りてきた。
目の前まで来たカギが落ちそうになって慌てて受け止める。
栗原さんは青、レミナは緑のカギを受け取ったようだ。
「では、またな」
神様の手がそう言って、ポンと地面を叩くと、私は学校の渡り廊下に一人で立っていた。
腕には学級日誌を抱えている。下を向くと、朝着てきた、ごく普通の服が見えた。
……え?
……えーーーーーーー?
今のは、本当にあったことなの?
それとも夢?
ハッと左手を見ると、そこには赤いカギが握られていた。
「夢じゃなかったんだ……」
もう一度カギを見つめ直すと、脳裏にマルの顔が浮かんでくる。
「……頑張らなくちゃ!」
そうつぶやくと、私は職員室に向かって駆け出した。
神様がパチンと指を鳴らすと、私達の目の前に、光る三角形の扉が現れた。
その三角の中央を神様が指先でチョンとつつくと、扉が三つの角に吸い込まれるように消える。
「さあ、見学しておいで」
と背中を押されて、私たちは淡い光がともる世界へ、一歩足を踏み入れた。
「うわあ、カワイイ……!」
思わず顔がほころぶ。
そこには童話の中に出てくるような、パステルカラーの可愛い建物がたくさん並ぶ街があった。
お店もあれば、何かの施設もあるみたい。
「ねえねえ、あたし、天使の仕事してもいいかもぉ!」
レミナが即座にそんなことを言いだした。
私も神様の頼みを引き受ける方に心が傾き始めたけど……
「ダメよ!そんな簡単に決めちゃ!だって危険だし、私、習い事だってたくさんしてて忙しいんだもの」
なんて、渋い顔をする栗原さん。
すると、上の方から神様の声が聞こえてきた。
「大丈夫じゃ。封印が終わったら、そなた達が望んだ場所に送ってやろう」
「だけど私、遅くても夕方六時には帰るように言われてたのに、間に合わないわ!」
「問題ない、午後五時五十九分の自宅玄関に送ればいいのじゃな?たとえ時間が過ぎても、過去に戻って帰してやれるぞ?」
「……そんなことができるの?」
栗原さんは声のトーンが落ち、うつむいて何か考え事を始めた様子だ。
しばらく三人で歩いていると、右の方から
「こんにちは」
と声を掛けられた。
「こんにちは…?」
返事を返そうと右側を見ると、誰もいない。
が、少し目線を落とすと、そこにいたのは、猫だった。
見た目は完全に普通の猫。大きさも普通だ。白黒で、髪の毛を真ん中分けにしたみたいな、ハチ割れ模様をしている。
でも、人間みたいに二本足でちょこんと立っている。首には赤い蝶ネクタイ。青いベストを着ている。正直すごくカワイイ。
周囲を見渡すと他にも動物がたくさん歩いてる。
犬、猫、ウサギ、ハムスター、ハリネズミ、その他もろもろの動物がいっぱい。
皆、それぞれに服を着て、二足歩行だ。
しばらく動物たちを見ていると…見覚えのある姿があって、途中まで吸い込んだ息が止まった。
「……マル!」
そこには郵便屋さんの格好をして、大きなカバンを斜め掛けにしている柴犬の姿があった。
ずっと家族のように暮らしてきたけど、去年亡くなってしまったペットのマルだ。
マルはこちらを振り返り、驚いたような顔で返事をした。
「マユちゃん……どうしてここに?」
やっぱり、マルだ。もう二度と会えないと思っていたのに……知らず知らず涙がこぼれてきた。
神様の声が優しく響く。
「ここは虹の橋を渡った動物達が集まる天国なんじゃよ」
私はマルを抱きしめた。熱くなったまぶたから、あふれる涙が止まらない。
「マル……マル……本当にごめんね……」
驚いたマルが私の頭に前足を添えて、そっとなで始める。
「マユちゃん、どうしたの?泣かないで……大丈夫、大丈夫。
ごめん、今は仕事中だから、また今度ゆっくり話そうね」
マルはすまなそうにしながら、去っていった。
カバンから手紙を取り出して住所を確認しつつも、ちょこちょこ私を振り返っている。
涙が収まってきた頃、私は神様に問いかけた。
「……ここに来たら、いつでもマルに会えるの!?」
「もちろん!」
神様の手は人差し指と親指の先を付けて、OKマークを作った。
もう迷うことはない。
「神様!私、フルフルを封印します!」
ハッキリ宣言した。
「あっ!あたしもやるよぉ!マユちん、頑張ろうね!」
さっきから心配そうにこちらを見ていたレミナは、そう言いながら私の腕に抱きついてきた。
右手で左腕の上の方を握っている栗原さんは、周りの動物達を横目でチラチラ見ながら答える。
「私も……ちゃんと時間通りに家に帰してくれるなら……」
「よし!それではそなた達三人を悪魔封印専門家の『封天使』に任命する。
今度フルフルの居場所が分かったら伝えるから、協力するように」
神様が言い終わると同時に、空から赤、青、緑の三個のカギがゆっくり降りてきた。
目の前まで来たカギが落ちそうになって慌てて受け止める。
栗原さんは青、レミナは緑のカギを受け取ったようだ。
「では、またな」
神様の手がそう言って、ポンと地面を叩くと、私は学校の渡り廊下に一人で立っていた。
腕には学級日誌を抱えている。下を向くと、朝着てきた、ごく普通の服が見えた。
……え?
……えーーーーーーー?
今のは、本当にあったことなの?
それとも夢?
ハッと左手を見ると、そこには赤いカギが握られていた。
「夢じゃなかったんだ……」
もう一度カギを見つめ直すと、脳裏にマルの顔が浮かんでくる。
「……頑張らなくちゃ!」
そうつぶやくと、私は職員室に向かって駆け出した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
小悪魔ノート
ことは
児童書・童話
「わたしのノートを見つけてほしいの。願いを叶える、本物の、小悪魔ノート❤︎」
小学5年生の颯太の部屋に現れたのは、背中にコウモリの翼のような羽と、頭にツノが生えた小さな可愛い女の子。小悪魔のライアだった。
ライアが探しているのは、人間と小悪魔が契約を結ぶための小悪魔ノート。それが颯太の担任が配ったノートの中に、紛れ込んでしまったというのだ。
正式な契約を結んでいないノートは危険だという。
颯太とライアは、クラスメイトに配られたノートの中から、本物の小悪魔ノートを探し出せるのか!?
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
灰色のねこっち
ひさよし はじめ
児童書・童話
痩せっぽちでボロボロで使い古された雑巾のような毛色の猫の名前は「ねこっち」
気が弱くて弱虫で、いつも餌に困っていたねこっちはある人と出会う。
そして一匹と一人の共同生活が始まった。
そんなねこっちのノラ時代から飼い猫時代、そして天に召されるまでの驚きとハラハラと涙のお話。
最後まで懸命に生きた、一匹の猫の命の軌跡。
※実話を猫視点から書いた童話風なお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる