近未来判事「タクヤ」

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事件簿009 『鹿政談』その5

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奉行所に現れたのは、縄で縛られた五十過ぎの男と、町役や坊さんなど数人の男たち。

「わたくしは鹿の守役、塚原仙兵衛と申します。こちらは興福寺の良尊殿。鹿を殺した男をお役目で連れて参りました。」

奉行所の役人は、男を縛っている縄を預かると二人に答えた。

「お役目ご苦労だった。明日はお奉行がお白州を開かれる。お二方ともご足労だが明日改めてお越しくだされ。」

役人は、男を預かりはしたものの、鹿殺しなどもう何十年も起きていない。
しかもこの男、とても悪事を働くような人間には見えない。
とりあえず事情を聞いてみることにした。

「どうして鹿を殺したのだ?鹿殺しが大罪であることは知っているだろう?」

「はい。今朝、いつものように夜明け前に起きまして、店の雨戸を開けますと外にあるオカラの桶を漁っている動物がいました。」

「ふむ。」

「靄ではっきりとは見えませんでしたが、このところ野良犬が増えて近所のバァサンが咬まれて怪我をしたばかり。襲われてはたまりませんので転がっていた木切れを動物めがけて投げました。」

「ふむふむ。」

「すると、その動物はそのままドサリと倒れたんです。えらくひ弱な犬もいたものだと近づいてみたら、それが鹿だったってわけです。」

「うーむ・・・。」

役人はどうしたものか悩んだが、結論は出せなかった。

「やはりお奉行に相談しよう。」

とりあえず男を牢に入れると、役人は奈良奉行の屋敷に走った。
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