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Ⅳ
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イノフィエミスが目を覚ますと、使用人たちが動き始めた。
「イノフィエミス殿下、おはよう御座います。」
「...っ、。」
「お水です、どうぞ。」
グラスを差し出すが、手が震えているのを見て、侍女のアリミアはグラスを握らせて、その手の上から支えた。
「支えますのでゆっくり飲みましょう。」
僅かに頷いたのを確認して口元にグラスを寄せて飲ませた。グラス半分を飲んで喉を擦りながら声を出す。
「――――ぁ、。あー。」
「お声が出て良かったです。お食事になさいますか?ご入浴されますか?」
「...ぉ、ふろ、入る。」
「かしこまりました。ご入浴後にお食事されますか?」
「...ご飯?」
「はい。」
「...。」
イノフィエミスが考えている間に、扉が叩かれ声がかけられた。
「ハルトノエルです。入ってもよろしいですか?」
イノフィエミスが頷いたのを確認してアリミアは扉を開け、ハルトノエルを招き入れた。アリミアはそのまま入浴の準備をするために部屋に備えられた浴室に移動した。ハルトノエルが寝台のもとまでやってくると、考え込んでいたイノフィエミスが上を向く。
「...ハル。」
「おはよう、イノ。何をそんなに考えているんだ?」
「ご飯を、食べるかと、聞かれた。」
「食わないと、でかくならないぞ。」
「......。大きく、...........抱っこ。」
そう言ってハルトノエルに手を伸ばすイノフィエミス。ハルトノエルは小さく息をこぼしてから抱き上げる。
「...ご満足ですか?イノフィエミス殿下。」
「ん。ハルが抱っこしてくれるなら、おれ、このままがいいな。」
「...でかくなっても抱いてやるよ。だから飯は食え。」
「わかった。」
それを聞いて入浴の準備を終えて戻ってきたアリミアは外に待機している騎士に料理長への伝言を頼み戻って来た。
「イノフィエミス殿下、ご入浴の準備が整いましたので参りましょう?」
「風呂に入るのですか?なら、私が連れていきましょう。殿下は歩けないでしょうし。」
「ん。」
「それから、アリミア殿、さっきの会話は内密でお願いしますね。」
「もちろんですよ。お二方と専属侍女のわたくしだけの秘密ですからね。」
アリミアは戦に行く前のイノフィエミスの専属侍女であり、幼馴染みでもあった。ハルトノエルの気持ちにも気付いており、よく相談に乗っていた為、ハルトノエルの口の悪さも、イノフィエミスの一人称がおれになることも知っていて、それらをすべて秘密にしているほど口が固く、ハルトノエル、イノフィエミスの両者から信頼を得ていた。
ハルトノエルに連れられ、アリミアに綺麗に洗ってもらい、さっぱりしたイノフィエミスは、二人に甲斐甲斐しく世話されて、久々にネグリジェ以外の服を纏った。
「服、久しぶり。」
「うれしいか?」
「ん。」
「良かったな。似合ってるぞ。」
「ほんと?」
「ああ。」
「ええ、わたくしの目に狂いはありませんでしたね。」
「よくやった、アリミア。」
「お褒めに預かり光栄です。」
イノフィエミスは黒のYシャツに黒のスラックスを身に纏っていた。
「イノフィエミス殿下、ループタイはつけますか?」
「いらない。」
「かしこまりました。」
「んー......、ハル。」
「んー?あぁ、はいはい。アリミア、昔みたいに呼んでほしいらしい。」
「...しかし、...かしこまりました....イノ殿下。」
そう呼ばれると、無表情だが目を細め、嬉しそうに頷く。そんなほのぼのした空間を壊すように扉が叩かれる。アリミアが扉に向かい、イノフィエミスはハルトノエルに抱えられてソファのもとまで運ばれる。ソファに降ろされて、冷えないようにカーディガンを肩に掛けられ、アリミアが食事のトレーを持って戻ってくる。
「ソファ、久しぶり。」
「寝台で食うか?」
「...い、いけど。」
「嘘だ。ここで食おう。」
体を強張らせたイノフィエミスの頭を撫でて、力を抜かせる。ローテーブルに置かれたトレーを見て、イノフィエミスは目を輝かせた。
「ご飯。」
「はい、胃に優しいものを用意してもらいました。食べられる分だけ食べてくださいね、イノ殿下。」
「ん。...久しぶりのご飯。」
「イノは、何でも久しぶりだな。」
「うん。最近は父様来なかったからね。ご飯なかったの。」
「...そうか。」
「水もね、飲むの久しぶりだったんだ。いつも精液やら尿やらで嫌になっちゃうよね。慣れたけど。」
「...イノ、。」
「なに?」
「...そんなことに慣れるな。」
「...もう、21年だよ。流石に、慣れるよ。....慣れるしか、なかったよ。」
「...年、覚えてたのか。」
「うん。」
アリミアに差し出されたスプーンですりおろされた果実を口に運ぶイノフィエミス。何をするにも「久しぶり」と呟きながら動くイノフィエミスを見ながら、隣に座るハルトノエルと食事を手伝うアリミアは悔しく、悲しい感情に顔を歪めた。
「イノフィエミス殿下、おはよう御座います。」
「...っ、。」
「お水です、どうぞ。」
グラスを差し出すが、手が震えているのを見て、侍女のアリミアはグラスを握らせて、その手の上から支えた。
「支えますのでゆっくり飲みましょう。」
僅かに頷いたのを確認して口元にグラスを寄せて飲ませた。グラス半分を飲んで喉を擦りながら声を出す。
「――――ぁ、。あー。」
「お声が出て良かったです。お食事になさいますか?ご入浴されますか?」
「...ぉ、ふろ、入る。」
「かしこまりました。ご入浴後にお食事されますか?」
「...ご飯?」
「はい。」
「...。」
イノフィエミスが考えている間に、扉が叩かれ声がかけられた。
「ハルトノエルです。入ってもよろしいですか?」
イノフィエミスが頷いたのを確認してアリミアは扉を開け、ハルトノエルを招き入れた。アリミアはそのまま入浴の準備をするために部屋に備えられた浴室に移動した。ハルトノエルが寝台のもとまでやってくると、考え込んでいたイノフィエミスが上を向く。
「...ハル。」
「おはよう、イノ。何をそんなに考えているんだ?」
「ご飯を、食べるかと、聞かれた。」
「食わないと、でかくならないぞ。」
「......。大きく、...........抱っこ。」
そう言ってハルトノエルに手を伸ばすイノフィエミス。ハルトノエルは小さく息をこぼしてから抱き上げる。
「...ご満足ですか?イノフィエミス殿下。」
「ん。ハルが抱っこしてくれるなら、おれ、このままがいいな。」
「...でかくなっても抱いてやるよ。だから飯は食え。」
「わかった。」
それを聞いて入浴の準備を終えて戻ってきたアリミアは外に待機している騎士に料理長への伝言を頼み戻って来た。
「イノフィエミス殿下、ご入浴の準備が整いましたので参りましょう?」
「風呂に入るのですか?なら、私が連れていきましょう。殿下は歩けないでしょうし。」
「ん。」
「それから、アリミア殿、さっきの会話は内密でお願いしますね。」
「もちろんですよ。お二方と専属侍女のわたくしだけの秘密ですからね。」
アリミアは戦に行く前のイノフィエミスの専属侍女であり、幼馴染みでもあった。ハルトノエルの気持ちにも気付いており、よく相談に乗っていた為、ハルトノエルの口の悪さも、イノフィエミスの一人称がおれになることも知っていて、それらをすべて秘密にしているほど口が固く、ハルトノエル、イノフィエミスの両者から信頼を得ていた。
ハルトノエルに連れられ、アリミアに綺麗に洗ってもらい、さっぱりしたイノフィエミスは、二人に甲斐甲斐しく世話されて、久々にネグリジェ以外の服を纏った。
「服、久しぶり。」
「うれしいか?」
「ん。」
「良かったな。似合ってるぞ。」
「ほんと?」
「ああ。」
「ええ、わたくしの目に狂いはありませんでしたね。」
「よくやった、アリミア。」
「お褒めに預かり光栄です。」
イノフィエミスは黒のYシャツに黒のスラックスを身に纏っていた。
「イノフィエミス殿下、ループタイはつけますか?」
「いらない。」
「かしこまりました。」
「んー......、ハル。」
「んー?あぁ、はいはい。アリミア、昔みたいに呼んでほしいらしい。」
「...しかし、...かしこまりました....イノ殿下。」
そう呼ばれると、無表情だが目を細め、嬉しそうに頷く。そんなほのぼのした空間を壊すように扉が叩かれる。アリミアが扉に向かい、イノフィエミスはハルトノエルに抱えられてソファのもとまで運ばれる。ソファに降ろされて、冷えないようにカーディガンを肩に掛けられ、アリミアが食事のトレーを持って戻ってくる。
「ソファ、久しぶり。」
「寝台で食うか?」
「...い、いけど。」
「嘘だ。ここで食おう。」
体を強張らせたイノフィエミスの頭を撫でて、力を抜かせる。ローテーブルに置かれたトレーを見て、イノフィエミスは目を輝かせた。
「ご飯。」
「はい、胃に優しいものを用意してもらいました。食べられる分だけ食べてくださいね、イノ殿下。」
「ん。...久しぶりのご飯。」
「イノは、何でも久しぶりだな。」
「うん。最近は父様来なかったからね。ご飯なかったの。」
「...そうか。」
「水もね、飲むの久しぶりだったんだ。いつも精液やら尿やらで嫌になっちゃうよね。慣れたけど。」
「...イノ、。」
「なに?」
「...そんなことに慣れるな。」
「...もう、21年だよ。流石に、慣れるよ。....慣れるしか、なかったよ。」
「...年、覚えてたのか。」
「うん。」
アリミアに差し出されたスプーンですりおろされた果実を口に運ぶイノフィエミス。何をするにも「久しぶり」と呟きながら動くイノフィエミスを見ながら、隣に座るハルトノエルと食事を手伝うアリミアは悔しく、悲しい感情に顔を歪めた。
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