souls game

文月

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1.新しい暮らしと西遠寺(side 楠)

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 そう不満はなかった。
 家族にも周りにもね。
 だけど、‥満足はしてなかった。
 どうでもいいやってのが本心。
 ある日、もうホントにどうでもよくなったんだ。
 いい大学行って、いい会社に入って、親に高額の仕送りをする。
 ‥そしたら、親も僕のこと見直してくれるかなって。
 でも、母親が自分の姉に呟いた
「‥なんかもうね、働いて家を出てくれたらそれでいいかなって。親に頼ることなく自活して欲しい。ただそれだけが望み」
 って言葉を聞いたら‥もう、それもどうでもよくなった。
 さっさと家を出よう。
 そう思った。
 そう思えたのも、「行く当て」があったからだけどね。

 当時はそう聞いたこともなかったゲーム会社「TAKAMAGAHARA」。
 その会社から個人的に就職のオファーが来たんだ。
 それも、学校を通して‥とかじゃない。
 帰り道を待ち伏せされて‥「ちょっとお話しいいでしょうか? 」って刑事ドラマの職質かと思ったよ。
 で、事務所に連れていかれて(ヤクザ?? )名刺渡されて、就職のお誘いを受けたんだ。
 僕が学年トップの成績だからか? って思って聞いたら‥
「それもあるけど、それは決定打じゃない」
 って首を振られた。
「君。凄く特殊だよね」
 男は僕の顔を真っすぐ見て‥不躾にそう言った。
「え? 」
 僕は面食らった。が、不思議と不快感は感じなかった。
「売られた喧嘩が全戦全勝って‥なかなかいないよ? それも、君が相手を酷く殴ることもなく勝利している」
 ポカンとした。
 確かに‥そうだけど‥
 それがスカウトの決め手??
「どうやって勝てたの? 」
 ずいっと男が僕に顔を近づけた。
「どうって‥」
 僕は思いがけない男の行動に、狼狽え、ちょっと言葉が上ずった。
 ‥思ってたよりずっと若い男。僕より5つほど年上なだけの男。顔が‥ちょっと、って表現では足りない位に整っている。色の白いしゅっとした印象の「エリートな医者」って感じの男。
 スカウトに来たってことは人事部の人間なのかな? 入社して5年くらいの新人~中堅ってところ? もう一人の男は‥彼の上司かな。彼より10は年上って感じ。でも、40はいってないって感じ。
 目つきの悪い、神経質そうな男だ。
 ‥こんなに人の顔しみじみ見たの初めてだ。


 というのも、自分で言うのもなんだが、僕はびっくりするほど顔覚えが悪い。‥というか、人の顔の区別がつかない。インターネットで人の顔を区別する顔細胞なるものがあることを知って以来は「自分は顔細胞が欠如してるんだ」って申告しておくことにしている。案外と「あ、俺も」って同意してくれる人いるんだ。
 だけど、その人が僕ほど酷いかどうかは分からないよ? 
 普通じゃないとは自覚してるんだ。
 母親は‥分かる。父親も、多分問題ない。兄弟も、親しくしてくれる友達も。
 だけど、それさえも一年会わなかったくらいで自信がなくなるんだ。
 幼少期、父親の仕事の帰りがおそくって、毎日顔を見合さなかって、日曜日にいる父親を見て大泣きした記憶がある。そのときは両親も笑って許してくれたが‥基本今でもあの時と同じ位‥人の顔の区別がつかないし、人の顔を覚えられない。
 顔で区別がつかないから、よく持ってる持ち物だとか、声だとか、話している内容で人の識別をしている。
 それで不便は今のところなかった。
 母親には、日頃から迷惑ばかりかけてるからこれ以上迷惑も心配も掛けたくない‥って思うんだ。
「脳を調べてもらった方がいいかなって‥」
 とか‥ちょっと言いにくいよね? ‥だから、そういうことは経済的に自立してから自分でやろうかなって。

 そう、僕は今まで母親に散々迷惑と心配をかけて来た。
 僕の目付きが悪いせいだ。
 まるで獣みたいな‥目つきが鋭い黄色い目。
 普通に見るだけで「睨まれた」って子供は泣き、不良には「あぁ? 何ガンつけとんねん」って言われる。それで、必ず喧嘩になって‥翌日学校に親が呼び出される。
 そんなことは日常茶飯事だった。
 初めは「アンタは悪くない」って庇ってくれてた母親も‥しまいには無口になっていた。ただ、先生に迷惑をかけたと謝るだけ。相手は‥だけど、怪我させたわけでもないし、相手から仕掛けてきたことだからね。反対に相手が謝りに来てくれたよ。「後生だからもう、息子には関わらないで‥」って泣きつかれたこともよくあった。‥それはこっちの台詞って思った。だけど、母親はそれを聞いてもっと僕が怖くなったみたい。「一体うちの息子はよそ様の息子に何をしたんだ? 」って‥。
 そんな噂が流れて、僕は気が付いたら学校一の不良扱いされてた。
 することがなかったから勉強ばっかりしてたから成績は良かった。大学とか、望む所は全部偏差値的に問題はなかった。だけど、先生受けが悪すぎて‥ね。
 幸い、担任だけは僕の味方をしてくれた。
「お前は、誤解されやすいだけなんだ」
 って言ってくれた。聞けば、先生も昔自分の容姿が原因で揶揄われることがあったらしい。
 先生は周りと僕のせいで対立して‥だけど、僕は何とか希望の大学に入ることが出来た。
 希望っていっても、‥将来に対する希望なんてないんだけどね。


「どうもこうも‥ただ、僕の目付きに相手がひるんで、一瞬固まった隙に突き飛ばして逃げた位です。別に特別なことはしてません」
 口に出して言うと、あんまりにもダッサイけど‥ほんと、そう。
 どいつもこいつも、なんだ? って位に僕が睨むと固まる。
 僕はメデューサか? 
 って感じだよね。
 それを聞いた若い方は
「‥へえ? 」
 って首を傾げた。そして
「催眠術みたいなものかな? 」
 ボソリと小声で呟いた。
 催眠術??
「僕にもやってみてくれる? その‥相手を威圧する奴」
 ‥えらくぐいぐい来るな。
 しかも‥威圧? 威圧って言い方が正しいかどうかは分からないけど‥やれっていうなら‥いつもの様に‥

 来るな! 止まれ

 僕はこころの中でそう強く念じながら、若い男の目を見た。
 若い男がいつも通りの反応‥まるで固まったみたいに止まる。
 もう一人の男が、ポンと部下(多分)の肩を叩く。
 カハカハと咳ごみながら若い男が肩で息をする。

「え‥なんだろ。君‥普通の子じゃないね? 面白い。ね、うちの会社に来てよ。是非。
 いや‥来た方がいい気がする君は」
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