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文月

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閑話 楠と柊の兄ちゃんは果たしてラブラブ関係になれるのか? (side 梛木)

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 あの低い「いい」声。ついゾクってきちゃう「色っぽい」声。
 柊の兄ちゃんみたいな男前に耳元でそんないい声で「甘~く」囁かれたら女の子は皆ぽ~っと来ちゃうよね。
 ‥だけど、残念。楠は女の子じゃない。恋愛対象も男じゃない。
 だけど、恋愛対象はこれから先変わることがあるかもしれない。
 だって、今まで楠は全く恋愛なんて考えたことがなかった恋愛初心者なんだ。恋愛対象なんて分かってないかも。だって、あれは考えてするもんじゃない。勝手に落ちるもんだ。
 「この頃やけにこの人のこと気になる‥? 」ってある日突然恋に落ちる。
 だけど、楠は多分幼少期から自我がしっかりしてて、幼少期から超(悪い意味で)自意識過剰だった。
 人に遠慮ばっかりして‥きっと今までは自分の好みすらなかったと思う。
 それに、凄く初心だしね!
 でも、初心だけど‥優しくされたといって誰彼構わず好きになる様な「チョロい」タイプじゃない。
 楠は自己肯定感が低いって以上に‥だいぶ鈍い。それに‥妙に自分の幸せに対して‥ストイックなとこあるよね。
 誰かに自分が(女だろうが男だろうが)好意を持たれて、アプローチされるなんて考え、楠にはない。
 例えそう感じたとしても「まさか。‥自意識過剰だな」ってこころの中で否定して、それ以降「そう考えないように」するだろう。
 相手にぐいぐい来られたら流される? 
 ‥楠に限っては、流されて‥とか絶対ない。相手の気持ち考えて、上手になかったことにするタイプ。(しかも、それが無意識かもしれないとこが‥! )
 漫画なんかで自分に自信がない女の子が告白されて「‥罰ゲームで告白させられてるのかも」って気を回すシーンとかあるけど、あれに近い。でも、あれって相手に告白される隙を与えちゃってるわけじゃない? 楠はそういう隙すら相手に与えないんだ。怖くて近寄りがたい人と同じ様な‥鉄壁の壁を「笑顔で」築いてるんだ。
 そうやって‥徹底的に皆から距離を取って暮らしてて来た。
 自分は皆に怖がられてるからって。
「確かに、明るすぎる黄色の目ってのは目につくし、怖いって一瞬は思うけど‥楠の事知ったら「そんなのどうでもいっか」になると思うんだけどな」
 だって、楠はホントに魅力的な人だから。
 だけど、楠が必要以上に予防線張って誰とも親しくしようとしないから‥皆初対面の「怖い」って印象だけでとまっちゃうんだ。
「損だよね‥」
 まあ‥でも、初対面の第一印象が「怖い」ってだけで、もうそれ以上付き合いを深めないって人間も多いか。面倒くさいよね。‥いっぱい同級生は居るんだもの。わざわざ、ね。
 それか「俺は「そんな人間」でも親しくしてやるぜ~優しいからな」っていうタイプの奴か。そういう奴は案外いる。「イイ奴に見せたい」っていう打算的な奴もいるだろう。‥だけど、案外「無理して付き合ってる」ことを自覚してない奴の方が多いんだ。
 だって、俺はイイ奴だから、人を見た目で差別するはずがない‥って自分の中で「無意識に」処理してさ、ずっと消えない「数ミリの違和感」を無視し続けて‥感情に蓋をし続けて‥。
 でもさ、そういう奴に限って相手(違和感を抱き続けた本人)にそれを指摘されたり、相手に馬鹿にされたような態度を取られたら、ブチ切れるんだ。
 ‥所詮は相手の事下に見てたってことだ。
 そういう奴は‥いっぱい見て来た。
 俺ってほら、風呂に入ってなかったわけじゃないから不潔じゃないけど、服とかいつも同じの見た目超貧乏であからさまに親からネグレクトされてる「可哀そうな」「問題児」だったからさ。
 ‥小学生ってそういうのに容赦ないよね。
 女の子は「可哀そう」って言いながらも、友達には「なってやってもいい」けど絶対恋愛対象にはならないし、男の子のやんちゃな奴は容赦なく悪口言ってくるよね。
 で、たまに親切にしてくる奴は教師の評価狙いの奴か、自称「俺ってイイ奴」ってなわけ。だけど、俺の方が成績がいいって分かったら(学校で全国模試なんか受けた時ね。以前通ってた小学校は私立で進学校だったから)途端に態度を変えて来たりするんだ。
 何でアイツが? 親切にしてやったのに、‥何なの? 生意気。
 ってね。親切にして欲しいって思ったことないですけど? (ってか、されてないし)
 ‥飼い犬に噛まれたって思うのかね。

 ホント、嫌になる‥。

 まあ。だけど、楠は単純に柊の兄ちゃんの「あの声」が苦手なんだろう。生理的にってやつだな。
 柊の兄ちゃんは(それに気付かず)本気で「楠を惚れさせよう」としてやってる。(最初は面白がってちょっかいかけてんのかなって思ったけど、そうじゃなかったみたい。‥柊は本気だったんだ。)だけど、やればやるほど逆効果。ダサ! って感じだ。(面白いから教えないけど)
 まあ‥俺も(子供だから)なんか嫌いだけどね! (生理的にね! )
 なんか~不潔だよね~。爽やかじゃないよね~。「俺に落とせない女はいないぜ! 」感が嫌だよね~。きっと、今まであれで女落として来たんだろうね~。それで百戦錬磨だったんだろうね~。あの顔だもんね~。‥不潔。
 考えたら、‥不潔。ケダモノだわ! アタシの母さんに近づかないで頂戴! って感じ。
 だけど‥双方同意の上の行為だったら‥別にいいのか。
 柊の兄ちゃんの過去について俺が文句をいう資格はない。
「だけど、俺は楠と柊の兄ちゃんにくっついて欲しいの。‥なんか」
 BL好きだから、とかじゃないよ。(断じて俺は腐男子じゃない)
 なんか、有るじゃん。
 そうだったらいいのにな~って思うの。‥それだけ。
 柊の兄ちゃんの孤独は‥なんか楠にしか埋められない☆って思っちゃったんだよね。‥BL好きだから、どかじゃないよ。(2回目)
 単純に‥そうすれば二人とも幸せになれる様な気がするから。
 薄幸な二人が、何もしないで何も語らないで、ただ寄り添って座ってるだけ‥っていう「ちょっとだけ幸せ」な光景。きっと和むよね。
 俺はね、二人にはそういう幸せな暮らしをして欲しいの。きっと、それなら楠も引いたりしないって思うわけ。
 それでいうと、この頃の柊さんはちょっとがっつきすぎてるって思うし、アプローチの方向性としても間違ってるかな~って。
 まあ‥ 
 面白いから教えないけど(2回目)

「とはいえ‥このままじゃ一生平行線な気もする。逆方向に進んでいるわけでは無いから遠く離れることもないが、一生交わることのない二本の線を交わらせるためには、ちょっと軌道を変更させなければいけない」
 俺はつい呟いてため息をついた。
 やべ、口に出してた。
 隣の席は楠だが、‥今はどうやら席を立ってる様だ。助かった。
 だけど、前の席の桂ちゃんがクスクス笑ってる。
 この事務所は机の配置が「学校の教室タイプ」じゃなくて、四つづつ机が向かい合わせに集まってるタイプなんだ。なんでかって? 知らんよそんなの。場所の都合じゃない? 
「ん? 算数の話? 平行、垂直とかの」
 桂ちゃんが首を傾げて聞いて来た。俺は首を振って‥ちょうど昼休憩の時間になったから桂ちゃんを休憩室に誘った。
 今日のお昼は食堂に行くのは止めだ。(きっと楠に後で「栄養が! 」って叱られるだろうが)たまにはいいかなって。(ほら、俺って人とのコミュニケーションを大事にする男だし)
 お昼ご飯は、桂ちゃんが購買でサンドイッチを買ってくれた。(と、ココア。桂ちゃんはコーヒーだった)女の子にお金を出させるとか男としてどう‥とか思ったけど、そんなの時代遅れだし、‥俺は年下(うんと)だし、いいことにした。
 サンドイッチを受け取りながら
「違うよ。知り合いの話だよ」
 って話し始めた。
 桂ちゃんが俺を見る。
「不器用な二人の友人の関係が平行線のままで交わることがないのが、友達想いの俺としてはもどかしいって話」
 俺はサンドイッチの包みを開けながらわざとため息をついた。
「なるほど」
 桂ちゃんが相槌を打つ。(それを確認することもなく)俺は話を続ける。
「一人はもう一人‥ああ、わかりにくいから‥仮にAさんとBさんとしよう。BさんはAさんのことが好きでアプローチしてるんだけど、AさんはBさんの気持ちに気付かない。Bさんはアプローチしてるんだけど、どうも空回りしてるっぽい。アプローチの方法が間違っちゃってるんだ。だけど、Bさんはそれに気付いてない」
 そこまで喋り切って、ココアを一口飲む。
 桂ちゃんも「そういうことあるよね」って相槌を打ってコーヒーを飲む。
 それから二人で黙ってサンドイッチを食べる。
「しかも‥。Aさんは自分に自信が無くて、(寧ろ)気付いてたとしても、気付かない振りをしている様な節があるんだ。Bさんの幸せの為を思って‥だ。Aさんはすごくイイ奴なんだ。
 このままでは絶対二人が上手くいくわけがない。
 二人の知り合いの俺としてはね、二人に上手くいって欲しいんだ。‥Bさんに特別に肩入れしてるわけでは無いんだけどね。‥Aさんの相手としては‥悪くないかなあって。
 俺はね。Aさんに人のことなんか気にせず自分の幸せを考えて欲しいわけ。傍若無人に暮らせっていってんじゃないよ? だけどね、‥あのままじゃあんまりに‥アレだなって。
 ‥Aさんは自分の人生を他人事みたいに考えてるんだよ。自分にも幸せになる権利があるって‥考えもしてないんだよ。それがさ‥なんか俺としてはもどかしいというか、悲しいというか‥」
 サンドイッチを頬張りながらそう説明すると、桂ちゃんは「なるほどねえ」って頷いた。
 で、俺を見て、
「梛木はAさんのことが大好きなのね」
 って笑った。
 ‥そんな話してるんじゃない。
 って思ったけど‥でも
「うん」
 確かに‥それは間違ってない。俺が頷くと、桂ちゃんはにこっと笑った。
 桂ちゃんは特別美人でもないけど、感じのいい人だ。今みたいに笑ったら、愛嬌があって可愛い。俺はちょっとドキッときた。俺って「癒し系おねーさん」に弱いのかも。
「そっか」
 ニコニコと俺を見る。
 なんだよ。その生ぬるい笑顔。‥子供扱いヤメロ。
 ‥まあ、いいけど。
「‥でも、Bさんも好きだよ」
 俺は居心地の悪さを感じながらそう付け加えた。
 桂ちゃんはさっきの生ぬるい笑いを引っ込めて、ふふっていつもの人のいい微笑を浮かべて
「そっか。二人が上手いこといくといいねえ」
 って言った。
「‥そだね」
 俺も頷く。
 結局全然「ラブラブ大作戦」のアドバイスは得られなかった。‥まあ、「どうしたらいいと思う? 」って俺も聞かなかったけど。
 因みに‥
 我が事務所一のリア充(推定)柳さんに聞いたら
「自分に自信のない子に意識してもらう方法? 「俺、君無しじゃ生きていけないんだよ」って母性本能に訴えかける作戦、かな! 「俺は完璧」って弱い所見せなかったら余計に相手は委縮するよ。だから、その子にだけ弱さをチラッと見せる。そこをうまくやれば‥」
 ‥上級者過ぎて無理って思いました。
 それって、話術とかいるよね? 柊の兄ちゃんの長台詞とか聞いたことないわ!! 恋の駆け引きとかも無理そうだしな! 
 だけど‥弱みとか‥見せまくってる気はするな‥。(寧ろ、弱みしか見せてない気も)そして、楠は母性本能の塊‥上手く行くんじゃ?? 
「だけど、下手したら弟ポジ‥恋愛対象外になる可能性はある」
 ‥なるな。絶対な。
 ため息をついた俺は「なるようにしかならんな」って匙を投げたのであった。
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