souls game

文月

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23.考えたって分からない問題もあるんだなあ。(side 梛木)

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「え‥でもさ。大人は本家の人が見てるよって分かってるわけじゃない? じゃあ、本家の人に好印象を持ってもらいたいから、大人は「対策」を考えて子供に言って聞かせるよね? 「揃えないでいいから、見た瞬間、一番いい数字の卦を集めなさい」とか‥そしたらさ、その子の「本来の」力じゃないわけじゃわけじゃない」
 俺が聞くと柊の兄ちゃんが
「本家の人に好印象? 」
 って首を傾げた。
 え‥なぜそこで首を傾げる。
 俺なんか変なこと言った? 
「いや、そういうのは‥関係ないんじゃないかな。子供の親が子供の札を見てるのは、本家の人にどう思われるか‥ってことじゃなくて、「我が子が一体どういう人間‥というか能力を持ってるか」ってことを知りたいんだ。
 分かる人には、「わかる」からね」
 柊の兄ちゃんが首を振って言った。
「分かる人には、「分かる」? 」
 俺は柊の兄ちゃんが言った「分かる」って言葉を独特の言い回しをしたのが気になった。
 なんての? 強調したって感じとは違うんだけど、よくある「ここ大事だぞ、試験に出るぞ」って先生が言うような、あれ。
「分かるなら別に調べてもらわないでもわかるんじゃないの? 」
 俺が首を傾げると、柊の兄ちゃんが首を振って
「手札を見て「あ、これ我が子は‥例えば‥離だっけ? 俺の卦‥の能力があるんだなとか‥分かる人なら、わかる。例えばそれを見ただけで分からなくても「何か」は分かるわけじゃない。なら、本家の人に聞きに行くよね。
 「うちの子は離のカードが多かったようですが、何の能力があるんですか? とかかな? 」
 って言った。
 ああ、成る程「何かあるのが分かる」ってことか。
 確かに何があるのかはわからなくても、「何かある」ってことくらいは分かるわな。
 つまりそれが「分かる人にはわかる」か。
 それすら「分からない人」には「全然揃ってないじゃん、コイツ才能ねえな」ってなるわけか。
 もしかして‥
「柊の兄ちゃんは「離」の卦ばかりの札だった? 」
 俺が聞くと、ふふって兄ちゃんは笑った。
「そうなんだろうね。多分。覚えてないけど」
 ‥覚えてない。まあ‥そういうこともあるかも。昔の事だしね。だけど、きっと確実にそうだったろう。
 ‥「そして」それを見た「分からない」両親は「コイツはダメだ」って思った‥わけか。「全然8種類揃ってないじゃないか。‥コイツはダメだな」って。
 期待してたのに「そうでもない」って分かった。だけど、そこで両親は諦めなかった。その証拠に、まだ柊の兄ちゃんは監禁されていない。監禁されてないから、『神合わせ』に参加出来て‥そこで優秀な成績を修めてあのカルタを貰った。
 きっとそこで両親は「この子はやっぱり優秀だ! 」って思った。だけど『離』そのものの柊の兄ちゃんの性質を分かってなかった両親はその取扱いを誤った。‥つまり、手に負えないって監禁した。
 ‥え‥なんで? 本家の人「この子、才能あるヨ、是非家にいらっしゃい」って助け出してくれなかったの?? そうしてくれたら‥柊の兄ちゃん監禁なんかされなかったんじゃない? 

 ‥そうなる運命だったってことかな‥。
 子供は生まれる場所を選べない。親も選べない。そして、運の悪さもその子の持って生まれた者。
 努力すれば運命は変えられるとはいえ、その「変えたい」って意思を持ってるか持ってないかも‥また運の良しあしで決まる‥よなあ。 

 結局そんなことをしてる間に昼休みが終わった。
 分からんことばっかり。‥モヤモヤする。
 だけど、今は仕方ない。仕事中だから。
 俺と柊の兄ちゃんは事務所に戻って午後からの仕事を始めた。

 ‥ちょっとした暇つぶしがこんな「オオゴト」になるとはなあ。

 終業時間が来ても楠は帰ってこなかった。俺のスマホに「今日は飲み会に誘われたから遅くなる。夕飯はちゃんと食堂に食べに行くこと。僕の分の夕食はキャンセル済み。桂ちゃんも一緒」って連絡が入っていた。それを(同室だから)柊の兄ちゃんに伝えると、柊の兄ちゃんはあからさまに不機嫌な顔をして、
「‥飲まない様に言っとかないと‥」
 って呟いてスマホを操作し始めた。
 きっと楠にメールを送るんだろう。
 嫉妬全開。‥束縛タイプの彼氏みたいでヤバい。
 言われた通り食堂で夕飯を食べて、風呂に入るころにやっと楠は帰ってきた。柊の兄ちゃんは「お握り食べたい」って、わざわざ自分の部屋から出て来て、我が儘言うふりして楠の様子をチェックしている。(ホントに、ヤバい)
「酔って誰かに絡んだりとかしてないよ。大丈夫だよ。僕、酔わないから」
 って楠は見当違いなことを言って苦笑いした。お握りを握りながら、だ。(帰ってきたばかりの人間に「お帰り、疲れてない? 」じゃなく「お握り食べたい」っていう人間はおかしいと思うぞ。楠はちゃんと「嫌」もしくは「なんで? 」って言った方がいいと思うぞ。まあ‥飲み会に「疲れてない? 」もおかしいけど)
「? お酒のにおいする? それともタバコ? 吸ってる人が近くにいたからかな? 」
 スンって自分の肩口を匂いながら楠が首を傾げた。
「大丈夫」
 柊の兄ちゃんが軽く首を振ると、楠が「そ? 」って安心したみたいに微笑む。
 ‥違うよ、楠。柊の兄ちゃんは「他の女(男)の移り香がしないか」チェックしてるんだよ。
 お握りを食べてる柊の兄ちゃんの顔が穏やかだから、多分「移り香」チェックは大丈夫だったんだろう。(怖い怖い)
 で、
「楠、風呂今からだよね。俺も行ってないから一緒に行こう。大浴場。今なら空いてると思うから」
 ってさりげな~く誘って‥たけど、それは
「いや、部屋のシャワーでいいよ」
 って楠にあっさり断られてた。ホントに、すんごくナチュラルに! あっさり! 
 よし! 偉いぞ楠。こんな「誰もいない時間(大浴場が閉まる時間ギリギリ)」大浴場とはいえ、貸し切り状態だろうもんね。そしたら‥そこは‥鍵とか掛けようもんなら‥密室だ。で、二人は裸‥
 そしたら‥
 ダメダメ!
 「そういうの」はこころが通じ合った後!

 俺は「身体から始まっても良いじゃない」派じゃないからね!

 俺は柊の兄ちゃんの方を見ながらふふって意地が悪い顔で笑った。「ざまあねえな」は武士の情けで言わないでおいてあげた。(優しい! )その後、楠は自室のシャワー室を「柊さんは大浴場行くから借りるね」って言って使い、柊の兄ちゃんは渋々大浴場に向かった。
 くすっとちょっと笑ってしまった。
 この状態が一番俺にとって「イイ」気がする。
 二人に幸せになって欲しいのはそうなんだけど‥今の地点ではきっと「この状態」が一番幸せじゃないかなって。楠が自然と変わってまでのんびりと‥それがいいんじゃないかなって。
 俺はさっきまで柊の兄ちゃんがお握りを食べていた折り畳み机を片付けて、二人分の布団を敷いた。

 先に布団に入って寝転びながら、俺は昼間の話を整理することにした。
 ‥今のままでは頭の中が散らかって‥どこから考えていいか分からなくなるって思ったからだ。

 ① 柊の兄ちゃんの生家はどうやら「普通の家」じゃないみたい。(大前提)
 ② 柊の兄ちゃんは「子供の頃」は家族に監禁されてなくて、どうやら「親戚の集い」にも連れて行ってもらっていたようだ。
 ③ その(特殊な)親戚の集いでは、子供たちは年齢に応じたゲームをする。年少者は『八卦合わせ』それより大きい子供は『神合わせ』をする。
 ④ 八卦合わせは、子供たちの能力を(多分子供たちには分からないように)本家の人たちが見極めるのが目的。
 ⑤ 親はそれを見ることが出来るが、多分「能力を見極める基準」が分かっている保護者ばかりでは無い様だ。(もしくは、何を持って良しとするかが親によって違う? )
 ⑥ きっとその地点で「才能有」ってなった柊の兄ちゃんは‥だけど、本家からその才能を発掘されることはなかった。(なぜ?? )
 ⑦ 柊の兄ちゃんは『神合わせ』で優秀な成績を修めた。本家は再びその才能を認めただろうが、「それでも」本家から何らかのアプローチはなかった。(多分そういうこと。「だから」柊の兄ちゃんの両親は柊の兄ちゃんの才能に気付かず、柊の兄ちゃんは監禁された)(なぜ?? )
 
 分からないのは、⑥と⑦だな。
 このあたりのことを‥柊の兄ちゃんはどう考えてるんだろ? 
 本家のこと、恨んでないのかな。 
 だって、本家が「この子才能あるヨ」って言って、本家に引きとってもらえたんだとしたら、きっと柊の兄ちゃんの生活は「あんなこと」‥つまり、監禁なんてされてなかった。
 なんで見つけてくれなかったの? って思わなかったの? ‥恨まなかったの? 
 だけど‥柊の兄ちゃんはそんなこと言わなかった。
 それどころか、実家が憎いという話も‥そういえば聞いたことがない。
 ‥でも、憎いよな。当たり前に。だって、監禁するような家族だ。

 見つけてくれなかった本家と、監禁した生家‥。柊の兄ちゃんは‥どう思った? どっちが「より」憎い? 
 
 にしても。
 ホント、不思議だ。
 ホントに、何で本家の人たちは柊の兄ちゃんに気付かなかった? 
 もしかして‥
 ‥本家の人たちが「知らない」ってこと? 
 柊の兄ちゃんの「引き当てた」fast「手札」を。
 ‥もしかして、柊の兄ちゃんのろくでなしの両親はそれを‥隠した?  
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