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24.妹のヒロインちゃん。
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「私はこの世界のヒロインじゃない」
さっき彼女はそう言った。
俺は彼女の顔をじっと見た。彼女も首を傾げたまま、俺の顔を見た。
‥何の表情もない顔で。
ヒロインじゃない? え? 何で? だって、この顔は‥彼女はこの世界‥この乙女ゲームのヒロインに間違いない。だって、ジャケット画像がそうなってた。
あの三人と、このヒロインちゃん。(あのジャケットのヒロインちゃんは今ここにいるヒロインちゃんと違って、こぼれる様な笑顔だったけど)
だけど、顔は同じだ。
それは間違いないはずだ。あんな可愛い顔、二人と居ないだろう。この学園でそれなりに「この世界」の女の子を見て来たけど、こんなかわいい子はいなかった。というか‥ヒロインちゃんには「ヒロイン」っていうオーラがあった。
常人とは全く違う「ヒロインのオーラ」が。それが、目の前の彼女がヒロインであるってことを物語っている。
なのに‥違うって何が?
否、さっきの発言の問題はそこじゃなかった。彼女が言ったのは「私はヒロインじゃない」じゃなくて、「私はこの世界のヒロインじゃない」だった。じゃあ、この世界のヒロインは誰か?
それは俺だって、彼女は言った。
「じゃあ‥? 君は「何? 」」
俺がヒロインちゃん‥ルミエルを真っすぐに見つめながら聞くと、
「私は、魔女よ」
ルミエルも俺を真っすぐに見つめながら返してくれた。真剣な表情で。
魔女‥
魔女!
あの「おまじないを極めたものがなれる」魔女!
目を見開く俺に、ルミエルは一度瞬きすると、ゆっくり頷いた。
瞬きすら、絵になる。彼女は、それこそ時間の流れが俺なんかとは違うのかって思う位‥なんか独特の雰囲気がある。
総ての行動が特別で、可愛いっていう‥なんか独特の雰囲気だ。
そんな彼女が、もう一度パチリと瞬きをして、俺を見る。
その仕草だけでぽーっとなった俺に、ルミエルは、にこっと微笑みかけ、
「どこから話しましょうか」
って言ったんだ。
その可愛らしい見掛けとは裏腹に、ルミエルは随分とさっぱりした性格をしている様だ。
さっぱりした性格って表現が合っているのかは分からない。
‥まだ、俺は彼女を完全に「分析」出来ずにいるから。
可愛らしい見た目が邪魔をして、彼女を構成する「彼女らしくない要素」が素直に受け入れられないってのが正直なところ。
見た目とは違って、「およそ可愛らしいとは無縁な無駄を省いた口調」。きっと、見掛け通り‥可愛らしい声も出るであろうその唇で、彼女は「およそ可愛らしさとは無縁な」温度を感じられない声を出す。それは現実の女子の出す「(俺なんて)全然興味ない人に対しては媚びる必要性も感じられない」って声と同じに聞こえて、地味に(‥嘘です、凄くです)落ち込んだ。
現実の女子たちにならそんな口調で話されようが「俺も、お前らなんて興味ないわ」って思えるけど、目の前の美少女に同じことされたら凹むとか‥俺も大概だよね。俺って今まで自分では気付かなかったけど、案外面食いだったみたいだ。イケメン好きの女の子のこととやかく言えないね‥。
そんなこと許されるのはイケメンだけです~。「ただし、イケメンに限る」って表現、女の子にも当てはまるみたいよ? 「ただし可愛い女の子に限る」って。‥怖いから絶対言わないけど。
(そんな俺の趣味嗜好はお構いなしに)ルミエルは、平坦な口調と無表情のまま、終始無駄なく(それこそ俺の反応を確認することもせず)自分が話すべく要件だけを一気に話し切った。
その内容はおおよそ以下の通りだった。
① 確かに自分・ルミエルはこの世界のヒロインであるが、今は「おまじない」を極めて魔女になっていて、その地点で、ヒロインではなくなった。
② 魔女のルートのエンディングは、魔王ルートしかないのだが、自分は魔王の配下のエリサリオスと恋人なので、エンディング手前で止まっている状態である。
③ 恋人のエリサリオスとエンディングを迎える為には、邪魔な魔王を討伐しなければいけないが、魔王を討伐できるのは、ヒロインだけだ。
④ だから、タツミに来てもらった。
思っていた以上の「トンデモない話」に、一瞬驚いて声も出なかった。
なんで俺が君の都合の為に‥? 君の‥じゃないな、君たちの為に、だな。君たちカップルさえ良かったら、俺の都合はお構いなしか?
って。
一瞬はね。ほんの一瞬は、確かに驚いた。ちょっとムカッとも、‥まあ、した。‥だけど、なんか‥意外と嫌じゃなかったんだ。なんか、意外とあっさり納得できた。
「ふうん、成る程ねえ」
気が付いたら、そんな間抜けな返事が自然と出て来た。ホントに、するっと喉から。そう、驚くほどするっと。
な~んだ。そんなつまらん理由で「案外」よかった。
こんな(俺と年も変わらない)年端もいかない子が、「世界の為」とか考えてる方が、嫌だわ。うん、よかったよかった。そんなくだらない理由でかえってよかったって。(それ言ったら、あの三人もなんだけど、あの人たちって超が付く程高位貴族じゃない? そういう意味では、ちょっと生まれつき意識が違うかなって)
自分の頭で考えたことじゃなくて、只「世界の」刷り込みで戦わされるんじゃなくてよかった。世界の刷り込みっていうか、洗脳だね。あと‥脅迫?
国の為、世界の為って言われたら、ルミエルなんて下級貴族が断れるわけないよね。そんなもんの為に(言っちゃなんだけど)恋や青春をこの世界に捧げる‥そんな生活が総てじゃなくて、なんか‥良かった!
好きな人がちゃんと出来て、「その人のことが好き! 」って言えてよかった!
‥その時の俺は、ホントに心の底から思ったんだ。
「何で‥? 」
ルミエルの目が見開かれる。
「なんで、納得するの? こんなこと‥」
‥何でって。逆に俺が聞きたいよ。何を驚いてんの? 驚くようなこと今まで君が言ってたんでしょ? 淡々と。
淡々とした口調だったけど、ホントは「おおよそ納得できない様なこと」言ってるって自覚があったってこと‥かな? (笑)んな、今更。クールに無責任に俺に丸投げすんなら、最後まで悪女貫いてよ。
そんな‥泣きそうな顔で俺を見ないでよ。
ふふって苦笑いしたら、大きな目にみるみる涙が浮かんできて、ボロボロ零れ落ちた。そしたら、それが「切っ掛け」になったのか、ぶわって顔がくしゃくしゃにして、子供みたいに泣きじゃくり始めた。
わ~。目が零れ落ちそうってホントなんだ。
あと‥可愛い子って、泣いてても可愛いのな。‥俺も大概だな~。
もう外観を取り繕いもしないで、只ぼろぼろと流れ落ちる涙をそのままに泣き続けるヒロインちゃん。濡れた頬にふわふわの髪の毛が張り付いて、だけど、それを払うこともせず‥時々しゃくりあげながら泣き続けている。
うん。物語の「色男」なら、その涙をハンカチで優雅に拭って「俺の胸を貸してあげよう」って感じで抱きしめるんだろうけど‥その役は俺じゃ無理。びっくりして涙が引っ込んじゃいそうだよ。
俺は苦笑いして、ヒロインちゃんにハンカチ(毎日洗濯に出してますよ!! )を差し出した。男たるもの、女の子の為に自分で使う以外のハンカチを持ち歩くのは常識でしょう(多分、この世界的に)
「ほら、あんまり泣いたら、目が腫れちゃうぞ。あ。こら、ハンカチでごしごし目を擦らない! 涙はこう‥ハンカチで吸わせるみたいに‥」
俺は、小さな子にするみたいに、ヒロインちゃんの涙をハンカチで「吸わせるみたいに」ポンポンしてあげた。
「分かったから、大丈夫だから、兄ちゃんが助けてあげるから。‥まずは、話してみろって」
気が付いたら、妹に言うみたいに俺は言っていた。(あ。自分のことに「兄ちゃん」って言っちゃったよ! まあ‥妹を持つ兄だからね‥。妹には「兄ちゃんに任せろ」とかは言わんが。‥きっと言ったら「キモ」っていうよ、アイツは)
ヒロインちゃんはコクコク頷いて、泣きじゃくりながら「今までの事」を話し始めた。(ああ、この「妹」は可愛いな! )
曰く
① 攻略本で見たエリサリオスに一目ぼれしたけど、通常ルートではエリサリオスに会えさえしなかった。
② コミュニティーサイトでエリサリオスに会うためには、通常ルートを全キャラクタールートでクリアしなければいけないことが分かった。
③ だから、攻略本片手に全てのキャラのルートを「効率的に」クリアした。
④ だけど、全キャラ攻略のおまけのルートである「魔女編」の攻略キャラは魔王(実は魔王もイケメン)で、エリサリオスは魔王を守って死ぬキャラだった。(と、攻略本に書いてあった)
⑤ というのも、ヒロイン不在の魔王討伐隊の実力は「イマイチ」で、ヒロインがいる時の様に「あっさり」と魔王を討伐することが出来ないのだ。(攻略本情報)
弱い故、「魔王だけ倒せばいいんじゃね? 」って感じにならない。「周りから段階的に皆殺しにしていこう」ってなって、最後まで残ったエリサリオス(中ボス的な感じ? )は魔王を庇って死ぬ。
⑥ 「俺の腹心を‥! 」切れた魔王と、(本来なら)魔王と恋仲になってる魔女は、エリサリオスを倒した地点でもう戦力衰退している討伐隊を二人で倒し、エンディング。
因みに、⑤ 「エリサリオス死亡」にならないように、ヒロインちゃんとエリサリオスは魔王から逃げ回っている感じらしい。(ここのエリサリオスは全然魔王の腹心じゃないみたい)
あ~それで、妹はあんなに攻略本片手に「片付け仕事」みたいに乙女ゲームしてたのか~。
全然好みでも何でもない攻略対象者だから、あんな感じだったわけね‥(なんか、三人が気の毒になってきた‥)
俺はなんか笑ってしまった。
ああ、このルミエルは、確かに「妹の作ったヒロイン」だ。
だから、この子、何か妹っぽいんだ。
しっかりしてるけど、なんかどっか抜けてて、最後には「お兄ちゃん助けて‥」って俺に甘えて来る‥俺を都合よく使う、ズルいとこあって‥だけど憎めない俺の妹。
道理であんなぶっ飛んだこと言われても憎めないはずだわ‥。(実際の妹はこんなに素直でも、こんなに可愛くもないけどね!! )
「あ~分かった分かった。
お兄ちゃんが魔王ズバッと倒してやるから」
依然えぐえぐ泣いてる馬鹿っぽくて、だけど可愛いヒロインちゃんの頭をポンポン‥軽く(ほんのかる~く)叩きながら俺は苦笑いした。(ちなみに、妹相手だったら手加減なんかしない。「お前、ったく、あほか! 」って一発ぐらいは拳固が入ってるだろう。(その後、妹が「何すんのよ! 馬鹿兄! 」って殴り返してくる。最終的には俺が勝つけどね!! )それが出来ないのは、やっぱりヒロインちゃんの顔がめちゃめちゃ可愛いせいだろう。‥可愛いってお得だ)
はいはい、皆さんの言いたいことは分かりますよ? (注 誰に言ってるのやら)
俺は‥アレだ。
なんだかんだ言って妹に甘い。自覚はある。結局「分かったわかった」ってお願いを聞いちゃうんだ。結局はいつも、だ。「でも」今回は言っておこう。これだけは。
大事なことだから、言っておこう。
「でも‥兄ちゃんな。お前の大好きなエリサリオスは、お前と同じ様に‥お前のこと好きなのかな? って思っちゃうんだよ」
言いにくいけど、可愛い妹の為だ。
他の誰かなら、わざわざ言わないけど‥他でもない妹の事だ。俺は言いにくいこと言っちゃうぞ?
さっき彼女はそう言った。
俺は彼女の顔をじっと見た。彼女も首を傾げたまま、俺の顔を見た。
‥何の表情もない顔で。
ヒロインじゃない? え? 何で? だって、この顔は‥彼女はこの世界‥この乙女ゲームのヒロインに間違いない。だって、ジャケット画像がそうなってた。
あの三人と、このヒロインちゃん。(あのジャケットのヒロインちゃんは今ここにいるヒロインちゃんと違って、こぼれる様な笑顔だったけど)
だけど、顔は同じだ。
それは間違いないはずだ。あんな可愛い顔、二人と居ないだろう。この学園でそれなりに「この世界」の女の子を見て来たけど、こんなかわいい子はいなかった。というか‥ヒロインちゃんには「ヒロイン」っていうオーラがあった。
常人とは全く違う「ヒロインのオーラ」が。それが、目の前の彼女がヒロインであるってことを物語っている。
なのに‥違うって何が?
否、さっきの発言の問題はそこじゃなかった。彼女が言ったのは「私はヒロインじゃない」じゃなくて、「私はこの世界のヒロインじゃない」だった。じゃあ、この世界のヒロインは誰か?
それは俺だって、彼女は言った。
「じゃあ‥? 君は「何? 」」
俺がヒロインちゃん‥ルミエルを真っすぐに見つめながら聞くと、
「私は、魔女よ」
ルミエルも俺を真っすぐに見つめながら返してくれた。真剣な表情で。
魔女‥
魔女!
あの「おまじないを極めたものがなれる」魔女!
目を見開く俺に、ルミエルは一度瞬きすると、ゆっくり頷いた。
瞬きすら、絵になる。彼女は、それこそ時間の流れが俺なんかとは違うのかって思う位‥なんか独特の雰囲気がある。
総ての行動が特別で、可愛いっていう‥なんか独特の雰囲気だ。
そんな彼女が、もう一度パチリと瞬きをして、俺を見る。
その仕草だけでぽーっとなった俺に、ルミエルは、にこっと微笑みかけ、
「どこから話しましょうか」
って言ったんだ。
その可愛らしい見掛けとは裏腹に、ルミエルは随分とさっぱりした性格をしている様だ。
さっぱりした性格って表現が合っているのかは分からない。
‥まだ、俺は彼女を完全に「分析」出来ずにいるから。
可愛らしい見た目が邪魔をして、彼女を構成する「彼女らしくない要素」が素直に受け入れられないってのが正直なところ。
見た目とは違って、「およそ可愛らしいとは無縁な無駄を省いた口調」。きっと、見掛け通り‥可愛らしい声も出るであろうその唇で、彼女は「およそ可愛らしさとは無縁な」温度を感じられない声を出す。それは現実の女子の出す「(俺なんて)全然興味ない人に対しては媚びる必要性も感じられない」って声と同じに聞こえて、地味に(‥嘘です、凄くです)落ち込んだ。
現実の女子たちにならそんな口調で話されようが「俺も、お前らなんて興味ないわ」って思えるけど、目の前の美少女に同じことされたら凹むとか‥俺も大概だよね。俺って今まで自分では気付かなかったけど、案外面食いだったみたいだ。イケメン好きの女の子のこととやかく言えないね‥。
そんなこと許されるのはイケメンだけです~。「ただし、イケメンに限る」って表現、女の子にも当てはまるみたいよ? 「ただし可愛い女の子に限る」って。‥怖いから絶対言わないけど。
(そんな俺の趣味嗜好はお構いなしに)ルミエルは、平坦な口調と無表情のまま、終始無駄なく(それこそ俺の反応を確認することもせず)自分が話すべく要件だけを一気に話し切った。
その内容はおおよそ以下の通りだった。
① 確かに自分・ルミエルはこの世界のヒロインであるが、今は「おまじない」を極めて魔女になっていて、その地点で、ヒロインではなくなった。
② 魔女のルートのエンディングは、魔王ルートしかないのだが、自分は魔王の配下のエリサリオスと恋人なので、エンディング手前で止まっている状態である。
③ 恋人のエリサリオスとエンディングを迎える為には、邪魔な魔王を討伐しなければいけないが、魔王を討伐できるのは、ヒロインだけだ。
④ だから、タツミに来てもらった。
思っていた以上の「トンデモない話」に、一瞬驚いて声も出なかった。
なんで俺が君の都合の為に‥? 君の‥じゃないな、君たちの為に、だな。君たちカップルさえ良かったら、俺の都合はお構いなしか?
って。
一瞬はね。ほんの一瞬は、確かに驚いた。ちょっとムカッとも、‥まあ、した。‥だけど、なんか‥意外と嫌じゃなかったんだ。なんか、意外とあっさり納得できた。
「ふうん、成る程ねえ」
気が付いたら、そんな間抜けな返事が自然と出て来た。ホントに、するっと喉から。そう、驚くほどするっと。
な~んだ。そんなつまらん理由で「案外」よかった。
こんな(俺と年も変わらない)年端もいかない子が、「世界の為」とか考えてる方が、嫌だわ。うん、よかったよかった。そんなくだらない理由でかえってよかったって。(それ言ったら、あの三人もなんだけど、あの人たちって超が付く程高位貴族じゃない? そういう意味では、ちょっと生まれつき意識が違うかなって)
自分の頭で考えたことじゃなくて、只「世界の」刷り込みで戦わされるんじゃなくてよかった。世界の刷り込みっていうか、洗脳だね。あと‥脅迫?
国の為、世界の為って言われたら、ルミエルなんて下級貴族が断れるわけないよね。そんなもんの為に(言っちゃなんだけど)恋や青春をこの世界に捧げる‥そんな生活が総てじゃなくて、なんか‥良かった!
好きな人がちゃんと出来て、「その人のことが好き! 」って言えてよかった!
‥その時の俺は、ホントに心の底から思ったんだ。
「何で‥? 」
ルミエルの目が見開かれる。
「なんで、納得するの? こんなこと‥」
‥何でって。逆に俺が聞きたいよ。何を驚いてんの? 驚くようなこと今まで君が言ってたんでしょ? 淡々と。
淡々とした口調だったけど、ホントは「おおよそ納得できない様なこと」言ってるって自覚があったってこと‥かな? (笑)んな、今更。クールに無責任に俺に丸投げすんなら、最後まで悪女貫いてよ。
そんな‥泣きそうな顔で俺を見ないでよ。
ふふって苦笑いしたら、大きな目にみるみる涙が浮かんできて、ボロボロ零れ落ちた。そしたら、それが「切っ掛け」になったのか、ぶわって顔がくしゃくしゃにして、子供みたいに泣きじゃくり始めた。
わ~。目が零れ落ちそうってホントなんだ。
あと‥可愛い子って、泣いてても可愛いのな。‥俺も大概だな~。
もう外観を取り繕いもしないで、只ぼろぼろと流れ落ちる涙をそのままに泣き続けるヒロインちゃん。濡れた頬にふわふわの髪の毛が張り付いて、だけど、それを払うこともせず‥時々しゃくりあげながら泣き続けている。
うん。物語の「色男」なら、その涙をハンカチで優雅に拭って「俺の胸を貸してあげよう」って感じで抱きしめるんだろうけど‥その役は俺じゃ無理。びっくりして涙が引っ込んじゃいそうだよ。
俺は苦笑いして、ヒロインちゃんにハンカチ(毎日洗濯に出してますよ!! )を差し出した。男たるもの、女の子の為に自分で使う以外のハンカチを持ち歩くのは常識でしょう(多分、この世界的に)
「ほら、あんまり泣いたら、目が腫れちゃうぞ。あ。こら、ハンカチでごしごし目を擦らない! 涙はこう‥ハンカチで吸わせるみたいに‥」
俺は、小さな子にするみたいに、ヒロインちゃんの涙をハンカチで「吸わせるみたいに」ポンポンしてあげた。
「分かったから、大丈夫だから、兄ちゃんが助けてあげるから。‥まずは、話してみろって」
気が付いたら、妹に言うみたいに俺は言っていた。(あ。自分のことに「兄ちゃん」って言っちゃったよ! まあ‥妹を持つ兄だからね‥。妹には「兄ちゃんに任せろ」とかは言わんが。‥きっと言ったら「キモ」っていうよ、アイツは)
ヒロインちゃんはコクコク頷いて、泣きじゃくりながら「今までの事」を話し始めた。(ああ、この「妹」は可愛いな! )
曰く
① 攻略本で見たエリサリオスに一目ぼれしたけど、通常ルートではエリサリオスに会えさえしなかった。
② コミュニティーサイトでエリサリオスに会うためには、通常ルートを全キャラクタールートでクリアしなければいけないことが分かった。
③ だから、攻略本片手に全てのキャラのルートを「効率的に」クリアした。
④ だけど、全キャラ攻略のおまけのルートである「魔女編」の攻略キャラは魔王(実は魔王もイケメン)で、エリサリオスは魔王を守って死ぬキャラだった。(と、攻略本に書いてあった)
⑤ というのも、ヒロイン不在の魔王討伐隊の実力は「イマイチ」で、ヒロインがいる時の様に「あっさり」と魔王を討伐することが出来ないのだ。(攻略本情報)
弱い故、「魔王だけ倒せばいいんじゃね? 」って感じにならない。「周りから段階的に皆殺しにしていこう」ってなって、最後まで残ったエリサリオス(中ボス的な感じ? )は魔王を庇って死ぬ。
⑥ 「俺の腹心を‥! 」切れた魔王と、(本来なら)魔王と恋仲になってる魔女は、エリサリオスを倒した地点でもう戦力衰退している討伐隊を二人で倒し、エンディング。
因みに、⑤ 「エリサリオス死亡」にならないように、ヒロインちゃんとエリサリオスは魔王から逃げ回っている感じらしい。(ここのエリサリオスは全然魔王の腹心じゃないみたい)
あ~それで、妹はあんなに攻略本片手に「片付け仕事」みたいに乙女ゲームしてたのか~。
全然好みでも何でもない攻略対象者だから、あんな感じだったわけね‥(なんか、三人が気の毒になってきた‥)
俺はなんか笑ってしまった。
ああ、このルミエルは、確かに「妹の作ったヒロイン」だ。
だから、この子、何か妹っぽいんだ。
しっかりしてるけど、なんかどっか抜けてて、最後には「お兄ちゃん助けて‥」って俺に甘えて来る‥俺を都合よく使う、ズルいとこあって‥だけど憎めない俺の妹。
道理であんなぶっ飛んだこと言われても憎めないはずだわ‥。(実際の妹はこんなに素直でも、こんなに可愛くもないけどね!! )
「あ~分かった分かった。
お兄ちゃんが魔王ズバッと倒してやるから」
依然えぐえぐ泣いてる馬鹿っぽくて、だけど可愛いヒロインちゃんの頭をポンポン‥軽く(ほんのかる~く)叩きながら俺は苦笑いした。(ちなみに、妹相手だったら手加減なんかしない。「お前、ったく、あほか! 」って一発ぐらいは拳固が入ってるだろう。(その後、妹が「何すんのよ! 馬鹿兄! 」って殴り返してくる。最終的には俺が勝つけどね!! )それが出来ないのは、やっぱりヒロインちゃんの顔がめちゃめちゃ可愛いせいだろう。‥可愛いってお得だ)
はいはい、皆さんの言いたいことは分かりますよ? (注 誰に言ってるのやら)
俺は‥アレだ。
なんだかんだ言って妹に甘い。自覚はある。結局「分かったわかった」ってお願いを聞いちゃうんだ。結局はいつも、だ。「でも」今回は言っておこう。これだけは。
大事なことだから、言っておこう。
「でも‥兄ちゃんな。お前の大好きなエリサリオスは、お前と同じ様に‥お前のこと好きなのかな? って思っちゃうんだよ」
言いにくいけど、可愛い妹の為だ。
他の誰かなら、わざわざ言わないけど‥他でもない妹の事だ。俺は言いにくいこと言っちゃうぞ?
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