回顧

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その日は、唐突に訪れた。王国ルーチェントローズの王子三人が実の父親である国王に対して謀反を起こしたのだ。

国王に加担していた貴族達を斬り伏せながら、王宮を練り歩く。王の間の扉を蹴り開けるも、国王は居らず、広い王宮の部屋を一つ一つ探していくしかなかった。

王宮のほとんどの部屋を探し終えたが、どこにも見つからない。王宮外に逃げたかと考えたが、第二王子であるアリスロメオが言葉を発する。


「....王宮の北の最奥に、誰も立ち入ってはならない、という部屋があったと記憶しています。」

「...そこに居なかったら、外に逃げたということか。」

「おそらくは。」


三人で顔を見合い、頷き、北の最奥の部屋に向かった。

部屋の扉は、他の部屋と大差ない見た目で、第一王子のリノスフェルが他の部屋と同じように蹴り開けた。部屋の中は、壁も床も真っ白で窓もなく、キングサイズの寝台が一つ置いてあるだけだった。寝台も真っ白で、この部屋で長時間過ごしたら気が狂ってしまいそうな気さえした。

真っ白な部屋のたった一つの寝台の上に国王はいた。息を荒くして、腰を振り続けている裸体の醜くなった父親。

部屋に、王子達が入ってきていることすら気付かずに腰を振っている国王に三人で近付けば、腰を振っている相手が女ではなく男だと分かり、若干、実の父親に嫌悪感を抱きながら背中に剣を突き立てて寝台から蹴り落とす。

国王が無様に壁まで転がりぶつかると、突っ込まれていた青年が気怠げに起き上がり、国王に駆け寄ろうとした。

その行動にも三人は嫌悪感を抱いたが、青年は首から伸び、寝台に繋がれた鎖のせいで壁まで、国王のもとまで駆け寄ることはできず、寝台のそばに座り込んでしまった。

だが、国王が這いずりながら青年のもとまで戻り、腕を思い切り掴み、叫んだ。


「治せ!!!!」


青年の手が刺された背中に伸びると、背中の傷はみるみるうちに塞がっていった。


「私は、傷など負わない!!私は不死身なのだ!!」


そう叫ぶ国王の背中をリノスフェルが何度も剣を突き立てる。国王がうめき声をあげながら、傷ができては塞がるを繰り返しているうちに、治している張本人である青年の様子がおかしいことに、アリスロメオは気付いた。

膝丈まであるネグリジェの背中に血が滲み、真っ赤に染まり始めていた。アリスロメオが国王から青年を引き剥がし、ネグリジェを捲ると背中には国王が刺された位置と同じ位置に傷ができて、出血していた。

アリスロメオは、これがただの回復魔法ではなく、傷を肩代わりしているということに気付き、すぐさま回復薬ポーションを飲ませた。無表情の青年は拒むことなく回復薬を飲み込み、背中の傷も塞がったようだった。

引き剥がされた国王は、未だ背中を刺されながらも生き延びていた。


「何をしている!!早く私を治せ!!」


青年に叫びながら、再び這いずろうとするが第三王子のロルフヘイズがその首を体から切り落とし、やっと動かなくなった。だが、青年はその生首になった国王さえをも治そうと手を伸ばしたのでアリスロメオがその手を掴んで抱き寄せた。


「あれを治したら、貴方はどうなりますか?」

「...。」

「貴方の首は体から離れてしまいますね。」

「...。」

「だから、もう治さなくていいのです。」

「すべて、終わったのだから。」


アリスロメオは青年の首にはめられている分厚い革製の首輪をナイフで切り落とす。軽くなった首を擦る青年は腕を掴まれて引っ張られ、意思とは関係なしに立ち上がった。膝丈のネグリジェの下に伸びる足を白い液体が伝い、引き上げたリノスフェルもそばで見ていたアリスロメオも死んだ父親に嫌悪感しか湧かなかった。


「...アリスロメオ、こいつに浄化魔法をかけてやれ。」

「はい。」


アリスロメオが青年の腹部に手を当てて魔法をかければ、背中の赤い汚れも足を伝う白い液体も消え去った。青年も腹にあった異物感がなくなったことが分かったのか、腹に手を添えていた。


「兄上、この方は男娼かなにかでしょうか?」

「...分からないが、国王が長年囲っていたのは間違いないだろうな。」

「ねーねー、とりあえず外に出ようよ。」


国王の首を縄で縛って、持ってきたロルフヘイズ。他二人も剣を鞘に収め、頷く。


「こいつも連れて行こう。」


そう言って、リノスフェルが青年を抱き上げて部屋を出る。リノスフェルを先頭に両側を守るようにアリスロメオとロルフヘイズが歩き、長い廊下を進み王宮の外に出た。

王宮の外では、今回の謀反に協力してくれた宰相を含む反国王勢力の貴族達が集まっていた。

王子三人が出てきたことに気付いた貴族達が駆け寄ってくる中、宰相のハルトノエルが最初に王子達のもとに近付き、リノスフェルが抱える青年を見て、頭を抑えた。


「...っ!」

「どうした。ハルトノエル。」

「...イノ、フィエミス、王太子、殿下?」

「は?」


その名が出た瞬間、世界全体にかけられた認識阻害の魔法が解け、ガラスが割れたような音が世界中に響き渡った。

周りに集まってきていた貴族達もリノスフェルが抱える青年、イノフィエミスを思い出し、涙を流しながら膝をついた。この国ルーチェントローズでは片膝を付き、胸の中心に左手を添える体勢が最敬礼であった。

それをする貴族達に王子三人は困惑しつつ、イノフィエミスのうなじを見る。

そこには王族のみに現れる薔薇の痣があり、見た目からリノスフェルは末の弟だと思ったが、王太子殿下と呼ばれていたこと思い出し、余計に困惑してしまった。


「...どういう、ことだ?」

「...分かり、ませんが、ハルトノエル殿、説明してくれますよね?」

「勿論。」


リノスフェルとアリスロメオは頷き、貴族達に指示を出す。


「この宮殿は壊して、更地にしろ。国庫から資金は出す。国民に募集をかけろ。女子供も関係ない。働く気がある者を集め、宮殿を建て直させろ。」

「しっかり働いたものには報酬を出します。男は力仕事を、女は針仕事や細かい作業を、子供にはその手伝いや賄いの作業をさせなさい。身分は問いません。貴族でもスラムの子供でも大歓迎しましょう。」

「あ、この首、広場に晒しといて~。」


貴族たちはすぐさま動き出した。リノスフェルは、侍従長と侍女長を呼び、数人の使用人を集め、離宮に来い、と言い宰相のハルトノエルを連れて離宮に向かった。


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