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四章 いい神様
1.理由。
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天音が産まれてくるちょっと前の話。
天音が普通の人間なら絶対に知り得ない記憶‥
「随分熱心にお願いしてたわね。何をお願いしてたの? 」
芳美が天音の兄、由高に尋ねた。
‥否、このときはまだ天音が産まれてなかったから、彼はたった一人の芳美夫婦の子供だった。
由高はにこっと笑って、
「妹が早く産まれて欲しいですってお願いしたの! 」
(まだ産まれてなかったけど)芳美のお腹には赤ちゃんがいたんだ。
由高の父親が
「おや、妹がいいの? 」
って由高に聞く。
由高は一瞬ぽかんとした顔をする。
え? だって‥
妹だって‥既に決まってるから。
いいも悪いもない。
だけど、そんなこと父親には言わない。僕だけの内緒だから。
だから代わりに
「妹がいいな~って。隆君にも妹がいるけど、隆君は妹とあんまり遊んであげないみたいなんだ。
でも、その妹は隆君が大好きで僕たちが遊んでたらいつも一緒に遊びたそうに僕らを見てるんだ。
僕らが「一緒に遊ぶ? 」って聞いたら、隆君が「嫌だ! 園子はトロイから! 」って怒るんだ。
で「今は俺たちで遊んでるんだろ!? 」って‥
僕はそんなことしないよ。
ちゃんと可愛がってあげるんだ」
って言った。
父親は嬉しそうに
「由高はいいお兄ちゃんになるね」
って言ったんだ。
‥なるよ。産まれてきてくれたら。
だけど‥あの子は産まれてこないから‥僕はお兄ちゃんになれない。
‥このままでは。
だから由高は神様にお願いしたんだ。
産まれてきて欲しいって。
未来を変えて欲しいって。
由高は産まれつき不思議な子だった。
自分にまつわる未来のことをみんな知っていた。だけど、そのことを誰にも言わなかった。そして、その未来を変えようとも考えなかった。
ただ「おさらい」するみたいに、「既に知っている未来」の通りを生きて「やっぱりこうなったね」ってニンマリする。「転ぶことをはじめっから分かってるから、衝撃に備えることも出来るし、ウエットティッシュを持って行っておくことも出来る」‥そう思うらしい。
ポジティブ?
‥それとは違う。
もう諦めちゃって‥達観してる?
‥そういうわけでもない。
由高にとって、「それ以外の選択肢が考えられないん」だ。
お願い。僕は‥多分もう長くない。
なのに「あの子」まで死んじゃったら‥母さんはどうなる?
神様‥どうかあの子の代わりに僕の妹になってください。
そして‥僕の代わりに母さんの傍にいて‥。
天音が普通の人間なら絶対に知り得ない記憶‥
「随分熱心にお願いしてたわね。何をお願いしてたの? 」
芳美が天音の兄、由高に尋ねた。
‥否、このときはまだ天音が産まれてなかったから、彼はたった一人の芳美夫婦の子供だった。
由高はにこっと笑って、
「妹が早く産まれて欲しいですってお願いしたの! 」
(まだ産まれてなかったけど)芳美のお腹には赤ちゃんがいたんだ。
由高の父親が
「おや、妹がいいの? 」
って由高に聞く。
由高は一瞬ぽかんとした顔をする。
え? だって‥
妹だって‥既に決まってるから。
いいも悪いもない。
だけど、そんなこと父親には言わない。僕だけの内緒だから。
だから代わりに
「妹がいいな~って。隆君にも妹がいるけど、隆君は妹とあんまり遊んであげないみたいなんだ。
でも、その妹は隆君が大好きで僕たちが遊んでたらいつも一緒に遊びたそうに僕らを見てるんだ。
僕らが「一緒に遊ぶ? 」って聞いたら、隆君が「嫌だ! 園子はトロイから! 」って怒るんだ。
で「今は俺たちで遊んでるんだろ!? 」って‥
僕はそんなことしないよ。
ちゃんと可愛がってあげるんだ」
って言った。
父親は嬉しそうに
「由高はいいお兄ちゃんになるね」
って言ったんだ。
‥なるよ。産まれてきてくれたら。
だけど‥あの子は産まれてこないから‥僕はお兄ちゃんになれない。
‥このままでは。
だから由高は神様にお願いしたんだ。
産まれてきて欲しいって。
未来を変えて欲しいって。
由高は産まれつき不思議な子だった。
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ただ「おさらい」するみたいに、「既に知っている未来」の通りを生きて「やっぱりこうなったね」ってニンマリする。「転ぶことをはじめっから分かってるから、衝撃に備えることも出来るし、ウエットティッシュを持って行っておくことも出来る」‥そう思うらしい。
ポジティブ?
‥それとは違う。
もう諦めちゃって‥達観してる?
‥そういうわけでもない。
由高にとって、「それ以外の選択肢が考えられないん」だ。
お願い。僕は‥多分もう長くない。
なのに「あの子」まで死んじゃったら‥母さんはどうなる?
神様‥どうかあの子の代わりに僕の妹になってください。
そして‥僕の代わりに母さんの傍にいて‥。
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