souls step

文月

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二章 お化けな情報と女子高生

13.天音との再会。

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 芳美に西遠寺 伊吹とのことを頼んで既に一週間は経とうとしていた。
 そんな時、
 彰彦が、何かに呼ばれるように鏡神社‥つまり自宅横の神社に行ったのは、明け方というより真夜中に近い時間だった。
 神社というより小さな社でしかない鏡神社は、祠の前にご神体である鏡が出してある変わった神社だった。
 その鏡が、例の、高校生(大島)が「なんで外に鏡があるんだろう」と呟いていた鏡であり‥優磨と見に行って「これニセモノだ」って言った鏡だ。
 ‥そういえば、あの時はわざわざ見ることはなかったけどあの時の男子高生(大島)が見てた時はすでに偽物だったんだな。
 彰彦はまだ確実に頭が覚醒していない‥寝ぼけ眼でぼんやり鏡を見た。
 と、その偽物が‥ぼんやり光っている。
 月明りを反射しているのでもない。それ自体がほんのりと発光しているんだ。
「? 」
 ふらりと近づくと、鏡の中に何かが映っているのが見えた。
 人‥?
 近づいて覗き込むと、

「久しいの」
 
 鏡の中の人影が言った。
 驚いて普通なら思わず跳ね退く‥んだろうが、案外冷静な自分が居て驚く。
「天音ちゃん? 」
 勿論ちゃんと顔が映っているわけでは無い。幼い日の面影があるわけでもない。ただ「今までの話の流れ的にそれしかないでしょ」っていうだけのことだ。
 ふふ、と鏡の中の人物が笑ったような気配がした。
 小さな影がゆらりと揺れ、影がすこし大きく‥大人の男性のものの様になる。

 ‥誰だ? 

 だけど、相変わらず顔は分からない。性別すらも分からないが、だけど何故かそれを彰彦は男だと確信した。
 さっき聞こえた声も低かった。女性の低音とは違う‥寧ろ男性としては低すぎない類の声。‥低すぎない、耳に変に残ることもない「丁度いい声」だ。
 直感的に「この身体が「あの神」のホントの姿なんだろうな」って分かった。
「その姿は、本当の姿ですか」
 彰彦が聞くと、男の影が「ああ」と機嫌のいい声で返事した。
「この方が楽だからな。主の前でだったらこれでもいいだろうて」
 ‥誰の前なら良くないのか分からんが。
 彰彦が首を傾げ
「‥いつもここに居たんですか? 」
 って話を変えると、男の影は首を振って
「いいや。主に用事を伝える為にちょっと、身体を抜けてきた」
 と答えた。
 身体? 貴方(天音)の身体はつい最近亡くなったと思うんだが?
 もしかして‥
「身体とは、‥尊が使っていた身体ですか」
 彰彦が推測で質問すると、影の男が頷いた。
「ああ、我が作った分霊じゃ。尊とはあの身体の名前か? 」
 ははと男の影が笑う。
「‥東京におられるんですか? それは‥尊がそっちに行ったからですか? 」
 当たり前の様に聞いてしまったけど‥そういえばこれも憶測だ。だけど男は
「そうなんだよ」
 そんなこと気にしてない風で、ふうと小さくため息をついて答え
「呼んだつもりはなかったが‥何か感じたんだろうな。夜病院の個室で寝ておったら急に奴が現れたから驚いた」
 と話を続けた。
 現れた? つまり、尊は本体に直接呼ばれたわけでは無かったのか‥。
 呼ばれたわけでは無かったが、本体の何らかの異常を察知したってことなのかな? 
 だけど知らない大人(天音の両親)と一緒にいた「気になる存在」に接触するのは憚られ(自分の事なんて説明すれば良いか分からないよね)こっそりついて行ったんだろう。(交通費も馬鹿にならなかっただろうに‥)そして、夜人気ひとけがなくなった時間を見計らって‥接触を計ったってわけだ。
「尊は何て言ったんですか? 」
 咄嗟の行動で、多分ノープランだっただろうに‥。
 尊は天音ちゃんに何を話したんだろうか? 
 彰彦が聞くと、天音は首を振った。
「何も」
「何も? 」
 彰彦が首を傾げる。
 何もって何だろ。
 ああ、でも‥あれか、勢いで来たものの何話したらいいかわからんってあるよね。
 そんなことを彰彦が思っていると
「いや、そうじゃなく‥会った途端に倒れた」
「ええ!? 」
「ドッペル何とかって奴かな」
 男が面白そうに言った。
 ドッペル何とかって‥ドッペルゲンガー? あの、出会ったら死ぬ的な怪談? 尊はそもそも天音ちゃんの分霊だから「本体に会っちゃった! 」って感じで驚いて‥ショック死した‥とか‥?
「‥自分の分霊とはいえ‥この世界で生きて来た人間が一人死んだっていうのに‥あまりに冷たすぎないか? 」
 彰彦が言うと、鏡の中の男の影が首を傾げる。
「死んだ? いや‥死んでないぞ。ホント不思議なことに‥いや待て待て。我を非難するな。
 ‥ホントに寧ろ今の状態の方が不思議なことなんじゃ」
「死んでない状態が不思議? 」
「そう」
 彰彦は再び首を傾げる。
「尊は、我の分霊だ。そして、重要なのは我の半身ではないってことだ。
 我の魂の半分を尊に与えたのであったら、尊の魂と我の魂は同じ強さだ。だけど、そうじゃない。
 尊の魂は、我の魂のほんの一部分にしか過ぎないんだ」
 ‥そうだったんですね。
 彰彦が相槌を打って話の続きを促す。
「だから、尊の魂は我の魂に比べて非常に不安定で‥弱い。だから、我に何の準備‥気の持ちようの話じゃな。何の気構えもなく我に会ったので、驚いて‥簡単に言うと、我の魂に引っ張られた。
 我の魂に引っ張られたら‥普通なら‥」
「吸収されて消えてしまう」
 男の言葉の続きを彰彦が引き受けた。「回りくどい話し方をせずにさっさと話せ」って続きを促してるんだ。
「だけど、そうならなかった。尊は、思った以上にこの世界に「繋がり」を作っていたってことだろう」
 よくわからないが、優磨ちゃんとの繋がりや日々の色々な‥修行(笑)の成果で一発吸収を避けられたって訳か。
「でも、無事には済まなかったらしく‥尊はその場で倒れた。気絶した。
 そして‥今も気が付いていない」
 意識不明の重体的な状態って感じか。
「大丈夫なんですか? その‥何も食べないと栄養失調とか脱水で死んじゃいますよね? 」
 彰彦は聞いたが‥
 いやでも‥幽霊は大丈夫じゃないか? そういうの‥
 と、直ぐに考え直した。だから
「いや‥何でもないです」
 と訂正しておいた。聞かなかった振りしてくれたらいいのにって思ったけど、案の定聞いていたらしく鏡の向こうの男が笑っている(雰囲気がした)
 クソ‥っ! 
 彰彦はため息をついて、
「それより寧ろ‥尊の魂はどこに行ったんでしょうか? 」
 話を戻した。(決して、照れ隠しで話を変えたわけでは無い)
 驚いて借り物の身体から抜け出して‥魂だけその辺りを彷徨っているのかも。
 成る程あり得る。我ながら冴えてるな。
 こころの中でこっそり自画自賛。
 男は首を微かに振ると、
「いや、眠っておるだけじゃ。
 だから、今の状態は不思議たと言ったであろう? 」
 と落ち着いた口調で言った。
 ‥成程。
「時間が経てばそれは何とかなるのですか? 」
 そのうち意識が戻る‥的な? 
 彰彦が首を傾げながら聞くと、男も首を傾げた。
 そして、真面目な‥思った以上に深刻な口調で
「それは分からぬが‥今のままじゃと、いずれ眠ったまま尊の魂は我に吸収されるだろな。眠ったままという状態は生命活動的には弱い状態じゃから」
 と言った。
 心臓がばくりと大きく鳴った。
 それって‥死ぬってこと? いくら知らない者でも誰かが死ぬってことを聞くのは、衝撃的だし、恐ろしい。
 それに‥そんなことになったらきっとあの子、優磨ちゃんは悲しむだろう。
「‥そしたら尊の身体も」
「魂が抜けたら消滅するな」
「消滅! 」
 驚いて小声で叫んでしまった彰彦に男が頷く。
「尊の身体はまがい物だから」
 正確に言えば、死ぬのではない。
 まがい物の身体だから、消滅が正しい。
「尊の身体は鏡が作った影のようなもの‥ちょうど今の我の状態で、顔は主がつけたものだ」
 あるように見えているが、本当はこの世にはないもの。
 今は辛うじてこの世に繋ぎ留められているだけで、いつまでもこのままではいられないだろう。
 まがい物であるから、跡形もなく消え去るだろう。‥まるで元から何もなかったみたいに。
 そんな‥
 彰彦がショックを受けていると

「主、迎えに来い。あの娘と」

 鏡の向こうの男が強い口調で言った。
「あの娘? 」
 俯いていた彰彦が顔を上げて男を見る。
「尊と一緒に住んでおった娘。優磨と言ったかの、あの娘じゃ。あの子を連れてこい。
 あの子は尊と最も繋がりが強いようじゃからな」
 この世で尊と最も繋がりがあるのが優磨だから、優磨が呼べば眠っている尊の魂も気が付く‥みたいな? 
 出来過ぎたお話だけど、それしかない気もする。 
「分かった! 」
 彰彦が力強く頷くと、男は
「あと‥個人的に我もあの娘には実際におうて(あって)見たい」
 って、(彰彦的には)どうでもいいことを付け加えた。
「え? 」
 ちょっと冷たい声が出てしまった。
 だって、目の前にいるのは天音ちゃんじゃなくて、厳ついマッチョ系っぽい男の影だもん。そんなのが「女子高生と会ってみたい」って言ったら、只の好奇心や興味というより‥なんか嫌だよね。
 彰彦の心を読んだのであろう男は呆れたようにため息をつくと、
「あの娘は‥多分、我ら‥我と尊の魂を調和する者じゃ。‥まあ、一言でいえば、相性がいいって奴じゃな」
 と言った。
 そもそも、尊が優磨と一緒に居たのもそれが原因だろう。とも。
 尊は他の誰でもなく、優磨と一緒に居ることを選んだ。それは尊の本能が「この者と一緒に居ると心地いい」と感じたから。つまり‥それが「相性がいい」の正体なんだろう。
「相性? 」
 彰彦が聞き返すと、男が頷く。
「人にも、気性というものがある。陰と陽のバランスやらが分かりやすいかの。
 性格とは違う。性格は、生まれ育った環境にも大きく左右されるであろう? 性格というのは、後付けの性質のようなもんじゃ。だけど、気性はその人の基礎‥土台のようなものなんじゃ。
 例えば、同じ家に育っていても、同じことを言われても‥皆が皆同じ様に感じ、同じ様に育つわけでは無いじゃろう? 」
 成程。
「同じものを同じ様に食べても、同じようには成長しない。それと同じじゃな」
 同じかな? それはちょっと違う気もする。体質は‥今は置いとこうよ‥。
 若干不満げな彰彦を置いてけぼりに、男は話を続ける。
「本人の意思に関係ないもの。いうならば、アレルゲンのようなもの。それは本人の趣味嗜好ではない。身体が受け付けないんだから仕方がない。
 例えば、世の中には水と相性が良い者もいれば、それこそどんなに練習しても泳げない者もいる。
 火に携わる仕事が出来る者もいれば、どうしても出来ないものもおる。
 それは本人の努力不足云々の話ではない。‥人はやたら努力を強いるが、それは違うんだ。
 魂のレベルでの相性が関係していることだから‥。努力云々で克服できるものではない。
 まあ‥そんな人間はそう多くはないんじゃがな。
 自然物と相性の良しあしというのはそんな風に、人にも多少はあるのだが、神はそれがもっと顕著なのじゃ。
 もう、この性質っていうものがある。水に親しんでる神は水にしか親しめない。火に親しんでいる神は、火にしか親しめない」
「はあ。水の神とか火の神ってことですよね」
「うむ」
「貴方は何なのですか? 」
「我は、天(あま)の神じゃ」
 ‥あまのじゃくの間違いですかね。まさか言わないけど。
 彰彦は、ちょっとしらっと来た。
 ‥性格の悪い天の神。‥いやだ。気まぐれで天変地異起こされそう。
「太陽神ってことですか。アマテラスの様な‥」
「天と言っても‥我は‥天候の神じゃ。雨乞いも、長雨を止ませる祈願をするのも、‥天の神にしたものじゃ。水の神に祈願するのは、洪水を止めてくれ‥じゃな」
「はあ」
 分かるような分からないような。つまり‥天変地異を起こせるほどの大物じゃないってことかな? 
 そんなことを話している間に、東の空が紫がかってきた。
 もう夜明けが近いみたいだ。
 当たりが薄明るくなり始めると、男はにわかに「もう時間か‥! 」と焦り初めた。

「もう‥尊には時間がない。あのまま尊が意識を取り戻さない場合は、悪霊に身体を乗っ取られることもあるかもしれない。
 あの娘しか‥尊を助けられる者はいない。
 あの娘は、我の様に神ではないが‥強い力をもっておる。
 だから、早く迎えに来い。あの娘と‥っ! 」

 最後は、無理やりとってつけた様に言って男の姿はかき消された。
 太陽に退散させられたみたい‥。天の神というより、悪神そのものだな。
 彰彦はそんなことを思い、もう何も映っていない鏡をぼんやりと見つめた。 
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