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33.恭二さんの罪(side 梛木)
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あの時、感動の演説をして俺のこころを動かした恭二さん。
‥だけど、彼が単なる「人助け」の為に動いているわけでは無いてってのは、わかってる。
だって、会社のTop2なわけだし? 大人だし? それ以前に、彼は人間だから。
一番根底にあるのは、彼の利益だ。
彼の利益は何? 会社の成功? ゲームが売れること? 名声?
それが過去の贖罪によるものだってことを恭二さんから後でこっそり聞かされた。(※ 本編「Souls gate」で伊吹に話した時にはなかった罪の意識というものがその後「ホントに」彼に芽生えたのか、口だけ「芽生えた」って言ってるのかは不明。ここには、それを判断する伊吹はいない)
「俺はね。だけど、やらなきゃならないんだ。救える人が一人でもいるかもしれないなら、‥一人でも救える人がいたら‥それは意味があることだから」
もっとずっと若い頃、そしてもっとずっと純粋に「西遠寺の能力の秘密を脳科学で解き明かす」って野望に燃えてたころ、彼は彼の従兄弟の息子さん(※ 彰彦)を実験台にした。そのことで従兄弟の息子さんは一時こころが壊れかけた‥らしい。
彼は、まだ幼かった従兄弟の息子さんに対して自作のゲームを使って研究したらしいのだ。
もしかしたら脳への影響ってのもあったのかもしれないけど、所謂「ゲーム依存症」みたいなのものが主な原因だろうと思われる。当時はこの言葉は無かったと思う。だけど、今じゃ社会現象だ。恭二さんは症状なんかを言わなかったからはっきりとは判断できないけどね。幼い子供だったらそれが一番あり得るかな‥と。(※ 梛木はその子を小学生かなんかだと思っている様だが、実際に実験の被験者となった時の彰彦の年齢は中学生だった)
‥どんな研究してたのか分からないけどね。
だけどきっと研究だっていうこと、それと恭二さんの性格を併せて考えるに結構エグイ実験だったんじゃないかなって思える。
「若気の至りじゃ済まないこともあるんだよ」
苦笑いした恭二さんの表情は痛々しくって、こころが痛んだ。
話し始めは、恭二さんの昔話だった。
「俺の家はね、ちょっと特殊な家系だったんだ。陰陽師って知ってるか? 代々それを生業にしている家系でさ。
‥俺はそれが嫌だった。オカルト‥胡散臭いって思ってたんだ。
身体の不調? それを治せるのは医学だけだろ? って思って、医学部に進もうって思ったんだ」
初めは正直「長くなりそうだな」としか思わなかった。全然興味もなかったが、取り敢えず大人として聞くことにしたんだ。ガッツリ聞いたわけじゃないよ? 作業の手は辛うじて止めたけど、いつもの作業場机でパソコンの前に座ったまま‥だ。
珍しく周りには誰もいなかった。
桂ちゃんと楠はゼミの勉強合宿とやらに行ってて、拗ねた柊の兄ちゃんは定時でさっさと帰宅し‥今頃はきっとふて寝でもしてるだろう。高橋は「今日はいけないわ~ごめんなさい~」って連絡がさっきはいってきた。柳さんも何故か今日はいない。まあ‥あの人も忙しいからね。
そんな感じで一人で部屋にいる時に、偶然廊下を歩く恭二さんを俺が見掛けて挨拶したって感じ。
‥まさか部屋に入って来るとはなあ~。お願いだから居座んないでって感じ。
そんな俺の気持ちに気付かない恭二さんは俺の横の席に座って話し始めたんだ。
「陰陽師? 聞いたことだけは‥あります」
俺は一応返事した。
別に興味とかない。
へ~‥陰陽師って現在にもいるんだ。
現地点の俺の感想はそのくらい。
まあねえ~。分かるわ~。家が「そういうオカルトなもん(?)」にハマってたら反発したくなるよね~。
ってちょっと同情位は感じたかな。
恭二さんは俺の「大変だね」って同情の表情を見てちょっと苦笑いすると
「医学は当時、俺にとって「そういうもの」の対極にあると思ってたから。だけど‥違った。世の中は、科学や医学だけでは解明できないことが確かにあった。‥俺はそれを認めざるを得なかったんだ。あの時‥新年会で、こんな俺なんかも分かるレベルで「そういう才能」を持っていると感じさせる子ども‥彰彦に会った時‥俺は今までの認識を改めた
あ、彰彦ってのがその従兄弟の息子の名前だ」
ええ?? 急に話が変な方に向かっちゃったよ??
スピリチュアルな方向に向かっちゃうのかな??
「びっくりしたよ。『八卦合わせ』でさ、何の卦だったか‥なんでだか忘れちゃったんだけど‥一回で全部同じ卦が揃った子供を見たのは初めてだった。
そういうのを信じない俺でさえも流石にあれはびっくりしたね。
コイツ、ただもんじゃない。調べたい‥って思った。だけど、彼は従兄弟の子供で、しかもまだ小学生くらいの歳だった。連れて帰って調べるなんて不可能だった」
‥ヤバいヤバい。学者ヤバい。マッドなアレだ! 発想がおかしい!! 連れて帰って調べたいとか‥親戚の子を実験動物扱いしてる~!!
「だけどどうしても諦めきれなかったんだ。だから、彰彦が中学生になる前に近づいて‥俺の住む京都にある中学校に進学させた。無理やりじゃないよ? 勧誘したんだ。近くに住んでる方が都合がいいでしょ?
京都にはちょうど彼の父親も住んでたから説得しやすかったよ」
‥アウト~!! 誘拐!? この人、大丈夫!??
「彰彦は父親と住んでいたんだけど、彰彦の父親‥和彦は忙しくって彼に構ってはいられなかった。だから、退屈している彰彦を時々家に呼んだりした。彰彦は好奇心が旺盛だったし、賢い子だった。それで、直ぐに俺の研究に興味を示したよ。俺はそんな彰彦に対して、自作のゲームをしてもらいながら彼の脳波を調べたり、ありとあらゆる実験をしたんだ」
‥大丈夫かなこの人野に放ってて‥。
「倫理的にどうかしてるよね? だけど、その時の俺には分からなかった。
だけど結局‥望む様な結果は得られなかった。気付いた時には、彰彦は表情を失っていて‥その時になって初めて「ヤバい」って気付いた」
‥なんかその後のこと聞くのが怖いな。この人が今でも「塀の中」じゃなくてここに居るってことは、一族内のことってことでもみ消されたってことかな。でもきっとその従兄弟さんとは絶縁されたんだろうな。
コワ~。
「だから、ご実家を追われたんですか? 」
うわ、俺大丈夫か! ヤバい奴のヤバい事情にこれ以上踏み込むんじゃない!!
「追われた‥とは違うかな? 考え直す機会を与えられた‥ってことなのかな。
俺はね、家の表から追われて、裏側を支えることになった」
俺の言葉に、恭二さんが首を傾げながら言った。
表? 裏?
今度は俺が首を傾げる番だった。「言ってることがよくわかりません」と正直に言うと、
「表向きに仕事を受けるのが、表。表から仕事を依頼されて実際に仕事をするのが裏。
例えば霊能力とかいった‥能力があるのは、裏だ。だけど能力者は沢山いて、そしてそれぞれ能力が違う彼ら一人一人の能力を把握し、正しく仕事を割り振る能力があるのは表だ」
って説明してくれた。
‥うん、ゴメン。やっぱりよくわからない。
分かんなかったけど、ひとまず頷いておいた。「そういうもん」として理解しておく外なさそうだ。
そんな俺に恭二さんは
「内科医がさ。病気に‥患者に合った薬を処方するのと同じだ。病気を治すのは薬だけど、その薬を処方するのは医者だろ? あれと同じだよ」
って例を出して説明してくれた。
成程。
それなら理解できた。
「薬って一口で言っても色んな薬がある。投薬ミスは‥それこそ医療事故だよ。「ちょっと効き目が違う」ならまだしも、「全く違う」とか‥もうシャレなんないよ」
確かにね~。
薬が優秀であればあるほど、そのミスは怖いよな。
「だから、表はね、裏以上に重要なんだ」
俺は頷いた。
でも、肝心な薬が無いと、いくら名医が超いい判断で投薬を支持しても意味がないよね?
俺が言うと、
「まあね。そりゃね。でも、薬があるのは前提だよ。薬が無ければなんてこと言い出したら、それこそキリがない」
まあ、そうだな。
「薬側にとって大事なのは、そこに「こういう効能をもつ薬がある」ってことを把握してもらって、任せてもらえることだ。裏と表の連携があって初めて正しい治療が行われるってわけだな」
把握‥知ってもらうことと、任せてもらえること。
認めて欲しいっていう承認欲求と、気安めじゃなくて、自分が「誰かの力にななれる」っていう「確かな」後押し。それって誰かにとっては確かに「生きてる意味」になる‥。
「そのためには正しく育てられる必要がある。薬の原料があっても正しく調合されなきゃ正しい薬にはならないからね。
いい薬を作るのは、いい原料があるだけじゃダメなんだ。
強い力を持つ彼らの多くは、カリスマ性を備えてインフルエンサーとして周りを牽引する力を持っている。皆に尊敬されてたり憧れられてたりするゆえに、彼らは誰にも相談できずにいる場合が多い。敵も多いかもしれない。
彼らの多くは、不安で孤独なんだ。
周りにいる人間は、変に崇めたりおべんちゃらを言ったりする人間やら、そいつをどうにかして煽てて利用したいって思う様な姑息な人間が殆ど。相談相手もいなかったり、助言してくれる人もいない。
そんな中で気が大きくなって道を踏み外したり、利用されて傷ついたり。
やがて疑心暗鬼になったり、投げやりになって‥自暴自棄になったりする‥いい原料であるがゆえに周りに利用され踏みにじられ‥枯らされる。
出る杭は打たれる‥じゃないけど、能力がある奴ってのは孤独だし、常に危険なんだ」
その例えは‥よくわかる。
俺は自分が「いい原料」だなんておこがましい認識はしていないけど‥「出る杭だった」って自覚はある。だから、両親は俺のことが‥
俺のように、利用されることもなく、放置されて枯れていく原料もあるだろう。
「俺たちが能力者を発掘するのは、単に能力者の確保という以上の意味があるって訳さ。
見つけて、教育し、‥保護する。周りの人間と違う、周りの人間より他人に与える影響が強いがゆえに、困惑し、傷ついている彼らを少しでも救いたい。これ以上傷つくことがない様に導いてあげたい。‥なんて言うのはおこがましいけど‥だけど、少しでも力になりたい」
自分の過去の罪がそれで清算されるわけではないけどさ。
って恭二さんは苦笑いした。
「発掘が大事ってことは分かった。だけどやっぱり俺は「真のアバター」でゲームを続けるっていうのは反対だ。脳への影響も心配だし」
真のアバターってことは、「もう一人の自分」が攻撃を受ければ、現実の自分も「痛い」と感じるって事だろ? 痛い思いするゲームなんて需要があるわけがない。
「コアな需要はあるかもしれないけどな」
はは、って笑う恭二さん。
‥そういうの考えたくないです(-_-;)
「それに、実際には傷はない。痛いという感覚だけだ」
恭二さんは、ニヤリと笑って俺を見た。
‥なんでニヤリ?
「それに意味がある」
「意味? 」
俺は怪訝な表情を浮かべて恭二さんを見る。
意味って何だ?
「痛みを知らなきゃ、人は学ばないじゃない? 人は殴られると痛い。だから、人も殴っちゃダメ。殴られる痛みを知らない人間は、人の痛みなんか想像できないよ。だからといって痛みを知ってもらうために「実際に殴られろ」っていうわけにはいかないじゃない」
「‥‥‥」
う~んそれは「確かに」とは言いたくないなあ‥。
でも‥まあ、わかる。
「反対も然りだ。案外ね「殴ってやりてえわ」って口では言う奴は多いけど、実際殴ったら倫理的に問題あるし、それにね「‥気分悪。人を殴るとか俺の性に合わんわ」って思うことも多い。人を殴った感触が手に残って‥気持ち悪いんだ。俺はボクサーにはなれないって思ったね」
‥殴った経験はあるんだ。で、案外キモチワルイと思ったと。
個人の感想だよな。「快感♡」ってなる奴もいるだろうしな。
俺はどうだろ。‥体感したくないな。
「殴られる以上の経験も疑似体験することが出来る。
それこそ、死ぬかもしれないって痛みを経験することも出来る。
だけど、実際には死んでない。
それはゲームと同じなんだけど、その重さはずっと重い。
リセットしたら「なかったこと」とは違い、「本当だったら、私は死んでいた。生命の危機というものは、案外身近にあって、日常生活に無関係なわけでは無い」って‥リアルに学べる」
「死にそうになった経験、人を殺してしまった経験、殺しそうになった経験、総てがリアルな経験であり、だけど、実際には何もないというね。
安心安全で有益な「バーチャルリアリティ」だよ」
安心安全か? 映像あり、しかも痛みアリのVRとか‥無いわ~
「トラウマ残りそうだな」
つい敬語を忘れてツッコミを入れてしまった。
いや、敬語では初めから話してなかったんだけど、イチオね、ツッコミとかは控えてたんだけどね~。
だけど、恭二さんは気にした様子もなく
「それはそれじゃない? それが嫌なら、現実にも危ないことには極力近づかない様にしたらいい」
って言った。
流石サイコパス。
ケロッとした顔で言うな。
「それにね。
人には生まれつき、日常生活をする上では、うまく隠してはいるが、闘争本能というのがある。
我慢してきた人間がある日、急に人が変わったようにキレる。酒を飲んだら、車に乗ったら、豹変する。
ガス抜きってのは、円満な人間生活を送るうえで必要不可欠だ。
逆にね。
人を癒したい。人に感謝されたい。人に癒されたい。
そういう願望もある」
う~ん。ストレスを発散したい、癒し、癒されたい。
そういうことをVRでかあ‥。なんか不健全じゃない?
「そういうお店に行けばいいんじゃないか? お金で癒してくれるおネエさんやおニイさんのいるお店。ジャンルで選んだり、探せば色んなニーズに応えてくれたりするんでしょ? 闘争本能は‥それは、スポーツで発散することをお勧めします。ヤバい人に仮想とはいえ武器を持たせるのは俺は反対です」
俺が言うと、恭二さんはアカラサマニ呆れ顔をした。
「君ね。ホントに小学生? そういう品の無いこというんジャないよ」
ため息ついて俺を見るんじゃない。
「俺が言った癒しは、そういうのじゃない。そういう‥イカガワシイ性的なものではない。それこそ、そういう癒しはそういうお店に行けばいいだろ。実際にそういう手段はあるわけだから。そうじゃなくて‥もっと‥精神的な癒しだ」
おお、顔が赤い。あの時恋人に抱き着かれる経験はない‥みたいなことも言ってたし‥
さてはこのおっさん‥
まあ‥それはそっとしておいてやろう。
そりゃな、初めては生身の方がいいだろうさ。え? 別に俺もそういう経験ないよ? だって、小学生よ? 有っちゃ問題でしょ。40前のオッサンがないよか、俺がある方が問題でしょ。
‥それでいうと、楠もそういう経験なさそう。初めての相手が柊の兄ちゃんとかになっちゃうのかな。‥それはそれでなんか可哀そう‥。
「柊は楠と居たらこころの平安を得られるっていってるんだろ?! そういう話だよ。性質の相性がいい奴の干渉を得られたら、それだけで別に実際に何かしなくても癒される。そういうもんなの! 」
サイコパスでヤバめなオッサンに倫理を説かれる日が来るとはなあ‥
貴重な経験をまた一つした俺だった。
‥だけど、彼が単なる「人助け」の為に動いているわけでは無いてってのは、わかってる。
だって、会社のTop2なわけだし? 大人だし? それ以前に、彼は人間だから。
一番根底にあるのは、彼の利益だ。
彼の利益は何? 会社の成功? ゲームが売れること? 名声?
それが過去の贖罪によるものだってことを恭二さんから後でこっそり聞かされた。(※ 本編「Souls gate」で伊吹に話した時にはなかった罪の意識というものがその後「ホントに」彼に芽生えたのか、口だけ「芽生えた」って言ってるのかは不明。ここには、それを判断する伊吹はいない)
「俺はね。だけど、やらなきゃならないんだ。救える人が一人でもいるかもしれないなら、‥一人でも救える人がいたら‥それは意味があることだから」
もっとずっと若い頃、そしてもっとずっと純粋に「西遠寺の能力の秘密を脳科学で解き明かす」って野望に燃えてたころ、彼は彼の従兄弟の息子さん(※ 彰彦)を実験台にした。そのことで従兄弟の息子さんは一時こころが壊れかけた‥らしい。
彼は、まだ幼かった従兄弟の息子さんに対して自作のゲームを使って研究したらしいのだ。
もしかしたら脳への影響ってのもあったのかもしれないけど、所謂「ゲーム依存症」みたいなのものが主な原因だろうと思われる。当時はこの言葉は無かったと思う。だけど、今じゃ社会現象だ。恭二さんは症状なんかを言わなかったからはっきりとは判断できないけどね。幼い子供だったらそれが一番あり得るかな‥と。(※ 梛木はその子を小学生かなんかだと思っている様だが、実際に実験の被験者となった時の彰彦の年齢は中学生だった)
‥どんな研究してたのか分からないけどね。
だけどきっと研究だっていうこと、それと恭二さんの性格を併せて考えるに結構エグイ実験だったんじゃないかなって思える。
「若気の至りじゃ済まないこともあるんだよ」
苦笑いした恭二さんの表情は痛々しくって、こころが痛んだ。
話し始めは、恭二さんの昔話だった。
「俺の家はね、ちょっと特殊な家系だったんだ。陰陽師って知ってるか? 代々それを生業にしている家系でさ。
‥俺はそれが嫌だった。オカルト‥胡散臭いって思ってたんだ。
身体の不調? それを治せるのは医学だけだろ? って思って、医学部に進もうって思ったんだ」
初めは正直「長くなりそうだな」としか思わなかった。全然興味もなかったが、取り敢えず大人として聞くことにしたんだ。ガッツリ聞いたわけじゃないよ? 作業の手は辛うじて止めたけど、いつもの作業場机でパソコンの前に座ったまま‥だ。
珍しく周りには誰もいなかった。
桂ちゃんと楠はゼミの勉強合宿とやらに行ってて、拗ねた柊の兄ちゃんは定時でさっさと帰宅し‥今頃はきっとふて寝でもしてるだろう。高橋は「今日はいけないわ~ごめんなさい~」って連絡がさっきはいってきた。柳さんも何故か今日はいない。まあ‥あの人も忙しいからね。
そんな感じで一人で部屋にいる時に、偶然廊下を歩く恭二さんを俺が見掛けて挨拶したって感じ。
‥まさか部屋に入って来るとはなあ~。お願いだから居座んないでって感じ。
そんな俺の気持ちに気付かない恭二さんは俺の横の席に座って話し始めたんだ。
「陰陽師? 聞いたことだけは‥あります」
俺は一応返事した。
別に興味とかない。
へ~‥陰陽師って現在にもいるんだ。
現地点の俺の感想はそのくらい。
まあねえ~。分かるわ~。家が「そういうオカルトなもん(?)」にハマってたら反発したくなるよね~。
ってちょっと同情位は感じたかな。
恭二さんは俺の「大変だね」って同情の表情を見てちょっと苦笑いすると
「医学は当時、俺にとって「そういうもの」の対極にあると思ってたから。だけど‥違った。世の中は、科学や医学だけでは解明できないことが確かにあった。‥俺はそれを認めざるを得なかったんだ。あの時‥新年会で、こんな俺なんかも分かるレベルで「そういう才能」を持っていると感じさせる子ども‥彰彦に会った時‥俺は今までの認識を改めた
あ、彰彦ってのがその従兄弟の息子の名前だ」
ええ?? 急に話が変な方に向かっちゃったよ??
スピリチュアルな方向に向かっちゃうのかな??
「びっくりしたよ。『八卦合わせ』でさ、何の卦だったか‥なんでだか忘れちゃったんだけど‥一回で全部同じ卦が揃った子供を見たのは初めてだった。
そういうのを信じない俺でさえも流石にあれはびっくりしたね。
コイツ、ただもんじゃない。調べたい‥って思った。だけど、彼は従兄弟の子供で、しかもまだ小学生くらいの歳だった。連れて帰って調べるなんて不可能だった」
‥ヤバいヤバい。学者ヤバい。マッドなアレだ! 発想がおかしい!! 連れて帰って調べたいとか‥親戚の子を実験動物扱いしてる~!!
「だけどどうしても諦めきれなかったんだ。だから、彰彦が中学生になる前に近づいて‥俺の住む京都にある中学校に進学させた。無理やりじゃないよ? 勧誘したんだ。近くに住んでる方が都合がいいでしょ?
京都にはちょうど彼の父親も住んでたから説得しやすかったよ」
‥アウト~!! 誘拐!? この人、大丈夫!??
「彰彦は父親と住んでいたんだけど、彰彦の父親‥和彦は忙しくって彼に構ってはいられなかった。だから、退屈している彰彦を時々家に呼んだりした。彰彦は好奇心が旺盛だったし、賢い子だった。それで、直ぐに俺の研究に興味を示したよ。俺はそんな彰彦に対して、自作のゲームをしてもらいながら彼の脳波を調べたり、ありとあらゆる実験をしたんだ」
‥大丈夫かなこの人野に放ってて‥。
「倫理的にどうかしてるよね? だけど、その時の俺には分からなかった。
だけど結局‥望む様な結果は得られなかった。気付いた時には、彰彦は表情を失っていて‥その時になって初めて「ヤバい」って気付いた」
‥なんかその後のこと聞くのが怖いな。この人が今でも「塀の中」じゃなくてここに居るってことは、一族内のことってことでもみ消されたってことかな。でもきっとその従兄弟さんとは絶縁されたんだろうな。
コワ~。
「だから、ご実家を追われたんですか? 」
うわ、俺大丈夫か! ヤバい奴のヤバい事情にこれ以上踏み込むんじゃない!!
「追われた‥とは違うかな? 考え直す機会を与えられた‥ってことなのかな。
俺はね、家の表から追われて、裏側を支えることになった」
俺の言葉に、恭二さんが首を傾げながら言った。
表? 裏?
今度は俺が首を傾げる番だった。「言ってることがよくわかりません」と正直に言うと、
「表向きに仕事を受けるのが、表。表から仕事を依頼されて実際に仕事をするのが裏。
例えば霊能力とかいった‥能力があるのは、裏だ。だけど能力者は沢山いて、そしてそれぞれ能力が違う彼ら一人一人の能力を把握し、正しく仕事を割り振る能力があるのは表だ」
って説明してくれた。
‥うん、ゴメン。やっぱりよくわからない。
分かんなかったけど、ひとまず頷いておいた。「そういうもん」として理解しておく外なさそうだ。
そんな俺に恭二さんは
「内科医がさ。病気に‥患者に合った薬を処方するのと同じだ。病気を治すのは薬だけど、その薬を処方するのは医者だろ? あれと同じだよ」
って例を出して説明してくれた。
成程。
それなら理解できた。
「薬って一口で言っても色んな薬がある。投薬ミスは‥それこそ医療事故だよ。「ちょっと効き目が違う」ならまだしも、「全く違う」とか‥もうシャレなんないよ」
確かにね~。
薬が優秀であればあるほど、そのミスは怖いよな。
「だから、表はね、裏以上に重要なんだ」
俺は頷いた。
でも、肝心な薬が無いと、いくら名医が超いい判断で投薬を支持しても意味がないよね?
俺が言うと、
「まあね。そりゃね。でも、薬があるのは前提だよ。薬が無ければなんてこと言い出したら、それこそキリがない」
まあ、そうだな。
「薬側にとって大事なのは、そこに「こういう効能をもつ薬がある」ってことを把握してもらって、任せてもらえることだ。裏と表の連携があって初めて正しい治療が行われるってわけだな」
把握‥知ってもらうことと、任せてもらえること。
認めて欲しいっていう承認欲求と、気安めじゃなくて、自分が「誰かの力にななれる」っていう「確かな」後押し。それって誰かにとっては確かに「生きてる意味」になる‥。
「そのためには正しく育てられる必要がある。薬の原料があっても正しく調合されなきゃ正しい薬にはならないからね。
いい薬を作るのは、いい原料があるだけじゃダメなんだ。
強い力を持つ彼らの多くは、カリスマ性を備えてインフルエンサーとして周りを牽引する力を持っている。皆に尊敬されてたり憧れられてたりするゆえに、彼らは誰にも相談できずにいる場合が多い。敵も多いかもしれない。
彼らの多くは、不安で孤独なんだ。
周りにいる人間は、変に崇めたりおべんちゃらを言ったりする人間やら、そいつをどうにかして煽てて利用したいって思う様な姑息な人間が殆ど。相談相手もいなかったり、助言してくれる人もいない。
そんな中で気が大きくなって道を踏み外したり、利用されて傷ついたり。
やがて疑心暗鬼になったり、投げやりになって‥自暴自棄になったりする‥いい原料であるがゆえに周りに利用され踏みにじられ‥枯らされる。
出る杭は打たれる‥じゃないけど、能力がある奴ってのは孤独だし、常に危険なんだ」
その例えは‥よくわかる。
俺は自分が「いい原料」だなんておこがましい認識はしていないけど‥「出る杭だった」って自覚はある。だから、両親は俺のことが‥
俺のように、利用されることもなく、放置されて枯れていく原料もあるだろう。
「俺たちが能力者を発掘するのは、単に能力者の確保という以上の意味があるって訳さ。
見つけて、教育し、‥保護する。周りの人間と違う、周りの人間より他人に与える影響が強いがゆえに、困惑し、傷ついている彼らを少しでも救いたい。これ以上傷つくことがない様に導いてあげたい。‥なんて言うのはおこがましいけど‥だけど、少しでも力になりたい」
自分の過去の罪がそれで清算されるわけではないけどさ。
って恭二さんは苦笑いした。
「発掘が大事ってことは分かった。だけどやっぱり俺は「真のアバター」でゲームを続けるっていうのは反対だ。脳への影響も心配だし」
真のアバターってことは、「もう一人の自分」が攻撃を受ければ、現実の自分も「痛い」と感じるって事だろ? 痛い思いするゲームなんて需要があるわけがない。
「コアな需要はあるかもしれないけどな」
はは、って笑う恭二さん。
‥そういうの考えたくないです(-_-;)
「それに、実際には傷はない。痛いという感覚だけだ」
恭二さんは、ニヤリと笑って俺を見た。
‥なんでニヤリ?
「それに意味がある」
「意味? 」
俺は怪訝な表情を浮かべて恭二さんを見る。
意味って何だ?
「痛みを知らなきゃ、人は学ばないじゃない? 人は殴られると痛い。だから、人も殴っちゃダメ。殴られる痛みを知らない人間は、人の痛みなんか想像できないよ。だからといって痛みを知ってもらうために「実際に殴られろ」っていうわけにはいかないじゃない」
「‥‥‥」
う~んそれは「確かに」とは言いたくないなあ‥。
でも‥まあ、わかる。
「反対も然りだ。案外ね「殴ってやりてえわ」って口では言う奴は多いけど、実際殴ったら倫理的に問題あるし、それにね「‥気分悪。人を殴るとか俺の性に合わんわ」って思うことも多い。人を殴った感触が手に残って‥気持ち悪いんだ。俺はボクサーにはなれないって思ったね」
‥殴った経験はあるんだ。で、案外キモチワルイと思ったと。
個人の感想だよな。「快感♡」ってなる奴もいるだろうしな。
俺はどうだろ。‥体感したくないな。
「殴られる以上の経験も疑似体験することが出来る。
それこそ、死ぬかもしれないって痛みを経験することも出来る。
だけど、実際には死んでない。
それはゲームと同じなんだけど、その重さはずっと重い。
リセットしたら「なかったこと」とは違い、「本当だったら、私は死んでいた。生命の危機というものは、案外身近にあって、日常生活に無関係なわけでは無い」って‥リアルに学べる」
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安心安全で有益な「バーチャルリアリティ」だよ」
安心安全か? 映像あり、しかも痛みアリのVRとか‥無いわ~
「トラウマ残りそうだな」
つい敬語を忘れてツッコミを入れてしまった。
いや、敬語では初めから話してなかったんだけど、イチオね、ツッコミとかは控えてたんだけどね~。
だけど、恭二さんは気にした様子もなく
「それはそれじゃない? それが嫌なら、現実にも危ないことには極力近づかない様にしたらいい」
って言った。
流石サイコパス。
ケロッとした顔で言うな。
「それにね。
人には生まれつき、日常生活をする上では、うまく隠してはいるが、闘争本能というのがある。
我慢してきた人間がある日、急に人が変わったようにキレる。酒を飲んだら、車に乗ったら、豹変する。
ガス抜きってのは、円満な人間生活を送るうえで必要不可欠だ。
逆にね。
人を癒したい。人に感謝されたい。人に癒されたい。
そういう願望もある」
う~ん。ストレスを発散したい、癒し、癒されたい。
そういうことをVRでかあ‥。なんか不健全じゃない?
「そういうお店に行けばいいんじゃないか? お金で癒してくれるおネエさんやおニイさんのいるお店。ジャンルで選んだり、探せば色んなニーズに応えてくれたりするんでしょ? 闘争本能は‥それは、スポーツで発散することをお勧めします。ヤバい人に仮想とはいえ武器を持たせるのは俺は反対です」
俺が言うと、恭二さんはアカラサマニ呆れ顔をした。
「君ね。ホントに小学生? そういう品の無いこというんジャないよ」
ため息ついて俺を見るんじゃない。
「俺が言った癒しは、そういうのじゃない。そういう‥イカガワシイ性的なものではない。それこそ、そういう癒しはそういうお店に行けばいいだろ。実際にそういう手段はあるわけだから。そうじゃなくて‥もっと‥精神的な癒しだ」
おお、顔が赤い。あの時恋人に抱き着かれる経験はない‥みたいなことも言ってたし‥
さてはこのおっさん‥
まあ‥それはそっとしておいてやろう。
そりゃな、初めては生身の方がいいだろうさ。え? 別に俺もそういう経験ないよ? だって、小学生よ? 有っちゃ問題でしょ。40前のオッサンがないよか、俺がある方が問題でしょ。
‥それでいうと、楠もそういう経験なさそう。初めての相手が柊の兄ちゃんとかになっちゃうのかな。‥それはそれでなんか可哀そう‥。
「柊は楠と居たらこころの平安を得られるっていってるんだろ?! そういう話だよ。性質の相性がいい奴の干渉を得られたら、それだけで別に実際に何かしなくても癒される。そういうもんなの! 」
サイコパスでヤバめなオッサンに倫理を説かれる日が来るとはなあ‥
貴重な経験をまた一つした俺だった。
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
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