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第五十話 大富豪の隠し子

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「二人の少年は、近いうちにルサール伯爵家に同時に招かれるようです」

「同時に?」

「おそらく当主の目で見比べて、どちらが息子に似ているか確認するつもりなんでしょう」

ディアスが難しい顔をして、報告書をテーブルに置いた。

……何だか、嫌な予感がする。
ロビンは母親とは違って、ほとんど霊感が無さそうではある。
それでも危険かもしれない相手と同席させるのには、強い抵抗感があった。
もしもマイケルがシェアリアの変装で、ルサール家の後継の座を狙っているのだとしたら、ロビンの身が危ない。
何とかしてマイケルの正体を探りたい。

しばらく無言で資料を眺めていたジェームスが、おもむろに声を発した。

「ホイスト探偵長、彼らがいつルサール伯爵のところに行くのか、調べてもらえますか。
それと、マイケルという子が勤めている商会の、名前と場所も教えてください」

「了解しました。分かり次第お伝えします。
それでは本日はここまでですので、これで調査に戻らせてもらいます。
それと……マリーゼ嬢、先ほどは大変失礼しました。
大人気おとなげありませんでしたね」

ディアスは申し訳なさそうな、少し悲しげな表情のまま、資料を片付けると、商談室を出て行った。
私は軽く会釈して、彼を見送る。これが本来のこの人なのだろう。
人の命を左右して、人の心に確執を生む。
呪いなんて、この世から全て無くなってしまえばいいのに。



***



バリークレスト帝国・首都。
その片隅で、ロビン・ローズは体の弱い母を助けながら、新聞配達をしていた。
斜め掛けの大きな布鞄に新聞を入るだけ詰め込んで、駆け足で配っている。
夕刊を配達するこの時間は、人も馬車も多く、移動が大変だ。

いつもは注意しているが、今日に限って、人影から出てきた誰かにぶつかって、尻餅をついてしまった。
鞄が肩から外れ、新聞がバサバサと地面に散らばる。

「あっ! ごめんなさい」

「こっちこそ、ごめんよ。君こそ大丈夫?」

ぶつかった相手は、ロビンと同じ年頃、同じ背格好の少年だった。
彼はすぐに立ち上がり、ズボンの土埃を払うと、落ちた夕刊を拾い始めた。
それを見て、ロビンも慌てて新聞を拾い集める。
全ての新聞を鞄に収めた時、相手の少年がおずおずと声を掛けてきた。

「商売物を地面に落としちゃって、ごめん。
お詫びに、僕も配達を手伝うよ」

「えっ、でも……」

「気にしなくていいよ、ちょうど仕事が終わって帰るとこだったし」

そう言って、とても人懐こそうな笑顔を見せた少年に、ロビンは断る理由が見つからない。
結局そのまま配達を手伝ってもらうことにした。

この辺りは背の高いアパートメントが多い。
その分階段の上り下りが多く、一人で配達するのは大変だった。
それが今日は、二人いる。
交代で高い階に登り、普段より楽に配達を終えることができた。

「ありがとう! すごく助かったよ!」

ロビンは頭の後ろを軽く掻きながら、彼に礼を言った。
目の前の少年はますます笑顔になる。

「そんなの大した事ないよ!
それより僕、この街に来てから全然同じくらいの年の子と喋ったことなくて……
久々に話ができて、すごく嬉しいんだ。
あの、もし良かったら、僕と友達になってくれない?」

「いいよ! 僕はロビン・ローズ。君は?」

「マイケル・スミスだよ。よろしく、ロビン。
じゃあ、明日も配達を手伝いに行くよ。
今日会ったところで待ってるからね」

「わかったよ、じゃあまた明日!」

手をブンブン振りながら去っていくロビンに、同じように目一杯、手を振り返すマイケル。

「こっちこそ、ありがとう、ロビン」

マイケルはそう呟くと、頭の後ろを軽く掻いた。



マイケルは来る日も来る日も、配達の手伝いに来てくれる。
その度、嬉しそうにロビンの話を聞いてくれた。
一週間も経つ頃には、ロビンはすっかりマイケルに心を許し、彼と自分は親友なんだと思い始めるようになった。

「ロビンといると楽しいよ。
僕は小さいころに両親と死に別れてるから、家族のことはよく覚えてないんだ。
だから、どっちかというと、自分の話をするより、ロビンの話をたくさん聞きたいな」

そう言われて張り切ったロビンは、好きな食べ物や飲み物から、よく読んでいる本、家族の思い出話など、思いつく限りマイケルに話す。



……そんな日々がしばらく続いていた、ある日。

「ねえ、マイケル。悪いけど、明日は配達、休みなんだ。
お母さんに、明日は人が迎えに来るから、家にいなさいって言われて……だから、ごめんよ」

配達を終えたロビンが、さも残念そうにマイケルに告げた。

「そうなんだ……
実は僕も明日、お貴族様のところに配達があるから、残業だって言われちゃってさ。
でもロビンも用事があるなら、よかった」

「そっか、だったら僕も気が楽になったよ。じゃあ、明後日また会おうね」

「了解、明後日ね」



そう言った二人が顔を合わせたのは、翌日。
ルサール伯爵邸の客間だった。
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