俺が誰って? 只の‥乙女ゲームを恋愛抜き(希望)でクリアしたいごく普通のDKですが? 

文月

文字の大きさ
上 下
33 / 74

32.呪い

しおりを挟む
 あの後、王子様が部屋から出て
「悪かった。ちょっとふざけていただけだ」
 って皆に言った。
 いつもの王子様スマイルで。
 他の二人はちっとも興味はないって顔で「そう」ってあっさり納得した。護衛さんに至っては「王子様のおっしゃることが絶対です」って感じだ。(そりゃね)
 ホントのところは‥とか皆全然興味ない。
 不潔、引くわ~とか言われんだけマシ。(地球だったらそういう反応されてただろう。同性同士だから‥とか関係なく、「そういうの(性的接触? )を思わせる行為」を密室でしてるとか、アウトだ)正直俺は、そういう反応されると思ってた。
 だけど、よく考えたらね。王子様はこの中では「一番偉い人」だ。その人が何しようと周りは何も言えないだろう。俺を殺し掛けてる‥とか、強姦未遂とかだったらまた話も変わってくるだろうが‥さっきみたいな「ふざけ合ってる延長」位だったら「何やってんだ‥」で済まされちゃうんだろう。
 わ~面倒な場面に出くわしちゃた‥。位の感想かも。
 だけど、あの時のドン引きしたライ様の顔‥あれは、彼の本心なんだろう。一瞬素の感情が出ちゃったって感じ。リアルのライ様の気持ち。「だから」あの顔が頭にこびりついて離れない。
 明日からどんな顔して会えばいい? 
 でも、俺はただの被害者だ。ライ様に軽蔑されるようなことはしていない。
 被害者なのに‥誰も俺を気遣ったりしないし、‥あのことについて誰も触れない。
 それが‥身分差って奴なんだろう。

 その後は「何事もなかった」みたいにいつも通り訓練していつもと同じ様に風呂に入り帰ってきた。
 自分の部屋に入った瞬間、一人になった瞬間、さっきの場面が頭にフラッシュバックしてきて、思わずその場で座り込んでしまった。
 震えが止まらない。
 ‥怖かった。
 俺の手首をつかんだレオン様の力強さ。荒々しさ‥。
 逃げようとしているのに、びびっちゃって‥身体が動かなかった。
 ようやく気力を振り絞って振り払おうとしても、びくともしない。
 俺を見る王子の真剣な目。
 獲物を見る様な‥真剣で狂気じみた目。
 恋情とか性的欲情とか‥そんな色っぽい執着ではない。
 言うならば、生に対する執着。
 そこには、「甘い」感情なんて欠片も含まれていなかった。生きるか死ぬか‥そんな感情。
 俺なんかの日常では絶対に感じないであろう‥生々しい「戦場」を思わせる‥死と隣り合わせな「リアルの」感情。
 溺れる者が藁をもつかむように、酸欠状態になった者が空気を求めるように、喉を搔きむしるほど喉が渇いた者が水を求めるように、灼熱地獄の中、わずかな涼を求めるように、真っ暗な闇の中一筋の光を求めるように
 切羽詰まった衝動。
 ただ、本能に従った行動。
 いつも漠然と苦しくて仕方がなかった時、俺の‥俺の「何か」が一瞬の‥ほんの微かな「救い」になったのだろう。その救いに「もっと‥」と手を伸ばす者の気持ちは‥きっと完全には同調できないが、‥想像すること位は出来る。
 でも、想像できて、同情はするが‥でも、俺はあの時、本当に怖かったんだ‥。
 男に腕を握られて、生理的に嫌だったとかではない、生命の危機を感じる‥そんな恐怖だった。
 言うならば‥「殺される‥っ! 」否‥「喰われる」って思った。
 だけど、その怖さを誰にも理解してもらえなかった。(きっと俺が訴えたところで、「手を握られた? そんなこと位で‥」「どんな潔癖症だよ‥」「大袈裟だな」って思われただろう)
 誰も分かってくれようとしなかった。
 ‥分かるはずがなかった。
 
 苦しい‥俺だけが苦しい‥
 床に座り込んだままボロボロと涙を流した。顔を覆って‥声を殺して泣いた。こころの中で何度も「なんでだよ‥」「なんで俺が‥」って繰り返す。
 もう逃げ出したい‥。
 そう思ったけど、「それほどまで」追い込まれてたレオン様のことを想った。
 追い込まれてたら‥あの時の行動は‥仕方がなかったのかもしれない。きっと‥今頃レオン様も反省しているに違いない。(きっと、今まで人前であんな姿を見せたことなんてなかっただろう。‥なんていっても彼は「完璧を求められた」王子様だから。多分ね。俺に対して「悪かった」って思いより「王族らしくない姿を見せてしまった」って反省して‥羞恥に悶えてるだろう。俺の気持ち? 考えないと思うよ? ‥男に対しては塩対応を貫き通してきた人だから‥)
 王子様だって人間だ。
 でも、そんな「常識」は認められないのだろう。
 「それでも」「王子だから」‥今まで彼はどれ程この言葉に苦しめられてきたのだろう。
 だけど、彼は今まで自分を鼓舞して皆の求める「完璧な王子様」を演じ続けて来た。ただ、自分が王子であるという使命感だけで‥。(将来王になる可能性は果てしなく低いと言えども‥だ)
 更には(他の王子にはない)‥プラスの人間以外は到底理解できないであろう苦しみを抱えながら‥。
 誰だって長年悩んでいたことを「解決できるかもしれない」手段を見つけたら、何とかして手に入れたいって思うだろう。
 そして、それは他の二人にも言えることだった。
 アル様は言っていた
 食事によるエネルギーチャージは、「人に迷惑をかけないから」「ラッキーだ」って。
 レオン様はそれで言うと、「アンラッキー」なんだろう。
 他者との性的接触? ‥いや、多分違う。言うならば‥「接触による気持ちの高揚」だろうか(はっきりとは分からないけど)。だから「恋のドキドキハーブティー」による「ドキドキ」でエネルギーがチャージ出来た。そして、俺という「出鱈目な仕様のドキドキの塊(= 聖女チート)」に触れることでエネルギーはさらにチャージ出来た。
 ハーブティの魅了 チャージ中
 俺への接触 チャージ大
 って感じかな。
 ‥おまじないの力を侮ってた。あんなに効くんだ。そりゃ、おまじない使いを魔女っていうはずだよね‥。
 それ以上に俺の身体、ホントどんだけチートなの? 

 ヒロインの特権じゃなくて、ヒロインの義務で、役割だから。

 王子とは違うが、俺もまた役割を期待されている。
 皆が「俺なら何とか出来る」「何とかするべきだ」って期待している。
 俺のことよく知らない癖に‥知らない故に‥無責任に俺に丸投げしようとしている。
 期待されないのもつらいけど‥過ぎた期待は‥アレだ。虐待だよな‥。
「‥ホント辛い‥」
 にしても!
 運営! 
 なんて設定作りやがる!
 人の弱みにつけ込んで依存させようとか‥最悪だ。恋愛ってのはそういうもんじゃないだろ!? 人を惹きつけて抗えない位の魅力なんてのは、そいつが頑張って身につけるべきものであって、誰かの弱みにつけ込む様な「仕様」は‥卑怯だろう。
 精神的に依存して‥抗えない。まるで麻薬だ。俺は‥誰かの麻薬になりたいんじゃない。
 俺は‥
 俺が思う方法で、奴らを運営の「呪い」から救ってやりたい。

「腹減ってるのも、眠れないのも、性欲持て余すのもつらいわな。
 俺にだったら何か出来ることがあるかもしれないっていうんだったら、やってやるよ! 
 効率化? 正規のルート?! 
 知るか! 俺は俺のペースで遅くても着実にやってやるぜ! なんでもかんでもな! 」 
 ぱんと自分の頬を叩き気合を入れて、涙をぬぐうと俺は明日の為にベッド(セーブポイント)に潜り込むのだった。
 
 おやすみなさい。‥ルミエルゴメン。せっかく色々教えてもらったけど、やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんの思う通り不器用に進めていくよ。
 ルミエルもルミエルで無理せずがんばれよ‥。

 眠りにつく前に、空のベッド‥つい最近までルミエルの使っていたベッド‥を見ながらこころの中でそう呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

処理中です...