souls step

文月

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二章 お化けな情報と女子高生

10.わけの分からないことだらけ。

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「え? 」
 目を見開き、思わず声に出してしまった彰彦に、
「えって? 」
 優磨が首を傾げた。だけど、彰彦は優磨の事をまるで気にしていなかった。‥気にかける余裕がなかったんだ。
 ただ、わけが分からなかった。

「さ、入って。お経が始まるわ」
 弱弱しく芳美が笑う。
 芳美について一同が寺の中に移動する。
 ‥葬式や通夜の雰囲気というのは何度出ても‥慣れるもんじゃない。(そりゃあね)

「彰彦さん」
 寺から出たところで彰彦は優磨に呼び止められた。
「彰彦さんは、‥何か知ってるんですか? 」
 こんなところで話すのもなんだから‥って孝子が彰彦を自宅に誘った。そこまでは孝子の乗用車で行くことになった。
 房子も一緒にだ。久し振りに姉妹で話をするべきだって思ったから。古図は「後で迎えに行きますから連絡してくださいね」と言ったが、孝子から聞いた孝子の自宅は彰彦の自宅と驚くほど近かったから歩いて帰ることにした。
 古図帰宅。
 孝子が
「狭いけど‥」
 って先に断った孝子の自宅は、明るい洋風‥今風の一戸建てだった。
 狭いといっても、今は母一人子一人、二人で住むには広すぎる家だった。
 案内されたリビングでお茶を飲んでいたら、優磨が
「彰彦さんは尊の何を知っているんですか? 」
 と早速切り出して来た。
 大人と違って、子供は遠慮とかがない。‥いやそれほど切羽詰まっていたってことだろう。
「‥その子は、幽霊‥みたいな感じだったでしょ? 」
 彰彦は、一つため息をつくと意を決して優磨に確認した。
「はい」
 優磨が頷く。真っすぐ彰彦を睨んで、だ。
「‥その子は‥天音ちゃんの生霊みたいなものだと考えてもらって間違いじゃないです。
 「外で遊びたいけれどこの体では無理だ」って天音ちゃんは言ってました。あの子は‥そんな彼女の「外で遊びたい」が具現化した形なんです。天音ちゃんは「そういう存在がいるだけで満足」って言ってました。‥自分の分身みたいなものだから直接見ないでも、心でつながっているから「そういう気持ち」だけ共有できるってことらしいです。‥そこら辺は俺にはよくわかりません。
 その為に‥俺の力を貸してほしいって言われました。
 自分にそっくりな別人格。
 彼女はそう言っていました。俺はそれを作り出した現場に立ち会ったんです。でも‥あまりにも非現実的なことだから‥俺は今の今まで夢でも見ていたと思い込んでいたんです」
 ‥これくらいで納得してくれないかな??
 天音ちゃんは実は神で、自分を分霊して第二の身体を作ったんです。それに「鏡の秘術」で顔をつけたのは俺ですとかまさか言えないよ。
 言った瞬間、この場が凍り付くよ。(※ さっきの話でも大概だとは思うが)
 彰彦はこころの中でこっそり‥大きく息をはいた。
 優磨がショックで目を見開き凍り付く。
「尊が天音ちゃんの生霊‥。じゃあ‥天音ちゃんと一緒に‥尊も? 」
 死んじゃったの? は、だけど言えなかったようだ。
 でも、きっとそうだって顔‥ショックって顔してる。彰彦は直ぐに首を振った。
「天音ちゃんは、そうしたくないって言ってた。もう一人の自分には‥そうさせたくないって」
 尊は天音ちゃん自身のコピーではない。
 天音ちゃんの顔をした別人格だ。
 だから、天音ちゃんの死=コピーの死 じゃないとは思うんだけど‥。
 そもそも天音ちゃんの魂は神だから死ぬってことはない。死んだのは「天音という肉体」だけで、彼(神だから性別は不明)は本来の神に戻るだけだ。
「だけど‥」
 不安そうに彰彦を見る優磨。彰彦は、ふうとため息をついて
「尊ちゃんは幽霊なんでしょ? 大丈夫ですよ。俺の家の隣の社の鏡。あれが尊ちゃんの依り代‥というか本体です。あれが無事にあそこにある限りは、尊ちゃんも大丈夫ですよ。‥割れでもしてたら分かりませんが」
 って言った。優磨は目を見開いて、
「その鏡は?! 」
 って彰彦に詰め寄った。
 その鏡は‥の続きは「割れてませんでしたか?! 」って聞きたいんだろうけど、彰彦だってそんなの知らない。別に毎日確認してるわけでもない。
 でも‥多分割れてない気がする。
 鏡って言っても、普通の水銀が塗ってある所謂「鏡」じゃない。神社なんかにも置いてある銅鏡とかの鏡だ。‥そう割れないだろう? ‥多分。
「大丈夫だと思いますよ? 」
 って彰彦が言ったが、優磨はもう居てもたってもいられないって様子だ。
「今すぐ行ってみましょう! 」
 ぐいって腕を掴まれて立ち上がらされた。
 え~??
 不満げな彰彦に房子は
「行ってあげなさいよ」
 って無責任に言った。(さっきの話を聞かれてたのか! ‥恥ずかしい‥)

「鏡‥ある」
「‥あ、これニセモノだ」
 二人はほぼ同時に口を開いた。
「え!! 」
 優磨が彰彦を睨む。
「わかるんですか?! 」
「わかるよそりゃ、ここには「誰も映ってない」から」
 さも当たり前‥って顔で言う彰彦に対して優磨は「?? 」って顔をしている。
 その横を坂の上の制服を着た高校生が
「あ、優磨ちゃん。‥デート? 」
 ってニヤニヤ笑いながら自転車で通っていった。今日は休日だからきっと部活帰りだろう。優磨は、
「まさか! 」
 って即座に否定したが、相手はもう遥か向こう。明日学校で聞かれること必須だろう。頭が痛くなる。
 ‥だけど、自分たちが今してる話の内容と、自分たちが「デートしてる」って思われること。どっちがより「アリエナイ」かっていわれると、自分たちが今してる話の内容の方(がアリエナイ)だろう。
 (‥なんだけど)デートは否定しておこう。事実は、「親戚と立ち話してただけ」だから。普通に不本意だし、その上彰彦さんに悪い。
 そもそも‥放っておいて欲しい。面倒くさいな。人の事なんてなんで構うかな。例え‥アリエナイけど、例えばホントにデートだとしてもどうでもよくないか?? なんかアンタに関係あるか?? アンタの好奇心を満足させられるとか? ‥くだらない。
 デートとか恋愛とか、ホントどうでもいい。
「‥俺と優磨ちゃんは随分年が違うから、優磨ちゃんに失礼だよね」
 びっくりした様な顔で女子高生の去っていった方向を見て、彰彦は苦笑いして言った。
 歳の差とか‥貴方はそんなのものともしないスーパー美形ですやん。
 そんなこと思いはしたけど、やっぱり優磨にとってはそれも「どうでもいい」ことなんだ。
 美形とかどうでもいい。
 寧ろ、「この人は(こんなキラキラした)見かけによらずスーパー霊能者なのかも? 」って事の方が重要。
 だって、依り代って言葉が自然に出て来たよ? そんなの普段、普通の人の口からは絶対出てこない特殊ワードだよ?
 霊とか有り得ないって普通の人なら思うだろう。それの方が寧ろ「普通」‥でも、尊は現に幽霊だったわけだし。
 私はね、もう常識とか考えるのやめたの。起きてる現実が総て。あるがままを受け入れることにしてるの。
 その方が、楽だし‥何より面白いから。
 尊が生霊だろうが死霊だろうが変わりなくない? 寧ろ、未練残して彷徨ってた死霊(幽霊)より、女の子の願いによって生まれた生霊の方が百万倍ロマンがあるじゃない。
 その手伝いしたこの人とか‥スーパー凄い人だし、いい人じゃん??
 ちょっと変な人であることは間違いないかもだけど、いい人ってだけでそれを上回ってるよね?
 変な人 < いい人
 ‥ならそれでよくない?
 優磨がそんなことを考えてる横で、彰彦は鏡を前に腕を組んで考え込んでいる。
 そして、ボソリと
「誰が本物を持ち出したんだろう‥」
 って呟いた。
 あ! それ。私も思ってた。
 うんうんと優磨が頷く。
「天音ちゃん? ‥まさか、尊ちゃん? まさかね。持てないよね」
 彰彦は優磨そっちのけで考えごと続行中だ。
 まさかね。持てないよね? ん? なんのこと? 
 優磨は首を傾げる。
 ‥持てるでしょ。そんな軽いもの。
 一瞬優磨は彰彦が何のことを言っているのか分からなかった。
 あ! 
「幽霊だから? 」
 幽霊だから、霊的なものに触れたら危険‥って思ったってこと? そういうこと? 
 優磨が彰彦を見る。
「幽霊だから」
 彰彦が頷く。

 幽霊だから、実際の物は持てない。これ常識。‥そうだよね?? 常識だよね??

「幽霊って‥当たり前に物を持てないですよね? 」
 彰彦が首を傾げると、
「尊は持てるます。訓練したから」
 優磨が即座にドヤ顔で言った。
「え? 訓練?? 」
 訓練って何?! 
 目を見開く彰彦に、優磨は更にドヤ顔で
「訓練したから、尊は何でも持てるんです。で、普通に人間として今まで一緒に暮らして、それどころか学校にも通ってました。坂の上の高校に! 」
 って言った。
「ええ!??? 」
 幽霊だよね?? 
 幽霊が物を持つ訓練をして、優磨ちゃんたちと一緒に暮らして、「人間として」普通に学校にも通う??

 え?? 全然訳が分からないんだけど??
 
 思わず、ポカンとした表情になる彰彦だった。
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