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三章 影と鏡
4.いい人
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(西遠寺 隆行回想)
「君。大丈夫? 」
周りの音が全部消えた様な気すらした。
大きな手が自分に差し出され、たまらずそれに手を預けた。
今までの苛立ちや焦りが、その瞬間、ふっと総てなくなったのを感じた。
そんな経験は初めてだった。
全くの静かな状態。
俺はその今までに感じたことのない安心感に、気付いたら涙を流していた。
今までも「この人といたら何故か安心する」って人はいたけど、この人ほどではない。今までだったら弟が一番安心したけど、それの比ではない。
安心する人でなくても、誰かが傍にいたら少しはましだった。
孤独を埋めているって思ってたけど、ちょっと違うみたい。あれは、「苛立ちをぶつけていた」に過ぎなかった。
色んなことが、わっと頭の中で急に整理されたような感じ。
「大丈夫。ほら、立ち上がろう」
飲み物でも飲めば落ち着くよ。
そう、その人は笑った。
「ご家族に迎えに来てもらえますか? 携帯ありますよ」
俺は着の身着のまま出て来たことに、今更気が付いた。
気が付いたら、急にお腹がすいてきた。
ぐ~と小さく腹の虫が鳴いた俺に、その人はちょっと笑って
「‥お腹へったんですか」
と、お茶とお握りをコンビニで買ってくれた。
公園のベンチでお握りを頬張った。
天気は良かったけれど、肌寒かった。気付けば、コートを着ていない。
その人が、自分の荷物からジャケットを出してきて俺にかけてくれた。
‥いやに大荷物だな。どこかに旅行でも行くのかな。
‥時間は大丈夫なのだろうか。
気になったが、聞きたくはなかった。
‥そういえば、俺は、もうお金がない。長距離バスに乗るのに使ってしまった。別にどこに行くという予定はなかったが、とにかくどこかに行くために、東京行きの長距離バスのチケットを買い乗り込んだ。
お金はそれに使ってしまい、もう手元には数百円しかない。
自分の計画力の無さが悔やまれるが、普段から俺は、そんなに物を考えられない。
今みたいに、こんなに「いろいろ」考えられない。
‥結構いつもイライラしている。
珍しくいろいろ考えたら、やたら疲れた。
安心感と疲労感で俺はただ、もう寝てしまいたかった。
でも、寝て起きたら、もうこの人はいないかもしれない。(まあ、そうだろう)
俺は寝たくなかった。
「大丈夫。僕は、いますよ。‥いる方が、君はよさそうですね」
困ったようにその人が笑ったのを見たら、安心して、急に眠くなった。
その後の記憶は、実はあまりない。
その人は、今は楠と呼ばれて俺の傍に‥俺たちの傍にいる。
ここ(裏西遠寺の寮)‥後の、『TAKAMAGAHARA』だ‥の人によると、
楠は、ここの人のスカウトに応じて、今日この寮に入る予定だったらしいのだ。そして
「この人は、どうやら、僕と一緒にいないと駄目のようだから、一緒にいさせてほしい。‥この人も、僕と同じでどうもただの人じゃないようだ。‥とにかく、この人が起きてから話をしましょう」
と、楠が言ってくれたらしい。
で、起きた俺に何個か質問をした後、
「自分には、ここで役に立つ能力はない。でも、役に立つと言えば、僕は異能者は、見たら割とわかりますよ」
俺もそう言った、ということになっている様だが、言った覚えはない。
多分、結果そうだったから、後からそういう話になったのだろう。
だけど、まあ、順番なんて別にどうでもいい。
あの時、本当に楠に会えてよかった。
会えていなかったら、どうなっていただろうか。
西遠寺の家に連れ戻されて、またずっと閉じ込められていただろうか。
そんなことは考えたくない。
‥楠の本当の名前すら知らなくても、俺は本当にそう思えるんだ。
因みに初めて柊の声を聴いた楠の何とも言えず引きつった‥今までニコニコと話していた楠の顔とは違う、なんとも人間味のある‥顔は、今も柊の頭から離れず、その顔が見たくて、わざわざ楠の耳元で小声で話している、というのは柊だけの秘密だ。
※ 既に本編含め、何度か書いて来た柊の回想であるが、元々はここが初見だったことが発覚した。多分、この時点では尊が主人公で柊と楠はサブ的な存在だった‥と思われる。
「君。大丈夫? 」
周りの音が全部消えた様な気すらした。
大きな手が自分に差し出され、たまらずそれに手を預けた。
今までの苛立ちや焦りが、その瞬間、ふっと総てなくなったのを感じた。
そんな経験は初めてだった。
全くの静かな状態。
俺はその今までに感じたことのない安心感に、気付いたら涙を流していた。
今までも「この人といたら何故か安心する」って人はいたけど、この人ほどではない。今までだったら弟が一番安心したけど、それの比ではない。
安心する人でなくても、誰かが傍にいたら少しはましだった。
孤独を埋めているって思ってたけど、ちょっと違うみたい。あれは、「苛立ちをぶつけていた」に過ぎなかった。
色んなことが、わっと頭の中で急に整理されたような感じ。
「大丈夫。ほら、立ち上がろう」
飲み物でも飲めば落ち着くよ。
そう、その人は笑った。
「ご家族に迎えに来てもらえますか? 携帯ありますよ」
俺は着の身着のまま出て来たことに、今更気が付いた。
気が付いたら、急にお腹がすいてきた。
ぐ~と小さく腹の虫が鳴いた俺に、その人はちょっと笑って
「‥お腹へったんですか」
と、お茶とお握りをコンビニで買ってくれた。
公園のベンチでお握りを頬張った。
天気は良かったけれど、肌寒かった。気付けば、コートを着ていない。
その人が、自分の荷物からジャケットを出してきて俺にかけてくれた。
‥いやに大荷物だな。どこかに旅行でも行くのかな。
‥時間は大丈夫なのだろうか。
気になったが、聞きたくはなかった。
‥そういえば、俺は、もうお金がない。長距離バスに乗るのに使ってしまった。別にどこに行くという予定はなかったが、とにかくどこかに行くために、東京行きの長距離バスのチケットを買い乗り込んだ。
お金はそれに使ってしまい、もう手元には数百円しかない。
自分の計画力の無さが悔やまれるが、普段から俺は、そんなに物を考えられない。
今みたいに、こんなに「いろいろ」考えられない。
‥結構いつもイライラしている。
珍しくいろいろ考えたら、やたら疲れた。
安心感と疲労感で俺はただ、もう寝てしまいたかった。
でも、寝て起きたら、もうこの人はいないかもしれない。(まあ、そうだろう)
俺は寝たくなかった。
「大丈夫。僕は、いますよ。‥いる方が、君はよさそうですね」
困ったようにその人が笑ったのを見たら、安心して、急に眠くなった。
その後の記憶は、実はあまりない。
その人は、今は楠と呼ばれて俺の傍に‥俺たちの傍にいる。
ここ(裏西遠寺の寮)‥後の、『TAKAMAGAHARA』だ‥の人によると、
楠は、ここの人のスカウトに応じて、今日この寮に入る予定だったらしいのだ。そして
「この人は、どうやら、僕と一緒にいないと駄目のようだから、一緒にいさせてほしい。‥この人も、僕と同じでどうもただの人じゃないようだ。‥とにかく、この人が起きてから話をしましょう」
と、楠が言ってくれたらしい。
で、起きた俺に何個か質問をした後、
「自分には、ここで役に立つ能力はない。でも、役に立つと言えば、僕は異能者は、見たら割とわかりますよ」
俺もそう言った、ということになっている様だが、言った覚えはない。
多分、結果そうだったから、後からそういう話になったのだろう。
だけど、まあ、順番なんて別にどうでもいい。
あの時、本当に楠に会えてよかった。
会えていなかったら、どうなっていただろうか。
西遠寺の家に連れ戻されて、またずっと閉じ込められていただろうか。
そんなことは考えたくない。
‥楠の本当の名前すら知らなくても、俺は本当にそう思えるんだ。
因みに初めて柊の声を聴いた楠の何とも言えず引きつった‥今までニコニコと話していた楠の顔とは違う、なんとも人間味のある‥顔は、今も柊の頭から離れず、その顔が見たくて、わざわざ楠の耳元で小声で話している、というのは柊だけの秘密だ。
※ 既に本編含め、何度か書いて来た柊の回想であるが、元々はここが初見だったことが発覚した。多分、この時点では尊が主人公で柊と楠はサブ的な存在だった‥と思われる。
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