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7.僕の「分かる」を言葉にしたら‥(side 楠)
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(本編 Souls gateを少々手直ししました。本編の方もそのうちまとめて変更していくかもしれません)
なんとなく‥そんな気がした。
相性がいいっていうの? ‥それも違う。
だけど‥
何となくね。「僕はそこに‥この人の傍に居なければいけない」‥あの時の柊さんを見た時‥僕はそう思ったんだ。
ぼんやりと座っていた柊さんを見た時
なんとなく「この人は‥火だ」って思った。
燻っている‥だけど、燃えたくなくって‥燃えそうに、燃やしそうになる自分が怖くて、不安‥そんな風に見えた。
火っぽい人て言ったら、何事にも熱くって情熱家って印象があるけど‥柊さんはそんなんじゃない。
だけど、彼の性質は‥間違いなく火だって思った。
火だけど‥
火の本能の赴くまま‥何もかも全部を燃やしうること‥そんな自分の力を恐れている。‥そんな、理性的で臆病な火。だけど、実際にそれができる力(すべてを燃やしうる力)を持っているから‥いっそそうしてしまいたいっていう願望も持っている。‥そんな危うい人。
不安で、‥危険な子。
そんな風に見えたんだ。
不思議だよね。
「火‥八卦では離か」
離は自然現象は「火」性情は「麗」家族は「中女」(‥卦では一陰二陽は女子らしい)
麗は「綺麗」の麗だけど、火の性情としての「麗」は「付く」。火は必ず何かに付いてるから‥らしい。
火だけじゃ燃えないよってこと??
その様子があの時の不安げな柊さんに被った。
そんなことを思ったけど‥僕は暫くそのことをそのままにしておいたのだった。
気になってるけど、答えが出ないし、日常生活に直接関係ないからそれ以上考えることもない。‥そんな状況が変わったのは‥「あの男」との出会いだった。
「君‥」
「はい? 」
それは、裏西遠寺の寮に来て、一か月がたとうとしていたころだった。
ここは、広くて、働く人も多い。多分まだ全員の人とあえてはいないだろう。
もっとも、会った人総てを覚えているわけでもない。だけど、こんな目立つ人は、覚えるだろう。
多分、この人は、今日初めてあった人だ。
だのに、なんでこの人は僕を見て微笑んでるんだ? 僕はこの人と知り合いだっただろうか?
‥どうしよう、思い出せない。‥そもそも、本当に知り合いなんだろうか?
そう思って、まじまじとその人を見た。
背が高い。多分、180cm以上あるんじゃないだろうか。ゆったりと白衣を羽織っているが、がっしりした体つきをしていることはわかる。釣り目がちのおそろしく目つきの悪い目、体つきに反してすっきりとした首。後ろだけ肩にかからない位に自然に伸びた髪。黒眼、黒髪のどちらかというと、禍々しい感じのする男だった。
思いのほかガン見していたのだろう。
「私が気になりますか? 楠さん。‥少し話しませんか? 」
ふっと、その僕より目つきの悪い男が笑う。
「え? 」
なんで。
と思ったが、その男の手は既に僕の腕を掴んでいる。
‥話しませんかじゃなくて、強制か?!
腕を振り払おうとしたが、恐ろしく力が強い。
僕だって、もやしっ子ではないのに、だ。
そのうえ
「‥貴方の正体をお話しますね」
男はぼそっと、耳元でつぶやくと、有無も言わせない迫力で手近な部屋に押し込まれた。
何かを企んでいる。
そんな表情ではない。
不敵な笑みを浮かべているが、真剣さがちらっと見えた。
年のころは‥僕より上か、だけど多分そう変わらない位。
だのに、あの目つき、あの雰囲気。
本能に従うと、
極力関わり合いになりたくない感じ。
「‥それは、僕が聞かなければいけない話ですか? 」
だから、牽制の意味も込めて、僕は薄目を開けた。
実は、これ位なら(目を開いても)「大丈夫」なんだ。
もし、しつこい様なら「命令」するほかはない、が、何となくこの男には‥きかない気がする。
柊さんにもきかなかったし、柳さんにもきかなかった。
多分‥僕の「統べる目」が、きかないタイプってのはいるらしい。
「聞かなければいけないと思いますよ」
に、と目つきの悪い男が笑う。
薄く口の端をあげて笑った顔は、悪人そのものだ。
「‥手短にお願いします。‥大学に行かなければならないので」
僕は、ふっと小さくため息をついた。
「面倒なので、いろいろは言いません。事実だけ」
「ええ」
何をもったいぶっているんだ。「面倒だから」とか、前置きをするのがまず面倒だろ。
僕は、しらっとした顔を男に向けた。
男は、扉の外に意識をやって、そして部屋の中に意識をやって、そして
ピン
と、指をならして、何かを壊した。
ことり、と何かが落ちて来る。
‥小型の監視カメラ? 。
「伊吹か? ったく、あいつは疑い深いというか‥、天音のストーカーかって感じだな‥まあ、寧ろ「珍しいものの観察」なんだろうな。‥研究熱心なのだろうが‥。‥まったく、研究欲の前には人権も倫理も無視って点では恭二と変わらんな」
‥まあ、この部屋は、別に誰が使う部屋ってわけでもないか‥。
ぶつぶつと小声で愚痴を言って、ゴミ箱に監視カメラの残骸を捨てる。ちょっと下唇を突き出して拗ねた様な顔をしたのは、やけに気になった。
‥女子か。
それに、
‥それは、燃えるゴミじゃない。
とは思ったが、口にするのはやめておいた。
‥しかし、監視カメラ。僕たちの部屋にもついてないだろうな。‥こんど、スマホで調べよう。
なんか、スマホのカメラで見たら赤く光るんだよね?
「ああ、時間がなかったんだっけ。‥まあ、分からなくてもいいかなと思ったんだけど、‥混乱するだろうし。でも、‥さっき見てたら、知っておいた方がいい様な気がしたんだ」
「‥さっきから、何ですか。回りくどい。言いたいことあるなら言ってください。別にいろいろ言われてきたから、悪口なら言われ慣れています」
楠は、もう一度深めのため息をついた。
「悪口? いや、正体をいうのに、悪口も何もないだろう。これが、悪口なら、自分のことを悪しざまに言うことになる」
しかし、男はまたちょっとためらった。
見かけの割に、慎重なんだか、何かに気を配ってるんだか、‥よくわからないが、もどかしい!
「‥だから‥」
だから! さっさと、言え。
男は僕の様子(きっとあからさまに不快感が顔に現れていたんだろう)に苦笑いをして
「まあいいや」
と小さく息を吐いた。
と、次の瞬間。
「‥我しか主にこれを知らせられる者もいないしの」
ってニヤリと笑ったんだ。
‥言葉遣いと、雰囲気が変わった。
‥目が、金色みたいになった?
周りの空気も変わったみたいだ。気圧が変わったみたいに重くなった。
威圧感が半端ない。
ぴりっと‥静電気が走ったような‥ひり付きを身体に感じた。
「この言葉、戯言と受け取ることは、許さぬ。
主の真(まこと)の姿は、我と同じ‥神じゃ」
重々しい口調で男が言ったセリフが、これだ。
「は? 」
あ、つい即答しちゃった。
あの威圧感にも負けず、即答しちゃった。
だって、するでしょ? 「かみ」って何。
「上」? 「髪」? 「神」?
「思い当たることはあったと思うぞ。‥主は水の神じゃな。主は水の気に満ちておる。それも、常人よりずっと。今まで、やたらに雨男だったとか、水泳が練習したわけでもなく上手かったとか、止まれって思った相手が止まったりだとかしなかったか? 」
「え! 」
「え? 」
目つきの悪い男が首をコテン、と傾げる。
‥偶にするな‥。こういう、女の子っぽい仕草。似合わないぞ!!
「さっきの‥」
「雨男? 」
また、コテン。
「いや」
「止まれて思った相手? 」
「それ! 」
「体内の水分に、働きかけたら、そんなこと容易に可能だろ? 主は熱い男ではないようだから、熱の方に力を使うタイプではないらしいな。だけどちょっと、相手の血を凍らせたら、まあ止まるわな。水の気を持つ者は、これを知らずに使ってしまうから、自覚が必要じゃとおもっての。その様子なら、今までも使ったことがあったんじゃないのか? 」
「血を凍らせる‥」
さっと身体から血の気が引いた。
‥なんだそれは‥。
「一瞬な。その気になれば、主なら‥、相手を凍死させる位わけないぞ。‥じゃから、我は主に言わねばならんと思ったのじゃ。他にも降りて来ておる神位おろうが、普通は、自覚があるからの」
「‥貴方は一体? 」
「主の、まあ、仲間じゃな」
「‥」
さっきこの男は、僕のことを神だと言っていた‥。ということは‥。
「我は、天の神じゃ」
天の神‥☰(乾)? 。
‥それより、さっきなんか、可笑しなこと言っていたな。
‥神は他にも降りてきている。
そして、僕も、神‥。
そんなこと信じられるわけが‥。
目の前の男は‥神と言われたら、成る程そう信じられるだけのものがある。
有無も言わせぬ存在感と、威圧感は常人のそれではない。
‥だけど、僕は‥?
「‥信じないという選択肢はない。主を騙すメリットも、争う必要もない」
ふわっと、男が僕の手を取り、その手を重ねる。
ぞっとするほど‥冷たい手だった。
「我主に干渉する。「天水訟」」
全く違う気が自分に干渉してきたのが分かった。
さっき、天の神と言っていたから、これが天の卦の力なんだろう。
男の声が何か、紡がれるように頭に流れて来る。
「主と我の性質は違う。我の天の卦は上に上がる性質を持っており、主の水の卦は下を流れる性質じゃ。互いに交わることがない卦じゃ。それが理‥。
「訟」は訴訟。
我々は互いに交わることはない、しかしながら、争う必要はない。そういう意味じゃ。
我は主に干渉しない。だが、見守っておる。
‥主はまだ、自分の力を開放しきっておらぬ。力には各人において、天井があってそれ以上成長するのは無理じゃが、神である主は、その天井が常の人より高い。‥せいぜい精進しろ」
主の神の位は‥我とあまり変わらないか‥。
いずれにせよ、「主」が、「我」に干渉して来たときは、我と主の関係も、また変わる。
水天需‥需は待つの意。今は‥ただ待て。
静かな声が頭にしみるようだった。
「干渉‥」
「いつも、柊に主がしておるであろう? 」
ふ、と男が笑う気配がした。
「水火既済」
「水が火の燃えるのを防ぐ卦じゃな」
‥水火既済‥!
あの卦だ。
「‥反対だと火水未済じゃな。‥意味は、水の上に火があり、全く意味がない。って意味」
未済‥。楠は、小声で繰り返した。
「だが、力の差が大きすぎて、今はまだ柊は主に干渉できない」
「力の差‥」
まさか、合っていた。
力の差が大きい方が干渉しやすいというわけか?
「いや、出来るか出来ないか、だ。差が大きくても、出来るときもある」
反対もあるという事か‥。
「普通は、力が強いもの方が干渉はしやすい。干渉を受け入れることも出来る。干渉を受け入れる受け入れないは、力が強い方に権利がある。じゃが、必要があれば、‥力が弱い方からでも干渉は出来る。そういうもんじゃ」
「何にせよ、力が強いものは、自覚して力を使わなければならない。‥無意識で、「知らなかったから」ではすまぬぞ」
‥無意識。
僕が今まで知らずにしてきたこと。‥血を凍らせること。
人を殺してしまうかもしれない力‥。
「‥今までの主を責めておるわけではない。‥別に今までの主じゃったら、そんな大した力もなかったじゃろうし、主は優しい。すぐに、気を散らしたであろう? 今までならそれでよかった。じゃが、これから主はもっと力をつけねばならぬ。‥主が拾ってきた柊。あれの成長に主が追い付けないようではいけない」
「柊さん? 」
‥柊さんの成長?
「それは‥どういう‥」
聞こうとした僕の口を、男が覆い「しっ」という。
扉の外に人の気配がしたのだ。
「天音ちゃん? 」
その声で、外からの音が一気に入って来た。
急に、気圧がふ、っと軽くなったのだ。
‥今まで、結界みたいなものを張っていたってことか?
「あれ? 天音ちゃん見なかったですか」
その声が、他の誰かに話しかけるのが聞こえた。
「あ、はーい」
ったく、伊吹。お前は、ホント‥天音のストーカーか。
目の前の男が呟く。
あ、また言ったさっきの「天音のストーカー」。伊吹さんって、天音って子のストーカー疑惑が出てるのかな?
ってか、誰だろ。天音ちゃん。
さっき女の子の声がしたけど‥。
すぐ近くで。
え? っと思い、さっきまで男が立っていたところを見た。
もう一度見た。二度見って奴だ。
男の立っていた位置に、少女が立っていた。
「! 」
‥誰!?
絶対に、誰もこの部屋には居なかったぞ、しかも一瞬であんな男がこの部屋から消える?!
男が消えて、この女の子が現れた‥。
そんな感じだった。
「ちょっとまってくださいね~」
少女がさっきと同じ声で返事した。
「ではの。また、じゃ」
部屋から出る前に、ちょっと振り向いて、楠を見た。
に、っと笑った顔は、さっきまでの目つきの悪い男と同じ笑みで‥。
「!! 」
その場に取り残された僕は、そのまま崩れる様に座り込んでしまった。
なんとなく‥そんな気がした。
相性がいいっていうの? ‥それも違う。
だけど‥
何となくね。「僕はそこに‥この人の傍に居なければいけない」‥あの時の柊さんを見た時‥僕はそう思ったんだ。
ぼんやりと座っていた柊さんを見た時
なんとなく「この人は‥火だ」って思った。
燻っている‥だけど、燃えたくなくって‥燃えそうに、燃やしそうになる自分が怖くて、不安‥そんな風に見えた。
火っぽい人て言ったら、何事にも熱くって情熱家って印象があるけど‥柊さんはそんなんじゃない。
だけど、彼の性質は‥間違いなく火だって思った。
火だけど‥
火の本能の赴くまま‥何もかも全部を燃やしうること‥そんな自分の力を恐れている。‥そんな、理性的で臆病な火。だけど、実際にそれができる力(すべてを燃やしうる力)を持っているから‥いっそそうしてしまいたいっていう願望も持っている。‥そんな危うい人。
不安で、‥危険な子。
そんな風に見えたんだ。
不思議だよね。
「火‥八卦では離か」
離は自然現象は「火」性情は「麗」家族は「中女」(‥卦では一陰二陽は女子らしい)
麗は「綺麗」の麗だけど、火の性情としての「麗」は「付く」。火は必ず何かに付いてるから‥らしい。
火だけじゃ燃えないよってこと??
その様子があの時の不安げな柊さんに被った。
そんなことを思ったけど‥僕は暫くそのことをそのままにしておいたのだった。
気になってるけど、答えが出ないし、日常生活に直接関係ないからそれ以上考えることもない。‥そんな状況が変わったのは‥「あの男」との出会いだった。
「君‥」
「はい? 」
それは、裏西遠寺の寮に来て、一か月がたとうとしていたころだった。
ここは、広くて、働く人も多い。多分まだ全員の人とあえてはいないだろう。
もっとも、会った人総てを覚えているわけでもない。だけど、こんな目立つ人は、覚えるだろう。
多分、この人は、今日初めてあった人だ。
だのに、なんでこの人は僕を見て微笑んでるんだ? 僕はこの人と知り合いだっただろうか?
‥どうしよう、思い出せない。‥そもそも、本当に知り合いなんだろうか?
そう思って、まじまじとその人を見た。
背が高い。多分、180cm以上あるんじゃないだろうか。ゆったりと白衣を羽織っているが、がっしりした体つきをしていることはわかる。釣り目がちのおそろしく目つきの悪い目、体つきに反してすっきりとした首。後ろだけ肩にかからない位に自然に伸びた髪。黒眼、黒髪のどちらかというと、禍々しい感じのする男だった。
思いのほかガン見していたのだろう。
「私が気になりますか? 楠さん。‥少し話しませんか? 」
ふっと、その僕より目つきの悪い男が笑う。
「え? 」
なんで。
と思ったが、その男の手は既に僕の腕を掴んでいる。
‥話しませんかじゃなくて、強制か?!
腕を振り払おうとしたが、恐ろしく力が強い。
僕だって、もやしっ子ではないのに、だ。
そのうえ
「‥貴方の正体をお話しますね」
男はぼそっと、耳元でつぶやくと、有無も言わせない迫力で手近な部屋に押し込まれた。
何かを企んでいる。
そんな表情ではない。
不敵な笑みを浮かべているが、真剣さがちらっと見えた。
年のころは‥僕より上か、だけど多分そう変わらない位。
だのに、あの目つき、あの雰囲気。
本能に従うと、
極力関わり合いになりたくない感じ。
「‥それは、僕が聞かなければいけない話ですか? 」
だから、牽制の意味も込めて、僕は薄目を開けた。
実は、これ位なら(目を開いても)「大丈夫」なんだ。
もし、しつこい様なら「命令」するほかはない、が、何となくこの男には‥きかない気がする。
柊さんにもきかなかったし、柳さんにもきかなかった。
多分‥僕の「統べる目」が、きかないタイプってのはいるらしい。
「聞かなければいけないと思いますよ」
に、と目つきの悪い男が笑う。
薄く口の端をあげて笑った顔は、悪人そのものだ。
「‥手短にお願いします。‥大学に行かなければならないので」
僕は、ふっと小さくため息をついた。
「面倒なので、いろいろは言いません。事実だけ」
「ええ」
何をもったいぶっているんだ。「面倒だから」とか、前置きをするのがまず面倒だろ。
僕は、しらっとした顔を男に向けた。
男は、扉の外に意識をやって、そして部屋の中に意識をやって、そして
ピン
と、指をならして、何かを壊した。
ことり、と何かが落ちて来る。
‥小型の監視カメラ? 。
「伊吹か? ったく、あいつは疑い深いというか‥、天音のストーカーかって感じだな‥まあ、寧ろ「珍しいものの観察」なんだろうな。‥研究熱心なのだろうが‥。‥まったく、研究欲の前には人権も倫理も無視って点では恭二と変わらんな」
‥まあ、この部屋は、別に誰が使う部屋ってわけでもないか‥。
ぶつぶつと小声で愚痴を言って、ゴミ箱に監視カメラの残骸を捨てる。ちょっと下唇を突き出して拗ねた様な顔をしたのは、やけに気になった。
‥女子か。
それに、
‥それは、燃えるゴミじゃない。
とは思ったが、口にするのはやめておいた。
‥しかし、監視カメラ。僕たちの部屋にもついてないだろうな。‥こんど、スマホで調べよう。
なんか、スマホのカメラで見たら赤く光るんだよね?
「ああ、時間がなかったんだっけ。‥まあ、分からなくてもいいかなと思ったんだけど、‥混乱するだろうし。でも、‥さっき見てたら、知っておいた方がいい様な気がしたんだ」
「‥さっきから、何ですか。回りくどい。言いたいことあるなら言ってください。別にいろいろ言われてきたから、悪口なら言われ慣れています」
楠は、もう一度深めのため息をついた。
「悪口? いや、正体をいうのに、悪口も何もないだろう。これが、悪口なら、自分のことを悪しざまに言うことになる」
しかし、男はまたちょっとためらった。
見かけの割に、慎重なんだか、何かに気を配ってるんだか、‥よくわからないが、もどかしい!
「‥だから‥」
だから! さっさと、言え。
男は僕の様子(きっとあからさまに不快感が顔に現れていたんだろう)に苦笑いをして
「まあいいや」
と小さく息を吐いた。
と、次の瞬間。
「‥我しか主にこれを知らせられる者もいないしの」
ってニヤリと笑ったんだ。
‥言葉遣いと、雰囲気が変わった。
‥目が、金色みたいになった?
周りの空気も変わったみたいだ。気圧が変わったみたいに重くなった。
威圧感が半端ない。
ぴりっと‥静電気が走ったような‥ひり付きを身体に感じた。
「この言葉、戯言と受け取ることは、許さぬ。
主の真(まこと)の姿は、我と同じ‥神じゃ」
重々しい口調で男が言ったセリフが、これだ。
「は? 」
あ、つい即答しちゃった。
あの威圧感にも負けず、即答しちゃった。
だって、するでしょ? 「かみ」って何。
「上」? 「髪」? 「神」?
「思い当たることはあったと思うぞ。‥主は水の神じゃな。主は水の気に満ちておる。それも、常人よりずっと。今まで、やたらに雨男だったとか、水泳が練習したわけでもなく上手かったとか、止まれって思った相手が止まったりだとかしなかったか? 」
「え! 」
「え? 」
目つきの悪い男が首をコテン、と傾げる。
‥偶にするな‥。こういう、女の子っぽい仕草。似合わないぞ!!
「さっきの‥」
「雨男? 」
また、コテン。
「いや」
「止まれて思った相手? 」
「それ! 」
「体内の水分に、働きかけたら、そんなこと容易に可能だろ? 主は熱い男ではないようだから、熱の方に力を使うタイプではないらしいな。だけどちょっと、相手の血を凍らせたら、まあ止まるわな。水の気を持つ者は、これを知らずに使ってしまうから、自覚が必要じゃとおもっての。その様子なら、今までも使ったことがあったんじゃないのか? 」
「血を凍らせる‥」
さっと身体から血の気が引いた。
‥なんだそれは‥。
「一瞬な。その気になれば、主なら‥、相手を凍死させる位わけないぞ。‥じゃから、我は主に言わねばならんと思ったのじゃ。他にも降りて来ておる神位おろうが、普通は、自覚があるからの」
「‥貴方は一体? 」
「主の、まあ、仲間じゃな」
「‥」
さっきこの男は、僕のことを神だと言っていた‥。ということは‥。
「我は、天の神じゃ」
天の神‥☰(乾)? 。
‥それより、さっきなんか、可笑しなこと言っていたな。
‥神は他にも降りてきている。
そして、僕も、神‥。
そんなこと信じられるわけが‥。
目の前の男は‥神と言われたら、成る程そう信じられるだけのものがある。
有無も言わせぬ存在感と、威圧感は常人のそれではない。
‥だけど、僕は‥?
「‥信じないという選択肢はない。主を騙すメリットも、争う必要もない」
ふわっと、男が僕の手を取り、その手を重ねる。
ぞっとするほど‥冷たい手だった。
「我主に干渉する。「天水訟」」
全く違う気が自分に干渉してきたのが分かった。
さっき、天の神と言っていたから、これが天の卦の力なんだろう。
男の声が何か、紡がれるように頭に流れて来る。
「主と我の性質は違う。我の天の卦は上に上がる性質を持っており、主の水の卦は下を流れる性質じゃ。互いに交わることがない卦じゃ。それが理‥。
「訟」は訴訟。
我々は互いに交わることはない、しかしながら、争う必要はない。そういう意味じゃ。
我は主に干渉しない。だが、見守っておる。
‥主はまだ、自分の力を開放しきっておらぬ。力には各人において、天井があってそれ以上成長するのは無理じゃが、神である主は、その天井が常の人より高い。‥せいぜい精進しろ」
主の神の位は‥我とあまり変わらないか‥。
いずれにせよ、「主」が、「我」に干渉して来たときは、我と主の関係も、また変わる。
水天需‥需は待つの意。今は‥ただ待て。
静かな声が頭にしみるようだった。
「干渉‥」
「いつも、柊に主がしておるであろう? 」
ふ、と男が笑う気配がした。
「水火既済」
「水が火の燃えるのを防ぐ卦じゃな」
‥水火既済‥!
あの卦だ。
「‥反対だと火水未済じゃな。‥意味は、水の上に火があり、全く意味がない。って意味」
未済‥。楠は、小声で繰り返した。
「だが、力の差が大きすぎて、今はまだ柊は主に干渉できない」
「力の差‥」
まさか、合っていた。
力の差が大きい方が干渉しやすいというわけか?
「いや、出来るか出来ないか、だ。差が大きくても、出来るときもある」
反対もあるという事か‥。
「普通は、力が強いもの方が干渉はしやすい。干渉を受け入れることも出来る。干渉を受け入れる受け入れないは、力が強い方に権利がある。じゃが、必要があれば、‥力が弱い方からでも干渉は出来る。そういうもんじゃ」
「何にせよ、力が強いものは、自覚して力を使わなければならない。‥無意識で、「知らなかったから」ではすまぬぞ」
‥無意識。
僕が今まで知らずにしてきたこと。‥血を凍らせること。
人を殺してしまうかもしれない力‥。
「‥今までの主を責めておるわけではない。‥別に今までの主じゃったら、そんな大した力もなかったじゃろうし、主は優しい。すぐに、気を散らしたであろう? 今までならそれでよかった。じゃが、これから主はもっと力をつけねばならぬ。‥主が拾ってきた柊。あれの成長に主が追い付けないようではいけない」
「柊さん? 」
‥柊さんの成長?
「それは‥どういう‥」
聞こうとした僕の口を、男が覆い「しっ」という。
扉の外に人の気配がしたのだ。
「天音ちゃん? 」
その声で、外からの音が一気に入って来た。
急に、気圧がふ、っと軽くなったのだ。
‥今まで、結界みたいなものを張っていたってことか?
「あれ? 天音ちゃん見なかったですか」
その声が、他の誰かに話しかけるのが聞こえた。
「あ、はーい」
ったく、伊吹。お前は、ホント‥天音のストーカーか。
目の前の男が呟く。
あ、また言ったさっきの「天音のストーカー」。伊吹さんって、天音って子のストーカー疑惑が出てるのかな?
ってか、誰だろ。天音ちゃん。
さっき女の子の声がしたけど‥。
すぐ近くで。
え? っと思い、さっきまで男が立っていたところを見た。
もう一度見た。二度見って奴だ。
男の立っていた位置に、少女が立っていた。
「! 」
‥誰!?
絶対に、誰もこの部屋には居なかったぞ、しかも一瞬であんな男がこの部屋から消える?!
男が消えて、この女の子が現れた‥。
そんな感じだった。
「ちょっとまってくださいね~」
少女がさっきと同じ声で返事した。
「ではの。また、じゃ」
部屋から出る前に、ちょっと振り向いて、楠を見た。
に、っと笑った顔は、さっきまでの目つきの悪い男と同じ笑みで‥。
「!! 」
その場に取り残された僕は、そのまま崩れる様に座り込んでしまった。
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