souls step

文月

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二章 お化けな情報と女子高生

5.大島と彰彦

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「え? 」
 彰彦が大島を見る。
「僕は以前、八幡神社で貴方に会ったことがある気がします。雨の日‥母を一人で待ってました。その時、一緒に待って、話を聞かせてくれた人に貴方は似ている気がします。間違っていたらすみません」
 大島が門越しに彰彦に言った。
 僕、と一人称が変わったのは、相手が年上の人だからだ。
「それは‥間違いなく私ですよ。鎮守の杜の話をしましたか」
 するり、と言葉が‥記憶が出て来た。
 彰彦は縁側から立ち上がり、靴脱ぎ石に置いてあった草履を履いて門の外に出た。
「やっとお礼が言えます。僕はあなたの影響で神社に興味を持ったんですよ」
 大島は門の横まで来て、彰彦に向かい合わせに立ち、はにかんだような笑顔で彰彦に会釈した。
「私の? 」
 彰彦が目を丸くする。
 長身の彰彦だ。大島と並ぶと、頭二つ分以上違う。
 「久しぶりに見た」彰彦に、大島はしかしながら、それ以上の不思議な親近感を感じた。
 同じ趣味(=神社について考察すること)をもつ者の親近感だろう、と大島は瞬時に判断した。
「神社もまた歴史の伝承者と言えるかもしれないって言葉です。そして、僕もそう思いました。今でもそう思っています」
「‥‥」
 他人から、自分が昔思っていたことを聞かされるのは恥ずかしい。
 彰彦は赤面して黙り込んだ。
「僕は、‥八幡神以前の土地の神のことを考えているんです。神から人に繋がるという考え方は‥支配者の‥大和朝廷の都合に過ぎないですよね。氏神と言われたものも、勝手に系列の神に統合されちゃったりしていることもあるわけで‥。むかしからここにいた神、そういうのを調べることこそが、歴史を知ることなんだろうなあって‥」
 大島は、そんな彰彦の様子には気にせず続けた。
 真剣に、だけど面白そうに「自分の好きなこと」について語る大島の話を聞いて、彰彦は顔を上げた。
 興味を持った‥というより、真剣に聞かないと失礼だって思ったんだ。
 暫く話して、
「それを調べるのはなかなか難しいんですけどね」
 って大島が苦笑いで話を締めくくる。
「資料が揃わないよね」
 頷いて、彰彦も苦笑い。
 その後もなんだかんだと神社について話していると、日が陰ってきた。
「じゃあ、そろそろ‥ですがあの‥少しお聞きしたいのですが‥」
 話を切り上げた大島が、彰彦を引き留める。
「‥ここで、女の子を見ませんでしたか? 」
「女の子? どんな? 」
「高校生なんですけど‥決してそんな風には見えなくって、‥セーラー服を着たボーイッシュな見た目の‥一見中学生みたいな子なんです。
 ああ、そうそう。目が‥目の色が変わってるんです。黄色みたいな‥色素が薄い色をしているんです。それに、目が大きくって、一目見たら忘れない目立った顔をしてるんです
 髪型は黒髪でショートカットなんです」
「黄色い目をした女の子? 」
 彰彦が首を傾げる。
 全然見当がつかない。‥なんだろ、この子も「高校生神隠し事件」関連でうちを疑ってるのかな? この子も、所謂興味本位にうちを見に来た子なのかな? そんな風には見えなかったけど‥それだったら、嫌だな。
 一番に思ったのはそれ。
 だけど、大島の様子は、そんな「興味本位」って感じではなさそうだ。
 そうだとしたら‥そうじゃくても‥自分が出来る対応は一つだ。
「この辺りでその子を見たことがあるんだね? それで、この辺りに住んでる私も彼女を見たことがあるんじゃないかって思ったんだね? 」
 ‥これだろう。
 大島は頷いた。
「ごめんね。私は今日は仕事が休みでたまたまこの時間にここに居たんだけど、普段は日中ここに居ることは少ないんだ」
 困った様な表情を浮かべた彰彦に大島は「そりゃそうだな」って思った。
 今は‥6時前か。この時間なら仕事から帰っていないって人は多いだろう。そして「そうですよね、すみません」と即座に謝った。
「その子が‥どうしたの? 」
 彰彦は「話の流れで」何気なく聞いた。
 別に不思議でもない。「見たことがあるか? 」って聞かれたから、「ない」って答えた。そのついでに、何気なく聞いただけだ。
 だけど、
「いえ‥あの、この頃この辺りに出没してるって知り合いから聞いて‥。日中ふらふらとどこで何してるんだか! って彼女のお母さんが心配してて‥で、僕も何となく探してみますよ~って安請け合いしちゃって。いや、ホントすみません。」
 しどろもどろになった大島。彰彦はちょっと眉をしかめる。

 それとも‥もしかして、ホントに誘拐犯だと思われてる?? いや、誘拐は違うか。援助交際みたいなことを疑われてるの?? 女子高生と??

 ため息をついて、
「家の者にも聞いてみようか? 」
 って聞いた自分の声が思った以上に冷たくて‥自分でもドキッとした。
「あ! いや、いいです! 」
 大島がもう帰りながら礼を言う。
 ‥高校生相手に凄んだりして‥ちょっと大人気なかったな。疑われようがやましいことは何もないわけだから堂々としてればいい話なのに‥。
 彰彦は、一つ大きく長いため息をついた。

 待てよ‥
 黄色い目の少女‥?
 大きな黄色い目の、一度見たら忘れない顔だち。
「‥天音ちゃん‥」
 するり、と口から出た言葉にはっとなった。
 天音ちゃん。‥なんで今まで忘れていたんだろう。
 俺は、あの従兄妹の事を。


「折角、人として産まれてきたのに、人の世は住みにくいの。‥体力もない、あちこち制限のある体は、使いにくい。‥「親」なるものは、過保護で我を閉じ込めるのじゃ」
 小さな女の子の姿をした従兄妹は、しかし、見かけでは考えられない様な口調で話し、びっくりするほど冷めた目をしていた。
 我は、神じゃ。
 初めて聞かされた時には、驚いたけれど。
 ‥あながち、嘘ではない。と思わせるだけの、雰囲気があった。
 もっとも、その雰囲気を「出す」のは彰彦と話すときだけだった。彰彦以外と話す時、天音は何の変哲もない幼児の様だった。
 神は彰彦を真っすぐ‥だけど‥何も映っていない‥ガラス玉の様な目で見ると、
「のう。人の子よ。主(ぬし)は、人でありながら‥ちと変わった力をもっておるようじゃの」
 って言った。
 確実に彰彦の事なんて見ていないのに、なのに同時に総てを見透かされている様な気がする。‥それがなんとも居心地が悪い。
 彰彦が是とも否とも言えず黙っていると、神は「ふむ」と一人で納得した様に頷くと、
「主はいや‥主は人というか‥」
 と、小さく呟き‥門の向こうのあの小さな祠に目をやって

「あれじゃ、あの鏡の様なものじゃな」

 って言葉を続けた。
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