女王蜂

宮成 亜枇

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「はぁ??」
「くははっ!なんだよいったい。気になるオメガにでも会った?」
 水無瀬の質問を聞いた二人の反応は、それぞれ。
「そんなんじゃないけど……、もうっ!こっちは真剣に聞いてるんだから、ちゃんと答えてよっ!!」
 対して水無瀬は、少しムスッとして反論する。
「あ、ごめんごめん。いきなり言われたから、つい。んー……。でもあれ、オメガだから、と言う風には括れないと思うんだよねぇ。ほら、普通に人を好きになるって、そんなもんじゃない? 気になって仕方がない、どうしていいかわからない。どうしようって。それがたまたま、俺の場合一真だった訳で。ベータ同士でも普通にあると思うよ。それくらいは」
 機嫌を損ねた水無瀬に、入江は眉をハの字にしながら答える。
 あの資料には、感じたことをそのまま連ねている。そのすべてが『特有のもの』とは言いきれない。

「なんだぁ。そうなんだぁ」
「ふははっ。そんなもんだよ。……でも」
「でも?」

「たぶん、オメガ特有のものは……ある」

 苦々しく、表情を歪め。入江は口を噤む。どことなく、先を告げるのさえ苦痛を伴うと伝えているようだった。
 その正体を知りたい。しかし、彼にそれを切り出すのは、刃を持って傷つけてしまうような気がして。水無瀬は、口を噤む事しかできなかった

「ま、とにかくさっ。今度もし同じようなことがあったら、確認してみたら良いんじゃねぇの? 話しかけてみるとかさ。いくら俺達のこと聞いたって、同じとは限らないんだから」
「そうだけどさぁ」
 やや無理矢理話を切った鷲尾に、水無瀬は文句を告げたが「やべっ!そろそろ時間じゃない?」の言葉に時計を見、大慌てで荻原を呼ぶために、リビングから出て行く。

「……一真」
「ん?」
「さっきの話、どう思う?」
 その隙に、入江が尋ねる。
「わからねーけど」
 鷲尾は、そう前置きしてから。

「……可能性は、あるよな」
 一言、告げた。

 それは、番であるからこそ、理解し合えるもの。
 もし、水無瀬にそのようなことがあれば。……相手が受ける影響は、おそらく大きい。本人は自覚していないが、彼はアルファの中のアルファ。そのせいもあって、現在もふわりとした立場にいるのも事実。
「……もし、秀くんの言う相手がわかったら、教えてくれる?」
「わかった。……あ、そうそう。朔夜」
「ん?何??」
 確認をしながら出かける支度をしていた鷲尾は、不意に手を止め、入江をじっ……、と見つめる。そして。
「次の『周期』は、薬絶対飲まないでよ?俺、しばらく日本にいるし」
 笑顔と共に、告げる。

「はっ……はいっ!?」
「そろそろ、爽太に弟か妹、いてもいいと思うんだよね♪」
「なっ!何バカな事言ってんのっ!?今そんなとき……っ!!」

「……俺は、いたって本気だけど?」

 真っ赤になりながら文句を告げる口元は、強引に塞ぐ。
ついで、と言わんばかりに舌を絡めれば。

「……っ、ふぅん……」

 甘い、声が。
 もちろん、このまま続けたい衝動に駆られるが、それは時間が許さない。

「じゃ、行ってくる」
 唇を離し、颯爽と彼はリビングを飛び出し、水無瀬を追いかける。

「……バカ……っ」
 残された入江は。床に座り込んで、かすかに文句を吐き出すことしかできなかった。

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