女王蜂

宮成 亜枇

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 爽太の無邪気な態度を受け止める古城の様子を、佐々木は笑みを浮かべて見つめていた。
 子供は正直で残酷だ。言葉や態度はストレート。それが、意識はしていないとはいえ大人を大いに傷つけることもある。それを、佐々木は不安視していたのだ。
 しかし。嬉しそうにくっつく爽太と、口調は嫌そうに聞こえても、ペースに合わせて対応している彼をみて、ほっと息をつく。
「かわいいでしょ?」
「へっ!?」
「爽太。すごい素直でね、俺にも良く懐いてくれてる。でも、やっぱりパパとママがいいんだよね。一真や朔夜さんが帰ってくると、俺ガン無視で飛んでいくもん」
 佐々木の問いかけに、古城は少し複雑な表情を見せ「あれ? そう言えば……、他の人達は?」と尋ねる。
「あ、うんっ。ちょっと用事があるみたいっ! すぐ、戻ってくるんじゃないかな?」
「……アンタさ」
「へっ?」
「嘘、つくの苦手でしょ。スゲー焦ってるの、わかる。……まあいいや、あの医者がまた、何か企んでのことでしょ。で、何? 言いたいことでもある?」
 呆れたような口調に、佐々木は戸惑ったが。
「……ゴメンね。君のこと、俺ちょっと知っててさ。だって、一真も朔夜さんも俺いるのにお構いなしに話すしっ! だから、ゴメンっ! 悪いなって、思ったんだけどさ……」
 こう切り出した。

「あー、いいわ。それは何となくわかってたから。で、あなたはそれ聞いてどう思ったの?サイテーだ、とか思った?」
「えっ!?」
「ふふっ。そんなもんじゃない? どこまで知ってるのかわからないけどさ。オレがオレのこと、端から見たら酷ぇヤツって思うモン。……ま、いいんだけどね。人からどう評価されようが気にしてないし」
 やや自嘲的に微笑む彼を、「あおー?」と爽太が覗き込む。
「ん? 何」
「あお……。ちゃみち?」
「……へっ?」
 不意打ち、と言ってもいい。
 古城は、すぐ対応できなかった。
「ちゃみち?」ともう一度言い、小首をかしげる爽太を膝に乗せたまま、固まる。
 それを見て思ったことがある。彼に言っていいものか迷いはするが……。佐々木は、嘘をつくことはもちろん、隠し事をするのも苦手だ。このまま黙っているのも性に合わない。告げることに決めた。
「……君がどういう生き方をしてきたか、俺は知らないけどさ。本当は、羨ましいんじゃない? 番になったオメガが」
「はぁ? 何言ってっ」
「だってそうでしょ? そうじゃなきゃ、そこまでアルファを観察して、醜態さらそうとなんて思わないよ? 本当に嫌いだったら、目にも入れたくないはず。俺だったら、絶対にアルファに会わないような場所に逃げるもん。なのに、自らそう言うところに飛び込みもしてるし」
 それが、佐々木の考え。本当に嫌悪しているのなら、視界に入れるのさえ嫌なはずなのに、あえてそれをしている。その目的は何だろう?そう思い、たどり着いた答えは。

「ね?……本当は探してたんじゃない?君の運命の人。……君が、心から求める番を」

 ……言葉にならない。
 突拍子もないことがいきなり飛んできて、どう反論すればいいのかさえ、古城は思いつかない。いったいどこをどうしたら、どこをどう聞いたら、そう言う答えに結びつくのか。
 古城だけでなく爽太まで言葉を発することができない状態で、佐々木は更に続ける。
「正直な話ね。君のことを聞いたとき、結構イラッとしたんだ。俺はね、ベータだよ。わかる? 『その他大勢』。オメガはきっと、ベータは気楽でいいと思ってるだろうけれど、違うよ。だって、俺達はいつまで経っても、どうやっても『その他大勢』で終わっちゃうんだもん。いくらアルファを好きになったって、相手にして貰えないし、もし、奇跡的にその時気持ちが通じても、オメガが『ヒート』を起こせば一瞬で持って行かれちゃうし、『運命の番』になんて物には、どう逆立ちしたって勝てない。そこでどんなに好きでいても、強制終了になっちゃうんだよ。だからね。俺は。……オメガが羨ましいって思ったことがある。だって、オメガはアルファを惹きつけて、結ばれることができるじゃん。そして、『産むことができる』。それがどれだけ羨ましいか、考えたこともないでしょう?」
 一気に投げつけた言葉は、どう届くかわからないが。これだけはどうしても、目の前の分からず屋に伝えたかった。
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