俺が誰って？ 只の‥乙女ゲームを恋愛抜き（希望）でクリアしたいごく普通のDKですが？

３６．お久しぶりな魔女・ルミエル。

　何故、レオン様のステータスが急に見えるようになったのか。
　‥それは、多分ゲーム的に好感度が上がったから‥とかだろう。好感度は既にカンストだから、例の親密度って奴かな。それは‥でも、まだ見てない。
　何故、レオン様が「タツミの恋人」っていう称号になったのか。
　‥これ、勘がるだけ無駄だ。多分「攻略した」みたいな感じだろう。
　何故、急に皆が俺をレオン様の恋人の様に扱うようになったのか。
　‥これだ。これは‥あれかな？　このゲームはハーレム状態を良しとしないゲームで攻略対象の内の一人が恋人認定されたら、他の攻略対象は「いや、アイツの恋人だし」って感じでもうモーション掛けなくなるって感じなのかな？　‥わからんけど。まあ‥いいと思うよ？　ハーレムとか良くないよね。

　‥そもそも、誰かと（しかも、男と！　）恋人認定（そうだ‥！　相手が男じゃなかったら全然いい！　）が、そもそも俺にとって良くないよね！　

　あの後、倒れた俺を運んでくれたのはレオン様だったらしい。（運び方も問題だが、俺のメンタルが持たないからあえて聞かない）だが、当たり前のように自分の居住地に連れていこうとしたレオン様を止めてくれたのは、護衛騎士さんたちだったらしい。
　護衛さんたちが口々に
「結婚もしてないのに」「タツミの外聞が」「タツミに迷惑がかかる」
　と言って止めてくれたと言って来た。なんだその「お礼言え」みたいなドヤ顔。
　言うけど。言いますけどね？　
　だけど、別にそれは俺の為じゃないよね？　「主の外聞」の為だよね？　王子がそういう行動取っちゃダメだから、体面的に。「結婚するまでは清い関係」大事。外聞が悪いからね。
　ってか‥
　結婚どころか、付き合ってもいないし、絶対「清くない関係」とかならないぞ！
　‥男とそんな関係あるか！　男相手とか問題‥とかはないのが‥怖い。これもゲーム補正か？！　
　‥止めてよ。「後継者の問題もあるから‥」って止めてよ‥って思ってたら「レオン様は皇太子じゃないから結婚後王族じゃなくなるんです」「だから問題ない」「寧ろその方がいい」とか言われちゃった‥。うわ～怖いよ～。そういう理由で下級貴族のヒロインちゃん（本物）が相手でもオッケーなのね‥。　
　何で俺が‥
　‥って青くなる俺に、護衛さんたちは、
「俺たちが止めたからレオン様はタツミを城に運ばなかったのであって、レオン様の気持ちがタツミにないわけじゃないぞ。レオン様はそんなチキンじゃないし、情熱的じゃない人じゃないぞ」
　と、「いらんフォロー」入れて来た。
　いや、チキンでいいし、俺に情熱的になる必要もゼロだし‥そもそも、俺は「レオン様は俺のことなんとも思ってないんだろうか‥」とか思わない。落ち込まない！
　え‥と騎士さんたちを見た俺に、生暖かい笑顔を向けて
「俺たちは‥お前の今までの頑張りを知ってる。お前の‥レオン様に相応しい人間になろうと努力した頑張りの日々を俺たちはこの目で見て来たからな。　
　‥応援してるぜ。　
　それと、レオン様とこういう関係になったからって言って、俺たちが態度を変えるのをお前は望まないだろ？　だから、これからも今まで通りバシバシ鍛えてやるからな☆　」
　って言って来た。
「‥‥‥（絶句）」
　つまり‥（話を総合すると）護衛さんたちは‥
　外聞が悪いという理由で俺たちは止めたけど、レオン様はチキンじゃないし、タツミのことは好きだから安心しろ！　お前の名誉を守った俺たちのこと‥感謝してリスペクトしろよ？　俺たちはお前を応援してるぜ☆　これからもよろしく～
　と言っているわけだ。
　‥今まで友達だと思ってたのに‥もう嫌いよ！！
　って俺何言ってんだ‥。

　もう、何がなんだかわからない。

　そんな時は何も考えずに寝るに限る、と早めにベッドに横になったら‥疲れもあってすぐ寝てしまった。そして、寝て覚めたらやっぱり「ま、いっか」ってなってるのだ。忘れちゃってるわけじゃない。だけど昨日までの不安や困惑が全部「ま、いっか」「悩んでても仕方ない」になるんだ。どうかと思うが‥今は助かる。
　現実逃避じゃない。‥動くための気力だ。今はね、たとえそれが張りぼてだとしても‥気力がいる。
　真に「問題を消化する為の時間」や「問題を解決することが出来る力」‥必要だけど、今は両方（物理的に無理だから）仕方がない。
　小さく息を吐いてベッドから起き上がると、枕元にルミエルが立っていた。黒いローブみたいな服を着ていた。‥魔女だから？　って思ったけどそれは聞かなかった。
　ルミエルは、俺が起きるのを今か今かと待っていたらしい、起き上がった俺にキラキラした目を向けた。一気に眠気が飛散する。
　‥ウザいな～。
　俺はため息をついて、服を（例のシステムで）着替えてベッドに座った。
「初めての「恋愛」展開だから、私も興奮してるんだよねっ」
　俺の横に座りながらルミエルは若干顔を赤くして言った。興奮で頬が上気する奴とか、初めてリアルで見たよ‥。現在人って淡泊だから、そんなに表情に出ないのかな。‥違うな、‥ルミエルの頬が日本人よりずっと白いからだ。
　‥ホント、見た目だけはパーフェクトに可愛い。
「ね、何があったの？　」
　ルミエルがグイッと身を乗り出す。近い。普通ならドキドキしちゃう場面だけど、‥相手は妹だ。ドキッともしない。（ドキッとしたら、俺は自分を許せなくなるだろう。‥良かった）
　ってか‥完全に他人事でおもしろがってんじゃねーか。妹ってか、思春期の息子を揶揄うオカンだな！
　ルミエルにここ最近の出来事をかいつまんで（キスのところは勿論端折った）話すと、
「つまり～レオ様がお兄ちゃんの新スキル「上目遣い」でメロメロになって、結果、お兄ちゃんとレオ様は周囲から恋人認定されるようになった。だけどお兄ちゃんはそれは不本意だと」　
　さらに端折って‥要約して？　‥ルミエルが言った。メロメロって言い方‥。俺が苦笑いすると
「男にも取得可能なんだね、「スキル・上目遣い」って。女の子限定だと思ってた‥まあ‥でもそうかもね～。
　可愛いに女も男もないもんね」
　妙に感心したように言い、俺の返事も待たず、
「いつもツンってしてるお兄ちゃんにお願いされたら、「聞こうかな‥」って思っちゃうよね。しかも「お願いします」じゃなくて、「お願いっ」って上目遣いで言われたりしたら‥そりゃあ、「聞きます聞きます！　」ってなっちゃう。ん～なんか想像しただけで可愛いっっ！　それって、アレ‥ツンデレって奴だよねっ（お兄ちゃんは何もしなくても可愛いけどね～、は、だけど言わないでおく。言ったら絶対怒るから‥。しかし、可愛いお兄ちゃんの上目遣いの「お願い！　」‥ぐぅ‥っ　見た過ぎる‥）」
　って続ける。興奮しているからか、鼻を膨らませて‥鼻息荒く、次第に早口になる。せっかくの可愛いヒロイン顔が台無しだ。コイツ‥残念過ぎる。
　（ところで）‥ツンデレが何？
　‥もしかして、俺のこと？？
　俺のどこにツンデレ要素が？？
　ツンに覚えはあるが、デレてはいないぞ？　しかも、俺の「ツンデレ」‥どこに需要があるんだ？　キモいだけだろ‥。　
　俺の不機嫌が伝わったらしいルミエルが「ごめんごめん」って謝る。
「レオ様のステータスを見てないから（※　実際に本人の顔を見ないと例え魔女であっても情報強制閲覧は無理な様だ）わからないけど、周りのその様子から多分レオ様のお兄ちゃんに対する親密度が上がったってのは確かだと思う。
　でも、それ‥上目遣いパワーだけで上がる？　親密度。
　お兄ちゃん他にレオ様との間に何かなかった？　」
　ちろっとルミエルが疑わし気な目で俺を見る。
　ぐ‥。
　俺は言葉につまり‥思わず唾をのみ込んだ。
　言わなきゃならんのか‥キス‥。
　‥いやでも、‥嫌だ。
　嫌な汗が止まらない可哀そうな俺に、ルミエルの尋問は続く。身内という気安さからか、ルミエルには容赦というものが、ない。
「ちゅ、もしたんでしょ？　
　ね‥？　「お願いっ」で、ちゅ。お兄ちゃんは真面目だから私のアドバイス通りしたって思うんだけど」
　じっと俺を見るルミエル。
　‥そんなイジワルな子に育てた覚えはありませんよっっ。‥いや、俺が育てたんじゃなくて、妹が育てたのか‥。そう、コイツは妹じゃない。‥妹が「育てた」ヒロイン。
　言うならばコイツは俺の姪っ子。怖いわ～この圧倒的な身内感。
　恐ろしく合理的で、効率厨で、身内の俺に遠慮も容赦もない「お兄ちゃんなら可愛い妹のお願い聞いてくれて当たり前だよね？　だって、お兄ちゃんだもん」某国民的有名アニメのガキ大将みたいな強引な思考。妹は‥恐ろしい。（そして、勿論その娘も‥）
「された‥」
　しぶしぶ俺は白状する。
　小声で、だ。
　‥どうせ隠し事なんて‥俺には無理な話なんだ。‥コイツにゃ、勝てない。
　イイ女なら「いいよ、言いにくいことなら聞かない」「興味本位とか良くないもんね」って言う場面だ。
　だけど、ルミエルは容赦ない。コイツは、イイ女にはなれない。自分の欲望を優先させる奴なんて、イイ女になれるもんか。
　可愛いと、イイ女は違う。（違うか、俺相手だからか。身内に可愛い子ぶっても仕方ないからな！　）
「へ？　何？　聞こえなかった」
　首を傾げるルミエルにイラっと来る。全然揶揄ってるとかじゃないけど‥察しろよとか思って‥イラっと来る。
　お前は、あれか、間違ってることなんて許しませんよ！　誤魔化しも、私には通用しませんよ！　って感じの‥正義感・責任感強い（だけど空気読めない）「いい子ちゃん」か。
　は～融通効かない！　嘘も誤魔化しも円滑な人間関係の形成の為には必要悪だと思うけど！？　
　俺は、ちょっと自棄になったんだ。
「キスはレオン様からされたの！　一回目は膝枕した時にちょっと当たって、二回目はあっちからされた。俺の意思関係なく、無理やりって感じで‥キスされた。だけど、そのことでいつまでも根に持ってたら良くないかな‥って思って、謝ってきたら許そうって思ったんだよ。俺はね。だけど、謝ってこないの！　あんなことしといて！　で、そのことを「謝れ、そういうのは良くない！　」って言って怒ったら「そんなことで怒られたの初めて‥」ってなんか惚れらてた‥のかどうかわからんけど‥なんか好感度が上がったみたいで、その後ガッツリキスされた！　」
　そう自棄っぱちみたいに言うと、
「ええ～♡♡」
　ルミエルの顔がぱあって明るくなった。
　‥ムカつく！！
「恋愛ゲームのテンプレ！　俺様王子様を怒ったヒロインに王子様が「おもしれぇ女」認定するパターンじゃな～い～♡♡なんかレオ様に「俺様王子」のイメージなかったけど、お兄ちゃんだけには見せる本性とかめっちゃ盛り上がるんですけど～！！　隠れ腹黒王子？？　思ってたよりレオ様って面白いのかも～♡♡」
　loveの王道よね！　とか目、キラキラさせてる。
　ムカつくムカつく！！　言うんじゃなかった！　絶対こうなるの分かってたじゃないか‥。
　だけど、ルミエルはしつこく絡むタイプの人間じゃなかった。‥そこまで馬鹿じゃないってことだね。
　それはそうと‥と小さく息を吐いて話を変えて来た。
「‥でも、１回目は事故だよね？　で、なんで２回目？　もしかして、聖女のキスって特別な効果がある？　で、王子もそれに気付いて「あの時、なんかビビっとくるもんがあった。そのわけを確かめたい。もう一回してみるか‥」ってなった‥とか？　
　スキルに追加されてるかな？　ウイッチマジック！　ステータス強制オープン！　」
　‥またやるのか、その個人情報無許可閲覧‥。言っとくけど、犯罪だからな？　兄弟でもダメだからな？　もうどうでもいいけどね‥。
「ないな～。スキル・「聖女のキス」とかありそうなのにな～。
　‥もしかして、数が少ないからスキル認定されてないんじゃない？　お兄ちゃん、もっとしてみて？　」
　‥真剣な顔で恐ろしいこというな。
　でも、２回目のキスの理由の推測については流石だな。その通りだと思う。３回目についても‥きっとそうだろう。アイツ、ほんと単純‥っ！　。王子がそんなチョロくていいのか～！？