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本編
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「あはは、マリエッタちゃんも、ミリアちゃんもかわいいねぇ~。」
「うん?もちろん、エミリアちゃんも、ルーリアちゃんもかわいいよ。」
すれ違う女の子たちに、俺、ノエルは甘いマスクと色気のある声でかわいいと褒めそやす。女の子たちは、声をかけられれば、遊んだことのある子は手を振り返してきて、遊んだことのない子は頬を染めて控えめに手を振り返してくれる。
俺は、5歳でこの公爵領の領主であるミゲル公爵に孤児院から引き取ってもらい、養子にしてもらった。子供に恵まれなかった公爵夫妻は俺を実子のように甘やかしてくれた。
しかし、引き取られてから1年後。
義母である公爵夫人が子宝に恵まれ、俺も義母と共に生まれてくる弟を心待ちにしていた。
生まれてきた弟は双子で、とても可愛らしかった。どちらも公爵夫妻に似て、整った顔立ちをしているのがよくわかった。
弟たちが成長するに連れて、顕著になる使用人たちの態度。生まれたての頃は、同じように世話をしてくれていた。しかし、成長するごとに表面上は世話をしているように見せて、俺は自分のことは自分でやらされるようになった。手伝ってくれていた湯浴みや着替えはいつしか手伝いに来なくなった。
陰では聞こえるように、「実子様方がお生まれになったから。」「もう、あんな孤児に媚びる必要はないわね。」と。
俺は、そうなることを稚ながら理解していた。だから孤児院にいたときを思い出し、自分のことは自分で整えた。むしろ、食事だけでもちゃんと取らせてもらえるだけ有り難いと思っていた。
その頃から、俺は街にでかけては、悪ガキとつるんだり、後継者に名が上がらないように、わざと素行を悪くした。それと同時に、いつでも出ていけるように、もともと殺風景で公爵夫妻に「何か買おうか?」と提案されているくらいの自室を整理し始めた。俺には専属の侍従はいなかったので、人事的処理がなかっただけ楽だった。
16歳の成人のパーティーでも、公爵家の名を傘に下位の貴族令嬢を侍らせていた。パーティー後に公爵様に呼び出されたので、執務室に行けば、難しそうな顔をして口を開こうとしたので、声を発する前に、口を挟んだ。
「俺は、公爵家の爵位継承権を放棄します。」
「.....っな。」
「俺には、要りませんからね。それに可愛い弟が二人もいるんです。俺は、要りません。」
「....。....そう、だな。」
「はい。では、失礼します。お休みなさい、公爵様。」
俺はそう言って執務室を出た。今の会話を隣接する養父の休憩室で義母と弟たちに聞かれていたなんて、露知らずに。
✧
公爵Side
妻のマリアが、待望の息子を二人も産んでくれた。ノエルにも弟ができて、これで遊び相手ができて、今以上に仲良くなれると――――思っていた。
だが、望む未来通りにはならず、双子のカインとレインに物心がつき始めるのと同時に、ノエルの悪評が耳に入るようになった。それは、年月が経てば経つほど増えて悪化した。ノエルの成人を祝うパーティーで、悪評通りの行動をするノエルを見て目の前が真っ暗になった。
一体どこで間違えたのだろうか。
少し注意して、皆で久々にお茶をしようと、休憩室に妻たちを集めておいて、執務室にノエルを呼んだ。
しかし、やってきたノエルは悪びれた顔もせず、私が声をかける前に、
「俺は、公爵家の爵位継承権を放棄します。」
と、驚いて一言発しただけなのに続けざまに
「俺には、要りませんからね。それに可愛い弟が二人もいるんです。俺は、要りません。」
と。私はとにかく何かを言わないといけないと思い、言葉を発したが、間違えてしまった。そのまま挨拶をして執務室を出て行ってしまったノエル。閉じられた扉をただ見つめるだけで何もできなかった。
すると、隣で会話を聞いていた妻たちが部屋から出てきた。
「ジェン、ノエルは....。」
「....ああ、いつから、ああなってしまったのだろうか。」
「それにジェンのこと、公爵様って。」
「.....それが一番、私には刺さった。うう、心が痛い。」
カインとレインは、いつも怒られてしまう時間だがお菓子を食べて話を聞いていた。この子たちは、小さい頃から聡明で大人の会話も理解していた。
「父さま、兄さまのお部屋はなにもありません。」
「それは、あの子はねだらないからイベントの時しかプレゼントしていなかったからな...。」
「いいえ、父様。兄様のお部屋はプレゼントのような物もありませんでした。」
「なっ、どうなっているんだ。アズ。」
我が家の筆頭執事であるアズに聞けば、世話をしている使用人たちに譲っている、と。
そして、それはアズの目には身辺整理をしているように見えると。
✧
ノエルは行きたがらなかった為、王立学院の初等部に通ってはいなかったが、カインとレインは初等部に通っている為、ノエルの成人パーティーの翌日の朝には王都に向けて出発しようとした。
珍しく、ノエルは見送りにやってきて、微笑んでカインとレインの頭を撫でた。
「....いってらっしゃい。」
「いってきます。兄さま。」
「行ってきます。兄様。」
挨拶を交わして、馬車に乗り込もうとしたカインとレイン。しかし、それを遮るように矢が飛んできた。公爵家で雇っている騎士たちが私や妻を守り、別の騎士が息子たちを守りに行く。カインとレインは、ノエルに覆いかぶさられ、見ることはできないが無事なようだった。
騎士がノエルたちに近付くと、ノエルが急に顔を上げ、カインとレイン突き飛ばすようにして騎士に預け、守らせた。
その瞬間に、ノエルの脇腹を剣が掠め血が吹き出した。ノエルは脇腹を抑えながら、迫る賊を見つめていた。その次の瞬間にはノエルは賊に抱えられ連れ去られていた。賊はノエルを連れてそのまま全員撤退していった。
少しの間、誰も、何も言えなかった。
しばらくしてから、レインが「兄様...」と呟いて、その場が動き始めた。騎士たちは賊が逃げた方に馬を走らせた。一度屋敷に戻る為、使用人たちにも準備させていると、ノエルにつけていた使用人が小さく呟いた言葉を聞いてしまった。
「あんな、孤児。いなくていいのに。」
ああ、こういうのが原因で、あの子は。変わってしまったのか。と、納得がいった。
もちろん陰でそういうことを行った使用人は、皆辞めさせ、いつノエルが帰ってきても大丈夫なようにした。
――――――――しかし、ノエルは見つからず、帰ってくることはなかった。
✧
俺は賊に拐われ、アジトであるだろう小屋で手足を縛られ、猿轡と目隠しをつけられて床に横たわっているようだった。
賊たちが、「これじゃない。」とか、「はずれだな。」なんて、言いながら俺を見ているのだろう。俺は藻掻くこともせず、ただ、横たわっていた。
床の軋む音が増えて、誰かが近付いてきたのがわかった。
「あ、ボス。」
「...俺は双子を攫って来いって言ったよな?」
「スンマセン。しかし、双子をコイツが守ったもんで攫えなかったんッス。いくらかマシかと思って攫ってきたッス。」
「チッ...。こいつは養子だ。身代金を要求しても出さないだろうなぁ。」
「ええ~。んじゃ、適当にヤッて奴隷商に売っちゃいましょう。ボス。」
「まあ、その方が金にはなるか...。」
そんな会話を聞いて震えない奴がどこにいる。俺も体の震えを抑えることができずにガタガタと震え、動けないのに逃げようと後退ろうとした。
「ダイジョブだぜ。キモチイイことだけしような。」
「ーーッ!!!ーーー!!!!」
足の縄を切られ、腕は頭上で固定された。自由になった足を必死に動かすが、無駄な抵抗で、他の賊に足を抑えられ、服を脱がされた。
上半身を撫でるように手が這い回り、ズボンとパンツを同時に降ろされ、Yシャツだけに袖を通して、ほぼ全裸の状態にされた。男だったら使わないであろう胸の突起に生温かいものが触れ、突起を噛まれたことにより、それが舌だということに気付いた。噛んでは舐りを繰り返し、ただ痛かったそこは、段々と快感に代わり、突起だけで精を果たしてしまった。
すると、ボスだという男に腹を殴られ、喉を迫り上がってくるものがあった。猿轡を外され咳き込んでいると男が声をかけてきた。
「誰の許可を得てイッてんだ???」
「っ、ごほっ、ごめん、なさい。うぐっ。」
「ほお、いい声してんじゃねえか。頑張って喘げよ?」
「ひっ、ゆるし、て。」
そんな願いが通じることなく、男が後孔に指を挿れて、抜き挿しして、指を4本まで飲み込んでしまった俺の後孔は指の圧迫がなくなると、ぱくぱくと動いて、まるで男の竿を待っているような動きをしているだろう。
男は一気に最奥まで竿を挿れ、突いてくる。
「ーっあ"、ん"っ、い、っった"、い。お"ぐ」
「そうだろうなあ、だってお前を気持ちよくさせる気はないからな。」
「あ"っ、ぐ!!!」
「お前は当分は俺たちの性処理道具なんだ。っ励めよ。」
「んーーー!!!!!!んうっ!!!!!」
賊の一人の竿を口に挿れられ、無理矢理動かされ言葉を発することはできなかった。男は、男たちは俺の最奥に、喉奥に毎回出して、俺が少しでも気を失えば、殴ったり、吸っている煙草を押し付けて無理矢理目を覚まさせた。
そんな日々は体感だと、一週間程度続いた。実際は3日だったが。
雑に衣服を着せられ、目隠しも猿轡も縄も外され、男に連れられて小屋の外に出れば、小屋の前には幌馬車が停まっており、腰に鞭を提げた男が立っていた。大方、奴隷商に売られるんだろう。公爵家に迷惑がかからないなら、何でも良くなっていた。これでも、元孤児だ。環境の変化には慣れてしまえば問題ない。
俺は見てくれが良いから、そこそこな値段で売れたようで、賊のボスである男は上機嫌に小屋に戻っていった。俺は奴隷商の男に言われるがまま、幌馬車に乗り込んだ。幌馬車の中には、檻になっていて、弟たちと同じ年頃の少年少女が数人乗っていた。その全員の瞳は影が指し、真っ黒に見えた。
✧
俺が売られた奴隷商は、貴族向けではないようで、全てにおいて劣悪な環境だった。食事はろくに与えられず、水も最低限。一つの檻に何人も入って、奴隷商の男が、ストレス発散の為に殴る蹴る、鞭で打つの繰り返しだった。
檻の中には俺と同じ年齢の者はおらず、弟たちと同じくらいの子供ばかりだった。だからだろうか....。
俺は彼等を庇って、奴隷商の男の暴力を一身に受けて耐えていた。
少しでも見目を良くして、良いところまでは行かなくてもいい。ひどい扱いを受けない程度の人間に買われれば、良いと思って、庇い続けた。
そのうち、俺の身体は痣や切り傷が消えなくなって、俺以外の少年少女は皆買われていった。
俺は誰にも買われることなく、この奴隷商に残り続けていた。理由は簡単だった。俺はこの奴隷商の商品達と比べ、遥かに歳をとっていて、また、俺の瞳は赤色で、不吉だ。不気味だ。と買われることがなかった。
奴隷商の男は、俺が他の奴隷を庇うのを分かっているため、初めから俺を呼ぶようになった。
奴隷商の男は、俺に「ご主人様」と呼ばせて悦に浸るようになった。他の奴隷とは別に鉄製の首枷をつけられ、鎖で繋がれることも多々あった。
男は大陸を幌馬車で移動しながら奴隷を売り買いしていた為、俺はこの大陸を一周してしまった。その間に、俺は奴隷としてのルールを身体に叩き込まれ、思考も奴隷としてのものになり、命令がないと動くことができなくなった。
いくら庇い続けても、暴力は暴力で、痛いものは痛い。だが、それも最近、麻痺してきたようで、あまり痛みを感じなくなった。首枷を引っ張られて首が締まる苦しさも、冷水をかけられる寒さも感じなくなった。
俺が大陸を一周して再び公爵家のある国に戻ってきたのは拐われてから5年後だった。
✧
カインSide
その日は、5年に一度ある王都の大バザールの週の1日だった。兄さま、兄さんが拐われてからおよそ5年。俺は一刻も早く兄さんを見つけられるように高等部に通いつつ、歴代最年少で王国騎士団に入団することができた。
といっても、まだまだ下っぱで何かできるわけではないけれど、こういう大規模なイベントでは人員が足りない為、俺みたいな下っぱでさえ王都の防衛にまわされる。王都では奴隷の売買は法律で禁じられており、極刑レベルの罪だった。だからこそ、大規模なバザールの裏で行われる闇市を見回る必要があるのだ。
俺の巡回班は、同じく高等部に通っている先輩と、隊長を勤める本部の騎士の3人だった。
一歩、裏通りに入ればそこは闇市で、召喚獣の売買など薄暗い取り引きが目に入った。俺たちは騎士服が見えないようにローブを羽織って闇市の奥へ奥へと進んだ。
そろそろ闇市の通りがが終わるというときに、俺は見つけた。鞭を腰に提げた男の横に座り込む男の姿を。
首の枷から鎖が伸びて繋がれていて、髪は伸びきって腰まで伸びている。足にも枷がつけられていて、あからさまに奴隷だということがわかる出で立ちだった。
先輩と隊長も気付いたようで、ローブのフードを被り、男に近寄った。
男は客だと思ったのか、饒舌に檻の中にいる少年少女二人を隊長に勧める。俺は隊長が上手く情報を聞き出している途中だったが、口を挟んだ。
「おい、その鎖で繋いでいる男はなんだ?」
「ああ、こいつは役立たずでさぁ。5年も俺のところにいまして、なかなか買われないから俺専用の奴隷にしてやってるんでさぁ。買いますか?お客サン。」
「.....ふむ。」
隊長が、なぜ口を挟んだと言いたげに見つめてくるが、俺達だけで通じる合図を、ローブの中で隊長と先輩に見えるようにして手で示した。
『この男、兄、可能性あり、場合により抜刀』
我が公爵家の長男が誘拐された話は有名で、公爵領なら民までもが知っている。王都でも知られており、他の貴族からは、養子なんだから気にするな。と声をかけられていたが、それに対して、俺と同じく歴代最年少で魔法師団に入団したレインが激怒した為に、その話は社交界ではタブーになっていた。
だから、隊長も先輩もすぐに理解し、腰に下げる剣に手を添えて、俺を見守ってくれた。
「商人。」
「はい!なんなりと。」
「その男の顔を見せてもらいたい。」
「お客サンも変わりもんだねぇ、こんな年取った男がほしいのかい?」
そう言いながら男は、鎖を上に引いて、無理やり顔をあげさせた。髪の隙間から、濁っているが赤い瞳が見えた瞬間、俺は抜刀して、逃げられないように奴隷商の男の太腿を刺した。
「確保!!!!!」
「「了解!!!」」
闇市での奴隷商摘発は呆気なく終わり、檻の中にいた少年少女が最後の商品で、先輩が抱えてローブを被せ騎士団本部に向かった。兄さんと思われる男は、俺に手を引かれローブを被って素直についてきた。隊長が奴隷商を拘束し、本部についてからそのまま牢屋に入れに行った。
騎士団本部に少年少女と男を連れて保護確認をして休憩室で休ませることになった。枷をすべて外して、座って。と声をかければその場に座り込んで俯いてしまった。
「......、地べたじゃなくていい。おいで、ソファに座ろう。」
そう声をかければ、ゆっくり立ち上がって少年少女を抱えてソファに座った。そっと男の長い髪をかき分けて顔をしっかり見ると、殴られると思ったのかきつく目を瞑ってしまった。目元を撫でれば、不思議に思ったのか目を開いてこちらを見た。
男の顔は、5年前と全く変わらない顔立ちで、成長するだけの栄養がなかったのだと分かる。だが、そのおかげで間違うことなく、確信を持てた。
「...にい、さん。」
「....。....ぁ、ぃ、ん?」
「っ、そうだよ!兄さん!!カインだよ!!」
目を見開き、固まってしまった兄さん。そこにノック音が響き、三人共震え始めてしまった。
「入るぞー、...って、悪い。怯えさせたか?」
「...そうですね。」
「すまん、...大丈夫だ。怖いものはもうないぞ。」
「はあ、それで、どうなったんですか?」
「ん?ああ、お嬢ちゃんと僕ちゃんはうちで引き取ることになった。母さんも了承してるから連れて帰るよ。」
「....そうですか。そちらも、良くなることを祈ります。」
「ああ、ありがとう。...そっちもな。」
「はい。」
先輩は兄さんの腕から少年と少女を抱きかかえようとして、兄さんに阻まれた。その様子から兄さんが今まで他の子たちを守っていたことがよく分かった。
「兄さん。先輩...その人が二人を引き取ってくれるって。」
「.....。」
兄さんは先輩を睨みつけ、少年少女を抱える腕に力を入れた。
「あー...わかった、彼らに酷いことをしないと誓おう。」
「....。」
許したのか、ゆっくりと腕を解いて、少年少女に先輩のもとへ行くように促す。そして、二人の頭を優しく撫でながら言った。
「...だい、じょ、ぶ。...いって、らっしゃい。」
その光景は、5年前のあの日に被って見えた。
少年少女は、先輩のもとに行って一緒に部屋を出ていった。扉が閉まるのと同時に、俺は兄さんの手首を掴んで抱き寄せた。
「...っ、兄さん。...行かないで。置いて、いかないで。」
柄にもなく涙を溢し、成長できずに16歳だった頃のまま、俺と同じ身長くらいの兄さんの肩に顔を埋めて泣いてしまった。兄さんは少し怯えながらも、俺の背中に手を回して、優しく撫でてくれた。それだけで、俺は幸せだった。
✧
馬車に乗って王都にある公爵邸に帰った。馬車の中で、兄さんは怯えながらも、俺の手を握って頑張っていた。
「兄さん、何が怖い?」
「...ぁ、....な、ぐら、ない、です、か?」
「もちろん。痛いことは何もしない。」
「...ぁ、たらし、く、ぅ、り、ません、か?」
「どこにも売らないよ。兄さんはずっと家にいていいんだ。」
「....は、ぃ。」
「声はうまく出せない?」
「...は、い。」
「じゃあ、無理に話さなくていいよ。それから敬語も。」
「...ぁ、もうしわけ、」
「ふふ、敬語。」
「...ん。わか、た。」
そっと手を近付けて、頬を撫でれば怯えつつも、撫でさせてくれた。
屋敷の門の前に付けば、兄さんはカーテンの隙間からそっと外を覗いていた。兄さんは王都の公爵邸には来たことがないらしく、物珍しそうに見ていると、護衛騎士と目があったのか、びっくりして蹲ってしまった。
「大丈夫だよ。何に驚いたの?」
激しく首を振って、呼吸も乱れてきた為、体重の軽い兄さんを膝に抱えて肩に顔を埋めさせた。
「うーん、さっきと逆だけど、どう?いくらか落ち着いた?」
ゆっくり頭を撫でながら聞けば、僅かに頷いた。
玄関の前で我が家の専属執事のアズが扉を開けようとした。
「あ、アズ。待って。」
「?はい。」
「父さんと母さんに伝えてほしいんだけど。」
「何なりと。」
「俺が馬車を降りても、大きな声とか出さないように。って。」
「かしこまりました。伝えてまいります。」
父さんも母さんも、俺とレイン、どちらが帰ってきても必ず玄関で出迎えてくれる。もし、兄さんを見て、叫びだしたら、兄さんが過呼吸になってしまう可能性も考えなくては。
「伝えてまいりました。」
「ありがとう。」
「では、よろしいですか?」
「うん。」
馬車の扉が開かれ、俺は兄さんを抱えたまま降りた。父さんも母さんも、アズさえも何を抱えているのか不思議そうに見つめてくる。
「おかえりなさい。カイン。」
「おかえりなさいませ。カイン様。」
「おかえり、カイン。一体何を抱えているんだ...。」
「ただいま。ほら、兄さん。」
兄さんに声をかければ、ゆっくり顔を上げて、父さんたちを目に映す。それは父さんたちも同じのようで、目を見開いて、兄さんを凝視している。
「カ、イン。」
「なに?」
「....ノ、エル。なのか?」
「そうだね、ね?兄さん。」
「....ノ、エル。」
母さんがゆっくり近付いてきて、兄さんの頬に手を当てる。頬を撫でられ目を細める兄さんを見て母さんが涙をボロボロとこぼした。
「...ああ、ノエル。...お、かえりなさ、い。」
「本当に、ノエルなのか、。」
「ええ、ええ。...ジェン、私達の大切な息子よ。」
「ノエル、ノエル。」
父さんは何度も兄さんの名を呼びながら母さんと俺ごと兄さんを抱きしめた。後ろでアズは静かに涙を拭いている。
「...ぁ、ごめい、わくを、おかけ、して、」
「っ、迷惑なんてかかってないわよ!!」
「そうだ、ずっと、ずっと、待っていたんだ。」
「「私達の愛しい子。」」
「...こ、しゃく、さま。...ふじ、ん。」
「あら、いやだ。...公爵様ですって。」
「マリアだって、夫人だと。」
「ふふふっ。」「はははっ。」
二人は、顔を見合わせて、この5年分溜めていた笑顔を涙を溢しながら見せてくれた。
そして――――
「「ノエル、昔のように呼んではくれないのか?」」
「ぇ、ぁ。しかし、おれ、ぁ、わたし、は。」
「いいのよ、俺で。」
「何も心配しなくていいんだ。ノエルが過ごしやすいように領地の公爵邸も、王都の公爵邸も整えてある。」
「いつ帰ってきてもいいようにね。」
「私達は家族だ。」
「何も心配しなくていいのよ。私の可愛い息子。」
「....おと、ぅさま。....おか、さま。」
「ああ。」
「そうよ。」
そこに魔法陣が展開されて、レインが姿を表した。
「王都で、兄様が帰ってきたと耳にしたのでs....」
レインの瞳には俺が抱える兄さんしか映っておらず、顔をぐしゃぐしゃにしながら駆け寄ってきた。
「っ、にいさまぁ~!!!!」
一瞬大声にビクついたが、レインを瞳に映した。
「兄さん、レインだよ。」
「兄様、レインです。」
「...れ、ぃん。」
公爵邸に帰ってきたレインの号泣に、全員が再び泣き出してしまった。
いち早くアズが泣き止んで、湯浴みやら食事の用意をさせた。兄さんは使用人たちを怖がって、動けなくなってしまったので、俺とレインで湯浴みを手伝った。
俺が隅々まできれいに洗い、レインが流しながら各所に回復魔法をかけていった。痣がひどく、特に枷のついていた首と足首は黒ずんでしまっていた。全身の痣と切り傷はきれいに治せたが、やはり足首と首の痣は薄っすらと残ってしまった。
俺たちもついでなので一緒に風呂に入れば、屈んで俺たちのムスコを咥えようとしたからとてつもなく焦った。
「にっ、兄さん!!そういうことはしなくていいんだ!!」
「そうだよ。....さあ、兄様、おいで。一緒に入ろう。」
俺が注意し、レインが意識を逸らさせる。レインと俺の間に座って湯船に浸かる兄さんは縮こまって俯いていた。「上手にできなくてごめんなさい」と小さく呟いた兄さんを、レインが抱き寄せてすっぽり脚の間に入れてしまった。
「兄様、兄様はもう誰かに奉仕する必要はないんです。」
「...な、ぜ?」
「....。....ここはどこですか?」
「や、しき。」
「誰の?」
「こうしゃ、...おとうさま。」
「そうです。父様の家、つまり息子である僕らの家でもあります。」
「...ぉれは、ようし、だから。」
「それでも、息子です。兄様の名前はノエル・フォン・ミゲルです。」
「俺の名前は、カイン・フォン・ミゲル!」
「僕は、レイン・フォン・ミゲル。」
「俺たちは兄弟だよ。兄さん。」
「僕たちの大事な兄様です。」
「....ぁ、ごしゅじんさまは、いない?」
「...っ、いません。」
「...おれの、なまえ、107じゃ、ないの?」
「...兄さんの名前は、ノエルだよ。」
「......のえる。」
「はい、そして僕たちの兄様はミゲル公爵家の長男です。たとえ養子でも、僕たちの兄様は、公爵家の嫡男なんです。」
「奉仕なんてしなくていーの!...それとも、ヤらないと死んじゃう身体になっちゃったの?」
「...ぁ、ヒュッ、ごめ、なさ、ヒュー、ハッ、も、しわけ、」
「カインのばか。兄様、大丈夫ですよ。落ち着いて。」
「わー!!ごめん!兄さん!ゆっくり息吸って!」
兄さんの呼吸を戻しながら、濡れた目元にキスを贈る。兄さんは目を細めて、呼吸も落ち着き始めた。
「兄さんは目元を触られるのが好きなのかな?」
「そうみたいですね。落ち着くみたいですし、気が沈んでるときは、撫でてあげましょうか。」
「キスも贈っちゃう。」
過呼吸と頑張って話をしたせいか、落ち着いた兄さんはレインに凭れ掛かって眠ってしまった。レインがそのまま抱えて、脱衣所でネグリジェを着せて魔法で髪を乾かした。
兄さんの部屋は、昔よりかは物が増えてるが、無駄なものが一切ない。整えられたベッドの上に兄さんを寝かせて、ソファで夕食の時間までお茶をした。
「...っ、ん。...ごめ、なさ。....ごしゅじ、さま。」
「....寝言?」
「...そうみたい。」
「....ご主人様、ねえ?」
「多分、今日捕まえた奴隷商だよ。5年間買われないからって専用にしてたらしいから。」
「そいつは?」
「もちろん、死ぬよ。重犯罪だもん。極・刑。」
笑顔で答えれば、満足そうにレインは頷いて紅茶を一口飲み、兄さんのもとに向かった。そろそろ夕食の時間になるし、起こしたほうがいいと思ったんだろう。
「兄様、起きてください。」
「兄さん、ご飯食べよー。」
「....んぅ。」
目を開けて、俺たちを視界に入れてビクついたが、俺たちだと気付いたのか一息ついてから起き上がろうとした。しかし、安心していて、さらに体力が落ちているようで身体に力が入らないのか、再びベッドに沈んでしまった。
「兄さん、ご飯食べれる?」
「...ご、はん?」
「うん、料理人たちが兄さんも食べれるものを用意してくれたって。」
「食堂でみんなで食べましょう?兄さん。」
「....う、ん。」
頷いたのを確認してから、レインが兄さんに手を貸して、支えながら食堂に向かった。
✧
レインSide
僕に支えられて歩く兄様は、5年前の遊び歩いてた頃の面影はなく、完全に闇に堕ちていた。痩せ細り、綺麗なルビー色だった瞳は濁ってしまった。長くなってしまった金髪が顔に影を作り、甘いマスクは消え去り、色気のある声は掠れてしまっている。首枷のせいで、声も出しにくいようだったが、水分を取れば、声も出せるようになるだろう。
食堂について、室内に入れば、父様と母様が既に座っていて、こちらに気付いた母様が手招きしながら僕たちを呼ぶ。
「いらっしゃい、貴方達。」
「....ノエルが帰ってきたんだ。今日からは朝と夜は共に食事を摂ろう。」
「ノエル。ノエルは私の、母様の隣にお座りなさい。」
「な、マリア。私だって隣に...。」
「ジェン、うるさいわよ。」
「うう、ノエル。次は父様の隣にも座っておくれ。」
父様が落ち込みながら嘘泣きをしている。いい年をした大人が。と言いたいが顔が若作りなため、違和感はあまりない。兄様は、言われたとおりに母様の隣に向かったが、椅子に座らずにどこか迷ったような顔で、立っていた。
「....ノエル。」
「っ、は、い。」
「ノエルは、椅子に座っていいのよ。もう奴隷ではないのだから。」
「...。」
「....どうしたの?」
「...わ、かっては、いる、ん、です。....でも、」
「身体が動かない?」
ゆっくり頷く兄様。5年も奴隷だったのだから身に付いてしまったのだろう。母様が兄様に手を取って、ゆっくり誘導しながら椅子に座らせた。
「ほら、座れたわ。....ノエル、何でもゆっくりでいいのよ。」
「....は、い。」
「ふふ、いい子ね。」
母様が兄様の頬を撫でていると、料理長自ら食事を運んできてくれた。僕たちの前に、いつも以上に豪華な料理を並べ、兄様の前に消化が良く、食べやすそうな料理を並べた。
「おかえりなさいませ。坊っちゃん。」
「....ぁ、。」
「ゆっくりでいいのです。一口だけでもいいのです。ぜひ、食べてみてください。」
「...は、い。」
兄様には、具は煮込んで溶けただろう野菜スープとパン粥や果実をすりおろしたものなどが並べられている。
「「「「全てに感謝し、命に祝福を。」」」」
兄様は指を絡めるだけで、祈りは捧げられなかったが、食前食後の祈りを忘れていなくて良かったと思った。兄様は、スプーンを手にしたが、カタカタと震えて、終いにはスプーンを落としてしまった。
「っ、ごめ、な、さっ...。」
「大丈夫ですよ。坊っちゃん。どれなら食べれそうですか?」
「....あ、の、。な、にもはいって、ないし、なに、も、かかって、ないと、わかってる、けど。」
ごめんなさい、と謝る兄様をみて、この5年、ろくな食事を摂ったことがなかったことがわかる。母様が果実をすりおろしたものをスプーンで掬って兄様の口元に持っていく。
「ノエル。」
「...ん。」
「はい、あーん。」
「....ぁーーー。」
口に含んで、さほど咀嚼せずに飲み込めたのか、コクリと喉を鳴らしていた。
「もっと、食べる?」
「...じ、ぶんで、」
「はい、あーん。」
「...ぁーー。」
「ふふ、ノエル。食べるの上手ね。」
そう言って母様は兄様の頭やら頬やらを撫でまくる。兄様も満更でもないようで、目を細めながら嬉しそうに撫でられている。とても、かわいい。
「おか、さま、おれ、そんなに、おさなくない、です。」
「あら、母様には小さなノエルに見えるわ。ノエルは心が疲れているのよ。身体だって5年前から成長してないようだし、ノエルが今一番必要なものは栄養と愛情よ。」
「あ、い?」
「愛。可愛いノエル、母様の5年分、いいえ、もっと前からかまってあげられなかった分の愛を貰ってくれないかしら?」
「...ぅ、あ、。」
兄様はやっと涙が出るくらい安心できたのか静かに涙を溢して、母様に撫でられている。
「...おれ、は、いらなく、ないの?」
「私の大事な息子。いらないわけないでしょう?」
「私の息子でもあるんだぞ、全く。ノエル、あのときはかける言葉を間違えた。今ならはっきり言えるぞ。お前は私の大切で愛しい子だ。」
「...で、も、。」
兄様は、僕とカインを見て、使用人たちの方を見て怯え始めた。
「兄様、もう、兄様の悪口を言う使用人はいませんよ。」
「父さんが辞めさせたからね。」
「兄様は僕達の大切な兄様です。」
「もう、いなくならないでね。今度は、俺たちで兄さんを守るよ。」
また、涙を溢しながら、母様がどんどん果実をすり潰したものを口に運ぶから必死に食べていた。果実しか食べられなかった兄様は食堂に用意された兄様専用ソファで、はじめは落ち着かないのかソワソワしていたが気付いたときには船を漕いでいて、食べ終えた母様が兄様の隣りに座って、船を漕ぐ兄様を寝かせて、俗に言う膝枕の状態で髪を梳きながら撫でている。
「兄様、かわいい。」
「ね、昔のかっこいい兄さんもいいけど、かわいい兄さんも最高。」
「なんたって、私の息子だからな!!」
「俺の兄さん!!」
「僕の兄様です!!」
「ちょっと、貴方達、うるさいわよ。ノエルが起きちゃうでしょう?」
「「「ご、ごめんなさい。」」」
「....ん、。」
「あら、ノエル。起きちゃったの?」
「おかあさま。」
「ふふ、声もちゃんと出るようになったわね。」
「こえ?」
「ええ、まだ舌っ足らずで拙いけれど、掠れてはいないわ。」
「...ほんとだ。」
「嬉しい?」
「...うん。」
「嬉しくないの?」
「...ごしゅじんさまは、おれのこえ、うるさいって。」
「あら、じゃあ、そのクソ野郎はとんでもない屑ね。」
「おかあさま?」
「あら、ふふふ。ノエル、今のは内緒ね?」
「うん。」
母様の黒い笑みと、汚い言葉は、実に恐ろしい。母様に撫でられる兄様は再び船を漕ぎ始めてしまったので、部屋に連れて行ってと母様に頼まれたのでカインと二人で眠りかけの兄様を連れて部屋に向かった。
兄様を、ベッドに腰掛けさせると、寝ぼけ眼で、僕のスラックスに手をかけてくる。その手を握って、兄様と視線を同じ高さにして問いかける。。
「兄様、さっき言ったこと、忘れてしまいましたか?」
「....ほうし、ひつよう。めいれい、じっこう。」
「いいえ、しなくて良いのです。」
「...。」
「...?どうしたんだ、兄さん。」
「...なるほど、もしかしたら寝ぼけて夢と現実が混ざっているのかもしれない。」
「...ふーん?...兄さん。」
「...はい。」
カインは兄様の腰掛けるベッドに寝そべり、兄様の膝に頭を乗せて問いかける。
「俺はだーれだ?」
「...ごしゅじんさま。」
「ざんねーん。カインでーす。」
「...かいん?」
「そ。」
「...おおきくなった。あんなに、ちいさかったのに。」
「そうでしょ!頑張ったんだよ!!頭撫でて褒めてもいいんだよ!!」
「...がんばった。いいこ。いいこ。」
すこし、顔をほころばせた兄様がカインの頭をよしよしと撫でている。そして、カインはドヤ顔でこちらをみてくる。無性にイライラしたので、僕もベッドに上がり、兄様を足の間に挟むように、腰に腕を回し、肩に顎を乗せて問いかけた。
「兄様、僕は誰ですか?」
「...レイン。」
「はい、僕も頑張りました。」
「...そうなの?」
「はい、兄様を抱えられるほど大きくもなりました。」
「...れいんもおおきくなった。」
「...僕も、撫でてください。」
「...いいよぉ。」
カインを撫でている逆の手で、肩に乗った僕に頭を撫でてくれる兄様。
「ふふ、嬉しいです。」
「...よかった。」
「さあ、兄様。寝ましょうか。」
「...ほうし?」
「しません。一緒に温かい布団で眠りましょう。」
「...かいんも?」
「もっちろーん!!俺も一緒!!」
「...ふふ、なつかしい。むかしみたい。ゆめ?」
「いいえ、夢じゃないですよ。」
「明日も一緒にご飯食べようね!」
「...うん。」
「「おやすみなさい。愛しい、兄様/兄さん。」」
僕達の間で眠りにつく兄様、カインと二人で頬のキスを贈って、抱きかかえるようにして眠った。
Fin.
「うん?もちろん、エミリアちゃんも、ルーリアちゃんもかわいいよ。」
すれ違う女の子たちに、俺、ノエルは甘いマスクと色気のある声でかわいいと褒めそやす。女の子たちは、声をかけられれば、遊んだことのある子は手を振り返してきて、遊んだことのない子は頬を染めて控えめに手を振り返してくれる。
俺は、5歳でこの公爵領の領主であるミゲル公爵に孤児院から引き取ってもらい、養子にしてもらった。子供に恵まれなかった公爵夫妻は俺を実子のように甘やかしてくれた。
しかし、引き取られてから1年後。
義母である公爵夫人が子宝に恵まれ、俺も義母と共に生まれてくる弟を心待ちにしていた。
生まれてきた弟は双子で、とても可愛らしかった。どちらも公爵夫妻に似て、整った顔立ちをしているのがよくわかった。
弟たちが成長するに連れて、顕著になる使用人たちの態度。生まれたての頃は、同じように世話をしてくれていた。しかし、成長するごとに表面上は世話をしているように見せて、俺は自分のことは自分でやらされるようになった。手伝ってくれていた湯浴みや着替えはいつしか手伝いに来なくなった。
陰では聞こえるように、「実子様方がお生まれになったから。」「もう、あんな孤児に媚びる必要はないわね。」と。
俺は、そうなることを稚ながら理解していた。だから孤児院にいたときを思い出し、自分のことは自分で整えた。むしろ、食事だけでもちゃんと取らせてもらえるだけ有り難いと思っていた。
その頃から、俺は街にでかけては、悪ガキとつるんだり、後継者に名が上がらないように、わざと素行を悪くした。それと同時に、いつでも出ていけるように、もともと殺風景で公爵夫妻に「何か買おうか?」と提案されているくらいの自室を整理し始めた。俺には専属の侍従はいなかったので、人事的処理がなかっただけ楽だった。
16歳の成人のパーティーでも、公爵家の名を傘に下位の貴族令嬢を侍らせていた。パーティー後に公爵様に呼び出されたので、執務室に行けば、難しそうな顔をして口を開こうとしたので、声を発する前に、口を挟んだ。
「俺は、公爵家の爵位継承権を放棄します。」
「.....っな。」
「俺には、要りませんからね。それに可愛い弟が二人もいるんです。俺は、要りません。」
「....。....そう、だな。」
「はい。では、失礼します。お休みなさい、公爵様。」
俺はそう言って執務室を出た。今の会話を隣接する養父の休憩室で義母と弟たちに聞かれていたなんて、露知らずに。
✧
公爵Side
妻のマリアが、待望の息子を二人も産んでくれた。ノエルにも弟ができて、これで遊び相手ができて、今以上に仲良くなれると――――思っていた。
だが、望む未来通りにはならず、双子のカインとレインに物心がつき始めるのと同時に、ノエルの悪評が耳に入るようになった。それは、年月が経てば経つほど増えて悪化した。ノエルの成人を祝うパーティーで、悪評通りの行動をするノエルを見て目の前が真っ暗になった。
一体どこで間違えたのだろうか。
少し注意して、皆で久々にお茶をしようと、休憩室に妻たちを集めておいて、執務室にノエルを呼んだ。
しかし、やってきたノエルは悪びれた顔もせず、私が声をかける前に、
「俺は、公爵家の爵位継承権を放棄します。」
と、驚いて一言発しただけなのに続けざまに
「俺には、要りませんからね。それに可愛い弟が二人もいるんです。俺は、要りません。」
と。私はとにかく何かを言わないといけないと思い、言葉を発したが、間違えてしまった。そのまま挨拶をして執務室を出て行ってしまったノエル。閉じられた扉をただ見つめるだけで何もできなかった。
すると、隣で会話を聞いていた妻たちが部屋から出てきた。
「ジェン、ノエルは....。」
「....ああ、いつから、ああなってしまったのだろうか。」
「それにジェンのこと、公爵様って。」
「.....それが一番、私には刺さった。うう、心が痛い。」
カインとレインは、いつも怒られてしまう時間だがお菓子を食べて話を聞いていた。この子たちは、小さい頃から聡明で大人の会話も理解していた。
「父さま、兄さまのお部屋はなにもありません。」
「それは、あの子はねだらないからイベントの時しかプレゼントしていなかったからな...。」
「いいえ、父様。兄様のお部屋はプレゼントのような物もありませんでした。」
「なっ、どうなっているんだ。アズ。」
我が家の筆頭執事であるアズに聞けば、世話をしている使用人たちに譲っている、と。
そして、それはアズの目には身辺整理をしているように見えると。
✧
ノエルは行きたがらなかった為、王立学院の初等部に通ってはいなかったが、カインとレインは初等部に通っている為、ノエルの成人パーティーの翌日の朝には王都に向けて出発しようとした。
珍しく、ノエルは見送りにやってきて、微笑んでカインとレインの頭を撫でた。
「....いってらっしゃい。」
「いってきます。兄さま。」
「行ってきます。兄様。」
挨拶を交わして、馬車に乗り込もうとしたカインとレイン。しかし、それを遮るように矢が飛んできた。公爵家で雇っている騎士たちが私や妻を守り、別の騎士が息子たちを守りに行く。カインとレインは、ノエルに覆いかぶさられ、見ることはできないが無事なようだった。
騎士がノエルたちに近付くと、ノエルが急に顔を上げ、カインとレイン突き飛ばすようにして騎士に預け、守らせた。
その瞬間に、ノエルの脇腹を剣が掠め血が吹き出した。ノエルは脇腹を抑えながら、迫る賊を見つめていた。その次の瞬間にはノエルは賊に抱えられ連れ去られていた。賊はノエルを連れてそのまま全員撤退していった。
少しの間、誰も、何も言えなかった。
しばらくしてから、レインが「兄様...」と呟いて、その場が動き始めた。騎士たちは賊が逃げた方に馬を走らせた。一度屋敷に戻る為、使用人たちにも準備させていると、ノエルにつけていた使用人が小さく呟いた言葉を聞いてしまった。
「あんな、孤児。いなくていいのに。」
ああ、こういうのが原因で、あの子は。変わってしまったのか。と、納得がいった。
もちろん陰でそういうことを行った使用人は、皆辞めさせ、いつノエルが帰ってきても大丈夫なようにした。
――――――――しかし、ノエルは見つからず、帰ってくることはなかった。
✧
俺は賊に拐われ、アジトであるだろう小屋で手足を縛られ、猿轡と目隠しをつけられて床に横たわっているようだった。
賊たちが、「これじゃない。」とか、「はずれだな。」なんて、言いながら俺を見ているのだろう。俺は藻掻くこともせず、ただ、横たわっていた。
床の軋む音が増えて、誰かが近付いてきたのがわかった。
「あ、ボス。」
「...俺は双子を攫って来いって言ったよな?」
「スンマセン。しかし、双子をコイツが守ったもんで攫えなかったんッス。いくらかマシかと思って攫ってきたッス。」
「チッ...。こいつは養子だ。身代金を要求しても出さないだろうなぁ。」
「ええ~。んじゃ、適当にヤッて奴隷商に売っちゃいましょう。ボス。」
「まあ、その方が金にはなるか...。」
そんな会話を聞いて震えない奴がどこにいる。俺も体の震えを抑えることができずにガタガタと震え、動けないのに逃げようと後退ろうとした。
「ダイジョブだぜ。キモチイイことだけしような。」
「ーーッ!!!ーーー!!!!」
足の縄を切られ、腕は頭上で固定された。自由になった足を必死に動かすが、無駄な抵抗で、他の賊に足を抑えられ、服を脱がされた。
上半身を撫でるように手が這い回り、ズボンとパンツを同時に降ろされ、Yシャツだけに袖を通して、ほぼ全裸の状態にされた。男だったら使わないであろう胸の突起に生温かいものが触れ、突起を噛まれたことにより、それが舌だということに気付いた。噛んでは舐りを繰り返し、ただ痛かったそこは、段々と快感に代わり、突起だけで精を果たしてしまった。
すると、ボスだという男に腹を殴られ、喉を迫り上がってくるものがあった。猿轡を外され咳き込んでいると男が声をかけてきた。
「誰の許可を得てイッてんだ???」
「っ、ごほっ、ごめん、なさい。うぐっ。」
「ほお、いい声してんじゃねえか。頑張って喘げよ?」
「ひっ、ゆるし、て。」
そんな願いが通じることなく、男が後孔に指を挿れて、抜き挿しして、指を4本まで飲み込んでしまった俺の後孔は指の圧迫がなくなると、ぱくぱくと動いて、まるで男の竿を待っているような動きをしているだろう。
男は一気に最奥まで竿を挿れ、突いてくる。
「ーっあ"、ん"っ、い、っった"、い。お"ぐ」
「そうだろうなあ、だってお前を気持ちよくさせる気はないからな。」
「あ"っ、ぐ!!!」
「お前は当分は俺たちの性処理道具なんだ。っ励めよ。」
「んーーー!!!!!!んうっ!!!!!」
賊の一人の竿を口に挿れられ、無理矢理動かされ言葉を発することはできなかった。男は、男たちは俺の最奥に、喉奥に毎回出して、俺が少しでも気を失えば、殴ったり、吸っている煙草を押し付けて無理矢理目を覚まさせた。
そんな日々は体感だと、一週間程度続いた。実際は3日だったが。
雑に衣服を着せられ、目隠しも猿轡も縄も外され、男に連れられて小屋の外に出れば、小屋の前には幌馬車が停まっており、腰に鞭を提げた男が立っていた。大方、奴隷商に売られるんだろう。公爵家に迷惑がかからないなら、何でも良くなっていた。これでも、元孤児だ。環境の変化には慣れてしまえば問題ない。
俺は見てくれが良いから、そこそこな値段で売れたようで、賊のボスである男は上機嫌に小屋に戻っていった。俺は奴隷商の男に言われるがまま、幌馬車に乗り込んだ。幌馬車の中には、檻になっていて、弟たちと同じ年頃の少年少女が数人乗っていた。その全員の瞳は影が指し、真っ黒に見えた。
✧
俺が売られた奴隷商は、貴族向けではないようで、全てにおいて劣悪な環境だった。食事はろくに与えられず、水も最低限。一つの檻に何人も入って、奴隷商の男が、ストレス発散の為に殴る蹴る、鞭で打つの繰り返しだった。
檻の中には俺と同じ年齢の者はおらず、弟たちと同じくらいの子供ばかりだった。だからだろうか....。
俺は彼等を庇って、奴隷商の男の暴力を一身に受けて耐えていた。
少しでも見目を良くして、良いところまでは行かなくてもいい。ひどい扱いを受けない程度の人間に買われれば、良いと思って、庇い続けた。
そのうち、俺の身体は痣や切り傷が消えなくなって、俺以外の少年少女は皆買われていった。
俺は誰にも買われることなく、この奴隷商に残り続けていた。理由は簡単だった。俺はこの奴隷商の商品達と比べ、遥かに歳をとっていて、また、俺の瞳は赤色で、不吉だ。不気味だ。と買われることがなかった。
奴隷商の男は、俺が他の奴隷を庇うのを分かっているため、初めから俺を呼ぶようになった。
奴隷商の男は、俺に「ご主人様」と呼ばせて悦に浸るようになった。他の奴隷とは別に鉄製の首枷をつけられ、鎖で繋がれることも多々あった。
男は大陸を幌馬車で移動しながら奴隷を売り買いしていた為、俺はこの大陸を一周してしまった。その間に、俺は奴隷としてのルールを身体に叩き込まれ、思考も奴隷としてのものになり、命令がないと動くことができなくなった。
いくら庇い続けても、暴力は暴力で、痛いものは痛い。だが、それも最近、麻痺してきたようで、あまり痛みを感じなくなった。首枷を引っ張られて首が締まる苦しさも、冷水をかけられる寒さも感じなくなった。
俺が大陸を一周して再び公爵家のある国に戻ってきたのは拐われてから5年後だった。
✧
カインSide
その日は、5年に一度ある王都の大バザールの週の1日だった。兄さま、兄さんが拐われてからおよそ5年。俺は一刻も早く兄さんを見つけられるように高等部に通いつつ、歴代最年少で王国騎士団に入団することができた。
といっても、まだまだ下っぱで何かできるわけではないけれど、こういう大規模なイベントでは人員が足りない為、俺みたいな下っぱでさえ王都の防衛にまわされる。王都では奴隷の売買は法律で禁じられており、極刑レベルの罪だった。だからこそ、大規模なバザールの裏で行われる闇市を見回る必要があるのだ。
俺の巡回班は、同じく高等部に通っている先輩と、隊長を勤める本部の騎士の3人だった。
一歩、裏通りに入ればそこは闇市で、召喚獣の売買など薄暗い取り引きが目に入った。俺たちは騎士服が見えないようにローブを羽織って闇市の奥へ奥へと進んだ。
そろそろ闇市の通りがが終わるというときに、俺は見つけた。鞭を腰に提げた男の横に座り込む男の姿を。
首の枷から鎖が伸びて繋がれていて、髪は伸びきって腰まで伸びている。足にも枷がつけられていて、あからさまに奴隷だということがわかる出で立ちだった。
先輩と隊長も気付いたようで、ローブのフードを被り、男に近寄った。
男は客だと思ったのか、饒舌に檻の中にいる少年少女二人を隊長に勧める。俺は隊長が上手く情報を聞き出している途中だったが、口を挟んだ。
「おい、その鎖で繋いでいる男はなんだ?」
「ああ、こいつは役立たずでさぁ。5年も俺のところにいまして、なかなか買われないから俺専用の奴隷にしてやってるんでさぁ。買いますか?お客サン。」
「.....ふむ。」
隊長が、なぜ口を挟んだと言いたげに見つめてくるが、俺達だけで通じる合図を、ローブの中で隊長と先輩に見えるようにして手で示した。
『この男、兄、可能性あり、場合により抜刀』
我が公爵家の長男が誘拐された話は有名で、公爵領なら民までもが知っている。王都でも知られており、他の貴族からは、養子なんだから気にするな。と声をかけられていたが、それに対して、俺と同じく歴代最年少で魔法師団に入団したレインが激怒した為に、その話は社交界ではタブーになっていた。
だから、隊長も先輩もすぐに理解し、腰に下げる剣に手を添えて、俺を見守ってくれた。
「商人。」
「はい!なんなりと。」
「その男の顔を見せてもらいたい。」
「お客サンも変わりもんだねぇ、こんな年取った男がほしいのかい?」
そう言いながら男は、鎖を上に引いて、無理やり顔をあげさせた。髪の隙間から、濁っているが赤い瞳が見えた瞬間、俺は抜刀して、逃げられないように奴隷商の男の太腿を刺した。
「確保!!!!!」
「「了解!!!」」
闇市での奴隷商摘発は呆気なく終わり、檻の中にいた少年少女が最後の商品で、先輩が抱えてローブを被せ騎士団本部に向かった。兄さんと思われる男は、俺に手を引かれローブを被って素直についてきた。隊長が奴隷商を拘束し、本部についてからそのまま牢屋に入れに行った。
騎士団本部に少年少女と男を連れて保護確認をして休憩室で休ませることになった。枷をすべて外して、座って。と声をかければその場に座り込んで俯いてしまった。
「......、地べたじゃなくていい。おいで、ソファに座ろう。」
そう声をかければ、ゆっくり立ち上がって少年少女を抱えてソファに座った。そっと男の長い髪をかき分けて顔をしっかり見ると、殴られると思ったのかきつく目を瞑ってしまった。目元を撫でれば、不思議に思ったのか目を開いてこちらを見た。
男の顔は、5年前と全く変わらない顔立ちで、成長するだけの栄養がなかったのだと分かる。だが、そのおかげで間違うことなく、確信を持てた。
「...にい、さん。」
「....。....ぁ、ぃ、ん?」
「っ、そうだよ!兄さん!!カインだよ!!」
目を見開き、固まってしまった兄さん。そこにノック音が響き、三人共震え始めてしまった。
「入るぞー、...って、悪い。怯えさせたか?」
「...そうですね。」
「すまん、...大丈夫だ。怖いものはもうないぞ。」
「はあ、それで、どうなったんですか?」
「ん?ああ、お嬢ちゃんと僕ちゃんはうちで引き取ることになった。母さんも了承してるから連れて帰るよ。」
「....そうですか。そちらも、良くなることを祈ります。」
「ああ、ありがとう。...そっちもな。」
「はい。」
先輩は兄さんの腕から少年と少女を抱きかかえようとして、兄さんに阻まれた。その様子から兄さんが今まで他の子たちを守っていたことがよく分かった。
「兄さん。先輩...その人が二人を引き取ってくれるって。」
「.....。」
兄さんは先輩を睨みつけ、少年少女を抱える腕に力を入れた。
「あー...わかった、彼らに酷いことをしないと誓おう。」
「....。」
許したのか、ゆっくりと腕を解いて、少年少女に先輩のもとへ行くように促す。そして、二人の頭を優しく撫でながら言った。
「...だい、じょ、ぶ。...いって、らっしゃい。」
その光景は、5年前のあの日に被って見えた。
少年少女は、先輩のもとに行って一緒に部屋を出ていった。扉が閉まるのと同時に、俺は兄さんの手首を掴んで抱き寄せた。
「...っ、兄さん。...行かないで。置いて、いかないで。」
柄にもなく涙を溢し、成長できずに16歳だった頃のまま、俺と同じ身長くらいの兄さんの肩に顔を埋めて泣いてしまった。兄さんは少し怯えながらも、俺の背中に手を回して、優しく撫でてくれた。それだけで、俺は幸せだった。
✧
馬車に乗って王都にある公爵邸に帰った。馬車の中で、兄さんは怯えながらも、俺の手を握って頑張っていた。
「兄さん、何が怖い?」
「...ぁ、....な、ぐら、ない、です、か?」
「もちろん。痛いことは何もしない。」
「...ぁ、たらし、く、ぅ、り、ません、か?」
「どこにも売らないよ。兄さんはずっと家にいていいんだ。」
「....は、ぃ。」
「声はうまく出せない?」
「...は、い。」
「じゃあ、無理に話さなくていいよ。それから敬語も。」
「...ぁ、もうしわけ、」
「ふふ、敬語。」
「...ん。わか、た。」
そっと手を近付けて、頬を撫でれば怯えつつも、撫でさせてくれた。
屋敷の門の前に付けば、兄さんはカーテンの隙間からそっと外を覗いていた。兄さんは王都の公爵邸には来たことがないらしく、物珍しそうに見ていると、護衛騎士と目があったのか、びっくりして蹲ってしまった。
「大丈夫だよ。何に驚いたの?」
激しく首を振って、呼吸も乱れてきた為、体重の軽い兄さんを膝に抱えて肩に顔を埋めさせた。
「うーん、さっきと逆だけど、どう?いくらか落ち着いた?」
ゆっくり頭を撫でながら聞けば、僅かに頷いた。
玄関の前で我が家の専属執事のアズが扉を開けようとした。
「あ、アズ。待って。」
「?はい。」
「父さんと母さんに伝えてほしいんだけど。」
「何なりと。」
「俺が馬車を降りても、大きな声とか出さないように。って。」
「かしこまりました。伝えてまいります。」
父さんも母さんも、俺とレイン、どちらが帰ってきても必ず玄関で出迎えてくれる。もし、兄さんを見て、叫びだしたら、兄さんが過呼吸になってしまう可能性も考えなくては。
「伝えてまいりました。」
「ありがとう。」
「では、よろしいですか?」
「うん。」
馬車の扉が開かれ、俺は兄さんを抱えたまま降りた。父さんも母さんも、アズさえも何を抱えているのか不思議そうに見つめてくる。
「おかえりなさい。カイン。」
「おかえりなさいませ。カイン様。」
「おかえり、カイン。一体何を抱えているんだ...。」
「ただいま。ほら、兄さん。」
兄さんに声をかければ、ゆっくり顔を上げて、父さんたちを目に映す。それは父さんたちも同じのようで、目を見開いて、兄さんを凝視している。
「カ、イン。」
「なに?」
「....ノ、エル。なのか?」
「そうだね、ね?兄さん。」
「....ノ、エル。」
母さんがゆっくり近付いてきて、兄さんの頬に手を当てる。頬を撫でられ目を細める兄さんを見て母さんが涙をボロボロとこぼした。
「...ああ、ノエル。...お、かえりなさ、い。」
「本当に、ノエルなのか、。」
「ええ、ええ。...ジェン、私達の大切な息子よ。」
「ノエル、ノエル。」
父さんは何度も兄さんの名を呼びながら母さんと俺ごと兄さんを抱きしめた。後ろでアズは静かに涙を拭いている。
「...ぁ、ごめい、わくを、おかけ、して、」
「っ、迷惑なんてかかってないわよ!!」
「そうだ、ずっと、ずっと、待っていたんだ。」
「「私達の愛しい子。」」
「...こ、しゃく、さま。...ふじ、ん。」
「あら、いやだ。...公爵様ですって。」
「マリアだって、夫人だと。」
「ふふふっ。」「はははっ。」
二人は、顔を見合わせて、この5年分溜めていた笑顔を涙を溢しながら見せてくれた。
そして――――
「「ノエル、昔のように呼んではくれないのか?」」
「ぇ、ぁ。しかし、おれ、ぁ、わたし、は。」
「いいのよ、俺で。」
「何も心配しなくていいんだ。ノエルが過ごしやすいように領地の公爵邸も、王都の公爵邸も整えてある。」
「いつ帰ってきてもいいようにね。」
「私達は家族だ。」
「何も心配しなくていいのよ。私の可愛い息子。」
「....おと、ぅさま。....おか、さま。」
「ああ。」
「そうよ。」
そこに魔法陣が展開されて、レインが姿を表した。
「王都で、兄様が帰ってきたと耳にしたのでs....」
レインの瞳には俺が抱える兄さんしか映っておらず、顔をぐしゃぐしゃにしながら駆け寄ってきた。
「っ、にいさまぁ~!!!!」
一瞬大声にビクついたが、レインを瞳に映した。
「兄さん、レインだよ。」
「兄様、レインです。」
「...れ、ぃん。」
公爵邸に帰ってきたレインの号泣に、全員が再び泣き出してしまった。
いち早くアズが泣き止んで、湯浴みやら食事の用意をさせた。兄さんは使用人たちを怖がって、動けなくなってしまったので、俺とレインで湯浴みを手伝った。
俺が隅々まできれいに洗い、レインが流しながら各所に回復魔法をかけていった。痣がひどく、特に枷のついていた首と足首は黒ずんでしまっていた。全身の痣と切り傷はきれいに治せたが、やはり足首と首の痣は薄っすらと残ってしまった。
俺たちもついでなので一緒に風呂に入れば、屈んで俺たちのムスコを咥えようとしたからとてつもなく焦った。
「にっ、兄さん!!そういうことはしなくていいんだ!!」
「そうだよ。....さあ、兄様、おいで。一緒に入ろう。」
俺が注意し、レインが意識を逸らさせる。レインと俺の間に座って湯船に浸かる兄さんは縮こまって俯いていた。「上手にできなくてごめんなさい」と小さく呟いた兄さんを、レインが抱き寄せてすっぽり脚の間に入れてしまった。
「兄様、兄様はもう誰かに奉仕する必要はないんです。」
「...な、ぜ?」
「....。....ここはどこですか?」
「や、しき。」
「誰の?」
「こうしゃ、...おとうさま。」
「そうです。父様の家、つまり息子である僕らの家でもあります。」
「...ぉれは、ようし、だから。」
「それでも、息子です。兄様の名前はノエル・フォン・ミゲルです。」
「俺の名前は、カイン・フォン・ミゲル!」
「僕は、レイン・フォン・ミゲル。」
「俺たちは兄弟だよ。兄さん。」
「僕たちの大事な兄様です。」
「....ぁ、ごしゅじんさまは、いない?」
「...っ、いません。」
「...おれの、なまえ、107じゃ、ないの?」
「...兄さんの名前は、ノエルだよ。」
「......のえる。」
「はい、そして僕たちの兄様はミゲル公爵家の長男です。たとえ養子でも、僕たちの兄様は、公爵家の嫡男なんです。」
「奉仕なんてしなくていーの!...それとも、ヤらないと死んじゃう身体になっちゃったの?」
「...ぁ、ヒュッ、ごめ、なさ、ヒュー、ハッ、も、しわけ、」
「カインのばか。兄様、大丈夫ですよ。落ち着いて。」
「わー!!ごめん!兄さん!ゆっくり息吸って!」
兄さんの呼吸を戻しながら、濡れた目元にキスを贈る。兄さんは目を細めて、呼吸も落ち着き始めた。
「兄さんは目元を触られるのが好きなのかな?」
「そうみたいですね。落ち着くみたいですし、気が沈んでるときは、撫でてあげましょうか。」
「キスも贈っちゃう。」
過呼吸と頑張って話をしたせいか、落ち着いた兄さんはレインに凭れ掛かって眠ってしまった。レインがそのまま抱えて、脱衣所でネグリジェを着せて魔法で髪を乾かした。
兄さんの部屋は、昔よりかは物が増えてるが、無駄なものが一切ない。整えられたベッドの上に兄さんを寝かせて、ソファで夕食の時間までお茶をした。
「...っ、ん。...ごめ、なさ。....ごしゅじ、さま。」
「....寝言?」
「...そうみたい。」
「....ご主人様、ねえ?」
「多分、今日捕まえた奴隷商だよ。5年間買われないからって専用にしてたらしいから。」
「そいつは?」
「もちろん、死ぬよ。重犯罪だもん。極・刑。」
笑顔で答えれば、満足そうにレインは頷いて紅茶を一口飲み、兄さんのもとに向かった。そろそろ夕食の時間になるし、起こしたほうがいいと思ったんだろう。
「兄様、起きてください。」
「兄さん、ご飯食べよー。」
「....んぅ。」
目を開けて、俺たちを視界に入れてビクついたが、俺たちだと気付いたのか一息ついてから起き上がろうとした。しかし、安心していて、さらに体力が落ちているようで身体に力が入らないのか、再びベッドに沈んでしまった。
「兄さん、ご飯食べれる?」
「...ご、はん?」
「うん、料理人たちが兄さんも食べれるものを用意してくれたって。」
「食堂でみんなで食べましょう?兄さん。」
「....う、ん。」
頷いたのを確認してから、レインが兄さんに手を貸して、支えながら食堂に向かった。
✧
レインSide
僕に支えられて歩く兄様は、5年前の遊び歩いてた頃の面影はなく、完全に闇に堕ちていた。痩せ細り、綺麗なルビー色だった瞳は濁ってしまった。長くなってしまった金髪が顔に影を作り、甘いマスクは消え去り、色気のある声は掠れてしまっている。首枷のせいで、声も出しにくいようだったが、水分を取れば、声も出せるようになるだろう。
食堂について、室内に入れば、父様と母様が既に座っていて、こちらに気付いた母様が手招きしながら僕たちを呼ぶ。
「いらっしゃい、貴方達。」
「....ノエルが帰ってきたんだ。今日からは朝と夜は共に食事を摂ろう。」
「ノエル。ノエルは私の、母様の隣にお座りなさい。」
「な、マリア。私だって隣に...。」
「ジェン、うるさいわよ。」
「うう、ノエル。次は父様の隣にも座っておくれ。」
父様が落ち込みながら嘘泣きをしている。いい年をした大人が。と言いたいが顔が若作りなため、違和感はあまりない。兄様は、言われたとおりに母様の隣に向かったが、椅子に座らずにどこか迷ったような顔で、立っていた。
「....ノエル。」
「っ、は、い。」
「ノエルは、椅子に座っていいのよ。もう奴隷ではないのだから。」
「...。」
「....どうしたの?」
「...わ、かっては、いる、ん、です。....でも、」
「身体が動かない?」
ゆっくり頷く兄様。5年も奴隷だったのだから身に付いてしまったのだろう。母様が兄様に手を取って、ゆっくり誘導しながら椅子に座らせた。
「ほら、座れたわ。....ノエル、何でもゆっくりでいいのよ。」
「....は、い。」
「ふふ、いい子ね。」
母様が兄様の頬を撫でていると、料理長自ら食事を運んできてくれた。僕たちの前に、いつも以上に豪華な料理を並べ、兄様の前に消化が良く、食べやすそうな料理を並べた。
「おかえりなさいませ。坊っちゃん。」
「....ぁ、。」
「ゆっくりでいいのです。一口だけでもいいのです。ぜひ、食べてみてください。」
「...は、い。」
兄様には、具は煮込んで溶けただろう野菜スープとパン粥や果実をすりおろしたものなどが並べられている。
「「「「全てに感謝し、命に祝福を。」」」」
兄様は指を絡めるだけで、祈りは捧げられなかったが、食前食後の祈りを忘れていなくて良かったと思った。兄様は、スプーンを手にしたが、カタカタと震えて、終いにはスプーンを落としてしまった。
「っ、ごめ、な、さっ...。」
「大丈夫ですよ。坊っちゃん。どれなら食べれそうですか?」
「....あ、の、。な、にもはいって、ないし、なに、も、かかって、ないと、わかってる、けど。」
ごめんなさい、と謝る兄様をみて、この5年、ろくな食事を摂ったことがなかったことがわかる。母様が果実をすりおろしたものをスプーンで掬って兄様の口元に持っていく。
「ノエル。」
「...ん。」
「はい、あーん。」
「....ぁーーー。」
口に含んで、さほど咀嚼せずに飲み込めたのか、コクリと喉を鳴らしていた。
「もっと、食べる?」
「...じ、ぶんで、」
「はい、あーん。」
「...ぁーー。」
「ふふ、ノエル。食べるの上手ね。」
そう言って母様は兄様の頭やら頬やらを撫でまくる。兄様も満更でもないようで、目を細めながら嬉しそうに撫でられている。とても、かわいい。
「おか、さま、おれ、そんなに、おさなくない、です。」
「あら、母様には小さなノエルに見えるわ。ノエルは心が疲れているのよ。身体だって5年前から成長してないようだし、ノエルが今一番必要なものは栄養と愛情よ。」
「あ、い?」
「愛。可愛いノエル、母様の5年分、いいえ、もっと前からかまってあげられなかった分の愛を貰ってくれないかしら?」
「...ぅ、あ、。」
兄様はやっと涙が出るくらい安心できたのか静かに涙を溢して、母様に撫でられている。
「...おれ、は、いらなく、ないの?」
「私の大事な息子。いらないわけないでしょう?」
「私の息子でもあるんだぞ、全く。ノエル、あのときはかける言葉を間違えた。今ならはっきり言えるぞ。お前は私の大切で愛しい子だ。」
「...で、も、。」
兄様は、僕とカインを見て、使用人たちの方を見て怯え始めた。
「兄様、もう、兄様の悪口を言う使用人はいませんよ。」
「父さんが辞めさせたからね。」
「兄様は僕達の大切な兄様です。」
「もう、いなくならないでね。今度は、俺たちで兄さんを守るよ。」
また、涙を溢しながら、母様がどんどん果実をすり潰したものを口に運ぶから必死に食べていた。果実しか食べられなかった兄様は食堂に用意された兄様専用ソファで、はじめは落ち着かないのかソワソワしていたが気付いたときには船を漕いでいて、食べ終えた母様が兄様の隣りに座って、船を漕ぐ兄様を寝かせて、俗に言う膝枕の状態で髪を梳きながら撫でている。
「兄様、かわいい。」
「ね、昔のかっこいい兄さんもいいけど、かわいい兄さんも最高。」
「なんたって、私の息子だからな!!」
「俺の兄さん!!」
「僕の兄様です!!」
「ちょっと、貴方達、うるさいわよ。ノエルが起きちゃうでしょう?」
「「「ご、ごめんなさい。」」」
「....ん、。」
「あら、ノエル。起きちゃったの?」
「おかあさま。」
「ふふ、声もちゃんと出るようになったわね。」
「こえ?」
「ええ、まだ舌っ足らずで拙いけれど、掠れてはいないわ。」
「...ほんとだ。」
「嬉しい?」
「...うん。」
「嬉しくないの?」
「...ごしゅじんさまは、おれのこえ、うるさいって。」
「あら、じゃあ、そのクソ野郎はとんでもない屑ね。」
「おかあさま?」
「あら、ふふふ。ノエル、今のは内緒ね?」
「うん。」
母様の黒い笑みと、汚い言葉は、実に恐ろしい。母様に撫でられる兄様は再び船を漕ぎ始めてしまったので、部屋に連れて行ってと母様に頼まれたのでカインと二人で眠りかけの兄様を連れて部屋に向かった。
兄様を、ベッドに腰掛けさせると、寝ぼけ眼で、僕のスラックスに手をかけてくる。その手を握って、兄様と視線を同じ高さにして問いかける。。
「兄様、さっき言ったこと、忘れてしまいましたか?」
「....ほうし、ひつよう。めいれい、じっこう。」
「いいえ、しなくて良いのです。」
「...。」
「...?どうしたんだ、兄さん。」
「...なるほど、もしかしたら寝ぼけて夢と現実が混ざっているのかもしれない。」
「...ふーん?...兄さん。」
「...はい。」
カインは兄様の腰掛けるベッドに寝そべり、兄様の膝に頭を乗せて問いかける。
「俺はだーれだ?」
「...ごしゅじんさま。」
「ざんねーん。カインでーす。」
「...かいん?」
「そ。」
「...おおきくなった。あんなに、ちいさかったのに。」
「そうでしょ!頑張ったんだよ!!頭撫でて褒めてもいいんだよ!!」
「...がんばった。いいこ。いいこ。」
すこし、顔をほころばせた兄様がカインの頭をよしよしと撫でている。そして、カインはドヤ顔でこちらをみてくる。無性にイライラしたので、僕もベッドに上がり、兄様を足の間に挟むように、腰に腕を回し、肩に顎を乗せて問いかけた。
「兄様、僕は誰ですか?」
「...レイン。」
「はい、僕も頑張りました。」
「...そうなの?」
「はい、兄様を抱えられるほど大きくもなりました。」
「...れいんもおおきくなった。」
「...僕も、撫でてください。」
「...いいよぉ。」
カインを撫でている逆の手で、肩に乗った僕に頭を撫でてくれる兄様。
「ふふ、嬉しいです。」
「...よかった。」
「さあ、兄様。寝ましょうか。」
「...ほうし?」
「しません。一緒に温かい布団で眠りましょう。」
「...かいんも?」
「もっちろーん!!俺も一緒!!」
「...ふふ、なつかしい。むかしみたい。ゆめ?」
「いいえ、夢じゃないですよ。」
「明日も一緒にご飯食べようね!」
「...うん。」
「「おやすみなさい。愛しい、兄様/兄さん。」」
僕達の間で眠りにつく兄様、カインと二人で頬のキスを贈って、抱きかかえるようにして眠った。
Fin.
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