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文月

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二章 お化けな情報と女子高生

16.天音のお願い

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 真っ白な顔で伊吹を見上げて
「‥きょうはもう‥休みます‥」
 って天音に言われて、半ば追い出される様に部屋を追われた。

 ‥みたか、彰彦。数分なら、鏡の秘術使えるぞ。‥彰彦に出来ること我に出来ないことはないと思ったが、‥思った以上に力を使うな。
 天音が大きく息を吐く。

 といっても、『鏡』そのものを創ったのは彰彦だ。
 天音はその『鏡』に、自分の記憶に入っている天音を映したに過ぎない。
 つまりは‥
 パソコンの本体(尊)を作ったのが天音で、OSを作ったのが彰彦。今はOSが壊れちゃってるから、急ごしらえでディスプレイを使い‥記録媒体(SDカードとか)を差し込んで画像を映した。(OSの入ってるパソコンのHDとディスプレイは別の物だから、パソコン本体が壊れてもディスプレイは生きてることもあるし、反対も勿論然りなんだ)画像は映ってるんだけど、それはただの画像で、動作はしない。
 だけど勿論天音はそんな例えしない。
 勿論だけどアナログな天音的な例えだったら‥「我が用意した丸太を彰彦が彫って「尊」という像を作った。今、像が風化して顔がのっぺらぼうになりかけている。だから、取り敢えずは超リアルなお面でその場を凌いだ。超リアルなお面作った我って天才じゃね? 」って感じかな?
 だけど、まあ‥天音ちゃんはそんなこと絶対言わない。例えとか使ってまで人に何かを「分かりやすく」説明することなんかない。
 だって、天音にとっては他人が理解してるかなんて別にそう意味があることじゃないから。
 他者に自分の意見を説明し、理解をしてもらい協力を乞う。もしくは、意見を聞いて改良する‥そういうコミュニケーションをとる習慣は「自分が唯一の」神である天音には、ない。
 それは天音が特別傲慢な神だからではなく、今までそうする環境になかったからに過ぎないのだ。(だって神だもんね)
 
 ドアが完全に閉じられるのを確認すると、天音は這うようにドアに近づき、カギを掛ける。
 カギを掛けたら、安心してその場に崩れ落ち‥「天音の変装」を解く。
 その姿は、彰彦に「コスプレか? 」と言われた(天音は聞いていない)神様然とした姿だ。
 若干目つきの悪い、決して「いい神様」という風には見えない姿だ。
 背の高さは丁度伊吹と同じくらい。
 若干肌寒さを覚えた天音は、そこにかけてあった伊吹の白衣を羽織った。
 壁に掛かった小さな鏡に自分を映し、
「おお、普通の人間に見えるな」
 若干嬉しそうに言う。
 逞しい腕と強靭な肩。白衣は自分に思いの外似合い(※ 本人の感想です)口には出さなかったが、「伊吹よりよっぽど男らしいな! 」ってこころの中でこっそり思った。
 この部屋に、監視カメラがないのは確認済みだ。(というか、壊した)

 術の維持、姿を更に替える、尊の抑圧。三つはきついな。
 元の姿でいる方が若干楽だから、尊を抑えている間は、出来ればこの格好でいたい。伊吹はどうやら決めた時間にしかこの部屋を訪れない様だ。それ以外はこの格好でいるか? そう考えたけど、「体調が悪そうなとこ見せたから‥少しの間は心配して頻繁に見に来るかもなあ‥(困るなあ)」って思ったり。
 それにしても、
 ‥彰彦は、思った以上に「普通じゃない」。
 尊が自分で維持してきたとはいえ、8年ほど持ちうる顔(鏡)を創ったのだから。
 彰彦だけじゃない。尊だって大したもんだ。

 我が想定していた以上に、尊は人間世界に溶け込んでいた。

 優磨ちゃんによって精神が安定していたから‥以上に、尊の努力があったからだろう。努力って言うか‥愛? 
 優磨ちゃんに触れたいとか、優磨ちゃんともっと一緒に居たい‥っていうような‥人間らしい「欲望」。
 我には理解できぬが‥そういうのは時には自分を高める‥努力するための糧になるらしい。
「死なせないであげたいなあ‥」
 尊の為に、‥優磨ちゃんの為に。
 今まではただの気まぐれに過ぎなかったのに‥
 尊は今や、ただの分霊ではなく「一人の人間」になっている。
 自分(天音)より立派に‥

 人間になっている。

 早く新しい顔を作ってもらわなければ。
 そのためには、彰彦だ。

「頼むぞ、‥伊吹先生」
 天音は、握りこぶしを見つめた。
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