souls game

文月

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8.相変わらず色々考える僕と、神出鬼没な「天男さん」(side 楠)

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 僕が‥水の神?
 ‥他にも神は居て‥でも、皆は「気付いている」
 僕だけは気付かなかった。‥それはなぜ?
 そもそも、あの人‥目つきの悪い神は一体誰なんだ?
 あの目つきの悪い神が言ったことは信用できるのか? ってことが前提なんだけど‥
 ‥どうやら、あの目つきの悪い神は少なくともただの人では無い様だ。
 目つきの悪い大男が一瞬にして可愛い女の子になるなんてこと‥普通の人間にはどう考えても無理だ。神かどうかは分からないけど‥少なくとも人間じゃないよね。
 僕が信じないとは思わなかったのかな。
 僕が‥(大男が女の子に変わるところを)ネットにあげたりすると思わなかったのかな。
 あの人は‥そういうことをすることを含めて‥僕を信用して‥僕にあんな話をしてくれた。その為に、あらかじめ監視カメラを壊してから‥だ。
 ‥監視カメラあるんだ‥ここ。
 他にもあるかもしれない監視カメラ。一体誰を監視しているの? 防犯カメラじゃなくって監視カメラ‥。物騒だよね。‥犯罪だよね? 
 あの目付きの悪い神が言ったみたいに「天音ちゃんを監視するため」?
 天音ちゃんって?
 伊吹さんはなぜ「天音ちゃん」を監視してるの? 
 あの人が
 伊吹さんは天音ちゃん = あの目付きの悪い神 って知ってるの? 
 でも‥伊吹さんはあの神の様子からすると‥知らないっぽい。
 だけど、伊吹さんと天音ちゃんはどうやら親しい間柄らしい。だけど、天音ちゃんは伊吹さんに自分の素性を話していない様だ。
 ‥なんで??

 それにも増して不明だったこと‥
 『‥主が拾ってきた柊。あれの成長に主が追い付けないようではいけない』
 柊さんの成長?

 分からないことばかりだ。
 だけど、分かったこともある。
 柊さんはやっぱり「火」の卦の人だった‥! 
 誰から見ても柊さんは火っぽいのかも。
 誰から見ても‥はないな。‥普段はぼんやりで静か‥やる気がないように見える柊さんだから普通の人は火だって思わない気もする。 
 火のイメージって「熱血」って感じするもん。
 熱血で、血の気が多くって、感情の起伏が激しい感じ。
「‥普通そうだよね。‥なんで僕柊さんのこと「火」っぽいって思ったんだろ。
 だけど‥こればっかりは「何となくそう思った」としか言えないんだよなあ~」
 だけど、なんであの目付きの悪い神も‥って長いな天音ちゃんの男版だから「天男さん」って呼ぶことにしよう‥
 天男さんも八卦ベースだったんだろ。
 ‥神的な暗黙の了解?? 
 ‥考えても無駄っぽいから考えるのやめよう‥。
 なんとなく、「これは考えても無駄」って分かる」
 分かるんだ。そういうの‥昔から何となく。
 多分「この人、嫌なこと言うけど、多分悪気なく何となく言っちゃうタイプの人なんだろうな~」とか「一生懸命いい人っぽくしてるけど、‥凄い打算的な人」とか。それは、観察力云々とかじゃなくて、直感で。

 結局僕の「分かる」は「直感」ってわけだ‥。

 結局その日は学校を休んでしまった。頭がパンクして‥学校どころじゃなかったったんだ。一般の授業はいいとしても、その日はゼミがあったから欠席する旨を担当教授に電話で伝えると、随分心配され心が痛んだ。
 体調が悪いならまだしも(それは仕方がない)‥精神的に‥普通にゼミで発表する気力がない‥とか言えない。そういうことだって人間だから当たり前にあるだろう。だけど‥僕にはそういう当たり前のことを話せる様な相手はいないんだ。
 そういう「当たり前のこと」を当たり前に話せるのってある程度親しい間柄だよね?
 ‥少なくとも、僕はそう思うんだ。
 そしてそれは僕が誰かに気を遣っているわけではない。「僕が」誰にもこころを開いてないって問題ではない。
 そういうこと‥「出来るか」「出来ないか」位は分かる。そういう「距離感」を皆が僕に求めているか否かってこと位‥分かる。空気は読めるんだ。
 会えば挨拶をするくらいの距離感、それが皆にとっての「僕との最適な距離感」なんだ。


「今回のレジュメは添付ファイルで送ってもらえる? 修士論文の分。書けてる分だけでいいよ。僕が見て添削して返すね。
 でも、もし無理そうだったら構わないから。
 ‥皆の分のレジュメは次回渡せばいいかな? 」
 僕の体調が悪いと思っている教授は心配そうな口調で言った。
 またこころが痛む。
「大丈夫です」
 って言おうとしたら
「大丈夫とか言わない方がいい。言って‥そう思い込んで‥自分まで自分を追い込むのは良くない。
 ‥君は頑張りすぎるから、心配だ」
 って言われた。
「疲れている時は一度思い切って休んだ方がいい。‥よっぽど効率が上がる。疲れてるのに無理して何かをしようとしても効率も上がらないし、余計にイライラして、結果更にくたびれるだけだ。
 だけど僕がレジュメを送ってって言ったのは、君が「そうしないことで更に自己嫌悪を感じたら良くない」って思ったからだ。だけど、もし大丈夫そうなら‥スパっと休む勇気が持てる様なら‥スパっと休んだ方がいい。
 時にはそういう勇気も必要だ」
 教授が穏やかな口調で言った。
 そして、僕が何かを答えるより先に
「とにかく。そういう時は、えいって布団をかぶって寝ちゃう方がいい。そうだ。そうしなさい」
 そう言って、電話は切れた。
 彼は何時もこうだ。
 穏やかだけど、人当たりがいいとは違う‥上品な微笑で‥だけど押しは強く、自分の意見はずばっと通してくる。大好きな研究に全てをささげた人生を送ってますって感じの人。人に使われるとか人を使うとか絶対無理な感じ。今まで空気を読むとか、人の顔色とか窺ったことなんかなさそうな、「如何にも学者」って感じの老紳士。
 小学校や中学校の先生は先生と言いながら保護者に気を遣わなきゃならないじゃない? 高校もそうかな。‥だけど、大学生って大人じゃない。担任と言いながら、一人一人と向き合うこともそうない。だから‥大学の先生ってそのほかの先生とは随分違う気がする。
 ‥絶対なりたいとは思わないけど。

 スマホを机に置いて、椅子に座り込んだ。(さっきまでは立って電話をしてた。教授とか‥そう親しくない大人と電話する時って緊張するから直立不動で電話しちゃうよね)

 スパっと休む勇気かあ‥。

 休むってことは‥でも確かにストレスだよな。出席率だとかそういうこと関係なしにしても、「休む」ってことは普段僕の頭にない。だけど‥それにも増して「今この状態」であの元気な学生たちに会う方が‥きっと疲れる。
 学生って‥なんであんなにキラキラしてて、パワーがあるんだろって思う。
 僕にもそんな頃があったんだろうか? ‥自分では気付いてないだけで、誰か‥社会人から見たら僕も「キラキラして無駄に元気な若者の一人」だったんだろうか? ‥なんとなく、そうじゃない気もする。
 ほら、小学生だって全員元気なわけじゃないじゃない。大人かって思う程「くたびれた」小学生もやっぱりいるわけじゃない。
 ‥どんな集団にも「外れ値」はいるってことだ。
 そして、それは多数派ではないし、目立たないし、声を上げることがないから、(それ故)無視《スルー》され、気付かない振りされるんだ。
 周りに合せろと強要しないこと、気にしないでスルーしておくことが親切だって周りは本気で思ってるんだ。
 ‥まあ、間違えでもないけどね。
「今のゼミは人数が多いから余計に疲れるから‥正直今は‥」
 ちょっとキツイ。
 独り言を言って小さくため息をついた。
 以前の大学‥つまり卒業した大学は大学院がなかったから院生と学生が一緒に研究するってことがなかった。それどころか学年の違うゼミ生と一緒に研究することすらなかった。
 情報学科は、どちらかというと文系だ。
 実験をするわけでは無いし、経過観察をするわけでもない。文献を漁ったり、プログラムを組んだり。ソロで研究する学生が殆どだった。ドラマで見る様な共同開発したり、協力し合って‥とかは多分もっとレベルが高くて、志なんかも高い生徒たちの通う大学での話なんだろうって思う。
 僕が以前通っていた大学はそんなレベルではなかった。‥少なくとも、そういう‥上昇志向や「何かをやってやる」って志を持っている者はいなかった。人は人、自分は自分。自分の為に自分を磨くことはあっても、人と一緒に何かをやるって頭はない。
 ‥そんな子たちが通う「ごく普通の」大学だった。
 三年時からゼミが始まり、三年は三年のゼミ生、四年は四年のゼミ生で集まり、前半は担当教諭の指定した教材の読み合わせをしたり、勉強し、後半はそれぞれ自分でゼミ論の準備をし、週に一回のゼミの時間に報告って形で発表し、担当教諭にアドバイスを貰ったりしていた。その締めが「ゼミ論」で、それを全体の前で発表して卒業だ。勿論専門の教科の単位が無かったら卒業できないのは当たり前で、卒業論文もその「卒業に必須な専門単位」だった。
 だけど、今の大学は違った。
 教授の研究室とは別にあるゼミ室に学生が使えるパソコンが置いてあり、学生たちはいつでも自由にそこに出入りでき、作業が出来た。そこでは、大学の三年生も四年生も、院生も同じ様に作業していた。
 勿論それぞれ自分の卒論の準備をしているのだけど、大学生が院生に質問すること普通にあるし、院生が大学生にお手伝いをお願いすることもあった。
 和気あいあいっていう表現も変だけど‥「この大学で大学から学びたかったな」って思った。
 実際に僕以外の院生はこの大学を卒業した生徒だった。だけど、だからといって馴染めないってことはなくって‥それなりに仲良く(っていうのかどうかはわからないが)させてもらってる。
 不満はない。
 だけど‥
 やっぱり、‥疲れるのはホント。常時気を遣わなきゃいけないのは‥ホントくたびれる。
 っていうか‥

 僕の目‥怖いだけじゃなくって‥正真正銘危険な目だったのか‥。

 凍らせるとか‥無いわ~。
 だけど‥柊さんは大丈夫。
 それはきっと彼も僕ほどではないけど、普通の人じゃないから。
 それはきっと‥ここの他のメンバーにも言える。
 僕の部署の責任者‥リーダーの柳さん。‥彼も普通じゃない。

「柳、アイツも‥個性が強いね」
 いつの間に来たのか、天男さんが僕の後ろに立っていた。だけどこの声はさっきの‥天音ちゃんの声だ。(もう伊吹さんのことはいいのか? )
 僕は振り向きもせず、軽く頷いた。
「アイツの本性当ててみて? 」
 天音ちゃんが面白そうに言った。
 当てるって‥
 ってちょっと呆れたけど、そんなことは言ってられないなって考えなおした。
 これは‥僕が出来た方がいいことだ。
 (僕のは)当てずっぽうかもしれないけど‥この人は(少なくとも僕よりは)本家本元って感じがする。
 ここは胸を借りて‥学んだ方がいい。
「‥多分、雷‥じゃないですか? なんでって聞かれても‥多分そう思うから‥としか言えないですけど」
 言って、相手の反応を見るために振り向いた。
「‥いいかげんじゃなあ‥でも、「あたり」じゃ」
 ふふって天音ちゃんが穏やかに笑った。その顔は、「全く仕方がない奴だな~」って言ってる様に‥凄く優しく見えた。
「色々‥柳から話を聞いてみればいい。主は勘がいい。その勘を信じて‥見掛けじゃなく‥その人の本質を踏まえたうえで‥その人と話せば‥きっとこころを開いてくれるだろう」
 見掛けの柳さんとは違う「本質」
 震という卦の性質。
 二陰一陽の爻。足元から陽の気が勢いよく上がって来る状態。正象は雷で、騒がしいという意味も。
「これを見ると‥柳さんは震の性格とは違うんだけどね~」
 ‥見掛けではなく僕の勘を信じる‥
 でも、「きっとあなたはこういう人間なんでしょ? 僕は分かってますよ? 」って上からな態度で話すのは‥どうだろうとは思うけどね。そこら辺は神って感じだよね~。人間のこと分かってない。
 でもまあ‥
 見掛けが総てってかんがえるのはダメってのはホントだ。
 僕の勘が‥信じられるっていう「お墨付き」を貰ったのが嬉しいのも確か。

「僕の直感 → 卦の性質を調べる → その人の本質を知る。
 反対になっちゃうかもしれないけど、僕にはそうすることしかできないのなら仕方ない。
 今は‥そうするしかないなら‥そうするべきなんだろな」
 なんとなくそんなことを思って天音ちゃんに確認を取ろうと振り向いたが、もうそこに天音ちゃんは居なくなっていた。
 
 ほんと、神出鬼没だよね! あの人!
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