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事件簿010 『藁人形』その15
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大声を上げた甚吉の前にあったのは、大鍋の油の中にぷかぷかと浮かぶ藁の束。
よく見ると人の形をしている。
それは藁人形だった。
「じ、じぃさん!こりゃなんだ?!」
西念は首をうなだれてボソボソと答えた。
「見た通り。藁人形じゃよ。」
「見りゃわかるが、なんでそれが鍋の油の中に浮いてるんだよ?」
失意のあまり頭が変になったか、それとも貧乏極まって藁を食おうとしたのか。
いずれにしても西念がマトモじゃないと、甚吉は心配したのだ。
「実は、何度かお熊のところに行ったんじゃ。引っ越す前に家の掃除くらいやれると思ってな。」
「知ってたのか。」
「ああ。けんもほろろに追い返された。塩まで撒かれて、しまいにゃ水ぶっかけられちまったよ。」
「だから風邪なんか引いちまったんだな。」
「どんどん悔しさが膨らんじまってな。毎晩夜中に神社に行って、藁人形に釘を打ってたんだよ。」
「そうか。丑の刻参りか・・・。」
そりゃ呪いくらいかけたくなるだろうな、と甚吉は同情した。
「だけどさ、なんで鍋の油で煮てるんだ?」
「しばらく続けたんだが、お熊は毎晩元気に店に出てやがった。」
「まぁ呪いなんてなぁ、そんなもんだろうよ。」
「よく考えたら、お熊は元々ぬか問屋の娘じゃねぇか。ぬかに釘。こりゃ呪いが効くわけがねぇ。しょうがねぇから油で煮てやったんだ。」
「じぃさん・・・。」
よく見ると人の形をしている。
それは藁人形だった。
「じ、じぃさん!こりゃなんだ?!」
西念は首をうなだれてボソボソと答えた。
「見た通り。藁人形じゃよ。」
「見りゃわかるが、なんでそれが鍋の油の中に浮いてるんだよ?」
失意のあまり頭が変になったか、それとも貧乏極まって藁を食おうとしたのか。
いずれにしても西念がマトモじゃないと、甚吉は心配したのだ。
「実は、何度かお熊のところに行ったんじゃ。引っ越す前に家の掃除くらいやれると思ってな。」
「知ってたのか。」
「ああ。けんもほろろに追い返された。塩まで撒かれて、しまいにゃ水ぶっかけられちまったよ。」
「だから風邪なんか引いちまったんだな。」
「どんどん悔しさが膨らんじまってな。毎晩夜中に神社に行って、藁人形に釘を打ってたんだよ。」
「そうか。丑の刻参りか・・・。」
そりゃ呪いくらいかけたくなるだろうな、と甚吉は同情した。
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「まぁ呪いなんてなぁ、そんなもんだろうよ。」
「よく考えたら、お熊は元々ぬか問屋の娘じゃねぇか。ぬかに釘。こりゃ呪いが効くわけがねぇ。しょうがねぇから油で煮てやったんだ。」
「じぃさん・・・。」
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