近未来判事「タクヤ」

事件簿００６ 『江戸の夢』その１８

事件事故、両方の可能性で捜査されたが、倉庫に火の気はなく、かといって放火の証拠もない。
当時は監視カメラも近くにはなく、人通りが少ない場所で出火時の目撃者もいない。

『たまたま様子を見に来たら、既に倉庫は火に包まれていた』

警察の事情聴取にはそう答えた健作だったが、自分に向けられた刑事の視線は、明らかに『お前が犯人だろう』と言っていた。

重要参考人として常時連絡がとれるようにしておく、という約束のうえで釈放された健作だったが、その足は家でも店でもなく、東京駅に向かっていた。

既に夕闇。この時間から、なるべく遠くに行ける列車を時刻表で探した。
あった。宮崎行き、寝台特急『富士』。これにしよう。
２００９年に廃止されることになるブルートレイン。
その青く美しい列車に健作はふらりと乗り込んだ。

次の日の夜。健作は降りしきる雪の中、高千穂『神楽屋旅館』の裏口に立っていたのだった。

「死刑かもしれませんが、召されるまでは亡くなった三人への謝罪と弔いを続けたいと思います。」

放火と三人の過失致死。
殺人ではないから極刑は無いが、状況次第ではかなり長期の懲役もありうる。
裁判員の意見を聞きながらタクヤは３００年前に思いを巡らせていた。