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7.討伐の話を聞こう。

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「この前言った通り、魔王の復活の年が分かった。
 信託が下ったのは、つい一か月前だから、このことを知っている者はそう多くない。
 今は‥、国王の方で情報を止めているところだ。
 どう伝えるべきか迷っているのだろう。無理もない、ことが重大過ぎるからな」
 学園長が机の上で腕を組んで説明を始めた。
「俺は話すのが下手だから、上手く伝わるか不安だ」
 という「お断り」から始まった話は、長くなる予感満載だった。しかも「話すのが下手」っていうのは謙遜でもなかったらしく、話が前後して分かりにくい。
 頭の中で話を組み立て直さないといけない。分からない箇所は想像で補足ってわけには‥だけどいかないでしょ。ことがことだから。
 俺は確認しながら‥学園長の話をアシストすることにした。
「魔王は年々毎に復活する‥とか周期があるわけではないのですね。
 国王が国民に情報を伝えるのを躊躇している理由はなんですか? 」
 俺が聞くと、どこかほっとしたような様子で、学園長が頷いた。
「周期はない。神にも多分分かっていないのだろう。
 神は使いの天使に魔王の封印された祠を見張らせて、魔王の復活の兆しが現れたら‥信託の形で我々に知らせてくれる‥と伝え聞いている」
 さっきまでとは違って迷いを感じさせないしっかりとした口調だ。どうやら、ただつらつらと語るより聞かれたことを答えながら話す方が向いている様だ。
 俺の話を中断しやがって、みたいな感じは全然ない。
 学園長は俺にだけ説明するように、俺を真っすぐに見つめて言った。
 ありがとう、君にだけ話すよってことか? って思ってたら、
「有名な話ですね」
「こいつは男爵令息だからそんなこと知らなくても仕方がないよ」
 ってリオン様とライ様が言った。
 ‥成程、高貴な方々は皆当たり前に知ってることだ、と。で、平民やら下級貴族は知らん、と。
 王子様たちにしたら「何当たり前の事きいとんねん。話進まへんやないか。あ、そっか下級貴族は知らんかったんやね。それは仕方ないわな」って感じなんだろう。
 俺は引きつった笑顔で頷いた。
「初めて魔王が復活するという信託が下った時、神殿は直ぐに城に知らせて、王はそれを大事と受け止めて、重役会議の上、魔王討伐隊を編成することを決めた。
 各地の騎士団に隊員を募集したが、希望するものは誰もいなかった。
 領地と爵位を与え、十分な報酬を約束する‥という好条件だったにも関わらず、だ」
 そりゃ‥まあ危険業務だもんな。金より命の方が大事だよな。
 俺は頷く。
 ちらりと王子様たちを見たら、やっぱり相変わらず「知っとるわ」って顔して聞いてる。‥態度悪い奴らだな。しかも、これも有名な話なわけだね。 
 まあ‥気にしないでおこう。無視無視! 分からんことは聞かんとな。知ったかぶりとかしてる場合じゃないしね。
「誰も魔王が本気で復活するとは思ってなかったんだ。それどころか‥下手に騒いで「そのことによって」魔王が復活したらどうするんだ‥って非難する者が続出した。 
 寝た子を起こすなって奴だな」
 ‥成程。そういう気持ちもわかる。それどころか「何いってんねん、今まで復活せんかったやろ。今更復活するかいな。‥そもそもホンマに魔王とかおるん? 」て思ったかもな。
 長いこと沈黙を続けた火山みたいな感じ? いや、火山は見えてる分「そういうこともあるかも」って思う‥か。
 俺はまた頷く。俺が頷くのを見届けて、学園長も頷く。
「結局復活しなかったんですか? 」
「したけど? 魔王は復活して、何も備えてなかったこの国は大打撃を受けた」
 あ、結局集まらなかったんだ。
 ってか、凄い大事件をさらっと言うな。
「唯一、国の騎士団と王の息子たち‥王子たちが戦って勝って‥国民全滅は免れたんだけどね」
 つまり、随分の人間が死んだんだろう。
 王子たちは強かったけど、限度があった、と。まあ、相手は魔王だもんね。
 ‥いや、彼ら凄くない? 寧ろ少人数で凄くない!? 
「そのことは文章化されて、後世に語り継がれた」
 きっと、彼らの像とかも立ってそう。
 (そりゃそうと)うん、成る程ね。で、失敗を繰り返さない様に語り継ごうって奴ね。教訓って大事だよね。
 俺はまた頷く。学園長も頷く。
「そして、二度目は、疑う者は誰も居なかったけど‥やっぱり討伐隊員入りを希望する者は少なかった」
 それこそ「命を掛けて危険業務」とか無理、命あっての物種、金より命の方が大事、ってやつだよな。
 前回のことで、魔王が実存するのも、強いのも分かりました。
 って感じなんだろう。
 前回と今回(二度目)は状況が違うって奴ね。
 少ないけどいるってことの方が寧ろ驚きだよね。腕自慢か、一攫千金狙いだよね。病気のおっかさんを助けるためには俺が行くしかない‥とかいうドラマがあったんだろう。(聞いたら、入団試験があるらしい。きっとそういう普通の青年は残らないだろう‥)まあ、無駄死には良くないよね。
「それどころか、我先に逃げる者、何も出来ないからと自暴自棄になる者が続出した」
 それも‥わかる。
 現在だったら、買い溜め騒動も更に起こるね。所詮、自分と自分の家族が大事だし、言っちゃなんなんだけど人任せ案件ですよね。
 でも、希望者全部来い! 数で勝負だ! 残った家族には金を渡すぜ! とかにはならんのだな。ここは。良心的。
「で結局? 」
「勝った。けど、やっぱり被害は甚大だった」
 うん。そうだろうね。
 寧ろ勝ってるのが凄いよ。
「その時の像は? 」
「像? 何のことだ? ‥その時は伝承もなく、記録だけだ。記録を元に魔王研究が盛んになった」
 傾向と対策が練られるようになった、と。 
 国民の反応は? って聞くと、「国民は疲れはてて‥その話をすることさえ嫌がった」って苦笑いされた。
 確かに‥その反応もうなずけるな。普通の人たちにとっては「防ぎようもないし、何も出来ない大災害」だもんな。何もしないんじゃなくて、出来ないんだもんな。
 だけど、それは自然災害(予知不可能、対策不可能)ではなく、人為(魔王)災害。成す術も‥あるやもしれん。
 で、魔王研究。
 きっとそういう研究所が出来てるんだろう。是非見に行きたい。後でアル様に聞いてみよう。そんなに親しくないけど、(それどころか全然親しくないけど)袖触れ合うも他生の縁っていうもんな。初めてあそこで会ったのにも何か意味があった‥ってことで。(他生なんだよ? 多少じゃなくて。‥調べた時「え! 多少じゃないんだ! 」って俺思ったもん) 
 とにかく今は頭を学園長の話に戻そう。
「で、今回も信託が下ったんですね」
 俺が言うと、学園長がため息と共に頷いた。
 そして、そこに俺だ。
「急な聖魔法の覚醒‥。きっと、これは偶然じゃない。彼こそが魔王討伐の救世主ではないか という話になった、と」
 ちらりと俺を見る。
 気の毒そうに。
 うん、運命とかじゃなくて、俺に丸投げしようって思ったって訳ね。しかも、男爵令息って身分も低いし‥最悪死んでも(王族が死ぬより)マシでしょ、ってなったと。
 爵位とか慰謝料とか払えばいいやってことでしょ? ‥酷過ぎるわ~。
 ヒロインちゃん相手だったらもうちょっとオブラートに包んで話すかもしれないけど(女の子にこんな話したら可哀そうだよ! 俺だからいいやってことなんだろう。それも酷い)
「行ってくれるか? 」
 この流れでそれを聞くか。
 でもどうせ拒否権ないんでしょ。いいですイイです。
「行きますけど。でも、それまでに俺を最大限に鍛えてください。俺だって無駄死にとか嫌です」
 俺も苦笑いだ。
「‥ありがとう! 」
 あ~あ。学園長のアカラサマニほっとした顔。彼の立場は弱いよね~。
「そりゃあ、俺たちに出来ることはなんでもするよ! 」
 今すぐ俺に走り寄って手を握らんばかりの勢い。チョット前のめりになった理事長。横でアル様は心配そうに俺を見ている。
 リオン様はメンドクサイな~って表情‥隠せ。笑顔で隠せてると思うか? ‥俺は(ヒロイン補正なんか知らんが)なんか貴様の気持ち、分かっちゃうんだよな~。あ、違うか。日本人のスキル「笑顔の上司(先生)の本意を察する」か。我ながら特殊でお役立ちスキル持ってるぜ。
 ‥ライ様。アンタもしや‥話聞いてもなくない? 「話終わりました? 」って顔を幼馴染さんに向けるんじゃない。
 きっとさ! ヒロインちゃんだったら全員アル様みたいな対応だったよね?! 「(こんな可憐な)女の子に‥無茶だ! 」ってなったよね?? 

 アンタら俺に対する対応‥酷過ぎん??
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