souls step

文月

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四章 いい神様

3.偶然と必然

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 病気になっている時、沢山本を読んだ。
 ‥そう内容を覚えているわけではない。なんせ、暇を紛らわせようとして読んだだけだ。
 シェークスピアもその中の一つだった。
 たまたまうちにあったから読んだだけ。母さんが好きだったのかな。
 それだけ。
 ホントに暇だったから。
 料理も習った。
「覚えておいたら将来自炊する時に役に立つでしょ? 」
 って言った母さんは、でも、少し苦しそうだった。
 将来が来るって思えなかったんだ。
 我も、
 両親も。
 だからかな。
 我が
「卒業旅行は北海道らしい。楽しみだから調べてたら知床にも行ってみたくなった。元気になったら行きたい」
「そのときは家族がいいな」
 とか「将来」の話をしたら喜んだ。
 ‥病人が「来年なんてどうせ来ない」とか言う程、周りを悲しませることはないよね。
 口だけでもせめて、希望が持てることを言うべきだ。‥それが、気遣いって奴だ。
 いよいよ苦しくなったら、そんな余裕すらなくなるのかもしれないが、せめて「言える間は」ね。
 伊吹に会ったのは、そんな時だった。
 伊吹は医者で、我は患者。
 ただそれだけの関係。
 両親が選んだ医者が伊吹だったってことは只の偶然なんだけどね。

 一目で「こいつ、なんか変な奴かも」って思った伊吹は、話していくうちにそれが確信に変わるタイプの奴だった。 
 別に目つきがヤバいとか素行が問題とかじゃない。神の直感ってやつ?
 ‥正直その後伊吹経由で知り合う(って程でもない。相手は我のことを知らない。我が目撃しただけだ)恭二はどちらかというと関わり合いになりたくない感じがしたが、伊吹は‥そんな感じじゃなかった。
 見た目とか、素行とか‥少なくともそういう見えてる面は完璧だった。
 母親が「伊吹さんが天音のお婿さんになってくれたらいいのに♡」って密かに言ってたのには、全力でNOっていいたいけど!
 我が元気で「普通に生きてて」もわざわざ関わり合いになりたいかって言われ絶対お断りだぞ。
 なんか‥「コイツ、なんでかわかんないけどなんか嫌よ? 」って感じ。‥男だから嫌なのかって? う~ん、我は男か女かとかって概念は人間ほどはない。‥そもそも、人間の性別に別に関心なんてない。
 そういうのじゃなく、コイツは‥なんか?
 (個人的にお付き合いはしたくないが)あくまでも、天音が病気と闘っていく上では、(両親にとっては)頼りになる奴だ。ただそれだけ。
 まさか、天音が死んだあと迄コイツと関わり合いにならなきゃならないとはね。
 手伝う約束したからまあ仕方が無い。
 ‥あの時ここに尊が現れるとは考えもしなかった。
 尊のせいでややこしくなった‥ホント、人生何が起こるかわからない。
 だけど「だからこそ」面白いんだろう。
 神である我が「神の気まぐれで‥」っていうのはおかしいけどね。
 神とは言え、我はもともと人々の信仰が作り出した存在。
 きっとこの世には、人間すらを作り出した「真の神」‥創造神とでもいおうか? ってのがもともと存在するんだろう。そういう存在の前では我も「少し人とは違う」「人の道理に合わない異質な」だけど、人間と何ら変わらない存在なんだろう。
 もしかしたら、日々の出来事でさえ、想像神が創り出したものなのかもしれない。あくまで「偶然を装って」ね。
 ① 由高に会って、由高に頼まれて(絆されて)人間としてこの世に「生まれて」 
 ② 天音として生きていくも、病弱で‥「元気な由高」を見たいって気持ちもあって、気紛れに(← きっと今思えばこれも神の手の内かも)尊を作り 
 ③ 病気療養で来た東京で伊吹と会い、本体の不調に気付いた分霊の尊がここに乗り込んで来た。 
 ④ そのタイミングで我の鏡の秘術(彰彦にかけてもらった)が限界を迎えてて天音の身体を保てなくなるピンチを迎える。 
 ⑤ 彰彦を東京に呼び出し、彰彦は伊吹と出会い、因縁の相手らしい恭二と再会する。
 人生、何が起こるかわからない。
 そういえば‥最も大きな驚きがあったな。
 ⑥ 由高の様に神の「加護を受けた」タイプではなく、我の様に「純粋に」神の魂を宿した楠に出会う。
 時間軸としては、この順番じゃないんだけどそこは問題にしなくていいだろう。
 更に驚いたことに、楠は我と違って「自分の意思で人間の世界に生まれた」わけではなかったってこと。
 まずはそのことに驚いた。何故そんなことが? って考えた。でも、それよりも重要なことは‥その状態が凄く危険だってこと。
 もし、コイツが自分の力におぼれて力を悪用するタイプだったら? 
 過ぎた力に飲まれて自爆していったら?
 そう思って少し観察したら、「あ、そういうタイプじゃないみたいだな」ってすぐ分かった。‥寧ろ危ないのは柊って男の方だって。
 だけど、危ないことには変わりないよね。
 だって、人にはない力を持ってる者が人の世に過ごしてるんだもの。
 共生の在り方って奴をレクチャーしてやらねばならん。
 ‥それに、楠は何やら悩んでいるようだし。
 悩んでるし、不安がってる。
 人より力を持っているのに、そのことを気付かず、そして人とは違うことを憂いてる。
 周りの誰にも心を開けず、(開けてない癖に)誰にも振り向いてもらえないって傷付いてる。
 弱い‥可哀そうな子。
 なんかほっとけない感じだしね。
 我は‥面倒だけど長期戦を覚悟してここにとどまることにした。
 何やらされるのか不安だった(正直のところね)伊吹も‥今のところ「手伝う」内容を明示してきてないしな。
 手伝うって言った手前、何かしらしてやらねばなるまいて。
 ‥しかし、伊吹の奴ホントに何やらせるつもりだ。 
 こんなに何もないと「コイツやっぱり只のロリコンで我をストーキングする為に「手伝え」なんか言って来たんじゃないのか? 」って勘ぐってしまう。
 つまり、天音(見た目が可愛らしい「普通の」元女子高生)の手伝いを求めているのか、それとも(人ならぬ力を持っている)我の手伝いを求めているのか? って話だ。
 ‥天音の手伝いを求めてないことを祈る。
 楠と関わって行けば、神である楠の魂が、自発的にここに来たわけではないのにここにきている理由もわかるかもしれない。
 分かれば何が出来るかって言われると何も出来ないんだけど‥少なくとも注意して見ておくことが出来る。
 何もしなければ、それでオッケーだ。
 まあ‥楠の性格上何もないだろう。だから、楠には危険人物柊のお守りを頼もうと思う。

 由高のお願いを聞いておしまいだと思ってた我の「人の世」生活は、どうやらもう少し終わりそうにないのだった。
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