souls game

文月

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2.新生活(side 楠)

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 若い方は、西遠寺 伊吹さん。年上は、西遠寺 恭二さん。っていうらしい。
 苗字が一緒だから親戚か何かですか? って聞いたら、
「君もすぐにこの苗字になるよ」
 って伊吹さんに言われた。
 ‥なにそれ、怖い。
 勝手に結婚させられる‥的な??

 伊吹さんの説明によると、西遠寺という家は元々は陰陽術を中心とした政府高官相手の便利屋だったんだけど、この頃は能力を持った直系の跡取りが不足している。そこで、外部から能力者を探してスカウトしちゃおう~☆ ってなったらしい。
 で、そのスカウト組が直系の(表)西遠寺に対して裏西遠寺と呼ばれている‥らしい。
「苗字を変えるのは‥気分の問題。その方が、家族って感じするでしょ? それに、お得意様的にも、全く知らない人より信頼できるでしょ? 」
 って言われた。
 正直よくわからなかったけど、特に何も思わなかった。‥結婚じゃないならいいや、って思ったくらいだ。

「陰陽術? そういうの、僕違いますよ? いたって普通のサラリーマン家庭だし。それどころか、霊感とかないし」
 って僕が言ったら伊吹さんは、
「そういうもんだけじゃないんだ」
 って苦笑いした。
 どうやら、「それっぽい普通じゃない子」を集めてるらしい。
「才能のある子って、わかりにくいんだよ」
 ‥なんの才能だ。
 で、その変人集団が集まった会社に僕はスカウトされた、と。
「そんな会社は‥いや? 」
 ってちょっと不安げな顔で見られた僕は、苦笑いで首を振った。

 全然? びっくりするほど、構わないって感じ。

 僕は、その場で就職を決めた。その時、図々しく
「大学院にはいきたい」
 って要求も飲んでもらったので、暫くの間、学校と会社のダブル生活をすることになるだろう。
 そこは‥譲れないんだ。
「仕事、決めて来た。住み込み」
 って母親に言ったら母親は‥ほっとした顔で
「そう」
 って言った。
 それだけ。
 どこ? とも、なんで急に? とも‥何も聞かなかった。
 どうでもいいんだろう。働き口が決まったならそれで。‥違法な仕事をすることはないって思ってもらえるくらいは信用されてるみたいだ。
 人様に顔向けできない様な仕事じゃなかったらそれでいい。‥それだけ。
 それ程疲れさせてしまったんだな‥って思った。

 ちゃんと、親を安心させて、家出じゃなく家を出ることが出来た。
 それで、満足。
 ‥それだけだ。

 そんなこんなで約束の日までの日々は、家を出る準備をしたり、卒論をかき上げなければいけないこともあり殆ど研究室に籠ってたり‥と兄弟や両親と話すことはなかった。
 だけど、みんなそれをほっとしてる風にも見えた。
 これでいいんだ。
 ‥そんな風に思った。

 そして、大学を難なく卒業して(首席で! )
 大学院に入学することも決まり(← この怪しい会社を辞めてもどこか働き口が見つかるように、コネを作る努力したり、資格なんかを沢山取ろうとおもう)家を出た。
 家を出た時、後ろは振り向かなかったんだけど、何となく母親が僕を見送ってくれているらしいってことが気配で分かった。
 一言も話さない。
 だけど‥
 ぐずっと‥鼻をすする音が微かに聞こえて‥泣いてるんだなってことがわかった。‥だけど、それだけだ。引き返して母親との別れを惜しむ‥とか期待しちゃダメだ。ドラマじゃないんだから、そんな風にはならない。

 しんみりと‥はいけませんヨ。新しい船出です。ぱあっと明るく行きましょう! って電車に乗って、駅を降りた僕は

 ‥そこで彼に会った。

 会った‥って言うか、拾った。
 3月でまだ寒いのに、薄手の長袖Tシャツと綿パン姿。目が隠れるほど前髪を伸ばした、骨が見えるほど痩せた若い男。
 服も髪も綺麗だからホームレスとか‥家出人ではないらしい。だけど、その‥辺りを威圧するようなその男の異様な雰囲気から、皆遠巻きにして‥避けるように通り過ぎていった。
 ‥まあ、そうじゃなくても、落ちてる男を拾う者なんていない。
 なのに‥
 中原中也が、月夜に見つけたボタンをつい拾ってしまい‥それを捨てられなかったみたいに‥僕もその男を見て見ぬふりすることなんてできなかったんだ。
 気が付けば‥
「君。大丈夫? 」
 手を差し出していた。
 相手も‥つい、その手を取る。多分条件反射みたいなもんだろう。
 不安げに僕を見上げるその男は‥僕と同じ年位に見えた。
「大丈夫? ほら、立ち上がろう」
 飲み物でも飲めば落ち着くよ。
 って笑顔を心掛けながら言った。
 
「ご家族に迎えに来てもらえますか? 携帯ありますよ」
 そう聞くと、男は首を振った。持ってないらしい。すると、男の腹がぐ~と小さく鳴いた。
 思わず、ちょっと笑ってしまった。
 それを誤魔化すために
「‥お腹へったんですか」
 と、お茶とお握りをコンビニで買ってきた。
 笑うのは良くないよね。‥せめてものお詫びだ。要らないことをしたか? って思ったけど、彼はお金もろくに持ってない様だった。

 ‥大丈夫か、この人。

 一気に不安になったのは‥でも、無理もないだろう。
 だけど、ほっとけないので、公園のベンチでお握りとお茶のささやかな昼ご飯を食べた。隣に座る僕も同じものを食べる。
 ウメと明太。僕はこの二つが定番だ。
 だけど、初めての人にそれを勧めるのも何かな‥って感じもする。ウメとか‥好みが別れるでしょ? 
「何がいいですか? 」
 って一応聞いたら、首を傾げられた。
 ‥何でもいいってことだろう。昆布と鮭位が定番かな? 
 不満はなかったのか、彼は一度も顔をしかめることなくお握りを食べた。
 ただ‥このひとホントに日本の人なのかな? って疑問に思ったのは‥秘密だ。
 だって、さっきから一言もしゃべってないし、‥お握りのフィルムの剥がし方知らないし。
 食べ終わって満足したらしい。手を暖かいお茶で温めながら
「くしゅ‥」
 驚くほど小さなくしゃみをした。
 気付けば、この人、コートを着ていない。もう暦の上では春‥かもしれないけど、普通に寒いぞ。自分の荷物からジャケットを出してきてかけた。痩せてるから、着れるみたいだ。
 いいの? って風に僕を見るので頷いた。
 その顔が不安気で、‥なんとか安心させてあげたいって思った。
 ウトウトとするけど、僕がどこか行ってしまうかもって思って不安なのか、眠いのを振り払ってまた僕を見る。
 そんな彼はまるで捨てられた犬みたいで‥
「大丈夫。僕は、いますよ。‥いる方が、君はよさそうですね」
 って言った。
 タオルケットを大荷物から出して自分の膝と彼に掛けた。
 どこにもいきませんよって伝えたいって思った。
 そうすると、彼の身体から力が抜けていくのが分かり、彼は僕にもたれかかって寝てしまった。

 目が覚めた彼がポツリポツリと話してくれた。
 話してくれた‥というか質問に答えてくれた。
「家に連絡しなくていい? 」
 って聞いたら、首を振られて
「しないで」
 って言われた。
「名前は? 」
「西遠寺 隆行」
 その苗字に‥覚えがあった。
 覚えがあるって言うか‥忘れられるわけがない。
 これから僕もなるかもしれない苗字だ。
 じゃあこの人は‥伊吹さんが言ってた「表の」人? 
 それとも、既にスカウトされた裏の人?

 ‥じゃあ、この人も連れて行ったらいいじゃないか。
 
 単純にそう思った。
 そもそも、この人を置いてく選択肢なんてないしね。(何となく、警察はNGかなって思ったんだ。本人が家に知らせたくなさそうだし‥)
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