souls game

文月

文字の大きさ
上 下
7 / 35

7.僕の「分かる」を言葉にしたら‥(side 楠)

しおりを挟む
(本編 Souls gateを少々手直ししました。本編の方もそのうちまとめて変更していくかもしれません)


 なんとなく‥そんな気がした。
 相性がいいっていうの? ‥それも違う。
 だけど‥
 何となくね。「僕はそこに‥この人の傍に居なければいけない」‥あの時の柊さんを見た時‥僕はそう思ったんだ。

 ぼんやりと座っていた柊さんを見た時
 なんとなく「この人は‥火だ」って思った。
 燻っている‥だけど、燃えたくなくって‥燃えそうに、燃やしそうになる自分が怖くて、不安‥そんな風に見えた。
 火っぽい人て言ったら、何事にも熱くって情熱家って印象があるけど‥柊さんはそんなんじゃない。
 だけど、彼の性質は‥間違いなく火だって思った。
 火だけど‥
 火の本能の赴くまま‥何もかも全部を燃やしうること‥そんな自分の力を恐れている。‥そんな、理性的で臆病な火。だけど、実際にそれができる力(すべてを燃やしうる力)を持っているから‥いっそそうしてしまいたいっていう願望も持っている。‥そんな危うい人。
 不安で、‥危険な子。
 そんな風に見えたんだ。

 不思議だよね。

「火‥八卦では離か」
 離は自然現象は「火」性情は「麗」家族は「中女」(‥卦では一陰二陽は女子らしい)
 麗は「綺麗」の麗だけど、火の性情としての「麗」は「付く」。火は必ず何かに付いてるから‥らしい。
 火だけじゃ燃えないよってこと??
 その様子があの時の不安げな柊さんに被った。
 そんなことを思ったけど‥僕は暫くそのことをそのままにしておいたのだった。
 

 気になってるけど、答えが出ないし、日常生活に直接関係ないからそれ以上考えることもない。‥そんな状況が変わったのは‥「あの男」との出会いだった。


「君‥」
「はい? 」

 それは、裏西遠寺の寮に来て、一か月がたとうとしていたころだった。
 ここは、広くて、働く人も多い。多分まだ全員の人とあえてはいないだろう。
 もっとも、会った人総てを覚えているわけでもない。だけど、こんな目立つ人は、覚えるだろう。
 多分、この人は、今日初めてあった人だ。
 だのに、なんでこの人は僕を見て微笑んでるんだ? 僕はこの人と知り合いだっただろうか?
 ‥どうしよう、思い出せない。‥そもそも、本当に知り合いなんだろうか? 
 そう思って、まじまじとその人を見た。
 背が高い。多分、180cm以上あるんじゃないだろうか。ゆったりと白衣を羽織っているが、がっしりした体つきをしていることはわかる。釣り目がちのおそろしく目つきの悪い目、体つきに反してすっきりとした首。後ろだけ肩にかからない位に自然に伸びた髪。黒眼、黒髪のどちらかというと、禍々しい感じのする男だった。
 思いのほかガン見していたのだろう。
「私が気になりますか? 楠さん。‥少し話しませんか? 」
 ふっと、その僕より目つきの悪い男が笑う。
「え? 」
 なんで。
 と思ったが、その男の手は既に僕の腕を掴んでいる。
 ‥話しませんかじゃなくて、強制か?!
 腕を振り払おうとしたが、恐ろしく力が強い。
 僕だって、もやしっ子ではないのに、だ。
 そのうえ
「‥貴方の正体をお話しますね」
 男はぼそっと、耳元でつぶやくと、有無も言わせない迫力で手近な部屋に押し込まれた。
 何かを企んでいる。
 そんな表情ではない。
 不敵な笑みを浮かべているが、真剣さがちらっと見えた。
 年のころは‥僕より上か、だけど多分そう変わらない位。
 だのに、あの目つき、あの雰囲気。
 本能に従うと、
 極力関わり合いになりたくない感じ。
「‥それは、僕が聞かなければいけない話ですか? 」
 だから、牽制の意味も込めて、僕は薄目を開けた。
 実は、これ位なら(目を開いても)「大丈夫」なんだ。
 もし、しつこい様なら「命令」するほかはない、が、何となくこの男には‥きかない気がする。
 柊さんにもきかなかったし、柳さんにもきかなかった。
 多分‥僕の「統べる目」が、きかないタイプってのはいるらしい。
「聞かなければいけないと思いますよ」
 に、と目つきの悪い男が笑う。
 薄く口の端をあげて笑った顔は、悪人そのものだ。
「‥手短にお願いします。‥大学に行かなければならないので」
 僕は、ふっと小さくため息をついた。

「面倒なので、いろいろは言いません。事実だけ」
「ええ」
 何をもったいぶっているんだ。「面倒だから」とか、前置きをするのがまず面倒だろ。
 僕は、しらっとした顔を男に向けた。
 男は、扉の外に意識をやって、そして部屋の中に意識をやって、そして
 ピン
 と、指をならして、何かを壊した。
 ことり、と何かが落ちて来る。
 ‥小型の監視カメラ? 。
「伊吹か? ったく、あいつは疑い深いというか‥、天音のストーカーかって感じだな‥まあ、寧ろ「珍しいものの観察」なんだろうな。‥研究熱心なのだろうが‥。‥まったく、研究欲の前には人権も倫理も無視って点では恭二と変わらんな」
 ‥まあ、この部屋は、別に誰が使う部屋ってわけでもないか‥。
 ぶつぶつと小声で愚痴を言って、ゴミ箱に監視カメラの残骸を捨てる。ちょっと下唇を突き出して拗ねた様な顔をしたのは、やけに気になった。
 ‥女子か。
 それに、
 ‥それは、燃えるゴミじゃない。
 とは思ったが、口にするのはやめておいた。
 ‥しかし、監視カメラ。僕たちの部屋にもついてないだろうな。‥こんど、スマホで調べよう。
 なんか、スマホのカメラで見たら赤く光るんだよね?
「ああ、時間がなかったんだっけ。‥まあ、分からなくてもいいかなと思ったんだけど、‥混乱するだろうし。でも、‥さっき見てたら、知っておいた方がいい様な気がしたんだ」
「‥さっきから、何ですか。回りくどい。言いたいことあるなら言ってください。別にいろいろ言われてきたから、悪口なら言われ慣れています」
 楠は、もう一度深めのため息をついた。
「悪口? いや、正体をいうのに、悪口も何もないだろう。これが、悪口なら、自分のことを悪しざまに言うことになる」
 しかし、男はまたちょっとためらった。
 見かけの割に、慎重なんだか、何かに気を配ってるんだか、‥よくわからないが、もどかしい!
「‥だから‥」
 だから! さっさと、言え。
 男は僕の様子(きっとあからさまに不快感が顔に現れていたんだろう)に苦笑いをして
「まあいいや」
 と小さく息を吐いた。
 と、次の瞬間。
「‥我しかぬしにこれを知らせられる者もいないしの」
 ってニヤリと笑ったんだ。

 ‥言葉遣いと、雰囲気が変わった。
 ‥目が、金色みたいになった? 

 周りの空気も変わったみたいだ。気圧が変わったみたいに重くなった。
 威圧感が半端ない。
 ぴりっと‥静電気が走ったような‥ひり付きを身体に感じた。

「この言葉、戯言と受け取ることは、許さぬ。
 主の真(まこと)の姿は、我と同じ‥神じゃ」

 重々しい口調で男が言ったセリフが、これだ。
「は? 」
 あ、つい即答しちゃった。
 あの威圧感にも負けず、即答しちゃった。
 だって、するでしょ? 「かみ」って何。
 「上」?  「髪」? 「神」?
「思い当たることはあったと思うぞ。‥主は水の神じゃな。主は水の気に満ちておる。それも、常人よりずっと。今まで、やたらに雨男だったとか、水泳が練習したわけでもなく上手かったとか、止まれって思った相手が止まったりだとかしなかったか? 」
「え! 」
「え? 」
 目つきの悪い男が首をコテン、と傾げる。
 ‥偶にするな‥。こういう、女の子っぽい仕草。似合わないぞ!!
「さっきの‥」
「雨男? 」
 また、コテン。
「いや」
「止まれて思った相手? 」
「それ! 」
「体内の水分に、働きかけたら、そんなこと容易に可能だろ? 主は熱い男ではないようだから、熱の方に力を使うタイプではないらしいな。だけどちょっと、相手の血を凍らせたら、まあ止まるわな。水の気を持つ者は、これを知らずに使ってしまうから、自覚が必要じゃとおもっての。その様子なら、今までも使ったことがあったんじゃないのか? 」
「血を凍らせる‥」
 さっと身体から血の気が引いた。
 ‥なんだそれは‥。
「一瞬な。その気になれば、主なら‥、相手を凍死させる位わけないぞ。‥じゃから、我は主に言わねばならんと思ったのじゃ。他にも降りて来ておる神位おろうが、普通は、自覚があるからの」
「‥貴方は一体? 」
「主の、まあ、仲間じゃな」
「‥」
 さっきこの男は、僕のことを神だと言っていた‥。ということは‥。
「我は、天の神じゃ」
 天の神‥☰(乾)? 。
 ‥それより、さっきなんか、可笑しなこと言っていたな。
 ‥神は他にも降りてきている。
 そして、僕も、神‥。
 そんなこと信じられるわけが‥。 
 目の前の男は‥神と言われたら、成る程そう信じられるだけのものがある。
 有無も言わせぬ存在感と、威圧感は常人のそれではない。

 ‥だけど、僕は‥? 

「‥信じないという選択肢はない。主を騙すメリットも、争う必要もない」
 ふわっと、男が僕の手を取り、その手を重ねる。
 ぞっとするほど‥冷たい手だった。

「我主に干渉する。「天水訟」」

 全く違う気が自分に干渉してきたのが分かった。
 さっき、天の神と言っていたから、これが天の卦の力なんだろう。
 男の声が何か、紡がれるように頭に流れて来る。

「主と我の性質は違う。我の天の卦は上に上がる性質を持っており、主の水の卦は下を流れる性質じゃ。互いに交わることがない卦じゃ。それが理‥。
 「訟」は訴訟。
 我々は互いに交わることはない、しかしながら、争う必要はない。そういう意味じゃ。
 我は主に干渉しない。だが、見守っておる。
 ‥主はまだ、自分の力を開放しきっておらぬ。力には各人において、天井があってそれ以上成長するのは無理じゃが、神である主は、その天井が常の人より高い。‥せいぜい精進しろ」

 主の神の位は‥我とあまり変わらないか‥。
 
 いずれにせよ、「主」が、「我」に干渉して来たときは、我と主の関係も、また変わる。
 水天需‥需は待つの意。今は‥ただ待て。

 静かな声が頭にしみるようだった。
「干渉‥」
「いつも、柊に主がしておるであろう? 」
 ふ、と男が笑う気配がした。
「水火既済きさい
「水が火の燃えるのを防ぐ卦じゃな」

 ‥水火既済‥!
 あの卦だ。
 
「‥反対だと火水未済じゃな。‥意味は、水の上に火があり、全く意味がない。って意味」
 未済‥。楠は、小声で繰り返した。
「だが、力の差が大きすぎて、今はまだ柊は主に干渉できない」
「力の差‥」
 まさか、合っていた。
 力の差が大きい方が干渉しやすいというわけか?
「いや、出来るか出来ないか、だ。差が大きくても、出来るときもある」
 反対もあるという事か‥。
「普通は、力が強いもの方が干渉はしやすい。干渉を受け入れることも出来る。干渉を受け入れる受け入れないは、力が強い方に権利がある。じゃが、必要があれば、‥力が弱い方からでも干渉は出来る。そういうもんじゃ」
「何にせよ、力が強いものは、自覚して力を使わなければならない。‥無意識で、「知らなかったから」ではすまぬぞ」
 ‥無意識。
 僕が今まで知らずにしてきたこと。‥血を凍らせること。
 人を殺してしまうかもしれない力‥。

「‥今までの主を責めておるわけではない。‥別に今までの主じゃったら、そんな大した力もなかったじゃろうし、主は優しい。すぐに、気を散らしたであろう? 今までならそれでよかった。じゃが、これから主はもっと力をつけねばならぬ。‥主が拾ってきた柊。あれの成長に主が追い付けないようではいけない」

「柊さん? 」

 ‥柊さんの成長?

「それは‥どういう‥」
 聞こうとした僕の口を、男が覆い「しっ」という。
 扉の外に人の気配がしたのだ。

「天音ちゃん? 」
 その声で、外からの音が一気に入って来た。
 急に、気圧がふ、っと軽くなったのだ。
 ‥今まで、結界みたいなものを張っていたってことか? 
「あれ? 天音ちゃん見なかったですか」
 その声が、他の誰かに話しかけるのが聞こえた。
「あ、はーい」
 ったく、伊吹。お前は、ホント‥天音のストーカーか。
 目の前の男が呟く。
 あ、また言ったさっきの「天音のストーカー」。伊吹さんって、天音って子のストーカー疑惑が出てるのかな? 
 ってか、誰だろ。天音ちゃん。
 さっき女の子の声がしたけど‥。
 すぐ近くで。
 え? っと思い、さっきまで男が立っていたところを見た。
 もう一度見た。二度見って奴だ。
 男の立っていた位置に、少女が立っていた。
「! 」
 ‥誰!?
 絶対に、誰もこの部屋には居なかったぞ、しかも一瞬であんな男がこの部屋から消える?! 
 男が消えて、この女の子が現れた‥。
 そんな感じだった。
「ちょっとまってくださいね~」
 少女がさっきと同じ声で返事した。
「ではの。また、じゃ」
 部屋から出る前に、ちょっと振り向いて、楠を見た。
 に、っと笑った顔は、さっきまでの目つきの悪い男と同じ笑みで‥。
「!! 」
 その場に取り残された僕は、そのまま崩れる様に座り込んでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

処理中です...