souls game

文月

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32.大人(side 梛木)

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 そんなこんなで伊吹さんを呼んで二回目のプレゼン。‥なんだけど、部屋を訪れた伊吹さんは一人じゃなかった。
 伊吹さんより年上の男、恭二さんは‥そういえばこの会社に入った時に紹介された。
 だけど、それだけ。その時は話さなかったからどんな人かは分からなかったんだ。
 シブい感じのオジサン。それが俺の恭二さんに対する第一印象だった。


 俺の中で

 「大人ってこんなの」ってモデルがあるわけでは無い。
 その理由は、「決めつけはいけない」とかいう「よくある一般常識的な理由」ではないし、「大人は、子供とは違うんだから子供の事なんて分からないだろうし、理解できるわけがない。ってか、理解する気もないだろう」っていう「投げやりな子供みたいな理由」でもない。
 大人だろうが子供だろうが
 人間は自分の利益を一番に考えて行動している‥という点では同じだ。別に‥大人になったら何かが変わるわけでは無い。
 だけどね? 
 あってしかるべきものじゃない? 
 大人って言うからには常識ラインってか、そういう「一般的な大人像」。普通が一番とは思わないよ? だけど、せめて会社内では普通に振る舞って欲しいの。その方が安心できるの。
 ‥そういうもんじゃない? なのに‥
 初めてガチで話した我が社のTop2が一人西遠寺 恭二さんは、
 大人らしくないとかいうレベルではなく‥
 ただのヤバい奴だった。
 

「運ってのは確かに自分の持ってる「素質」だし「性質」だ。
 だけど、それをもっと‥レベルアップして、より「自分」の性質を出すのは脳だ」
 ちょっと小鼻を膨らませて力説するオッサンヤバい。
 (オッサンって程の歳じゃないんだろうけど、アレだ。そこは俺が超若者だから。小学生から見たら、40代に近い奴なんてもうオッサンだ)
 やっぱさ、大人の男って‥落ち着いてて欲しいじゃない? 理想というか‥一般的にはさ。あと、会社の偉いさんとしてはさ。
 それが‥子供みたいに瞳キラキラさせて、俺の話聞いてくれてしかも改善点? とかまで考えてくれるとか‥思わないじゃん? 普通。
 ‥もしかして、俺が子供だから「威圧的にならんようにしよ」とか気を遣ってくれちゃってる‥とか? そういうのどうでもいんですけど。会社で働いてる以上歳関係なく扱ってほしんですけど。
 侮って欲しくないんですけど!? 
 って思ったけど‥どうやら違うみたい。伊吹さん(同じく我が社のTop2が一人西遠寺 伊吹さん)が「ったくお前は‥」って呆れ顔してる。驚いてない。きっと「相変わらず」な感じなんだろう。つまり、
 ‥きっと、この人興奮したらいつもこうなんだろうな。
 ってこと。
 だから、俺は「こういう人」って「理解して」スルーすることにした。(大人)
 恭二さんは(きっと「スン‥」ってなってるであろう)俺にちっとも構わず
「ブレインマシンインターフェースって知ってるかい? 機械と脳を繋ぐことによって、例えば麻痺した腕が動かせるようになったりする技術だ」
 って突然説明し始めた。
 そういえば、伊吹さんも医者(小児科医)らしいけど、恭二さんも医学部卒ってなってたな。確か‥医学部卒業したのちに情報系の大学に編入したって‥。
 で、博士号迄取ったらしい。(よくわからんが、優秀だってことはよくわかる。そして‥馬鹿と天才は紙一重ってのに当てはまるっぽい人だって事もよくわかる)
 恭二さんの話から察するに、恭二さんはブレーンマシンインターフェース(BMI)の研究者らしい。
 なんでも、西遠寺の特別な力を脳科学的観点で解き明かしたい‥とかいうことらしいが‥俺にはよくわからんし、別に興味はない。
 ホントに興味とか全然ない。ないから、理解できる云々以前に話が全然頭にも耳にも入ってこない。そして、きっとそれ表情に出ちゃってる。(ってか、ぶっちゃけ察して欲しい)
 ‥だけど、恭二さんは気にしてない。(迷惑)
「つまり俺が言ってるのはだな。ただのその時々の運ではなく、真の自分の素質を調べた方が面白いんじゃないかって話だ。そして‥それを実現できるのが脳だ」
 うん。脳。
 脳だ。ってところちょっとドヤ顔になったのがウザい。
 どっちかというとスピリチュアルな分野である「易」の世界に最新科学を持ち込む力業。 
 ‥ヤバい。
「脳とゲームを繋いで、ゲームの中のもう一つの自分を全く自分のように動かす‥真のアバターとするって話だ。
 しかも、その「もう一人の自分」は現実の自分とは違う。
 現実で生きている時には出会えない人と出会い、現実で生きている時には出来ないことをする」
 ああ、なんか話が物騒になってきたな‥脳と機械を繋ぐとか、洗脳か? 
 俺は苦笑いした。

 ダレカコイツヲトメテクレ。

「だけど、それは、別に脳と繋がないでも出来ることでしょう。実際には会えない人とゲーム内で会う。ネットゲームとはそもそもそういうもんです」
 苦笑いのまま俺が言うと恭二さんは眉をちょっと寄せて‥アカラサマニ不機嫌な顔をした。
「まあ確かにね。だけど、今君たちがしたいことは‥そう言うことではないわけじゃない? ネットで新しい友達を作って遊びましょう‥そういう話をしているわけでは無い」
 うん。まあ‥そうだね? そういえば‥楠も言ってたな‥
「例えばさ、実際に会わなくてもその人の素質みたいなものが分かれば‥凄くいいよね。ネットワークゲームってのは、そういう点でも新しい可能性だって思うんだ。
 そりゃあね。実際に会えば分かるんだけど‥、会うべき人がある程度事前に「分かれば」いいのになって思ってるんだよね。自薦他薦で会いに行って無駄足‥とかならまだしも‥接触する危険性があったら困るからね。西遠寺のこと、世の中の‥無関係な人に知られたら困るからね。
 それとあと‥自分では自覚がない能力者‥そういうのを見つけたいね。今のままだとやっぱり絶対的に数が少ないからさ」
 みたいなことを‥。
 その時の運ではなく、より確実にでそれが分かるのであれば‥それは確かに魅力的かも?
 俺の意見がちょっと変わってきたことは俺の態度に現れていたのだろう、恭二さんが微かに頷いて‥ちょっと機嫌が直った様な顔をした。
 俺が手元の付箋にメモを書き込むために下を向いた時に、恭二さんが横にいた伊吹さんに
「これ、発案したの隆‥いや「柊」? あいつは全く‥」
 ってボソリと極小声で呟いたのが聞こえた。(ここには柊と楠もいるんだけど、きっと一番近くにいた俺くらいしか気付いていないだろう)
 話から察するに、「たかなんたら」はきっと柊の兄ちゃんの本名なんだろう。だって、このゲームの元ネタは柊の兄ちゃんだから。‥多分、この人と柊は以前からの知り合い‥もしかしたら親戚? とかなんだろう。
 そういえば、柊の兄ちゃんだけは恭二さんの養子に入ってるって聞いたことがある‥。
 つまり‥
 あの遊び(八卦合わせと神合わせ)は二人の間‥一族間? では共通のもので‥もしかしたら門外不出的なものだったりする‥のかな?

 ちょっと気にはなるけど、大人だから触れないでおいてあげます。

「つまり‥俺なりにさっきまでの話を纏めますよ?
 恭二さんは俺のこのゲームとBMIの技術を組み合わせれば、より能力者の発掘に役立つゲームになると思ってる。
 そういうことですよね? 」
 俺が(恭二さんの呟きは聞こえなかった振りをして)言うと、恭二さんは小さく頷いた。俺は恭二さんに頷き、
「だけど」 
 と話を続けた。恭二さんが俺を見る。
「だけど、それは調べる時だけ‥のことですよね? 調べる時、BMIの機械をつけるなりして調べて‥ゲーム中は外すんですよね? 」
 いやだって、脳への影響とか心配じゃない? 脳と直接繋いでゲームとか‥怖くない? 
 俺が言うと恭二さんは首を傾げ
「外さなくても良いじゃない? 」
 ってさも不思議そうに言った。
 なんで不思議そう?? 顔が絶対「?? 」って顔になっているであろう俺に、恭二さんは、
「というか、外すと意味がない。それならただのゲームと何ら変わりないじゃない」
 って言った。
 引き続き「?? 」だ。え。それでいいと思うけど? 
「俺はね。‥いい経験じゃないかなあって思うんだ。
 普通に暮らしてるだけではなかなか体感することのない、他の性質からの干渉。そういうのをね「人工的に」体感するの。そういう経験って‥無駄じゃないよ。生きていく上でね」

 ‥なんだその大袈裟な話!? 

「例えば、母親やなんかに「痛いの痛いの飛んでけ」って言われて手をかざされる。恩師に「大丈夫だ。お前なら、出来る」って肩を叩かれる。卒業する時友達に「‥俺たち、これからも友達でいような」って涙ながらに‥両手を握られる。‥俺は経験が無いけど、恋人に「愛してる」って言われて抱き着かれる。
 あれら全部他人からの干渉だよ。
 発動条件限定のね。
 だけど、ここで重要なのは、「能力を持たないただの人」であっても、「ある特別な場合においては」相手に多少なりとも干渉が出来るってことだ。
 それをそのまま「その時だけ限定」としておくか、発掘して、何らかの「能力」を開花させるか。っていわれたら興味を持たない? 」
 最初は胡散臭い‥としか思ってなかった俺は、いつしか恭二さんの話に引き込まれていて、気が付いた時には、
「持つかも‥」
 って呟いていた。
「人はね。皆、自分が思うより何らかの可能性を秘めているんだ。そして‥だからこそ、「自分のホントの素質」を知らないというのは‥危険なんだ。
 例えばね。
 レモンも塩酸も同じ酸だ。だけど、その強さは違う。レモンなら「酸っぱいな~」「爽やか~」で済むけど、塩酸を舐めたらどうなる? 」
 想像してゾッとした俺に恭二さんが頷く。
「つまりそういうことだ。‥日常の中に能力者が無自覚で混ざっている状況というのは、そういう危険性をはらんでるってわけだ。
 普通の「ちょっと可能性を秘めてるかも」って人間と能力者は‥全く違う。
 その影響力からして違う。
 カリスマ性があるって言われる人間、インフルエンサーと呼ばれてる人間、過去の独裁者、治世者‥皆人よりずっと強い性質を持っている人間だと思われる。後天的に学んだ知識によるもの‥って以上にね。‥今となっては確かめようもないけどね。
 そういう「センスがある努力家」じゃなくって、「無自覚な才能」そういう人を見つけ出す。それが一番の目的なんだ。
 俺たちが能力者を探しているのは、単に仕事だからってことではない。お互いにとってそれが必要だからなんだ」

 あ‥

 俺が目を見開いた。

 無自覚な能力者は、自分にとっても周りにとっても危険‥。

 だけど、目を見開いたのは俺だけじゃなかった。楠もまた同じ様に雷に打たれたような衝撃を受けていた。
 驚いただけ‥とは違う。
 驚いて、酷く傷ついた顔をしている。
 そんな楠を柊の兄ちゃんがそっと抱きしめた。
 「干渉」? いや‥ただ、向き合って、こころに寄り添い慰めているだけ。

 何の言葉も発しなくても、人は人を傷つけることも出来る。だけど、同時に慰めることも出来る。

「だけど、自らを知り、導けば危険どころか、誰かを助ける力にもなる。
 刃物と一緒で使い方次第なんだ。
 人を最も傷つけられるのも、同時に最も癒せるのも人。
 失恋の傷を癒せるのは、新しい恋って言う言葉もある。
 原因も分からない「イライラ」に悩まされたり、わけもなく悲しくなったり‥
 人ってのは、案外「気の持ちよう」に振り回される生き物なんだ。
 俺はね。
 人が自分の性質に興味を持って、誰かと魂のレベルで関わるってことは「とても意味があること」だって思ってる。
 心のこもった一つの言葉は、千の「巷に溢れるテンプレな言葉」にも勝る。‥だけど、言葉にするのが苦手な人もいる。同じ言葉でも、SNSで送ったら薄っぺらい言葉に感じられたりすることもあるわけじゃない? 
 悲しんだり、癒されたり‥言葉ではなく、拳でもなく‥こころのレベルで感じる。
 真のアバター同士ならそれが出来る」
 静かな恭二さんの声を聴きながら、俺は以前楠から受けた「干渉」を思い出していた。
 何か「あったかいもの」が身体に染み込んでいくような感覚。

 魂のレベルで関わる‥

「そんなことが‥ホントに出来るんだろうか‥」
 ボソリと呟く。
 出来るわけないって‥だけど、俺は思わなかった。

 どうすれば出来るだろうか? 
 俺に‥出来るだろうか。

「何から始めたらいい? 」

 ここが後の「souls gate」の出発点になった。
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