近未来判事「タクヤ」

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事件簿010 『藁人形』その6

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その遊女は、お熊と名乗った。

お熊は、今でこそ身を持ち崩しているが、元は神田のぬか問屋「遠州屋」の箱入り娘だったらしい。
ところが、父親が病死してから、店はあっという間に傾き、後を追うように母親が亡くなった。
店は潰れ、とうとう無一文で屋敷を追い出されてしまった。

それでも、しばらくは遠州屋と取り引きがあった店の主人が、住み込みで雇ってくれた。
しかし、そもそも箱入りだった小娘。
仕事どころか、炊事も洗濯も何も出来ない。
結局、その店を半年もたたず放り出された。

それからは、お定まりの下り坂。
とうとう千住の遊郭に身を落としたのだった。

「ここで歳を取って最期は無縁仏になる、そう思ってた。だけど、こんなあたしでも身請けしてくれるって旦那が現れたのさ。」

「おお。それは良かった!」

辛い話を聞いていた西念は、我が事のように喜んだ。

「今日はお父様の命日。この身請け話もきっとお父様が助けてくれたに違いない。そう思ってたら目の前をお坊さんが歩いてるじゃないか。位牌さえ無いんだけど、供養してくれないかい?」

「そういうことなら喜んで拝ませてもらいますよ。なぁに、位牌なんて無くても肝心なのは気持ちですからな。」

西念は昔聞きかじった怪しげな念仏を唱え始めた。

「はんにゃ~はらへった~。おんばからそばかぁ。なむさんだらぼったぁ。」

その後ろで、お熊は手を合わせて、似たような怪しい念仏をつぶやいていた。

「なんみょーほーれんげっきょ。な~まんだーさ~まんだー。」

こんな念仏を唱えられて、お熊の父親もあの世で苦笑いしてることだろう。
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