souls step

文月

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五章 彼岸と‥此岸?

2.色々ツッコミどころ満載なんです。

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「え? なんで今行かなきゃならない、かな? 」
 夕方。尊を迎えに来た優磨は、尊に彰彦宅でのお茶に誘われ、うきうきと提案する尊に困惑の表情を向けた。
 尊はまるでここんちの子みたいにこの家にすっかり馴染んでいる。
 (よくわかんないけど)親戚だからかな? って優磨もなんとなくそれを受け入れている。‥まあ、尊は何時も人懐っこくて‥図々しいんだ。
 今日はお盆(8月15日)の一日前だったが、優磨の予備校は今日はまだ休みではなかったので(※ 彰彦のバイト先の予備校は休みに入っている。‥そもそも、彰彦のバイト先は割とユルイ)今日も優磨は朝からそこに行っていたのだ。
 そりゃそうだ。休みだったら尊もここには来ていない。
 毎日来ているようにみえる尊だが、優磨が休みで家にいるときは、尊もこっちには来ないのだ。(そんな時は「明日は来ません」って尊から古図に連絡があるらしい。‥友だちか)
 ‥尊の都合‥ここを学童かなんかだと思ってるのか??
「それも、お盆? 電車もなにかも混むよ? そんな時期」
 お盆は流石に、優磨の予備校も休みになる。
 行くなら、このタイミングしかない。
 っていくら言われても、
「え、むしろ何故今行かなきゃならない? 」
 って思ってしまうだろう。(だって、受験生だよ?? )
 ‥わかります分かります。
 そいつの思い付きなんてそんなもんだ。
 深く考えてなんていないんです。
 深いため息をついて。彰彦は尊をちらっと見た。
 しれっとした顔をしている。そして‥何も考えてしゃべってなさそう。‥相変わらず。
「だって、優磨ちゃん‥ああ、そうだオープンキャンパスだよ。ほら、優磨ちゃんとオレが受けようって言ってたあの大学、‥オープンキャンパスやってるんだ」
 口から出まかせを言う。
 ‥もうちょっと考えて嘘をつけ。
「お盆にはやんないし、ってか、私はオープンキャンパスとか行かなくっていいかなって‥」
 ほら、バレた。しかも、全然相手の興味にヒットしてない。
「学校見に行って、校門前で写真撮ってその写真を飾るってどう、テンション上がるでしょ~? 。撮ろ? 一緒に」
 って、可愛い顔で「おねだり」作戦。
 ‥これって、女の子がするもんじゃ‥?
「一緒に? 」
 って‥ちょっと、優磨ちゃん乗って来た?
 彰彦が眉を寄せた。
「うん、一緒に♡」
 これでもかの、かわい子ぶりっ子。
 ‥ってかわいくないけど。‥でも、優磨ちゃんには利いてる。母性本能?? よくわかんないけど、小動物可愛いって心境だな。多分。俺は、そんなに動物好きじゃないからわかんない。
 っていうか。
 ‥映るのか? 幽霊って写真。
 ああ、心霊写真ってあるから映るんだわな。‥気持ち悪い感じに。
そんな写真、机に飾ったら、すっごい縁起悪くって受かる気しない。
 そんなこと、彰彦は思ったが、勿論言わない。
 心霊写真♪ 心霊写真♪
 って夏も密かに大乗り気だけど、そんなの表情にも出さない。
 この二人は、ちょっと似ている。
「危ないことはおやめくださいよ? 」
 って、おやつを持ってきた古図は相変わらず常識人なんだ。
 危ないこと、確かにそうだわな。駄目だよね。
「あ。今日は何ですか~? 」
 とうきうきする尊に、古図はにこっと笑う。
 古図はすっかり、尊を気に入っている。
「これですよ。尊ちゃん、好きでしょ? 」
 今日のおやつは、豆大福だった。
 古図の職場の近くにあるらしい和菓子屋さんのそれは、大きすぎない丁度ジャストなサイズで、中の粒あんの甘さ加減が絶妙で、しつこくなくって、隠し味にちょっと塩が効かせてあっておいしいんだ。
 勿論、尊だけじゃなくって、彰彦も夏も、古図自身も大のお気に入りだった。
 古図は、優磨が尊を迎えに来るようになってから、いつも6つ買ってくるようになっていた。
 因みに、一日目は、優磨が来るのを知らなかったので、一つ足りなくて、古図が我慢した。
 彰彦は、ここで「いいよ、食べなよ」ってタイプではないし、夏もそうでもない。
 ‥女の子にモテないぞ‥。
 夏の季節の今は、麩饅頭、葛餅、わらび餅がおやつのラインナップにのぼっている。いずれも、その和菓子屋で買っている。
 和菓子屋の不愛想な親父は「この頃、数が増えましたね」とかそんな世間話、どうでもいいのか、してこない。それが、古図にはちょうどいい。
 古図ばかりにおやつを任せるのも悪いから、時々は彰彦も買ってくる。
 彰彦が買ってくるのは、角のたい焼き屋のたい焼きやら、果物だ。
 ‥この家、夕飯のメニューには全然こだわらないけれど、(毎日ほぼ、豆腐、時々、ところてん、もしくはメカブ)おやつにはやたらこだわる。
 でも、こう毎日何かを買ってくることは珍しい。夏もいるし、毎日尊たちが来るから、だ。
 いつも静かな彰彦宅が、ここのところ普通の家並みに活気づいて見える。
 昼間、彰彦たちがいない時、夏と尊は勉強をして、尊が飽きれば庭の草むしりをした。
 そのせいで、この頃では昔の様な「廃墟感」が無くなりつつあるのだ! 
 (まずい、これはこれで、町長たちに怒られる‥! )
 でも、住んでるものとしては、清々しいものである。
 町長とかくそくらえ、だ。
「‥急に来られたら、伊吹さんにご迷惑にはならないかしら」
 って房子が言ったのには、一同「は! 」ってなった。
 伊吹さんってか恭二の‥なんだけど(恭二は伊吹の上司だし、そもそもあの会社は伊吹と恭二の会社)房子は恭二がお好きじゃない。だって、昔彰彦を実験台にしたから。房子は一生恭二を許さない。
 口には出さないけどね! 大人だから! ってか、口に出すのも嫌! 
 古図もそこら辺は心得てる。
 姐さん怒らせるのダメ、絶対。(この家の鉄則)
「大丈夫! 悪の組織の連中には見つかんないように連れ出すから☆」
 ってウインクして尊が言った。
 ‥はい、それ。それが「ご迷惑」っていうんだよ。
 ため息をつきかける彰彦に、
「尊ちゃんが天音ちゃんの振りして忍び込んで、どさくさに紛れてってどう? 」
 さっき「ご迷惑が‥」と良識ある発言をした房子が言った。
 ‥やっぱり、房子にも良識はなかった。
「尊ちゃんはどんくさいから、無理そう」
 夏がばっさり切り捨てる。
「無理ですね」
「まあ、無理だな」
 古図と彰彦、納得。
「‥ほら、やっぱりやめた方がいいんじゃない? なんだかよく分からないけど‥」
 と、優磨。
 豆大福に手を伸ばす。
 ふわり、と優しい手触りが何とも言えず気持ちいい。
 思わず笑顔になる。
 尊も豆大福に手を伸ばして、こちらはさっそく
 ガブリ、とかぶりつきながら、
「旅行したいんだよお! 勉強ばっかりでもう、頭パンクしそうなんだよう! 」
 と頬を膨らました。どっちが大福だかわかりゃしない。
 ‥でた、本心。
 ふふ、と夏が笑う。
「気分転換なら、広島、来る? 」
 夏が提案したが、なんてことはない、ただ尊をからかっただけだ。
 急に行くって言われても、困る。
「あ、それはいいね。ここ数年行ってない」
 面白いから、彰彦も乗るけど、これも本心ではない。
 ただ尊をからかうと面白い、ってだけ。
「‥いやいやいやいや。どうせなら、旅行に目的ってあった方が、いいじゃん? なんか、ダンジョン的な‥。ラスボスとか」
 尊はからかわれていることを気付いていないらしく、ちょっと本気にして、本気で断ってくる。
「遊びですまない感じだよ? 恭二さん中二だし」
 ふふ、と夏も攻撃の手を止めない。
 ほんと、同じ年には絶対見えない。
 この落ち着き具合の差、身長の差。
「中二? 」
 優磨が首を傾げる。
 伊吹さんって「中二」のひと? 私たちより若いのかな? とか考えてるかもしれない。
「ちょっと、思想が危ない人のことです。危ないって、‥ちょっと二次元の世界にいっちゃってる的な? 」
 夏が丁寧に、その誤解(多分)を解く。
 そして、新たな誤解を植え付ける。
「そうなの? 」
と、ここで優磨が不安な顔になる。
‥なんだそりゃ、聞いてないぞ。的な感じだ。
「‥ええ、まあ。普通の人に見えたんですけどね。お医者さんだったし、子供受けしそうな感じの‥」
 彰彦がちょっと、親戚のフォローをする。
 流石に、親戚を「ヤバい人呼ばわり」は、ね。
「まあ、人は見かけによらないからねえ‥」
 と、それをまたわざわざ悪い感じにするのが、夏だ。
「え、行かない方が絶対いい感じじゃないですか? 危ないですよね‥」
 もう、優磨の不安はマックスだ。
 そうだな。でも、ま、この方法で、いいんじゃないかな! 
 危ない→行かない方がいい。
 これ、絶対至言!!
「そんな危ないところに、天音ちゃんは、いるんだよ? 」
 ここで、尊が真剣な顔で優磨を見上げた。
「‥天音ちゃんってこの間お葬式に出た? 」
 こてん、と優磨が首を傾げる。
 しかし、尊をみて直ぐに「そのわけ」に気付いたらしい。
 だって、尊もそう、だし?
「‥え? 天音ちゃんも幽霊なの? って、でも‥幽霊だったら、勝手に帰って来れるんじゃない? 」
「‥あの子チョット、ガンコなところアリマスカラ‥」
 ‥それに、オレだって、今まで行方不明だったわけだし。
 幽霊だって、そういつも自由とは限らない。
「なんで、片言‥」
 だけど、尊が頑固なことは知っている。
 こうなったら、絶対意見を変えないんだ。
 なら、自分がついて行って危険なことしないか見張るしかない。
 優磨は諦めて、盛大にため息をついた。
「分かったよ。話すだけね。説得して、無理だったら帰る。それで志望校の前で写真を一緒に撮って、この前ガイドブックでみた話題のアイスクリーム屋さんでアイス食べて、東京スカイツリー見て、で、帰る。決まりね」
 ‥だたの、デートだ。
 そう思ったのは、尊もだったらしく、超が付きそうなほどデレデレした顔をしている。
「うん♡ 彰彦兄さんたち、要らない感じだね♡ 」
 ‥俺たちも行きたくないですけど‥。
 なにその、がっつり東京観光。
 彰彦の顔が引きつった。
 ちらり、と夏を見る
「あ、ついでにお台場行ってみたい。テレビ局とか見てみたい」
 ‥夏も観光気分。
「分かったよ、‥俺も行く」
 はあ、と今日何回目かのため息をつく
「彰彦。大人はあんただけなんだから、しっかり皆の面倒を見るのよ」
 ふふ、と房子が彰彦に念を押した。
「はいはい」
 彰彦のうんざりした、既に疲れた顔‥。
 古図は、苦笑いして彰彦を見た。
「‥ホテルの予約取れるのかな‥」
 夏がスマホを出そうとするのを、房子がどや顔で制止した。
「親戚に連絡しておいてあげるわ。‥一人私の崇拝者みたいな子がいるから」
 と、にやり。
 微笑みが黒い。
 ‥母さん、怖い。
「知らない人いっぱいだけど、大丈夫かな」
 夏は、さほど気にならないらしく、出しかけたスマホをしまった。
「大きな家だから、大丈夫だと思うわ。先に、連絡してみるわね」
 ‥西遠寺の方(ほう)の親戚かな‥。
 崇拝者‥。
 何だろう。怖いよ‥。考えるのが怖いよ‥。


 結局、誰が可哀そうって、そりゃ、彰彦だろ。って話。
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