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八章 明日へ
14.Happynation (本編 完結)
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「それで? 明日から冬休みに入るんだろ? どうするんだ? 」
桜子の代わりに学生をしてきた経験があるサカマキは、地球の学生事情に詳しい。カツラギにしても、そこら辺を説明しないでイイって言うのは、楽だ。
もっとも、サカマキが学生をしていたのは、高校生までだ。
「冬休みって言っても、高校生と違って、大学生は授業が夏休み中にある分だってあるから、そう明確に「夏休み」っていう感じでもないですよ」
カツラギは、サカマキに授業一覧表を見せながら言った。
自分が選んだ「時間割」ではなく、授業一覧表を、だ。
大学は、前期後期に分かれていて、前期なら前期にある授業が全部載っている授業一覧表を見ながら受講時間がだぶらない様に自分で受講したい授業を選択するのだ。
つまり、自分で「時間割」を半期分組むんだな。
高校までと違い、全員が同じ授業を受けなければいけないってことではない。卒業する為に必要な単位数と、必須の授業の単位が取得できていれば、卒業できる。
ちなみに、四年生のカツラギはもうあらかた卒業に必要な単位は取りつくしていて、あとは卒業論文のみ‥なんだけど、その受講数は多い。(ここらへん学びたいことがいっぱいなカツラギらしいなって思う。)
サカマキが授業予定表をぼんやり眺めていると、
「ほら。これを受けようって思っています。夏休みにしかこの授業はなくって‥どうしても、受けたいんです」
カツラギは夏休みにある授業の一つを指さす。
‥なんてね。その授業は‥別に特別受けたい授業でもないし、取らなけれいけない必須の科目ってわけでもない。
だけど、あることは、ある。授業一覧表にだって、きちんと載っている。だから、受ける‥のは嘘だけど、あるってのは嘘じゃない。人に嘘をつくとき、全部が嘘だったら、つい設定を忘れて自分から尻尾を出しちゃうことありがちなんだけど、一部本当だったら、結構上手くいきやすい。説得力もあるし。
‥同級生の紺野が、彼女(という名の何人かいる恋人)の「旅行行こう~」を断るために、「この授業取らなきゃならないから」って言い訳にしてた。さも残念そうな顔を作って「旅行は行きたかったんだけどね~単位数が足りなくてさ」なんて言ってたなあ。
紺野は、別に悪い奴じゃないんだ。ただ、一人の人間との約束に一定期間以上拘束されるのが嫌いなだけなんだ。「浅く広く‥でも、その時その時は誠実に。だけど、一人の人間に四六時中誠実‥は無理。絶対お互い面白くないし、息が詰まる」‥は紺野の持論だ。そういう気持ち、よくわかる。(よくわかる‥のは、カツラギもクズ寄りだから)
私は、‥わざわざ言い訳しなきゃならない関係ってのが、もう既にダメ。お互いの生活に干渉しないのが大人の付き合い方ってもんでしょ、って思ってい#た_・__#。
だのに
‥まさか、あのしょーもない手を真似することになろうとは、‥自分で自分が情けなくなる。‥勿論、表情に出さないようにするが。
「‥ふうん? 大変だな」
サカマキの反応は‥普通だ。疑ってる‥とか、不満そう‥とかそういった反応じゃない。
言葉通り、「ふうん、そうなんだ」ってだけ。
だのに、‥普段、嘘とか言いなれてないからちょっと、ドキドキする。
Happynationに帰りたいか帰りたくないのか。
自分の「本当」はどっちなんだろう‥
って‥心の中で‥苦笑する。
帰りたい。帰る気はある。‥それは、間違いない。
だけど‥
この姿で帰るのが、嫌だ。
‥あの時‥Happynationに帰った数年前と自分と、今の自分の見た目はびっくりするほど変わっていない。
あの時、学者棟の女子の私を見る目は、‥子供を見る目だった。
生温かい‥(小さいものを)慈しむ目‥。
可愛いとか、ショタだとか‥騒がれて‥私が嫌だと思ってないとでも思った?
それはね。‥確かにここではそれをうりにして女の子と知り合うきっかけにしてたこともあったよ? でも、‥部下にそんな目で見られるのは‥やっぱりイヤだった。そして、今帰っても、あの時と何ら変わっていない自分はやっぱり‥そんな目で見られるのだろう。
いや、それどころか‥「成人してるのにその見た目って‥ないわ~」って思われるかもしれない。
更には、「信用に足る顔じゃない‥」って思われるかも。
‥「(クールなカツラギ様が好きだったのに)幻滅‥」「大人になったら変わるって思ってたのに‥」って思われることも、‥普通にあり得る。
‥それが、堪らなく嫌だった。
そりゃ
「大事なのは、見た目じゃないです」
って言ってくれる人もいるかもしれない。
だけどそれって、恰好がつかない。
そもそも、自分がこの顔でHappynationに行くのが嫌なんだ。
この顔は‥人の‥Happynationの人間の信用を得る様な‥顔じゃない。
事情を知っている人なら、気にしない様に‥気にしない態度を取ってくれるだろうが、同情されるのは嫌だし、可愛いって言われて喜ぶとか‥そういうキャラじゃない‥。
女の目に映る自分を想像する。
愛玩用の犬猫同様、人の目を楽しませる‥そんな存在になる気はない。いや、それは言い過ぎだけど‥恋愛対象ではなく、‥愛玩対象として見られるであろう自分に我慢がならない。
男は、‥仕事相手として俺を見ないだろう。
Happynationには、‥王都にはこんな大人はいない。
王都で働くためには、就業資格試験がある。村から毎年数人、村長に推挙されて資格試験を受けに来る。受験資格は、成人した大人であることのみ。
その受験資格には勿論、顔は関係ない。だけど、やっぱり、村の代表として送るんだ。見た目から、「信用を得られる顔じゃない」って人間は、村の代表に選ばないだろう。
‥その人間自身を否定するわけではないが‥村の代表として王都に送る人間には選ばないだろう。
その人間がどんなに優秀だろうとも、だ。
サカマキも王都で働く人間にしては、背も小さいし、童顔だ。‥見るからに、有能って顔してるかって言われると‥そうでもない。どちらかというと、庇護欲を誘うような可愛らしい見た目をしている。私はサカマキのことを子供の頃から知っているから勿論そんな風には思わないが、一般的なHappynationの人間にとってはそうだろう。
‥だけど、サカマキは私同様‥特別な人間‥高位魔法使いだった。
自分の意思ではなく、王都で働かなければいけない人間だった。
‥今のサカマキは高位魔法使いじゃない。だけど、筆頭魔法使いとして、王都で受け入れられている。
でも私は‥。
私は何もかも変わってしまった。変わったのは、‥顔と姿形だけって言うことも可能だ。‥だって、私自身の魂は何も変わっていない。
だけど、見かけは全く違う。‥それだけで、もう私はまるで別の人間になったかのようだ。
‥同じ人間とは認識されない。
何より、私が‥今までの私が‥同じ人間として振舞うことを心底拒否している。
あの見た目で、あの身体で「私として」暮らして来たのだ‥。私はあの顔と身体に誇りを持っていたのだ。
努力だって勿論してきた。‥「この自分」で「あの自分」と同じように暮らしていくのは、あの時の自分に申し訳ない気がする。
「怖いのか? 」
気が付けば黙ってしまっていた私を心配したのだろう。サカマキが私の横に座り気づかわしそうに私を見下ろしていた。
‥見下して、だ。
私は、サカマキの小さい頃から知っている。
小さいサカマキは、私を見上げて、
「大丈夫? 」
って、気遣ってくれた。
思えば、サカマキは昔からちっとも変わっていない。
サカマキを見る周りの目が変わってしまっても、‥サカマキはちっとも変わっていなかった。
寂しそうだったのははじめだけ、‥その内、嫌われるのにすっかり慣れてしまったのか、サカマキは寂しそうにすることすらなくなった。
‥そんな表情のちょっとした違いが分かるのも、付き合いが長いアララキと私位のものだけどね。私たちはサカマキの親代わりだったから。(アララキはどんなつもりだったかは‥否、いつからサカマキに対する想いが変わったのかは私には分からない)
「怖くなんかない。‥ただ、嫌ですね。私ではない私が、かっての私の名を名乗ってかっての私の職場に行くのを、‥私が一番嫌だと思っています。子供が遊びに来たって皆は思うでしょう。‥小賢しい子供が大人びたことを言うのを最初は面白がってくれるかもしれない。
‥でも、それだけ。‥結局は面白がるだけです。
誰も私を‥今の私を信用しないでしょう。私の言葉を信用してくれないでしょう。それが、嫌ですね」
かっての恋人たちや部下にこの情けない姿をさらすのも、嫌だ。
‥私は、誰より大人で居たかったんだ‥。だから、‥その為に今まで‥
「‥カツラギはカツラギだ。例えば、髪を切った、‥そんな程度の些細な違いだ。みんな、直ぐに受け入れてくれる」
サカマキが首を傾げて、さも不思議‥という顔をする。
‥わけないでしょう‥!
顔をゴッソリ変えるイメチェン。それを些細とか! ‥シュールだな!!
「‥向こうの人間はそんなに繊細じゃない」
サカマキが「お前、考えすぎだよ」って顔して、不思議そうに首を傾げる。
‥繊細とかそういう問題か!?
「じゃないと、俺のこと皆が判を押したみたいに嫌うってこと無かったと思うぞ。‥多分、奴らはココの人間よりもっとずっと単純なんだ。
誰か‥神がこう、っていったら、こう。みたいなね。
今度は「俺が」保証する。
奴らは、全然‥そんな風な目でカツラギを見ない。きっと奴らは
「え! カツラギ様、成人してもそれなんですね! この前は‥幼児虐待になりかねないアウト案件だったけど、成人したなら、合法ですね! 合法ショタですね! 俺的にそれってありです。ありありの、ありです!! 」
っていうよ」
っていって、にっこり微笑む。‥サカマキはホントに最近、笑顔が優しくなった。
‥言ってることはアレだけど。
っていうか‥
‥何それ、それはそれで怖い。
「さ、行くぞ! 授業、嘘なんだろ? 」
っておい! 心の準備が!!
ってか‥バレてたか!
抵抗虚しく連れていかれ‥というか、気付いたら、もう学者棟にいた。
‥流石サカマキの転移。
ほんと、瞬きする間も無かった。
そして‥カツラギは一瞬のうちに元部下たちに取り囲まれていた。
「カツラギ様! 待ってたっす! やっぱり可愛いっすね! ‥成人したってことでいいんですよね! この前は‥幼児虐待になりかねないアウト案件だったけど、成人したなら、合法ですね! 合法ショタですね! 俺的にそれってありです。ありありの、ありです!! 可愛いっすね。大丈夫ですよ。今度は俺が優しくしますから‥」
おい、この世界の住人、単純すぎじゃね?!
しかも、‥この流れでいうと、私は‥受けとして狙われてないか?!
「‥サカマキ! 帰せ! 元の世界に‥って、アララキ、さっさとサカマキを回収していくんじゃない! 私を元の世界に‥」
「明日迎えに行くね~♡ 今度は僕が送ってあげるよ~。サカマキ、今日の明日で疲れてるかもしれないから。‥僕も、‥うん、気が変わってなかったら迎えに行くね。一応、友達の所に泊まりに行くって桜子にカツラギの代わりにメール送っといたからね~! 」
「おい! アララキ!! 余計なことするんじゃない!! 」
「カツラギ様! 地球の知識、教えてくれるんでしょう!? ‥職員全員楽しみにしてたんっすよ? ゆっくり‥教えてくださいね? 」
昔と変わらない、私を慕う、部下‥アロイスの尊敬の眼差し。背が伸びて、余分な肉が落ち、精悍さが目立つ以前より大人びた顔だちになっている。髪も以前は長めだったのに、今は刈り上げ位短く刈り上げていて、切れ長の瞳とマッチしている。少し釣り目気味の赤っぽい瞳がひたっと私を見つめる。‥その瞳の奥に、ちらりと獲物を狙う肉食動物の気配が潜んでいるのが見えた。
ゴクリ、と唾をのみ、一歩後ずさる私の腕をかって私の性欲処理班だった彼氏‥ライカが掴む。
「カツラギ様。‥今度は、私がカツラギ様を良くして差し上げますね? 」
うっとりとした様な目は、かっての私に向けられた目と同じだ。私の知識と‥そして、私を求めて請う‥瞳。
‥彼らの、私を見る視線は全く変わっていない。
変わったのは、‥性交の際の立場だけ‥?
って、なんで、ここにきてすぐそういうことになってる?
身の危険を感じて逃げようにも、ライカにがっしりと腕を掴まれて動けない。
ライカの熱い息遣いと鼓動にすっぽり包み込まれて、顔すら動かせない。
「ライカ‥お前は、カツラギ様に対しにそのようなことを明け透けに‥。カツラギ様はそんなことをする為にここに来られたわけではないでしょう? 」
はあ、とアロイスが私を真上から見下ろして、ライカに向かってため息をつく。
情欲をもはや隠さない赤い目は、依然として私を見つめたまま‥だ。
「二人で、カツラギ様を歓迎すればいい。カツラギ様が、ここから帰りたいって思わない位、‥私たちがカツラギ様をどれ程尊敬し‥恋い慕っているかを‥その身体に教えて差し上げましょう」
‥背中に硬いものが当たっている。
後ろから抱きすくめられているライカの身体が、更に熱くなった。
‥助けて、サカマキ。
「わかった! 私の事を慕ってくれているのは、もう分かった! ‥私の事を理解しているなら、私が受けではなく、立ち専だってことは分かっているだろう!? 」
「‥私たちは、カツラギ様のことを誰よりも知っているんですよ? カツラギ様が知識に対して貪欲で、愛に対して好奇心旺盛で奔放でいらっしゃることだって‥」
「興味はあられませんか? イメチェンしたカツラギ様だからこそできる‥新しいセックスに‥」
いや、‥拒否権なくしといて、その聞き方、なしじゃない?
だけど、‥興味が無いかと言われたら、‥無いこともない‥かも‥?
‥きっと、私の事を昔っから良く知っている彼らは、私の答えだって分かっているんだろう。
だって、‥私に対する聞き方を覚えているんだから‥。
私は、‥観念して
「‥痛くないなら‥」
身体の力を抜くのだった。
考えすぎてた。
サカマキの言う通り、こっちの人間は地球人よりもっとずっと単純で‥欲望に正直だ。
知識欲も‥性欲も。
そして、‥地球で暮らしてた私にしてもそれは言えたってことだ。
地球で暮らしていても、‥地球人の器で暮らしていても、私はやっぱり私で、‥根っこはここの人間だった。
でも、地球に住んでて随分と用心深い人間になっていた様だ。
騙されない様に‥傷つかない様に‥考え込む。‥それは、臆病な程にだ。
だけど、どんなに用心しても‥騙されるし、傷つく。考えても。どんなに悩んでも‥分からない事も沢山ある。
だけど、‥ふとしたことで氷の様に解けていく悩みだってある。
人は、複雑なのに、ふとしたことで馬鹿みたいに単純にもなる。そのふとしたことが、Happyだ。
だからこそ、暮らしていける。笑っていられる。
「成程そうだったのか」とか「君が好き」だとか「おもしろい」とか「美味しい」とか。Happyの形はいろいろある。
そういう「嬉しい」‥Happyが、世界をそういうふうに‥ゆる~く回していくんだったらいいのに、って思う。
どっちで住むとか、桜子に孫を見せる‥とかそういうことは後々考えていかなければならない。逃げてはいけない事、結論しなきゃいけない事。Happyだけじゃないこと。誰かの結論は、誰かを不幸にしたり、幸せにしたりする。
皆が平和で、Happy。それって、難しいし、‥きっとありえないだろう。
だけど、私たちは諦めてはいけない。
難しいから、無理だから、と諦めてはいけない。
Happynation‥理想の国 そんな大層な名前のついた国に住み、Perfectmanを名乗った勘違い男を夢見る。
この狂った‥でも愛おしい世界。
あなたがいるから、愛おしいって思えるようになった世界‥。
人々が笑って過ごせる理想郷。Happynation。
そこに住むという、理想の‥正しい「特別な人間」Perfectman。
‥HappynationにはPerfectmanが住むという。
Perfectmanは、人々の良心。人々の理想。
‥ありえない、だけど、こうありたい‥って理想の象徴。
万民のHappy。‥その一歩として、まずあなたがHappyでありますように。
そのHappyは誰かを、心からの笑顔に出来ていますか?
良心だとか、‥真心だとか、思いやりだとか。
Perfectmanを理解しようと足掻き、愛し、夢見る人は、きっといつか本当のHappynationを作り出す。
‥そう思うし、そう願う。
(完)
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ここまで読んで頂きありがとうございました。
何話かの番外編もお付き合いいただけたら、と願います♪
桜子の代わりに学生をしてきた経験があるサカマキは、地球の学生事情に詳しい。カツラギにしても、そこら辺を説明しないでイイって言うのは、楽だ。
もっとも、サカマキが学生をしていたのは、高校生までだ。
「冬休みって言っても、高校生と違って、大学生は授業が夏休み中にある分だってあるから、そう明確に「夏休み」っていう感じでもないですよ」
カツラギは、サカマキに授業一覧表を見せながら言った。
自分が選んだ「時間割」ではなく、授業一覧表を、だ。
大学は、前期後期に分かれていて、前期なら前期にある授業が全部載っている授業一覧表を見ながら受講時間がだぶらない様に自分で受講したい授業を選択するのだ。
つまり、自分で「時間割」を半期分組むんだな。
高校までと違い、全員が同じ授業を受けなければいけないってことではない。卒業する為に必要な単位数と、必須の授業の単位が取得できていれば、卒業できる。
ちなみに、四年生のカツラギはもうあらかた卒業に必要な単位は取りつくしていて、あとは卒業論文のみ‥なんだけど、その受講数は多い。(ここらへん学びたいことがいっぱいなカツラギらしいなって思う。)
サカマキが授業予定表をぼんやり眺めていると、
「ほら。これを受けようって思っています。夏休みにしかこの授業はなくって‥どうしても、受けたいんです」
カツラギは夏休みにある授業の一つを指さす。
‥なんてね。その授業は‥別に特別受けたい授業でもないし、取らなけれいけない必須の科目ってわけでもない。
だけど、あることは、ある。授業一覧表にだって、きちんと載っている。だから、受ける‥のは嘘だけど、あるってのは嘘じゃない。人に嘘をつくとき、全部が嘘だったら、つい設定を忘れて自分から尻尾を出しちゃうことありがちなんだけど、一部本当だったら、結構上手くいきやすい。説得力もあるし。
‥同級生の紺野が、彼女(という名の何人かいる恋人)の「旅行行こう~」を断るために、「この授業取らなきゃならないから」って言い訳にしてた。さも残念そうな顔を作って「旅行は行きたかったんだけどね~単位数が足りなくてさ」なんて言ってたなあ。
紺野は、別に悪い奴じゃないんだ。ただ、一人の人間との約束に一定期間以上拘束されるのが嫌いなだけなんだ。「浅く広く‥でも、その時その時は誠実に。だけど、一人の人間に四六時中誠実‥は無理。絶対お互い面白くないし、息が詰まる」‥は紺野の持論だ。そういう気持ち、よくわかる。(よくわかる‥のは、カツラギもクズ寄りだから)
私は、‥わざわざ言い訳しなきゃならない関係ってのが、もう既にダメ。お互いの生活に干渉しないのが大人の付き合い方ってもんでしょ、って思ってい#た_・__#。
だのに
‥まさか、あのしょーもない手を真似することになろうとは、‥自分で自分が情けなくなる。‥勿論、表情に出さないようにするが。
「‥ふうん? 大変だな」
サカマキの反応は‥普通だ。疑ってる‥とか、不満そう‥とかそういった反応じゃない。
言葉通り、「ふうん、そうなんだ」ってだけ。
だのに、‥普段、嘘とか言いなれてないからちょっと、ドキドキする。
Happynationに帰りたいか帰りたくないのか。
自分の「本当」はどっちなんだろう‥
って‥心の中で‥苦笑する。
帰りたい。帰る気はある。‥それは、間違いない。
だけど‥
この姿で帰るのが、嫌だ。
‥あの時‥Happynationに帰った数年前と自分と、今の自分の見た目はびっくりするほど変わっていない。
あの時、学者棟の女子の私を見る目は、‥子供を見る目だった。
生温かい‥(小さいものを)慈しむ目‥。
可愛いとか、ショタだとか‥騒がれて‥私が嫌だと思ってないとでも思った?
それはね。‥確かにここではそれをうりにして女の子と知り合うきっかけにしてたこともあったよ? でも、‥部下にそんな目で見られるのは‥やっぱりイヤだった。そして、今帰っても、あの時と何ら変わっていない自分はやっぱり‥そんな目で見られるのだろう。
いや、それどころか‥「成人してるのにその見た目って‥ないわ~」って思われるかもしれない。
更には、「信用に足る顔じゃない‥」って思われるかも。
‥「(クールなカツラギ様が好きだったのに)幻滅‥」「大人になったら変わるって思ってたのに‥」って思われることも、‥普通にあり得る。
‥それが、堪らなく嫌だった。
そりゃ
「大事なのは、見た目じゃないです」
って言ってくれる人もいるかもしれない。
だけどそれって、恰好がつかない。
そもそも、自分がこの顔でHappynationに行くのが嫌なんだ。
この顔は‥人の‥Happynationの人間の信用を得る様な‥顔じゃない。
事情を知っている人なら、気にしない様に‥気にしない態度を取ってくれるだろうが、同情されるのは嫌だし、可愛いって言われて喜ぶとか‥そういうキャラじゃない‥。
女の目に映る自分を想像する。
愛玩用の犬猫同様、人の目を楽しませる‥そんな存在になる気はない。いや、それは言い過ぎだけど‥恋愛対象ではなく、‥愛玩対象として見られるであろう自分に我慢がならない。
男は、‥仕事相手として俺を見ないだろう。
Happynationには、‥王都にはこんな大人はいない。
王都で働くためには、就業資格試験がある。村から毎年数人、村長に推挙されて資格試験を受けに来る。受験資格は、成人した大人であることのみ。
その受験資格には勿論、顔は関係ない。だけど、やっぱり、村の代表として送るんだ。見た目から、「信用を得られる顔じゃない」って人間は、村の代表に選ばないだろう。
‥その人間自身を否定するわけではないが‥村の代表として王都に送る人間には選ばないだろう。
その人間がどんなに優秀だろうとも、だ。
サカマキも王都で働く人間にしては、背も小さいし、童顔だ。‥見るからに、有能って顔してるかって言われると‥そうでもない。どちらかというと、庇護欲を誘うような可愛らしい見た目をしている。私はサカマキのことを子供の頃から知っているから勿論そんな風には思わないが、一般的なHappynationの人間にとってはそうだろう。
‥だけど、サカマキは私同様‥特別な人間‥高位魔法使いだった。
自分の意思ではなく、王都で働かなければいけない人間だった。
‥今のサカマキは高位魔法使いじゃない。だけど、筆頭魔法使いとして、王都で受け入れられている。
でも私は‥。
私は何もかも変わってしまった。変わったのは、‥顔と姿形だけって言うことも可能だ。‥だって、私自身の魂は何も変わっていない。
だけど、見かけは全く違う。‥それだけで、もう私はまるで別の人間になったかのようだ。
‥同じ人間とは認識されない。
何より、私が‥今までの私が‥同じ人間として振舞うことを心底拒否している。
あの見た目で、あの身体で「私として」暮らして来たのだ‥。私はあの顔と身体に誇りを持っていたのだ。
努力だって勿論してきた。‥「この自分」で「あの自分」と同じように暮らしていくのは、あの時の自分に申し訳ない気がする。
「怖いのか? 」
気が付けば黙ってしまっていた私を心配したのだろう。サカマキが私の横に座り気づかわしそうに私を見下ろしていた。
‥見下して、だ。
私は、サカマキの小さい頃から知っている。
小さいサカマキは、私を見上げて、
「大丈夫? 」
って、気遣ってくれた。
思えば、サカマキは昔からちっとも変わっていない。
サカマキを見る周りの目が変わってしまっても、‥サカマキはちっとも変わっていなかった。
寂しそうだったのははじめだけ、‥その内、嫌われるのにすっかり慣れてしまったのか、サカマキは寂しそうにすることすらなくなった。
‥そんな表情のちょっとした違いが分かるのも、付き合いが長いアララキと私位のものだけどね。私たちはサカマキの親代わりだったから。(アララキはどんなつもりだったかは‥否、いつからサカマキに対する想いが変わったのかは私には分からない)
「怖くなんかない。‥ただ、嫌ですね。私ではない私が、かっての私の名を名乗ってかっての私の職場に行くのを、‥私が一番嫌だと思っています。子供が遊びに来たって皆は思うでしょう。‥小賢しい子供が大人びたことを言うのを最初は面白がってくれるかもしれない。
‥でも、それだけ。‥結局は面白がるだけです。
誰も私を‥今の私を信用しないでしょう。私の言葉を信用してくれないでしょう。それが、嫌ですね」
かっての恋人たちや部下にこの情けない姿をさらすのも、嫌だ。
‥私は、誰より大人で居たかったんだ‥。だから、‥その為に今まで‥
「‥カツラギはカツラギだ。例えば、髪を切った、‥そんな程度の些細な違いだ。みんな、直ぐに受け入れてくれる」
サカマキが首を傾げて、さも不思議‥という顔をする。
‥わけないでしょう‥!
顔をゴッソリ変えるイメチェン。それを些細とか! ‥シュールだな!!
「‥向こうの人間はそんなに繊細じゃない」
サカマキが「お前、考えすぎだよ」って顔して、不思議そうに首を傾げる。
‥繊細とかそういう問題か!?
「じゃないと、俺のこと皆が判を押したみたいに嫌うってこと無かったと思うぞ。‥多分、奴らはココの人間よりもっとずっと単純なんだ。
誰か‥神がこう、っていったら、こう。みたいなね。
今度は「俺が」保証する。
奴らは、全然‥そんな風な目でカツラギを見ない。きっと奴らは
「え! カツラギ様、成人してもそれなんですね! この前は‥幼児虐待になりかねないアウト案件だったけど、成人したなら、合法ですね! 合法ショタですね! 俺的にそれってありです。ありありの、ありです!! 」
っていうよ」
っていって、にっこり微笑む。‥サカマキはホントに最近、笑顔が優しくなった。
‥言ってることはアレだけど。
っていうか‥
‥何それ、それはそれで怖い。
「さ、行くぞ! 授業、嘘なんだろ? 」
っておい! 心の準備が!!
ってか‥バレてたか!
抵抗虚しく連れていかれ‥というか、気付いたら、もう学者棟にいた。
‥流石サカマキの転移。
ほんと、瞬きする間も無かった。
そして‥カツラギは一瞬のうちに元部下たちに取り囲まれていた。
「カツラギ様! 待ってたっす! やっぱり可愛いっすね! ‥成人したってことでいいんですよね! この前は‥幼児虐待になりかねないアウト案件だったけど、成人したなら、合法ですね! 合法ショタですね! 俺的にそれってありです。ありありの、ありです!! 可愛いっすね。大丈夫ですよ。今度は俺が優しくしますから‥」
おい、この世界の住人、単純すぎじゃね?!
しかも、‥この流れでいうと、私は‥受けとして狙われてないか?!
「‥サカマキ! 帰せ! 元の世界に‥って、アララキ、さっさとサカマキを回収していくんじゃない! 私を元の世界に‥」
「明日迎えに行くね~♡ 今度は僕が送ってあげるよ~。サカマキ、今日の明日で疲れてるかもしれないから。‥僕も、‥うん、気が変わってなかったら迎えに行くね。一応、友達の所に泊まりに行くって桜子にカツラギの代わりにメール送っといたからね~! 」
「おい! アララキ!! 余計なことするんじゃない!! 」
「カツラギ様! 地球の知識、教えてくれるんでしょう!? ‥職員全員楽しみにしてたんっすよ? ゆっくり‥教えてくださいね? 」
昔と変わらない、私を慕う、部下‥アロイスの尊敬の眼差し。背が伸びて、余分な肉が落ち、精悍さが目立つ以前より大人びた顔だちになっている。髪も以前は長めだったのに、今は刈り上げ位短く刈り上げていて、切れ長の瞳とマッチしている。少し釣り目気味の赤っぽい瞳がひたっと私を見つめる。‥その瞳の奥に、ちらりと獲物を狙う肉食動物の気配が潜んでいるのが見えた。
ゴクリ、と唾をのみ、一歩後ずさる私の腕をかって私の性欲処理班だった彼氏‥ライカが掴む。
「カツラギ様。‥今度は、私がカツラギ様を良くして差し上げますね? 」
うっとりとした様な目は、かっての私に向けられた目と同じだ。私の知識と‥そして、私を求めて請う‥瞳。
‥彼らの、私を見る視線は全く変わっていない。
変わったのは、‥性交の際の立場だけ‥?
って、なんで、ここにきてすぐそういうことになってる?
身の危険を感じて逃げようにも、ライカにがっしりと腕を掴まれて動けない。
ライカの熱い息遣いと鼓動にすっぽり包み込まれて、顔すら動かせない。
「ライカ‥お前は、カツラギ様に対しにそのようなことを明け透けに‥。カツラギ様はそんなことをする為にここに来られたわけではないでしょう? 」
はあ、とアロイスが私を真上から見下ろして、ライカに向かってため息をつく。
情欲をもはや隠さない赤い目は、依然として私を見つめたまま‥だ。
「二人で、カツラギ様を歓迎すればいい。カツラギ様が、ここから帰りたいって思わない位、‥私たちがカツラギ様をどれ程尊敬し‥恋い慕っているかを‥その身体に教えて差し上げましょう」
‥背中に硬いものが当たっている。
後ろから抱きすくめられているライカの身体が、更に熱くなった。
‥助けて、サカマキ。
「わかった! 私の事を慕ってくれているのは、もう分かった! ‥私の事を理解しているなら、私が受けではなく、立ち専だってことは分かっているだろう!? 」
「‥私たちは、カツラギ様のことを誰よりも知っているんですよ? カツラギ様が知識に対して貪欲で、愛に対して好奇心旺盛で奔放でいらっしゃることだって‥」
「興味はあられませんか? イメチェンしたカツラギ様だからこそできる‥新しいセックスに‥」
いや、‥拒否権なくしといて、その聞き方、なしじゃない?
だけど、‥興味が無いかと言われたら、‥無いこともない‥かも‥?
‥きっと、私の事を昔っから良く知っている彼らは、私の答えだって分かっているんだろう。
だって、‥私に対する聞き方を覚えているんだから‥。
私は、‥観念して
「‥痛くないなら‥」
身体の力を抜くのだった。
考えすぎてた。
サカマキの言う通り、こっちの人間は地球人よりもっとずっと単純で‥欲望に正直だ。
知識欲も‥性欲も。
そして、‥地球で暮らしてた私にしてもそれは言えたってことだ。
地球で暮らしていても、‥地球人の器で暮らしていても、私はやっぱり私で、‥根っこはここの人間だった。
でも、地球に住んでて随分と用心深い人間になっていた様だ。
騙されない様に‥傷つかない様に‥考え込む。‥それは、臆病な程にだ。
だけど、どんなに用心しても‥騙されるし、傷つく。考えても。どんなに悩んでも‥分からない事も沢山ある。
だけど、‥ふとしたことで氷の様に解けていく悩みだってある。
人は、複雑なのに、ふとしたことで馬鹿みたいに単純にもなる。そのふとしたことが、Happyだ。
だからこそ、暮らしていける。笑っていられる。
「成程そうだったのか」とか「君が好き」だとか「おもしろい」とか「美味しい」とか。Happyの形はいろいろある。
そういう「嬉しい」‥Happyが、世界をそういうふうに‥ゆる~く回していくんだったらいいのに、って思う。
どっちで住むとか、桜子に孫を見せる‥とかそういうことは後々考えていかなければならない。逃げてはいけない事、結論しなきゃいけない事。Happyだけじゃないこと。誰かの結論は、誰かを不幸にしたり、幸せにしたりする。
皆が平和で、Happy。それって、難しいし、‥きっとありえないだろう。
だけど、私たちは諦めてはいけない。
難しいから、無理だから、と諦めてはいけない。
Happynation‥理想の国 そんな大層な名前のついた国に住み、Perfectmanを名乗った勘違い男を夢見る。
この狂った‥でも愛おしい世界。
あなたがいるから、愛おしいって思えるようになった世界‥。
人々が笑って過ごせる理想郷。Happynation。
そこに住むという、理想の‥正しい「特別な人間」Perfectman。
‥HappynationにはPerfectmanが住むという。
Perfectmanは、人々の良心。人々の理想。
‥ありえない、だけど、こうありたい‥って理想の象徴。
万民のHappy。‥その一歩として、まずあなたがHappyでありますように。
そのHappyは誰かを、心からの笑顔に出来ていますか?
良心だとか、‥真心だとか、思いやりだとか。
Perfectmanを理解しようと足掻き、愛し、夢見る人は、きっといつか本当のHappynationを作り出す。
‥そう思うし、そう願う。
(完)
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ここまで読んで頂きありがとうございました。
何話かの番外編もお付き合いいただけたら、と願います♪
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